主題歌
ブクマ登録・評価・感想ありがとうございます!そして誤字報告も本当にありがとうございます!人の名前をよく間違える作者は一度穴に埋まってきますね。
もとやんの話を聞き終えて、男2人ベンチに座りながら空を見上げていると、控えめな足音が聞こえてきた。
「悩める青少年たちに温かい飲み物を進呈しよう」
温かいココアの缶を3本持って戻ってきた彩歌さんが偉ぶりながら言ってきたのでそれに便乗することにした。
「ははぁ〜ありがたき幸せ!」
恭しくココアを受け取る。ベンチは3人座れるくらい長いため、彩歌さんには俺の隣に座ってもらう。
もとやんが虚ろな目をしていた原因を知らない彩歌さんがズバッと切り込んでいった。
「もとやんクンの金髪は親への反抗っスか?」
さ、彩歌さぁぁん!?そこ結構デリケートな問題ですよ!!!
右に座る彩歌さんの大胆さにハラハラし、左に座るもとやんの反応にドキドキしながら見る。
「反抗……そう、ですね。生まれて初めて親に抗いたくなったんだと思います」
「自分のことなのに他人事みたいっスね」
「ずっと、期待に応えようと必死で…こんなドロドロしたどす黒い感情、初めてで」
怒り、憎しみ、悲しさ、苦しさがごちゃごちゃと混ざりあって渦巻いている。
「もとやんクンはさ、優しいっスね」
「優しい…僕が?こんな殺意みたいな感情を持つ僕が優しいわけが、」
「優しいっスよ」
言い聞かせるように彩歌さんがもとやんに言った。俺が言うより第三者の彩歌さんの言葉の方が何倍も信憑性がある。
「殺意を抱くほどに傷ついても、暴力に走ったりしないんスから」
堕ちるのは簡単だ。怒りが善悪の境界をあやふやにしてしまう。そういう人を間近で見てきた。
「暴力は……だって傷つけるのは怖いんだ」
どれほど傷つけられても、親だから、今まで育ててきてくれた人たちだからと。そう言って目に見えないものに押しつぶされようとしているもとやんはまるで、昔の自分を見ているかのようで。放っておけなかった。
「親って血は繋がってても結局は他人なんだよ。もとやんが抱えているドロドロした感情や痛みは、自分にしかわからない。だから、もとやんの思いを家族の前で声に出してみたらいい」
ドロドロした気持ちを全部吐き出して吐き出して、最後に残った感情がきっと答えになるはずだ。
「……そういえば、今まで自分の気持ちを親に伝えたこと、なかったかも…しれないです」
子どもは言うことをただ聞くだけのロボットじゃない。酷いことを言われたら傷つく、心のある人間だって。そんな当たり前のことをわかってもらうために。
「うん、だから感情を思いっきり吐き出すといい。でも、暴力はダメだ。絶対後からもとやんが後悔することになるから」
「………わかりました。僕、親と喧嘩してこようと思います!ありがとうございます、師匠と、えーっと…そういえば、誰ですか?」
「えぇ!?いまさらっスか!?」
今まで誰かわからずに話してたのかよ…。最初に紹介しそびれた俺も悪いけれども。でもこのタイミングで名前聞くか?
「鳴海彩歌っス!よろしく、もとやんクン」
もとやんクンってなんかトムヤムクンに似てるなぁと思考が明後日の方向に飛んでいきながら両脇の自己紹介を聞く。
「もとやんではなく元山蒼穹です。ところで鳴海さんはもしや師匠の……」
そう言って視線を送ってくるもとやんに軽く笑んで、しーっと口の前に人差し指を置く。
「みんなには秘密な」
「っ!は、はい!」
「あと師匠はともかく、敬語はやめてくれ」
「わかり……わかっ、た」
なんとか敬語を飲み込んだもとやん。師匠だなんだと言う前は普通に喋っていたのに。
「それじゃあ、またなもとやん」
「………またな、師匠」
優しく微笑む彩歌さんの手を取って、もとやんと別れる。別れ際に見えたもとやんの目は、光をかすかに取り戻していた。
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Luna×Runaの2人と作り上げた曲『星屑の軌跡』について話があると、冬休み最終日に2人に集まってもらった。場所は出会った場所と同じお星さまカフェだ。
「智夏ちゃん、冬休みの宿題は終わったのかしら?」
「年が明ける前に全部終わらせましたよ」
ちなみに年が明けてからは予習復習などをやっていた。
「そ、そそれで、話って……?」
「勝手ですけど、『星屑の軌跡』を候補の一つに入れてもらいました」
「候補って一体なんの候補でしょう?」
「『月を喰らう』の劇場版主題歌の候補、です」
幸いLuna×Runaの所属している事務所は劇場版のスポンサーの子会社だったので、面倒な問題もクリアしたといえる。
「曲を作る前に、うちの会社、ドリームボックスの社長に許可を取ってたんです。本当はもっと早くにお伝えすべきだったんですが……」
劇場版の主題歌、という縛りに囚われて欲しくなかったのだ。あくまでこれはLuna×Runaの曲だから、『ツキクラ』の内容に即してたらいいなーくらいにしか思っていなかったのだ。でも、実際に歌詞を見て、歌にしてみて確信した。これは主題歌にぴったりの曲だと。
きっと2人は驚くだろうなーと思いながら反応を伺っているが、予想に反してなんの反応もない。これは想定外だ。俺のしたことは迷惑だったかなと思ったとき、ぽたり、とテーブルに雫が落ちる音がした。
「わ、わわ私たち一体、どうやってこの恩を返したらいい……?」
猫平さんが涙をこぼしながら言った。よかった、迷惑に思ってたわけじゃなかった。
「曲を作ってくれただけでも、本当に嬉しかったのに。智夏ちゃんは私たちの未来まで考えてくれていたんですね」
はらはらと涙を流す本田さんになんと言葉をかけようか迷ったすえ……
「初めて2人の歌声を聞いたとき、確信したんです。この先もきっと長い付き合いになるって」
予感ではなく、あれはもう確信だった。今言ったのは紛れもない本心だが、それ故に恥ずかしくなってきたのでここに呼び出したもう一つの目的を言うことにする。
「おっほん!それでですね、その主題歌の決定が今日もうすぐ決まります」
「「え、えぇー!?」」
おお、やっと驚いてくれた。ついでに涙も止まってくれたようでなによりだ。
そのとき、ちょうどタイミングよく電話がかかってきた。
2人が固唾を飲んで見守るなか、電話を取る。
「ーーーーはい、はい……そうですか。いえ、そういうわけでは。ーーーわかりました。では」
社長からの電話を切る。
「おめでとうございます」
「も、もももももももしかして!」
「『星屑の軌跡』が主題歌に本決まりしました」
「¥@?4/:»#!〆=☆€!?」
「日本語でお願いします」
驚くと本田さんの方がおかしくなるらしい。
なにはともあれ、思惑通りに事が進んで嬉しい限りだ。
~執筆中BGM紹介~
鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTより「ホログラム」歌手:NICO Touches the Walls様 作詞・作曲:光村龍哉様




