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扉を開ける秘密道具

智夏、大混乱の回


7月がやって来たぞー!



2月12日の夜。


「秋人、これ社長から。期間限定のチョコだってさ」

「あ~例のアレか。サンキュ」


例のアレ…?なにやら秋人と社長の間でやり取りがあったらしいが、俺にはさっぱり見えてこない。この2人がいつもお菓子や食べ物を物々交換?するときは、今日のように俺や香苗ちゃん経由のときもあれば、社長がふらっと家に現れて渡すケースもある。バレンタインのチョコなら直接当日に渡せばいいのでは?と思ったが、可哀そうなことに2月14日は出張が入ってしまったらしい。


ちなみに彩歌さんもバレンタイン当日は仕事が入っているので会えないから、今日わざわざ作って持って来てくれたのだ。今思い出しても、甘えてきた彩歌さんは本当にかわいかった――。


「夏兄なんで笑ってるのー?」

「どうせ彼女のことでも思い出してニヤついてんだろ」

「夏兄、すけべ~」


秋人が俺の顔を見て鼻で笑ったのは百歩譲ってわかる。でも、冬瑚さんや?


「すけべって意味わかって使ってる?」

「ん~わかんな~い」

「だよね」


意味が分かって使ってたら衝撃のあまり灰になるところだったよ。


「あ、夏兄」

「どうした?」

「ハルが」


と言って冬瑚が指で示した先には俺がさっきまで持っていたリュック、の中に入って何かを漁っている白猫のハルの姿。……ってリュックの中!?


「ハル!ストップ!」


人間の言葉など猫にわかるはずもないが、咄嗟に言葉で待ったをかける。だってその中には彩歌さんからもらったチョコが入っている…!


リュックの中に体ごと入っているハルを持ち上げる。


「ぶみゃぁ」


邪魔すんなよ、とでも言いたそうな顔と声で俺を見るハル。猫ってこんなにも表情豊かだったんだなぁ…じゃなくて。不服そうにしているハルを床に下ろし、彩歌さんからもらった箱の無事を確認する。


蓋を開けて中身を見たが、少し端に寄っていたくらいで、まだ食べていないチョコたちは無事だった。


無意識に安堵の息が零れた。よかった。一気に食べるのはもったいないから家で食べようと思って持って帰ってきたチョコが悲惨なことにならなくて。安心してチョコの入った箱を見ていると、ふとなにか光るものが見えた。


「うん?なんだろう…」


今まで気づかなかったが、チョコの下に何かがあるみたいだ。上に乗ったチョコをそっと持ち上げて見ると、その正体は――。


「鍵?」


なんでバレンタインのチョコに鍵が入ってるんだ?彩歌さんおっちょこちょい?いや、さすがにうっかり鍵を入れるなんて真似はさすがの彩歌さんでもしないだろう。しかも、この鍵はわざと隠すように置いてあったわけだし。


とりあえず彩歌さんの仕事が終わる時間を待って、電話をかけてみることにした。一度電話をかけてみたが、彩歌さんは電話に出なかったため、スマホを一旦おいて風呂に入る。


風呂から上がり、部屋に戻ってスマホを見ると、ちょうど彩歌さんからタイミングを見計らったように電話が掛かってきた。


『智夏クン、ごめんね。お風呂に入ってて電話に気付かなかったっス』


彩歌さんの口から”お風呂”というワードが出たことにゴクリと唾を飲む。…って駄目だ駄目だ!心頭滅却!失せろ邪念!


「全然いいです!はい!全く問題ございません!!」

『ふふっ』


あまりの俺の挙動不審っぷりに、電話越しで笑われてしまった。それにしても彩歌さんお風呂上りかぁ。パジャマなんだろうか、それともジャージとか?…ってまた邪念がーーー!


「彩歌さん、パジャマ、じゃなくて!」

『パジャマ?』

「なんでもないです!パジャマじゃなくて、鍵!そう、鍵です!」


邪念を消すことに意識を集中しすぎてうっかりパジャマと言ってしまった。あれ?パジャマと言ったということは邪念は消せていないのでは?


『お、とうとうそれを見つけたっスか。それ、なんの鍵だと思うっスか?』

「これですか?う~ん」


鍵を電気にかざしてあらゆる角度から眺めてみる。机の鍵、にしては大きいし、アクセサリーにしては飾り気がないし。


「まさか家の鍵だったりして」


半分冗談のつもりで言った言葉だった。


『そのまさかっス』

「……………へ?」

『それ、私の家の鍵っス』


いえのかぎ、イエノカギ、家の鍵……家の鍵ってなんだっけ?鍵のかかった扉を開ける秘密道具だよな?鍵って、その家主に認められた人しか持てない伝説のエクスカリバーなんじゃ…つまり俺は選ばれし人間?……………お、おおおおおおおおおおお落ち着け、とりあえず星の数を数えるんだ!って違うそうじゃない!


「彩歌さんってたしか一人暮らしでしたよね?」

『うん』


ゴン!という大きな音と共におでこを机にぶつける。痛みで冷静になろうと思ったのだが、痛みを感じないことを忘れていた。完全に無駄な行為だったが、そんなことをしてしまうほどに混乱しているのだ。


「他人に鍵を渡しちゃダメじゃないですか…」

『むぅ。智夏クンは他人じゃなくて私の彼氏っス』


怒られた。けど嬉しい。なにこれ、どういう感情。


『今度、私の住んでる部屋に……』

「部屋に?」

『部屋に……おいでになるとよろしいですわ!オーホホホ!』


なぜお嬢様口調に。


「それじゃあ今度、遊びに行きますね」


御子柴智夏、彼女の家の鍵をゲットしました。




~執筆中BGM紹介~

ハヤテのごとく!!より「Wonder Wind」歌手:ELISA様 作詞:六ツ見純代様 作曲:田代智一様

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