3-20 俺たちがわるかった。追放パーティーは謝りたい
パーティーから追放したメンバーは実は聖堂騎士様だった。そのことに気がついた三人の冒険者、双剣士アレン、魔術師アイシャ、ダンジョン探窟家エミリーはかつて事情も聞かずに追放した仲間、ロイに謝りたいと考えていた。一方ロイも隠し事をしていた自分の態度を恥じて三人に謝りたいと考えていた。ロイは新たに仲間になった錬金術師のアザミ、奴隷で猫獣人の拳闘士ペルシャとともに謝罪のために旅に出る。三つの世界の大戦争で滅びかけた世界で6人の少年少女達の織り成す冒険の物語。
「このままでは駄目だ。やっぱりあいつが必要だったんだ!」
「なにかおかしいとは思ってたのよね……」
そう呟くのは二人の冒険者。アレンとアイシャ。アレンは双剣士、アイシャは魔術師だ。
「でも仕方なかったと思うよ。彼、あからさまに怪しかったじゃない」
虚ろな目で虚空を見つめる二人に、探堀家のエミリーはできる限り明るい調子でそういった。
硝煙と血の香りが渦巻く地の底。三人の冒険者の足下には紫色の血にまみれた無数の人食鬼の死体が転がる。
ここは中級ダンジョンオーガ窟の最深部。人の倍ほどの身の丈。筋骨隆々のガッシリとした体つき。その怪力の身から放たれる攻撃は、普通の人間ならばどれも一撃で致命傷になる恐るべき怪物の巣窟。
ボロボロになりながらも彼らは攻略を成し遂げた。その昔、この世界に侵略してきた魔族の残した魔物召喚機。その破壊には本来なら数十人のパーティーが必要だが、なんとか三人で対処した。しかし成し遂げたといっても、もう心身共に限界だ。
「そうだな。あいつ俺と同じかそれ以上の腕前のはずなのに一切剣を抜かなかったもんな」
「私でもわからない補助魔法かけてたんだもん。あれを見破るのはムリ」
三人が話す彼。ロイと名乗っていた謎の回復術士。初歩的な治癒魔法しか使っていないように見えた彼は、実は高度な戦術魔法を使いこなしていたことが、つい先ほど判明した。
「このところ依頼は失敗続き。まさかオーガキングにこんなに苦戦するなんてね」
「アレンが気がつかなきゃ全員死んでたわね」
エミリーとアイシャは薄汚れた顔を見合わせて大きなため息を吐く。彼がいた頃に10体は倒したオーガキング。余裕だと思っていた相手に文字通り死ぬほど苦戦した。
「戦闘動作加速の呪文。まさか実在したとは」
オーガキングとその取り巻きたち相手にアイシャはほぼ魔力を使い果たし、エミリーも手にした銃は弾切れ。回復薬も切れた。もうダメかと思われたときアレンが自分の斬撃のわずかな遅れに気づき、アイシャに手足の関節に風魔法を撃ち込ませた。この奇策で手足を無理矢理動かし、ロイが居た頃のような攻撃を放って何とか生き残ることができた。そこから博識なアイシャが導き出したのが、ロイがただの冒険者でなかったという結論だ。
ロイを追放してから、これまで倒せていた魔物が倒せなかったり、糧食の腐敗が異常に早かったり、魔物の連携に悩まされることが増えていた。
その原因として、ロイが本来一般冒険者が使えるはずのない戦術魔法を駆使していたという結論に至った。
「聖堂騎士ロイ・フォレスター。彼の正体で間違いないでしょう」
それはアイシャが魔術師や錬金術師を養成する『賢者の学び舎』にいた時に聞いた名だ。
戦術魔法は、正規軍士官や、爵位や騎士位を与えられた最上級の冒険者、賢者の学び舎の導師クラスでなければ習得することはできない。アイシャは優秀な魔術師ではあるが、導師になるためには18歳になるのを待たなければならない。
「あの16歳で史上最年少聖堂騎士に選ばれたっていう?」
マジで? という様子でエミリーが聞き返す。それはあまりにも現実感の無い話だからだ。
聖堂騎士。魔族と新魔族の大戦争に巻き込まれ、一度ほとんどの国家が滅んだこの世界に7人しか居ない世界の守護者。戦略魔法級の威力を持つ神勅剣の所持者たち。
「聖堂騎士様か……。俺たちそんなに信用されてなかったのかな?」
アレンは打ち倒したオーガキングのやや緑がかった身体に腰掛けたまま、剣についた返り血を拭い去りながらそういう。軽装の双剣士であるアレンは、最後まで言い訳一つしなかったロイの顔を思い出す。
「それは無いと思うよ。こちらが彼を信じ切れなかったのも悪いわけだし」
あらゆる罠や仕掛けを見破るエミリーから見ても、ロイはスキル隠蔽を使っていたし、彼の追放を決めたアレンの決断は責められない。せめて最初に事情を説明していてくれれば、聖堂騎士であることを隠匿することに三人は喜んで協力しただろう。それだけが残念でならない。
「それでも、彼を探し出して誤解してたことは謝るべきだと思うわ」
