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春秋異聞  作者: ペンギンの下僕
三秧連衡

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無必救之軍、則無必守之城

 制周城で軍議が行われる少し前のことである。

 顓遜は兵をまとめ、紀犁、共羽仞とともに三連城の東端たる潁段城に辿り着いた。そこで、もう二度と会えぬと思っていた顓項との再会を果たしたのである。

 感動の再会であるが、この場にいる者たちは皆、顔に沈鬱を浮かべていた。ただ一人、共羽仞だけは平然としており、酒と肉を求めたのである。共羽仞は、立場こそ雑兵であるがこの中の誰よりも戦歴が長く、顓遜に請われて顓項の元へきてもらったのだ。


「顔を陰気に染めていても、制周城は還ってきませんぞ。向後どうするにせよ、まずは食べることから始めなされ」


 顓項は目に見えてやつれていた。顓遜と別れてから、ほとんど何も口にしていないのである。これまでの平穏だった日々が、瞬く間に戦火に染め上げられてしまった。しかも一度として勝つことが出来ず、敗れ、失うばかりだったのである。十三の少年の双肩で背負うには、その結果はあまりに重すぎた。

 だが共羽仞は、顓項の懊悩を分かった上で、近くにいる者に命じ、顓項にも食事を持ってくるよう命じたのである。


「無理にでも、喉に押し込みなされ」


 共羽仞は冷淡に告げる。それでもまだ顓項が躊躇っていると、顓遜はその横に座り、顓項の皿から肉を取ると、貪るように喰らいついた。


「いらぬというなら、俺がすべて食べてしまうぞ」

「季父上……」

「敗戦の責は、俺にある。しかし、まだ生きているのであれば、制周城を奪還する術を考えねばならん。幸甚にして我が軍中には共どのという無双の将がいる。しかし、将と軍師だけで戦はできぬぞ」


 顓遜なりの激励である。そう言われて顓項は、少しずつであるが、食事を口に運び始めた。

 ひととおり腹を満たすと、軍議を行うことになった。そこには、潁段の城主である李遼もいる。

 李遼の語る現状によると、潁段城にいる兵は、集めて三千ほどである。籠城するには十分であるが、兵糧が足りない。城民と共に籠るのであれば、一日一食にしても半月で尽きるという。


「敵の兵糧もそう多くはないでしょう」

「ですが、沃周城が降り、制周城も落とされたとなると、補給は整っているはずです。こちらよりは多いでしょう」


 顓遜の言葉に、紀犁は気重な声で告げた。制周城の留守を守れなかったことの責を感じているである。


「虢に早馬を出して、援軍を請うしかありませんな。よいですか、城主どの。兵の多寡や軍資の差などが勝敗を分けるということはないのです」


 歴戦の将たる共羽仞は、この中の誰よりも地に足をつけて、戦について語った。その理屈についていけるのは、顓遜だけである。

 例えば、一月後に援軍が来ることが分かれば、兵糧が無くとも潁段城の将兵の気力が折れることはないであろう。しかし、来る見込みが少しもないと分かれば、十日と持たない。それは物資の有無ではなく、将兵の気力が持たぬからだ。

 実際に、顓項らの援軍が撃退されたのを知って、沃周城は降った。今の潁段城は、その時の沃周城よりもさらに孤立している。


「既に滎倉(けいそう)に使者は出してあります」


 これは紀犁の独断だが、顓項は咎めなかった。事態はそれほどまでに火急なのだ。




 前にも書いたが、滎倉は虞領における最大の兵廠(へいしょう)である。そこには当然、兵も配備されていた。

 今、滎倉にいる兵は二万であり、顓項の異腹の兄、顓無卹(せんむじゅつ)が総括している。顓公たる顓戯済の三子であり、正妃の子である。齢は二十七で、端麗な顔をした美丈夫である。


「制周城から使者が来ただと?」


 顓無卹は、異腹の弟について、特に好悪の情を持っていない。ただ、父の機嫌を取るのが下手な庶弟、というくらいの認識である。

 だが、使者が来たとなって懐疑を向けた。渡された書簡には、北岐山を越えて虞の第四王子が攻めてきたので、援軍を送って欲しいと書いてある。


「お前はどう思う、法伝(ほうでん)?」


 顓無卹は、控えていた己の腹心に聞いた。顓無卹と同い年の人物である。


「確かに虢から虞の王子が逃げた、という話は聞いております。なれど、北岐山を越えてくるというのは考えにくい話かと」


 起伏のない声で言った。顓無卹も、同じ考えである。

 これは二人の不見識ではなく、むしろまっとうな考えである。虞が諸侯を頼みとするのであれば、樊の三卿のどれかであろうと考えていた。北から現れたとなれば、北狄の力を借りたと考えられるが、顓という(えびす)に寇掠された虞が、(えびす)に兵を借りるとは思えない。蛮と蔑む者たちに腰を低くしてでも、実利を取ることは出来ないだろうとの見方である。


「ならばなんだ、この書簡は? 偽書か?」

「いいえ、制周城から来たものであることに違いはないでしょう。何か思惑があって、兵と軍資を無心に参られたのでしょう」


 法伝の言葉に顓無卹は頷く。同じ考えであった。

 しかし、ならば北狄が攻め寄せたと書けばいいのに、わざわざ、虞の王子に攻められたという、奇妙な虚言を使うところが解せない。そう考えると、あるいはこの書簡は真実ではないかとも思ってしまうのだ。

 いずれにしても、北から不穏な風が吹き始めていることには違いない。

 顓無卹は七千の兵を率いて、北に向かうことにした。もし本当に外敵が押し寄せてきたのであれば、それを討ち、顓項が悪しきことを図っているのであれば、顓項の首を取る、という算段である。

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 読んでいただけるだけでも幸せなことなのですが、その上さらに数字に表れる反応、結果が出たことはとても嬉しいです!! ありがとうございます!! これからも『春秋異聞』をよろしくお願いします!!

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