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番外編 祝福

今回の番外編と登場人物紹介を挟んでから3年生編に入ります。


前半は彩歌視点、後半は智夏視点でお届け。



父、母、私、弟の4人家族で鳴海家は構成されてるっス。


今日は本当に久しぶりに全員の休みが揃ったので、家を出た私と弟の奏音(かなと)も実家に帰省して、こうして家族全員でまったりしながら過ごしている。


彩歌(さいか)奏音(かなと)、母さん今からお買い物に行ってくるけど、何か買ってほしいものとかある?」


私も奏音も一人暮らしで、買い物は全て自分でしなければいけないため、こうした母の優しさに思わずジーンと胸の奥が暖かくなった。


「ううん、大丈夫。それより買い物一緒に行こうか?荷物持つよ」

「へーきへーき。せっかくのお休みなんだから家でゆっくりしてなさいな」


母の包み込むような優しさに心がポカポカになる。


「わかった。じゃあ気を付けてね」

「行ってきます」

「「「行ってらっしゃ~い」」」


母の「行ってきます」の言葉に残る3人が「行ってらっしゃい」と返す。鳴海家のルールとか、そんなんじゃないっスけど、自然とそういう挨拶をすることが家族の中で当たり前のことになっていたのだ。


新聞を読み終えた父が、新聞をたたみながらシリアスな顔で奏音を呼んだ。


「奏音、お前…」

「な、なんだよ」

「彼女、できたのか?」

「はぁ?そんな素晴らしい存在がいたら今頃は彼女と会ってるよ」


私も今日は智夏クンと会えるなら会いたかったけど、お仕事があるようだったから会えなかったのだ。お仕事なら仕方ないっスよね。


ケッと悪態をつきながら奏音が不貞腐れるが、なおも父は話を続ける。


「だよなぁ~。せっかく俺に似てイッケメェ~ンな顔してるのになんで彼女の1人や2人や3人や

4人できないんだろうなー?」


自分で自分のことをイケメンと言うその自信は一体どこから…。まぁ、整った顔立ちだとは思うっスけど。


「彼女が2人や3人や4人もいたら問題だろ」

「夢があっていいじゃないか。男のロマンだろ」


ムムム、さすがに聞き捨てならない。


「父さん、その発言アウトっス」

「え」

「母さんに言いつけてやる」

「えっ!?ごめんっ!謝るから2人とも許して~この通りっ!」


自分の子どもに頭を下げて威厳もへったくれもないこの人は、会社では大勢の部下に慕われてるんだもんな…。


「それで、彩歌はどうなんだ?」

「何が?」


何の脈絡もなく「それで、」と言われても困ってしまう。


「彼氏はいるのか~?」


私が女子高生だったら「ウザい」と一言放って部屋に閉じこもるところだが、生憎と父のこのノリにはもう慣れてしまった。なんせ生まれたときからこのノリだから。


「…いる」

「そっかそっかいな……ん?なんだって?ちょっとよく聞こえなかっ、」

「彼氏、できたよ」

「いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」


手を左右にぶんぶんと振りながらしつこいくらいに「いや」を連発してきた。


……はっ!もしやこれは父による彼氏反対イベントでは!?


「あ~…うん、でも、……ぐぁーーーー。そっかそっか。彩歌ももうそんな歳か。……………おめでとう」


最初こそ奇声を上げて頭を抱えていたが、その後は予想したイベントは起きず、祝福されてしまった。いや、祝福されて嬉しいけども!でも!


「反対とかないんスか!?」

「ないなー」


今度こそ一瞬のためらいもなく、父は笑ってそう答えた。


「俺の自慢の娘が惚れた男なら、絶対良い男に決まってるからな」


真っすぐに、珍しく揶揄(からか)うそぶりもなく言われたものだから、不覚にも泣きそうになってしまった。


私が「声優になる」と両親に初めて言ったときもそうだった。「彩歌の人生なんだから、好きなようにしなさい」「父さんも母さんも彩歌を信じてる」と。両親のどこまでも深い愛情に感謝の言葉じゃ足りないほどの思いが募る。


でも、改めて父さんにお礼を言うのも恥ずかしいから、


「当たり前でしょ。私が選んだ人だもの」


と強がってしまったのは自分でも子供っぽいと言った後に後悔したのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





一方その頃、智夏は作曲の仕事の息抜きがてらドリボの周りを散歩していた。たまに作曲が行き詰まるとこうして散歩をして気分を変えているのだ。


彩歌さん、今日は実家に帰るって言ってたけど、今頃なにしてんのかな――。


ゆっくりと街の景色や行き交う人々の表情を見ながら、彼女のことを想っていると、道の端っこの方で(うずくま)っている女性を見つけて思わず駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


俺の声に驚いたように振り向いた女性は、どこか見覚えのあるような顔の女性だった。


「はい。大丈夫ですよ?」


ふふっと笑いながらそう返した女性はそのまま「よっこらせ」と言いながら立ち上がった。


「向こうに猫ちゃんがいたから見てたのよ」

「そうでしたか。すみません、てっきり体調が優れないのかと思いまして」

「心配してくれてありがとうね」

「いえ、では失礼しま、」

「ちょっと待って!」


体調が悪いのかと思ったら猫を見ていただけだと分かり、羞恥心で顔が真っ赤になりながら早々に去ろうとすると、どこか既視感のある女性に止められた。


女性は肩に下げていた買い物バッグの中からリンゴを一つ取り出して、俺に差し出してきた。


「これ、心配かけたお詫びにあげるわ」

「いっ、いえ!俺が勝手に勘違いして心配しただけなので!」


お構いなく!と言ったが、いいからいいから、とリンゴを手渡された。


「心配してくれて嬉しかった。ありがとうね~」


と言って去って行く女性の背中をもらったリンゴを持ちながら見送る。


「誰かに、似てた気がする…」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ただいま~」

「「「おかえりー」」」

「ねぇ聞いてー。お母さん、若い男の子に心配してもらっちゃった!」

「へ?どういうこと?」





智夏と、彩歌の母が再会するのは、もう少し先の話。





~執筆中BGM紹介~

地獄少女 宵伽より「ノイズ」歌手・作詞・作曲:ミオヤマザキ様

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