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11話:姫川に晩御飯を作っていく

 それから程なくして。


「ほら、出来たぞー。焼うどんだ。熱い内にさっさと食おうぜ」

「おー、すっごく美味しそうですね! はい、それじゃあ早速いただきます!」

「おう。いただきます」


 俺は台所で作ってきた焼うどんをテーブルに並べていき、早速二人で食べ始めていった。


「うん、これは凄く美味しいですね! ソース味が良いアクセントですね! それに野菜も沢山入ってて食べ応えもあって美味しいですよ!」

「そっか。そりゃあ良かった。まぁテキトーに材料を切ってテキトーに炒めただけだから、別に大した事なんてしてないけどな」

「いやいや、そんな事ないですよ。私も料理するからわかります、これは先輩の真心が籠っててすっごく美味しいですよ!」

「お、おう。まぁそう言ってくれるのは嬉しいけど、でも何だかお前にそんなベタ褒めされるなんてちょっとこそばゆい感じもするな。というかもっと貶されるかと思ったわ」

「え? いやそれってどう意味ですか? その言い方だといつも私は酷い事を言ってる女みたいな感じに聞こえるんですけど??」

「ノーコメントで」

「ちょ、ちょっと!? そこはちゃんと否定する所でしょ!!」


 俺がそう言っていくと姫川はプリプリと怒り出していった。


「はは、冗談だよ冗談。でも料理が得意な姫川に褒められて嬉しいよ」

「ふふ、初めからそう言ってくださいよねー! それに私に料理が得意って褒めてくれてありがとうございます! あ、それじゃあ良かったら今度先輩に私も料理を作ってあげましょうか??」

「え? それは普通に嬉しいけど、でも良いのか?」

「はい、もちろんです! 今日は先輩にすっごく助けられちゃったので、これはちゃんと恩を返すためにも彩ちゃんがとびきり美味しいご飯を作ってあげますよ!」

「そっか。まぁそう言う事ならせっかくだし有難くお礼として頂くとするかな。それじゃあ今度バイトが一緒の時にでも持ってきてくれると助かるわ」

「えっ!? いやいや、何言ってるんですか先輩! ご飯は出来立てが一番美味しいんですよ? って事でまた今度、改めて先輩の家にお邪魔させて貰いますね! 私の美味しいご飯を御馳走するために!」

「……へ? また俺ん家に来るつもりか?」

「はい、当たり前ですよ! ……って、え!? も、もしかして逆に私の家に来るつもりだったんですか? いやそれは流石に先輩えっち過ぎますよ! こんなうら若き乙女の家に来ようとするなんて先輩はえっち過ぎですねーって、あいたっ!」

「えっちえっち連呼すんな」


―― ピシッ!


 俺はそう言っていつも通り姫川に軽くデコピンをしていった。


「いたた……も、もう先輩! こんなうら若き乙女である彩ちゃんにデコピンをするなんてもう犯罪ですよ!」

「うら若き乙女がえっちえっちって連呼するんじゃねぇよ。はぁ、全く……ってか、俺は別に良いけどさ、でも姫川は良いのかよ?」

「え? 何がですか?」

「いや、俺だって一応男なんだぜ? 男のアパートに女の子一人でそんな気軽に来るってあんまり良くないんじゃねぇのか? 今日だってナンパ男に連れてかれそうになってたわけだし、無暗に男の住んでる所には近づかない方がいいんじゃね?」

「あはは、大丈夫ですよ。だって私は基本的に男の子の部屋になんて行く事はありませんから。それに手作りのご飯だって今まで男の子に振舞った事は無いんですよ。ふふ、だから……先輩だけが特別って事ですよ?」

「……え?」


 姫川は俺に向かってそう言いながらニコっと笑みを浮かべて来た。そしてそんな姫川の満面の笑みを見た瞬間……。


「……?」


 その瞬間、何故だか急にドキっとしてしまった。まさかいつも煽り合っている生意気な後輩にこんなにもドキっとするのは初めての事だったので、俺はちょっとだけビックリとしてしまった。


「ん? どうしました先輩? 何だかぼーっとしてますよ?」

「え? あ、あぁ、いや、すまん。ちょっとだけ考え事をしてたんだ」

「ふぅん? あ、もしかして……ついに私の可愛さに見惚れちゃってましたか?? ふふん、それはしょうがない事ですよ。だって私はとびきり可愛い女の子なんですから。だから幾らでも私に見惚れてくれて構いませんからねー??」

