第9話 お友達と仲良くなるために
で、三人のことだけど、まだ予定は決めていないが、今度私の家へ遊びに来てくれることが決まった。
未来の私も家に呼んだことはあったが、友情を知らなかったので、うれしいなどの感情はなかった。
でも、今の私は違う。
三人が家に遊びにきてくれるということで、とても楽しみだ。
「シノ、私、三人との会話が楽しいわ」
私の誕生日パーティを終えて、ベッドへ潜り込み、傍にいるシノにそう話す。
「それはよかったです。私から見てもお三方はお嬢様のことを純粋に慕っているようですから」
「そう。よかったわ」
シノから見ても三人が私のことを慕っていると言うのなら安心だ。
ただ、世の中には喧嘩をしてそのまま別れてしまうなんていう話もあるみたいなので、そのようなことにはならないように気を付けたい。
「それにしてもお嬢様の誕生日に三人のご令嬢と友達になるなんて。これは予想外のプレゼントですね」
「ふふふ、思えばそうね。あの三人と友達になれたというのは最高のプレゼントじゃないかしら」
今日貰ったプレゼントはもちろんのこと多い。
それは公爵令嬢であるということも当然だけども、すでに王子であるラルド様の婚約者であることも関係していることは間違いない。
で、そんな数多くのプレゼントはもちろんのこと、高価なものが多い。
でも、そんな高い価値のあるプレゼントは私の心に響くことはなかった。
別に私の好きな物というわけではないしね。
なので、今日の一番のプレゼントというのは三人と友人になれたということ。これ以上のものはない。
「来年の誕生日はここまで最高のプレゼントはあると思う?」
「そうですね。お嬢様の喜びそうなものはあると思いますよ」
「あら、そう? 例えば?」
「はい、今日三人の令嬢とお友達になりましたよね。でしたら、友人からのプレゼントがある可能性がありますよ。そのプレゼントはどうですか?」
「それはうれしいわ! 彼女たちからのプレゼントだったら他の方よりも高い価値があるわよ!」
「ふふふ、ですよね」
「ただ、私も彼女たちにプレゼントをしたいわ。私だけ貰って彼女たちに何も送らないのは傲慢だもの」
貰うだけのだったら最初は純粋な思いで私へ送っていたプレゼントも途中からはただの貢ぎ物になる。せっかくの友人なのだからそのようなことにはしたくはない。
だから、私からも彼女たちへ誕生日プレゼントを渡したい。
それに私自身、渡したいという気持ちはあるし。
「ええ、とても素晴らしいことだと思いますよ、お嬢様」
「やっぱり友人からのプレゼントはうれしいものなの?」
「もちろんですとも。ですが、内容に関しては注意しなければなりません」
「そうなの?」
「はい。既製品なら安くても高くてもダメです。高ければそれに対して同等以上を用意しなければならないかと思われますし、安ければバカにされていると思われます」
「そうなの!?」
「はい」
し、知らなかった。
安いものはともかく、プレゼントというのは高いのがいいのかと思っていた。
プレゼントってそんなに難易度が高いものだなんて……。
「ど、どうしたらいいの? 喜んでもらいたいわ」
「そのためには今よりももっと仲良くなる必要があります」
「そうなの?」
「はい。そもそも高い安いというのはそこまで仲が良くないために起こる問題です。知り合い程度の令嬢は正直に申しまして面倒です」
「そ、そう」
「ですが、より仲の良い友人ならばどのようなものであれ、気にすることはないでしょう。それに事前にどういうものがいいのか聞くことだってできます!」
「え? 聞くのっていいのかしら?」
「仲のいい相手だけ、ですけどね。知り合い程度ではダメですよ? 侮られますから。でも、仲が良ければ話のネタにもなります」
「難しいわね」
でも、確かに話のネタになる。
未来の私のような十代後半ならできない話だろうけども、今は五歳の子ども。このような話をしてもバカにされるなんてことはない。
未来の私はこういう話なんてしなかったから、こういう話のネタがあるのはとても役立つ。
あとは難しいと言ったようにどうやって上手く話を繋げていくか。
未来の私はそこまで会話していたというわけではない。もうほとんど相槌を打つ程度で、ほとんど無関心を貫いていた。
故に難しい。
「大丈夫ですよ! お嬢様なら問題なく話せますよ!」
シノはそう言うが、問題ないわけがないのは未来の私が証明している。
「そうかしら?」
「そうですよ! 今日のパーティでもきちんとお話しできていたではありませんか」
「あれは……何か違うわ。友人同士の話の内容じゃないわよ」
友人同士の会話なんてしたことない私でもそれは分かる。友人同士の話はもっと気楽な話のはず。
あれは相談の類。
もしあれが友人同士の会話というのならちょっと、いや、かなりショックだ。
「そうなのですか?」
「……もしてかしてシノは友達いないの?」
友人と認識していなかった未来の私でも分かる。
なので、そこで疑問を持つシノは実は友人がいなかったのではないのかと思ってしまった。
「そ、そんなことはないですよ? たくさんいます。ええ、たくさんです」
そう言うシノだが、言葉に動揺が表れている。確実にいないやつだ、これ。
ちょ、ちょっと悪いことを聞いてしまった。きっと聞いてはいけないことだったはず。とりあえず誤魔化しておこう。
「そうなのね」
本当にたくさんいるようだったらたくさんのことを聞こうかと思っていたけど、これじゃあ聞くことはできない。一人で、いや、シノと二人で頑張ろう。
そう決心しているとシノは何やらあわあわと落ち着きがない。
きっと友人がいないのに友人がいると言ったからだろう。
何せ先ほど私は友人関係のことを話していた。話の流れからすると次に私がシノに友人関係について聞くのは当然の流れ。
いや、私、そんな意地悪じゃないよ?
