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あわてんぼう

今話から新章「サンタの試練編」スタートです。

作中では12月。




あわてんぼうのサンタクロースは、急ぎすぎてクリスマス前にうっかりやって来ちゃったよ~みたいな歌がある。世界中の子供たちに夢とプレゼントを渡しているのだ、うっかりの一つや二つ、見逃してあげるべきだろう。


なぜ、こんな取り留めもないことを考えているのか。それはこの香苗ファミリーにもクリスマスがやってくるからである。


くわっと目を見開いて我が家の家長である香苗(かなえ)ちゃんが開会宣言をする。


「第七回、家族会議をここに開催します!!」

「「しーっ!」」

「ごめんごめん。ついはしゃいじゃって」


第七回目の家族会議は冬瑚(とうこ)が寝静まった夜中に開催だ。参加メンバーは俺、香苗ちゃん、秋人(あきと)、そして白猫ハルだ。


「議題、冬ちゃんのクリスマスプレゼントを何にするか、です」


夜中にコソコソと集まって話しているのは、冬瑚にこのことがバレないようにするためだ。


「秋くん、例の計画はどうなったかな?」

「そんな悪役の会話みたいな言い方しなくても・・・例の計画、というか、冬瑚にさりげなく欲しいものを聞くってやつな。結果から言うと、失敗に終わった」

「あちゃ~」


おでこに手を当てて大仰なリアクションをしている香苗ちゃんだが、終始楽しそうで何よりである。


「「今が幸せだからもう十分だよ」だってさ」

「うちの子が天使すぎて召されそう」

「冬瑚、まじ天使」


とっても尊い発言だが、サンタ側からすると少々厳しい状況である。


「議長、どうします?」


ちなみに議長は香苗ちゃんである。議長は腕を組んだまま、良いアイディアが無いのか唸っている。


「去年のクリスマスは3人で外食に行ったけど。今年もそうするのは?」


見かねた秋人が提案をする。しかし香苗ちゃんは首を横に振った。


「去年は夏くんと秋くんの3人で初めて過ごすクリスマスだったってのに、2人の「何もいらないよ」っていう兄弟そっくりの発言に甘えて外食だけで済ませたこと、後悔してるの」


言われてみれば去年香苗ちゃんから「クリスマス何が欲しい?」と聞かれて、特にほしいものはなかったので「何もいらない」という返事をしたような。深く考えずに返事をしてしまったが、そのことで香苗ちゃんを悩ませる結果となっていたなら申し訳なくなってくる。


「今年は、形に残るものを残したい。ということで、夏くんと秋くんはクリスマスに何が欲~し~い~?」


欲しいもの、か。欲してやまなかったものは全てこの手の中にもうあるのだ。安心して笑える場所、温かい家族、愉快な友達、大切な恋人。


これ以上を望んだら、罰が当たりそうだ。秋人も同じようなことを考えていたのだろう。香苗ちゃんがテーブル越しに俺と秋人の手を握る。


「もっと欲深くなっていいんだよ」


欲しいものは、本当にもうないんだが、何か言わないと困らせることは目に見えているので必死に頭を回転させる。結局導き出した答えは、


「参考書が欲しい、です」


なんとも面白みのないものだった。別にウケを狙ったわけでもないが。それでも、俺が欲しいものを言ったことが香苗ちゃんは嬉しいらしく、ニコニコとスマホにメモをしている。


「僕はコレが欲しい」


秋人がスマホを操作してみせてきた画面には『大活躍シリコン鍋!!電子レンジも可能』の文字がデカデカと踊っていた。


ここでもブレない。さすがっす、お母さん。


「参考書とシリコン鍋ね。わかった任せなさい!」

「ちゃんと電子レンジにかけられるやつで」

「はい!」


2日後、それぞれ冬瑚にあげたいものを考えておく、ということでその場は解散になった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






期末試験が近づいてきたので、朝は少し早めに登校して勉強をしているのだ。隣の席の留学生のエレナも机に向かっていたので何の勉強をしているのかと思って手元を覗いたら、少女漫画を読んでいた。これも新しい恋への第一歩ってやつだろうか。


「しばちゃん、はよ~」

「田中おは、よう?どしたの、それ」


田中がいつも通り少し遅めに教室に入ってきたので顔を上げたところ、頬に引っかき傷が付いた田中が立っていた。


「猫?」

「妹」


それはまた。田中家の喧嘩は元気がいいことで。


「喧嘩したんだ?」

「喧嘩っていうか、キレられたというか。ガキは難しいな」


頬の傷を手でなぞりながら田中が少し落ち込んだ様子で言った。お前もまだガキだろ、とは言わないでおく。


「津麦にな~クリスマスに何が欲しいか聞いたんだよ」


おっ。タイムリーな話題。津麦ちゃんは冬瑚とも仲が良いし、参考になるかもしれない。


「そしたら、「ピアノ習いたい」って言いだしてさー」

「へぇ~」


物ではないけどそういうのもアリかもしれない。


「津麦は昔っから飽き性でな。ピアノを習わせても絶対三日坊主になるのが目に見えてんだ」

「ふむふむ」

「で、「絶対3日でやめるだろ」って言っちゃてな」

「あ~。それ言われたら「できるもん」って言いたくなるよな」

「そうなんだよ~」


やる前から否定されたら「やってみなきゃわからない」「できるもん」と言ってしまいたくもなる。しかし田中も苦労してるな。いっつも世話になってるし、何か役に立てたら・・・あ。


「田中、津麦ちゃんにピアノ、俺が教えようか?」

「え?いやいや。しばちゃん忙しいだろ」

「何もずっと教えるわけじゃないよ。ピアノ教室に通う前のお試し?みたいな感じでさ。冬瑚も世話になってるし」


半ば強引に渋る田中を説き伏せて、こうして俺は津麦ちゃんの一時的なピアノの先生になったのであった。





~執筆中BGM紹介~

「プレゼント」歌手:JITTERIN'JINN様 作詞・作曲:破矢ジンタ様

読者様からのおススメ曲でした!歌詞がちょっぴり悲しい曲でした。。。でもクセになる不思議な曲。




夏くんと秋くんのリクエストである「参考書」「シリコン鍋」ですが、本当は香苗ちゃんはもっとプレゼントっぽいものをあげたかったという気持ちはありました。しかし2人がかなり頭を悩ませて捻り出した欲しいものだったので、素直に受け入れた次第です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 成人女性と男子高校生と男子中学生が、女子小学生相手に何やら企んでいる?! これは調査を探偵さんに依頼しないと。ベーカー街に住む名探偵さんに相談しますか。 キリンが逆立ちしたピアスなんて物を…
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