「ふぅ、御馳走様でした。今日も上手く作れてよかったなー」

「って、ちょっと!? 今は確実に私の可愛さについて話をしていく場面だったでしょ! 私の可愛さよりも焼うどんの美味しさの方が大事なんですか!?」

「うん」

「うんっ!? いやそんな馬鹿なっ!?」


 俺がそう言っていくと姫川はまたいつも通りプリプリと怒り出していった。


 まぁ本当は今回に関しては姫川の言葉はちょっとだけ正解だったんだけど……でも恥ずかしい気持ちがあったのでついつい照れ隠しでいつも通りの対応を取ってしまった。


「冗談だよ、冗談。まぁでもお前がそう言ってくれるんなら……わかったよ。それじゃあまた今度、姫川の作るご飯を楽しみにしとくわ」

「はぁ、全くもう……って、えっ? それじゃあ、また先輩の家に行っても良いって事ですか?」

「あぁ、もちろん」

「やった! ふふ、それじゃあ先輩のために美味しいご飯を作ってあげますね! 先輩を物凄く感動させてあげますので、楽しみにしていてください!」

「あぁ、わかった、楽しみにしてるよ。……っと、そんな話してたら結構時間も経っちまったな。もう夜も遅いし、さっさと焼うどん食べ終えろよ。それでそれ食ったらお前んちまで送っていくからな」

「え? あはは、お見送りなんて良いですよ。一人でちゃんと帰れるから心配しないで大丈夫ですよー」

「駄目だ。さっきのナンパの件もあるし、今お前は怪我してんだから黙って俺に送らせろ」

「えっ? あ、うっ……わ、わかりましたよ。ふふ、もう、先輩っていつもは陰キャムーブかましてるクセに……ちゃんと大事な場面ではカッコ良い男の子ムーブをかましますよね」

「陰キャムーブは余計だよ。ってか全然褒めてねぇだろ、それ」

「いやいや、すっごく褒めてますよー! ふふ、という事でこれはもう先輩には大奮発して後輩ちゃんポイントを20ポイントも贈呈しちゃいます!」

「今までで一番高いポイントが来たな。でもそれで貰えるのってお前の満面の笑顔だけなんだろ? それじゃあ別にポイント増えても要らねぇんだけど」

「いやいや、今回からなんと交換のラインナップが増えましたよ! 後輩ちゃんポイントを50ポイントで先輩の食べたいご飯を何でも作る券をプレゼントしちゃいます!」

「え、マジで? それは普通に一番嬉しいかもな」


 写真で見ただけだけど姫川の手料理は凄く美味しそうだから、何でも好きな物を作ってくれるってのはかなり嬉しいなと思った。


「ふふん、でしょー! あ、ちなみに先輩は一番好きな料理とかはあるんですか?」

「一番好きな料理? うーん、まぁやっぱり子供の頃からハンバーグとか生姜焼きとか肉料理全般が大好きだな」

「ほうほう、肉料理ですか! ふふ、やっぱりそう言う所は先輩も男の子って感じですねー」

「まぁそうだな。高校の時はバスケ部だったし毎日ガッツリと肉料理ばっかり食ってたからな。あ、そういえば……前に姫川のSNSで見たハンバーグがめっちゃ美味しそうだったな」

「おー、それはお目が高い! 彩ちゃん特製のハンバーグはすっごく美味しいって家族からも大好評なんですよ! ふふ、わかりました! それじゃあそんな彩ちゃん特性のハンバーグを今度先輩のために作ってあげますね!」

「おう。それはすっごく楽しみだな。それじゃあその時を楽しみにしてるわ」

「はい! 任せてください!」


 そう言って姫川は俺に向かって満面の笑顔を俺に見していってくれた。


(あぁ、良かった、気が付いたらいつもの姫川に戻ってくれたな)


 今日の姫川はタチの悪いナンパに遭ったり足を怪我してしまったりと最悪な事ばかりで辛そうだったけど、でも最終的にはいつも通りの明るい笑顔を見してくれるまでになっていた。


 俺はそんないつも通りの姫川の明るい笑顔を見れて良かったと思いながら、その後も俺達はいつも通り他愛無い話をしながらこの夜を過ごしていった。

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