プレゼントは、わ・た・し!
誤字報告ありがとうございます!
御手洗先輩と途中で合流した陽菜乃先輩の3人で学校まで歩いている。ちなみに俺から見て右に陽菜乃先輩、左に御手洗先輩だ。うん、これぞ両手に花。
「後輩くん、はい、バレンタイン」
「…?」
陽菜乃先輩が俺の方を向いて両手を広げる。その手にはバレンタインの贈り物と思しきものは何もない。これはまさかアレか。心の綺麗な人にしか見えない的な神聖な何かですか。
「バレンタインのプレゼントは、わ・た・し!」
わざわざご丁寧にポーズまで決めて、道のど真ん中で恥ずかしげもなく言いのける辺り、さすが元生徒会長だ。心臓が超合金でできてるんじゃないか?
俺たちと陽菜乃先輩の間に2月の冷たい風が通り抜ける。これは俺の反応待ち、だよな…。どうする、どうすればこのいたたまれない時間を乗り切れる!?考えろ、考えるんだ…!
「………………山崎さーん!!」
頭をフル回転させて導き出した答えが、陽菜乃先輩の従者のような存在の山崎信先輩を召喚することだった。
「おはようございます、智夏」
「おはようございます。……あの、陽菜乃先輩を」
「わかりました」
任せろ、と力強く頷いたザキさんにうっかり惚れそうになりながら、見守っていると…。
「お嬢様、どうやら”プレゼントはわたし作戦”は失敗だったようです。次は”ドキドキロシアンルーレット作戦”に、」
「違う違う違ーう。そうじゃない、そうじゃないんですよ」
なんでやねーん、と思った瞬間に、口が勝手に動き出していた。
「まず”プレゼントはわたし作戦”ってなんですか。計画したときに誰か止めなかったんですか。しかも次の作戦が”ドキドキロシアンルーレット作戦”ってどういうことですか。最初の作戦は名前から内容が丸わかりだったのに、なんで次の作戦名が恐怖しか与えないものなんですか。いったいいくつ作戦を用意しているんですか!」
「「「お~」」」
はっ…!しまった。俺の中に眠るツッコミ魂が呼び起されてしまった。ノンブレスでツッコミ続けていた自分が怖い。
「学校行きましょう…」
「そうだねぇ。後輩くんの新たな一面も見られたことだし。あ、それとコレ、本当のバレンタインチョコだよ」
「……これ、持った瞬間に電気がビリっと来たりしませんよね?」
「そんな刺激的なチョコは用意してないな~。ごめんにゃー」
疑心暗鬼になりながら小袋に入ったチョコを受け取る。
「ありがとうございます、陽菜乃先輩」
「やだ~信、どうしよう!?私の後輩くんが可愛い!」
「えぇ、本当ですね」
「御子柴は私の後輩だよ、陽菜乃」
「おやおや~?私とやり合う気かい?」
「きゃーやめてー俺のためにー争わないでー」
「ははっ。見事に棒読みだな、お姫様」
「そんな智夏も素敵ですよ」
最終的になぜかザキさんから口説かれてしまった。
こうして無事?に登校し、先輩たちと別れて玄関に向かうと俺の下駄箱の前に、前髪を上に括ってクジラの噴水みたいになっている後輩が立っていた。
「おはよう、虎子」
俺から声をかけると、虎子の表情がパァッと明るくなり、駆け寄ってきた。
「パイセン!これハッピーバレンタイン!」
ハッピーバースデイのノリで言われたが、ハッピーなことに変わりはない。
「パイセンがい~っぱい甘いチョコ貰うと思って~、虎子はおせんべいにしてみたよ~」
「気を遣ってくれたのか?ありがとうな」
「へへへへへへ~」
いつもより2割増しくらい「へ」が多いところを見るに、かなり喜んでいる。嬉しいのはもらった俺の方なのに。
「パイセン!下駄箱開けてみてよ!漫画みたいにあふれ出してくるのかなぁ?」
「いやいや、そんなわけないだろ」
と言いつつ、下駄箱を見るときに期待してしまうのは全国の男子に共通するのではなかろうか。手を伸ばして、下駄箱を開けるとチョコが入った箱がドサドサッと落ちて…こなかった。
「上履きしか入ってないね~。なんかごめんね、パイセン」
「謝らないでくれ…」
そうだよな。わかってた。下駄箱にチョコって、衛生的にちょっと…って感じだもんな。でもほら、男なら一度はそういうの経験してみたいじゃん?
「じゃーね、パイセン!」
「じゃーな。せんべいありがとう」
今日もらったバレンタインの贈り物の数は、今の時点で3つ。去年の今日は学校でもらった数はゼロだったので、なかなかの進歩だ。かなりの成果にほくほくしていると、肩に怨霊が乗ってきた。
「みーこーしーばー?朝から何を見せつけてくれちゃってんのかなぁ?」
「うおっ!?……なんだ、鈴木か。驚かせないでくれよ」
肩に乗ってきた怨霊の正体は目の下にクマを作った鈴木だった。
「どうしたんだよそのクマ」
「あぁ?これは今日が楽しみ過ぎて眠れなかったんだよ。遠足前の幼稚園児かってツッコミはいらねぇんだよ」
「まだ何も言ってないんだが」
睡眠不足の影響なのか、情緒がかなり不安定っぽい。
「ハンカチ冷やしてくるから、目に当てろよ」
「優しいかよ。聖人かよ!ありがとう大丈夫!」
鈴木はいい奴なんだけどなー。なんだかんだでお礼言ってくれるし。誰か鈴木を見つけてくれないもんか…。
「智夏、博也!」
「カンナ、おはよ」
「はよーっす」
いつの間にか鈴木のことを名前で呼んでいるカンナに驚きつつ、挨拶を交わす。
「喜びなさい、私から憐れな男子達にプレゼントよ」
いつの間にクールキャラからドSキャラに転じたのだろうか。
「はい、義理チョコ」
「ありがと」
「……え、これドッキリ?どっかに隠しカメラ付いてたりする?」
登校時の俺よりも疑心暗鬼の鈴木を見て、カンナが面白そうに笑う。
「いらないならあげない」
「欲しいです!喉から目から耳から手が出るほど欲しいです!!」
「はい、どうぞ」
「あざーっす!!義理チョコ万歳!!」
チョコが入っていると思われる箱についたリボンにメッセージカードが挟まっていたので、見て見ると、「親愛なるライバルへ」と書かれていた。ちなみに鈴木のメッセージカードには「勉強を教えてくれてありがとう」と。ほほう。なるほどねぇ。
~執筆中BGM紹介~
銀魂´より「桃源郷エイリアン」歌手:serial TV drama様 作詞:稲増五生様 作曲:新井弘毅様