埃と返り血を浴びた長い金髪の乱れを気にしながらアイシャは提案する。自慢の魔力増幅効果の付与されたローブもボロボロで、直すのもかなりの金額になりそう。
「俺もその意見に賛成だ。ケジメはつけさせてもらいたい」
短い時間といえど、ロイが自分たちに同行してくれたのは、何か思うところあってのことだろう。
もしも赦されるなら今度こそ本当の仲間になりたい。
一方その頃、砂漠の町シャバーク近郊。
いや、正確には砂漠だった町シャバーク近郊というべきだろう。たった今、遙か昔に砂に埋もれて地底湖になっていた湖が再び湧出し、オアシスの町へと変貌していた。
「いっやぁ、まぁじで上手くいったわね。ロイ」
「うまくいったじゃないでしょう。アザミさん、これどうするんですか?」
眼前にできあがった湖を前に、ロイ・フォレスターは頭を抱える。
「御主人、御主人。どうしたっすか? 頭痛い?」
頭の猫耳をピョコピョコさせながら、魔族の一派である獣人族の少女ペルシャは、見上げるように彼女の主の顔色をうかがう。
「そうではないのです。ペルシャ。頭は痛いが頭痛ではないです。それとその御主人というのもやめて欲しいのですが」
「ロイは武僧ってことになってるんだし、師匠で問題ないでしょ?」
頭痛の種は、他人事のようにペルシャの喉をゴロゴロと撫でている。
「そうっすよ御主人。ペルシャは奴隷なので御主人居ないとこの首輪がドカンと逝くっす」
パーティーを追放されたロイに声をかけてきたアザミと名乗る少女は錬金術師と新魔族・日本人の忍者の二重職業。
彼女とともに成敗した悪党に記憶を消された獣人族の少女がペルシャだった。その首輪は強力な呪具で、ペルシャのいう通り主人と離れると奴隷を殺してしまう。聖騎士であるロイは奴隷は認められないが、ペルシャを助けるためには主人になるしかなかった。
「やはり背に腹は代えられませんね。あくまでペルシャは僕の弟子ということで……」
「大丈夫。もし爆発しても身体はアタシが有効活用してあげるから」
「嫌っすよ。アザミさん絶対良からぬ実験に使うっすよ!」
そう、忍者の練丹術と錬金術を融合させたアザミの力は世界の脅威と認識される。ロイが彼女と離れられないのも彼の持つ神勅剣が反応する危険人物だからだ。
この湖もアザミの錬成した地殻破壊弾という物騒極まりない代物による。
「アザミさん。僕の剣が警告しています。冗談でもそういうのはやめてください」
「あーい。全くアンタたちの神様って融通効かなすぎじゃない? 例の呪いにしてもそうだしさ」
「『鳥より高く飛ぶこと能わず』と『全能であることを許さず』は、仕方がないと思います」
「そうかもしれないけど、地球も滅びかけたわけだし、恨み言のひとつもいいたくなるわ」
「それをいったら、ペルシャたちの星なんて無くなったっす」
後に三界戦争と呼ばれる魔族と地球人の大戦争は、魔族たちの世界を地球人とこの世界の人間が破壊することで決着した。 この星の豊富な魔力を奪い地球へ全魔族を転移させるために侵攻していた大魔王は、全ての魔力で氷の大陸を生成し極点移動を引き起こした。天空や海底にあった魔法都市は全て壊滅。三つの星は複数のパズルを混ぜたようにバラバラに組み上げられ、パッチワークのようになった地球からは年に1万人を往復させられるだけになった。
「それでも神のなされたことは間違いではなかったと思います」
「でも、そのお陰で、魔族には寿命が生まれて私達は職業と技能なんてものに縛られてるわけよ」
アザミのいうとおり、戦闘機や竜族は鳥より高く飛べなくなり、数百年生きることもできなくなった。習得した能力は職業に応じたものしか使えなくなった。
「全てはこの世界を守るためです」
「万魔殿だって、世界復興のために協力してるんだし、もう少し融通を利かせてくれてもいいんじゃない?」
「ペルシャたち魔族は大魔王様に操られて悪いこともしたっす。でも今はこの世界の住人として仲良くしたいっすよ」
魔族たちへの憎しみは数百年で消えるものではない。奴隷として攫われる者も多くいる。それでも三つの世界の人々は力を併せて世界復興にいそしんでいるのだ。
「まぁ、どうにもならないことをいってもしょうがないか。ところでロイはこれからどうするの?」
「僕はもう一度みんなに会いたい。君に話したように全てを打ち明けて今度こそ本当の仲間になりたい」
「よっし、そういうことならアタシもついてくわ。少し気になることもあるしね」
「ペルシャには拒否権はないっす!」
ロイもまた仲間たちに謝りたかったのだ。
こうして二つのパーティーがお互いに謝罪するため旅は始まったのだった。





