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五大美人

今回は田中視点でお届けです。



一番上の妹が、しばちゃん達のおかげで再び中学校に通うようになった。


最初は保健室登校から始まって、心に余裕を持たせてから、次第に教室にも登校できるようになっていった。本当にちょっとずつ。それも、もうすぐ卒業間際ってタイミングだったから深凪も行けたのかもしれない。


この日まで行けば終わり、っていう目標があると頑張りやすいしな。


学校に行けない分、勉強の方は深凪は家で自分で勉強していたが、それでも足りない分は俺が見ていた。中学の勉強くらいなら俺でも教えられるから。こんくらいしか役に立てなかったけど、それでも、何もできずに見守るだけだった日々よりかはだいぶマシだ。


「兄上殿、我は桜宮高校を受験しようと思うのです」

「お兄ちゃんと同じ高校が良かったのか~?」


冗談で言った言葉に、深凪が真剣な表情で頷いた。


「兄上殿がしばさんに出会えた高校に我も行けば、何かとても良い出会いがありそうな気がするのです」

「それはまたアバウトな」


俺がしばちゃんに出会えたからと言って、深凪にも同じような出会いがあるとは限らない。それでも桜宮高校に行きたいというならば、兄として家族として応援しよう。









高校の入学式は中学校までと違って在校生は立ち会わないため、一緒に登校はできなかったが、保護者席で母さんとバッチリとカメラを回していた。


「あら?いま通り過ぎた子が深凪かしら?」

「違う母さん。深凪はもう入場し終えたから」

「えぇ?」


うっかりしている母さんは最初から当てにしてない。俺がきっちりとピントもあわせて撮りましたとも。兄に抜かりはありません。弟妹達の運動会やら入学式卒業式もこれまでカメラに収めてきた俺に死角はない。




入学式が終わり、深凪を生徒玄関の前で待っていると、表情が崩れた妹が出てきた。


「どうした?ドロドロに溶けたスライムみたいな顔だぞ」

「どんな顔でありますか、それ…」


初めての顔合わせで疲れたのはわかるが、入学式でこれなら明日以降の学校生活は大丈夫かと心配になる。


「なんか……キラキラした人がいっぱいいて、直射日光ビームを浴びた気分」

「直射日光ビーム」


なんだそれ。俺のときはどうだったっけ?2年も前のことだからもう覚えてねぇな。入学式のときはしばちゃんいなかったし。


表情がドロドロに溶けるくらいに疲れていたけど、諦める気はないようだった。


「頑張るね」

「…おう」

「どっかで食べて帰りましょうか!」

「うん!」


小声でもしっかりと宣言した深凪に俺も母さんも嬉しくなる。こんないい日には寿司だな!


「ハンバーグが食べたいであります!」

「えぇ…」

「文句あるなら置いてくわよ」

「母さんひどい」


まぁ、ね。兄の扱いなんてこんなもんですよ。






そして翌日。


兄妹で家を出て、学校に向かう。いずれは「お兄ちゃんと一緒に登校とか恥ずかしいから嫌だ!時間ずらして行く!」って言うかもしれないな…。やだ、想像しただけで悲しくなってきた。


「兄上殿、あれってもしや」

「うぇ?……あぁ、しばちゃんだな」


学校に向かう道中、段々と同じ制服を着た学生たちが増えてきて、前方に見慣れた背中が見えてきた。しばちゃんは姿勢が良いから遠目でもすぐわかる。


「呼ぶか?」

「ううん。我は呼ぶであります」


人前で声を出すことが苦手な深凪が、こんな人が多い場所で名前を呼ぶなんて。しかも自分から。


「しばさん!しばさん!」


ちっっっさ!想像以上に小さい声だったが、深凪にしてはよく頑張った。しばちゃんは呼ばれたことに気付いてなくて、そのまま行ってしまいそうだったので、俺が代わりに呼んだ。


「しばちゃーん。はよーっす」

「はよーっす」


少し話して、そのまま3人で学校に向かう。しばちゃんがさっき「制服似合ってる」って深凪に言ってくれて、結構自信がついたと思う。しばちゃんのこの無自覚イケメンなセリフのおかげで深凪の表情がちょっぴり明るくなった。まったくしばちゃん様様だなー!


そんな無自覚イケメンなしばちゃんを女子たちが放置するわけもなく。


「あー!!やっと見つけた!」


早速、俺の知らない女子がしばちゃんめがけて走ってきた。誰だろ、一年かな。


「なぁしばちゃん。あの子、こっちに来てない?」

「へ?……あれ?あの子って、」


しばちゃんはあの子のことを知っているみたいだった。あの子も可愛いなぁ。…あの奇怪な行動がなければだけど。動くと残念だ。


「見つけた!友達2号!」


うん、喋っても残念だった。


「姫も桜宮高校に入ったんだね」


え?”友達2号”って呼ばれたことはスルーなん?そして”姫”って、あだ名?名前?どっち…?


「そうよ!なのに入学式にも来てくれないし!今日だって朝からずっと待って、……待ってなんかないもん!」

「いや、この学校に姫が入学してたって知らなかったから」


どうしたこの子、情緒不安定か。


「兄上殿」

「なんだー」

「この子、同じクラスの子であります」

「まじかよ」

「まじであります」


ってことはA組かよ。勉強はできるんだな~。言動が残念なだけで。


周りの奴らは彼女を見て「可愛い」とか「守ってあげたい」とか言ってるし。「あの子もめっちゃ美人!」とか「今年はあの2人を合わせて桜宮高校、五大美人だな!」……は?五大美人?


三大美女のうちの1人の一条先輩は卒業してしまって、その後は花村香織、愛羽カンナ、エレナ・トルストイの3人が三大美女と勝手に呼んでいた。


それで今年は五大美人?


さっきの3人と、この言動残念お姫様と、あと1人は…?


「御子柴せぇんぱいっ!おはよ~!」


蜂蜜色の髪を揺らして走ってきたのはとんでもない美人だった。そんな美人が後ろから走ってきて、そのまましばちゃんに抱き着いた。なんとも羨ま……いや、しばちゃん女子にモテすぎだろ!


穂希(ほまれ)……離れてくれ」

「はぁ~い」


しばちゃんお前!いま、この場にいる男子全員を敵に回したぞ!なぜ美人に抱き着かれてそんなに嫌そうな顔をするんだよ!男子に抱き着かれたわけでもあるまいし!(※男です)



~執筆中BGM紹介~

忍者戦士 飛影より『LOVEサバイバー』歌手:HIT BOY様 作詞:青木久美子様 作曲:小田裕一郎様

読者様からのおススメ曲でした!

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