涙と鼻水と落ちたメイク
サブタイトルが汚くてすみません!
職員室から解放されたのが昼休みが終わる10分前。次の授業は移動教室じゃなくて教室での授業なので10分まるごとお弁当を食べる時間に使えるというわけだ。
次が体育だったら着替えの時間とか含めて食べる時間なんてなかっただろうから不幸中の幸いと言えよう。体育の先生は授業開始5分前に整列しとけ、っていう面倒くさい先生だから。
足早に教室に戻ろうとしたとき、後ろから右腕をぐいっと後ろに引っ張られて、後ろに倒れかけたのを何とか踏みとどまった。思わずジトっとした目で蜂蜜色の頭の主を見る。
「危ないだろ、穂希」
「み…智夏先輩、あ、ありがと」
呼び方が「御子柴先輩」から「智夏先輩」に呼び方が昇格?した。俯きながらぽそぽそと穂希がお礼を言ってきた。周りでは田中たちがニヤニヤしながら俺たち2人を見守っている。
穂希の脈絡のない礼は一体何に対してものだろうか。さっきまでの出来事を脳内で巻き戻して考えていると、涙目の穂希と視線が合った。
「部長に勝手にしたことを黙っててくれてありがとう!穂希の制服のこと、校長先生に許可を取ってくれてたなんて知らなかった。だから、ありがとう!みんなの分もいっぱい言い返してくれてありがとう!」
とうとう堪えきれなくなった涙がぽろぽろと地面に吸い込まれていく。この涙はあの教師に言われたことを思い出しての悔し涙なのか、それとも…。
「穂希、智夏先輩に初めて会ったとき、騙そうとして、ごめんなさいっ!勝手に部長にしちゃってごめんなさいっ!それに、田中先輩たちも、ずっと穂希のこと、女の子だと思ってたよね?わざと黙って、からかうような真似をして、本当にごめんなさい…!ごめんなさいーーー!!!」
小さな子供のように泣きながら謝る穂希の姿を見ていたら、なぜだか幼少期の秋人を思い出してしまった。
お弁当は5限目が終わった後の休憩時間で食べよう、と昼休みの昼食早食い計画は諦めて、目の前で泣き続ける穂希の蜂蜜色の頭の上に右手を置いて、手を上下させる。いわゆる頭ポンポンである。
「ち、ちなつしぇんぱぁ~い!!」
「おわっ!?抱き着いてくんな!はーなーれーろ~!!」
涙と鼻水と落ちたメイクで悲惨な顔になった穂希が正面に立っていた俺にタックルする勢いで抱き着いてきた。耳元でじゅるじゅると鼻水をすする音が聞こえるし、俺の制服の上着も穂希の顔面のように悲惨なことに…。
「「「ははは…」」」
「穂希かわい~」
「穂希ちゃん、大丈夫?ハンカチ使うでありますか?」
「み、深凪がお友達と喋っとる……でも…クッ、男…異性の友達ィーー!!」
鈴木と井村と玉谷は未だに穂希が男だったことにショックを受けているみたいだし、姫はぐちょぐちょの穂希を可愛いとか言ってるし、正常な反応なのは深凪だけだが本心を語るなら俺の心配もしてほしかったし、田中に至っては妹にできた友達が異性の友達で若干発狂しているし。
頭上で鳴る授業開始のチャイムに乾いた笑いが出てくるのだった。
「うわ~~~~ん!!智夏しぇんぱい好き!!」
誰かツッコミ役を…!こいつらを一網打尽にできるほどのツッコミスキルを持った人材をここに派遣してください!
その後、穂希たち1年生組と別れ、俺はぐちょぐちょになった制服の上着を洗うために保健室の洗濯機を借りてから教室に戻った。もちろん授業には遅れてしまったのだが、田中たちがうまく言い訳してくれていたらしかった。
「お腹壊したんだって?大丈夫かい?」
「へ?…あ、はい」
お年を召した女性の先生に腹の心配をされるとは。俺が授業を遅れる理由が腹を下したことになっていたのが腑に落ちない。こそこそと自分の席に戻りながら田中たちに恨めしい視線を送るのだった。
もっとマシな言い訳あっただろ…!
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一方その頃、鳴海彩歌は…。
「うぅ……痛い…動けない…無理…」
苦痛で動かせない体で自宅のベッドに横たわりながら親友に助けを求めていた、つもりだった。
『助けて』
このメッセージを受け取ったのが、若干喧嘩気味の大好きな彼氏だとも知らずに、ベッドの上で力尽きたように眠ったのだった。
~執筆中BGM紹介~
クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~より「ハルノヒ」歌手・作詞・作曲:あいみょん様




