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あまい時間

今回から『危険なかおり編』スタート!


………6月がもうすぐ終わる、だと!?



あまーい甘い空気で日本中が満たされる、2月14日のバレンタイン。その日、桜宮高校2年A組の教室では、不可解な出来事が起きていた。


「……でね、私聞いちゃったの」

「なにを?」

「2年A組の人たちの断末魔みたいな悲鳴を!」

「えぇ?ほんとに?」

「ほんとだってば!それにね…」


2年A組のことでその日囁かれていた噂は、断末魔のよう、とか、悪魔の叫びのよう、とか色々なものが飛び交っていたが、そのなかでも共通していたものがあった。


「教室の外からその様子を見て笑ってた人がいたんだって!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





2月12日


バレンタインの2日前。


いつも通り学校帰りにドリボに行き、『劇場版ツキクラ』のBGM作成に取り組んでいたとき、社長からの呼び出しを受けて社長室に向かっていた、その途中。


「えいやっ」


気の抜けるような声が聞こえたと同時に、扉が開いていた部屋から伸びてきた手に引きずり込まれた。声の主を察するに、反抗する必要はなかったので大人しく部屋に引きずり込まれる。


「智夏クン、反抗しなかったら誘拐されちゃうっスよ」

「誘拐犯が恋人だったもので。うっかり反抗し忘れてました」

「それなら仕方がないっスね」

「はい。仕方がないです、彩歌さん」


最近お互いに都合が合わず、すれ違っていたのでこうして会えて嬉しい。


「抱きしめても、いいですか?」


彩歌さんに引きずり込まれた部屋はミーティングルームで、今は部屋に2人きり。これはもう存分に彩歌さん成分を補充するしかない。そう思って言った言葉だが、肯定の言葉を聞く前に俺の胸に彩歌さんの頭がこつんとぶつかった。


「いい。抱きしめるから、私から」


んんんんんんっっっ!?!?!?


自分から抱き着いて恥ずかしいのか、顔は絶対俺の方を向けないが、ぎゅっと俺を抱きしめる彩歌さん………え、もしかして今日俺死ぬの…?なにこの幸せ。いつもは恥ずかしがってあんまりスキンシップを取ってくれないのに。


すかさず細い腰に手を回して抱きしめ返すと、小さな声で彩歌さんが言った。


「………寂しかったっス」

「うん、俺も……」


お互いの存在を確かめ合うかのように抱きしめあう俺たち。抱き合っていたのはほんのわずかな時間だったが、多くの物を共有できたような気がする。


適当な椅子を引っ張り出し、横向きに並ぶ。手は握ったままだ。


「ドリボの社長さんに聞いたっスよ。休憩を取らないって」

「取らないというか、忘れるんですよね。集中していると」


作曲をしていると時間を忘れて没頭してしまうのだ。だからよく(犬飼)さんに注意されていたのだが、とうとう社長にまでバレてしまった。しかも注意の仕方が彼女からのお叱りという、ね…。


さすが社長。俺の性格をよくわかってる。


「ちゃんと休まなきゃダメっスよ」

「……はい」

「怪しいな~。体は資本っスから。大事にね」

「はい、これからは休憩を忘れないよう努力します」

「うむ、よろしい!そんな君にはこれをあげよう!」


渡されたのは可愛らしいピンク色の小さな箱。


今日ってなんかの記念日だっけ…?……ハッ!?そういえばこの前クラスの女子が「付き合ってるのに記念日忘れる彼氏とかないよね~」って言ってた!ヤバいどうしよう!?思い出せ!!2月、12日!なにか、何かが今日この日にあるはずだ!!


「本当は明後日(あさって)に渡したかったんスけどね。今日しか会えなさそうだから」

「明後日……2月14日………あっ、バレンタイン!」


俺の知らない記念日じゃなくて良かった。安堵感に包まれながらリボンを解く。箱の中にはキラキラと輝く宝石のようなチョコが並んでいた。


「一応、その、手作りっス」

「え!?手作りですか!すごい!彩歌さんお菓子作りも上手だったんですね」

「上手、になれるように修行中っス」


この前風邪を引いたときに作ってくれた卵粥も本当に美味しかった。それにこの箱の中に並ぶチョコたちもお店で売っているように形が整っていて見た目も綺麗だ。


「いただきます」


チョコに黒っぽいパウダーが掛かったものを一つつまむ。ほろ苦い味が口の中に広がった。小学生の頃は苦いチョコは得意じゃなかったのだが、どうやら味覚も成長しているらしい。


「おいしい」

「ほんとっスか!?よかった~」


胸を撫で下ろす彩歌さんに、今食べたほろ苦いチョコについて聞く。


「さっき智夏クンが食べたのはトリュフチョコっスよ」

「へ~。なんだか高級そうな名前ですね」

「キノコでできてるわけじゃないっスよ?」


彼女の手作りチョコを食べながら穏やかに時間は過ぎていった。彩歌さんをロビーまで送り、改めて社長室に向かうと、入って来た扉を閉めて出て行きたくなるくらいにニヤニヤされた。


「彼女との逢瀬はどうだったんだい?うん?」


逢瀬って……。引き返したくなるのをぐっと堪えて、社長に礼を言う。彩歌さんを呼んでくれたのはきっとこの人だろうし。


「おかげさまであまい時間を過ごさせていただきました」

「ふふっ。素直でよろしい。それで?きちんと注意してもらったか?」

「はい。反省しました」

「彼女の効果は絶大だねぇ」


そんなことを言うためにわざわざ呼んだのだろうか。暇なのかな、社長。


「さて、ここからが本題だ」


どうやらさっきまでは俺をただからかっていただけらしい。


「これを秋人君に渡してくれないか?」

「これは…?」


渡されたのは重箱に風呂敷を巻いたもの。秋人とうちの社長。なぜかこの重箱でよく食べ物のやり取りをしているのだ。


「なかなか手に入らない超人気店の期間限定チョコが入っている。きちんと渡してくれよ」

「…?」


秋人と社長の関係性って、いったい…。




~執筆中BGM紹介~

魔法使いの嫁より「You」歌手:May'n様 作詞:岩里祐穂様 作曲:中野領太様

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