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ほんめいチョコ

後半から2月14日です。



深凪ちゃんが部屋を出て、真っ先に向かったのは兄である田中と妹の津麦ちゃんのところだった。


「明日から学校に行くのです!」

「そっか」


深凪ちゃんの言葉を聞いて、だいぶ素っ気なく田中が返事をした。深凪ちゃんに背を向けたままなので、ここからだと表情が見えない。が、2年も一緒にいる俺でもわかる。あれは絶対喜んでいる。俺でもわかるくらいだから、ずっと一緒にいた妹なら手に取るようにわかるのだろう。深凪ちゃんも嬉しそうに笑っていた。


田中ともう一人、妹の津麦ちゃんはどこかに走って行ってしまったのだが、何かを持って戻ってきた。


「深凪姉ちゃん!これ、ほんめいチョコあげる!!」

「本命チョコを?」

「ほんめいチョコは大好きな人に想いを伝えるために渡すんだって聞いた!だから、大好きな深凪姉ちゃんに、頑張れ!って気持ちを込めて、ほんめいチョコを渡すの!」

「ありがとう、津麦。津麦がくれた本命チョコのおかげで、お姉ちゃんもっともーっと頑張れるのです!!」


美しきかな姉妹愛。お兄さんうっかり泣きそうになったよ。他人の俺でも泣きそうになるくらいだ。本物のお兄さんは……。


「田中、ほら」


台所の隅に隠れながら、肩を震わせ俯いている田中の横に立ち、近くに置いてあったティッシュをケースごと差し出す。


「…ぐす……ずび、サンキュ」

「うん」

「ティッシュだけじゃない。…ずびっ……全部、秋人君としばちゃんのおかげだ。ほんとに、ありがとう…!」


堪えれば堪えようとするほどに涙は零れるものだ。


「俺たちを頼ってくれて、嬉しかったよ」

「じばぢゃぁああああん!!!」

「うあ~よしよし」


感極まって抱き着いてきた田中をわしゃわしゃと撫でる。さながら大型犬のように。


「ねぇ秋兄、夏兄たち何してるの?」

「飼い主と犬ごっこ」

「へぇ~。楽しいのかな?」

「どうだろうなー」


妹になんてことを吹き込んでいるんだい、秋人さんや。田中もそろそろ泣き止んできたころ、冬瑚が可愛く頬を染めながら俺たちの元にやって来た。


「た、田中しゃ、さん!」


(((噛んだ…)))


「これを!、、、、チョコ、ですっ!」


本命チョコって聞こえたのは、空耳かな。きっとそうだ。うん、そうにちがいない。


「俺が一番最初にもらっても良かったのか?」


冬瑚からたったいまもらったチョコを俺と秋人に見せびらかすように掲げる田中にイラァァァァっとする。


「まぁね、俺らはよく冬瑚の手作りお菓子食べてるからね。今日くらいは他人に譲ってやってもいいかなと、思わなくも…」

(ひが)むなよ」

「兄貴は僻んでるけど、僕は違うから。ただ、そんなんで自慢されてもちょっと年上としてどうかと思うだけで」

「力いっぱい僻んでらっしゃる。ったく、2人とも似た者兄弟だな」

「田中さん、冬瑚は?」

「あぁ。冬瑚ちゃんもそっくりだよ」

「へへへ~」

「何どさくさに紛れて俺の妹を抱っこしてるんだ。冬瑚、こっちおいで」

「やーだー」

「冬瑚!?」


2月13日はこうしてゆっくりと過ぎていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





2月14日。バレンタイン当日の早朝。


桜宮高校2年A組の教室に、一人の生徒がいた。


「喜んでくれるだろうか…?」


一つずつ机を周って、何かを置いていく。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





2月14日。


学校に近づくにつれて、いつもと空気が違うのを肌で感じた。


「今年はチョコ貰えるよな?」

「今年も母親からのチョコ1個で終わりだろ」

「夢見させてくれよ~」


ソワソワしている、主に男子が。期待に胸を膨らませて、普段気にもしない身なりを少し整えて。通り過ぎる女子を目で追いかけながら、チョコがもらえないかとそれはもう浮足立っている。


「御子柴」

「はい……あ、御手洗(みたらい)先輩。おはようございます」

「んはよー」


御手洗先輩は、以前突拍子もなく半分冗談で告白してきた3年の先輩だ。つかみどころがない人で、いつも飴を持っている。


学校に向かう途中で呼び止められたので、自然と隣に並んで歩きだす。


「はいコレ、飴ちゃんあげる」

「ありがとうございます」

「これバレンタインね」

「……どうもです」

「うい~。ねぇこれ何個目?」

「今日は初めてです」

「まじか~ラッキー」


真冬にもかかわらず惜しげもなく長い足をミニスカートの下に晒す御手洗先輩と並んで歩いていると、それはもう男子の視線が刺さって刺さりまくる。


「あ、そういえば、」

「後輩くーん!!」

「陽菜乃先輩……おっと!!」


聞きなれた声に呼ばれたので振り返ると、真後ろに元生徒会長の一条陽菜乃先輩がにこにこしながら立っていたので、思わず一歩後ろに下がってしまった。


「酷いな~私という存在を放っておいて、別の女と一緒にいるなんてさ」

「おやおや、陽菜乃も御子柴の女だったのかい?」

「そうだね~否定はしないかな」

「そこは否定してくださいよ。俺の命のためにも」


さっきから視線の槍がぐさぐさと刺さっている。朝っぱらから女子を両手に侍らせて何やってんだ、って怨念のこもった男子の心の声が聞こえてくるようだ。




~執筆中BGM紹介~

城下町のダンデライオンより「Honey Come!!」歌手:小倉唯様 作詞:大森祥子様 作曲:俊龍様

ハニカム!ハニカム!

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