「ねえ、シノ」
「!! は、はい!」
ついに友人について聞かれると思ったシノはびくびくしている。
ついその反応が面白くて笑いそうになるが、ここは立派な淑女として穏やかな表情で誤魔化す。
「あのね、一緒に友達と話す内容を考えてくれないかしら?」
「も、ももも、もちろんです! た、ただ、お嬢様。さ、参考になるかは……」
「関係ないわ。こういうのは正解なんてないもの」
「ま、まあ、そうですね。正解はありませんけども……」
正解があったならば未来の私は友人兼取り巻きの子たちのことをただの取り巻きとは思わなかったはずだ。
でも、そう思ってしまったのはやっぱり正解がないから。
それに友人関係以外にも正解があったならば婚約者であるラルド様に最初から邪険に扱われるなんてことはなかったはずだ。
「でしょう? だからシノの基準で良いから一緒に話し合ってほしいのよ」
「なるほど」
そう言うシノの顔にはほっとした表情が見て取れる。
自分の友人関係や経験を使わずともできる内容だと理解したからだろう。
こちらとしては微笑ましい。
「こほん、では、何から話しますか? ちなみに就寝までのお時間はあと一時間です」
「意外と時間はないのね」
「今日はお嬢様のパーティでしたから」
まあ、今日は少ない時間だけども明日もその先もあるので、時間はたくさんある。きっと友人を呼ぶ前にある程度は対策できるはず。それで私の初めての友人とのお茶会は成功に近づく。
「じゃあ、まずはプレゼントの話を目標にするためにまずは仲良くなる話のネタよ」
「お嬢様はどのような内容を話そうと?」
「そうね。お菓子の話はどうかしら? マナーの話や勉強の話よりも楽しくできると思うわ」
「それはよろしいかと思います。その、今のお嬢様はまだ幼くありますが、マナーなどはすでに他の方々よりも完璧です。今のお嬢様がその話をされると……」
「むう、嫌みになるわね」
貴族の世界ではこの嫌みという名の事実は相手のマウントを取るためには非常に重要なものだ。遠回しに言っているが、言うなれば自分はこれほど優れている、あなたよりもね、と言っているようなものだから。もちろん自慢だけのためではない。一応、他にも目的はあるんだけども。
「話のネタの一つとしてお菓子の話題は良いと思いますが、他にも考えましょう」
「ええ。でも、どういうのがいいのか思いつかないわ」
私の未来の知識なども合わせると話の話題なんてたくさんある。
でも、他の三人にはまだ難しい。まだマナーや勉学で他のことに時間を取る余裕はない。そもそも三人とも私と違って、本当の子どもだからね。
「そうですね。では、服のお話はどうでしょうか? お嬢様はドレスなどに興味はありませんか?」
「!! あるわ!」
綺麗な服を着るというのは結構好き。未来の私はドレスを作ってもらう際に職人に任せるだけではなく、そのデザインにも私の意見を取り入れてもらったりなどこだわりすらあった。
あっ、もちろん趣味の悪いドレスを作るなどはしてない。ちゃんと勉強もしてお世辞なしで褒められるようなデザインを作った。
なので、服関係の話をするというのは子ども同士だが、良い話のネタになるかもしれない。
三人とも子どもとはいえ、女性だ。美しいというのは年齢的に興味はないだろうが、可愛いというのはみんな興味ある。
よし! そのときまでに何か可愛い服を用意しておこう!
話をするだけではなく、実物を見せるほうがより盛り上がるに違いない。
「シノの案は最高ね! おかげで他にも思いついたわ!」
他のネタは可愛い系だ。
可愛いというのは服だけではない。世の中には多くある。
例えば子どものおもちゃである人形やぬいぐるみ。特にこれらは私たちの年齢にはぴったりのもの。今現在遊んでいるおもちゃだしね。……大人である私も遊んでるし。
「ふふふ、どうやら大きく役立てたようでよかったです」
「ええ、本当に助かったわ。ただ現物が欲しいから服や他の物を用意しててほしいわ」
「かしこまりました。では、これを機に街へ出向いて何か買いませんか?」
「え? いいの? 街へ出るのはダメなんじゃないの?」
特に高位の貴族の子息令嬢は親がかなり権力や金を持っているということもあり、幼いうちは街へ出ることは基本的は許されない。誘拐などされたらかなり問題だ。
なので、街へ出るのには親の同伴、一定の年齢に達するまでなどと様々な制約がある。
ただ、これらの制約は法律で決まったりなどそういうのではない。なので、親である父が行ってよいと言えば許される程度のこと。
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