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第29話 名誉挽回!? ご褒美のお菓子!

「何か私の思っていたのと違います……。私の予想ではとっても大喜びするお嬢様がいるはずなのですが」

「なら大間違いね。見ての通りよ」

「どこで失敗したのでしょうか……」

「あえて言うならば私の唇にキスしなかったことよ」

「そ、それは……」

「まあ、これはいいわ。私は望んでいるけどもシノの言い分は分かるもの。で、あなたの失敗はスキンシップにこだわり過ぎたことね。私は甘いもので満足できたのに」

「だ、だって~」


 ぺしぺしとシノの額を叩く。


「全く。私のことをじゃなくて、自分のことを優先するからこうなるのよ」

「ふぐぅ」


 打ちひしがれるシノ、少し可愛い。


「ち、近いうちにお菓子をたくさんのお菓子を用意します……」

「楽しみにしているわ」


 美味しいお菓子を持ってくるのを楽しみに待っていよう。


「ちなみにどのようなお菓子をお求めですか?」

「そうね。あまり食べたことのないお菓子がいいわ」


 ご褒美なので、いつも食べているお菓子ではなく、あまり食べたことのない、または初めて食べるお菓子を食べたい。つまり、庶民系のお菓子をご所望。

 庶民系のお菓子は未来でも食べたことがないので、高級系のいつも食べているお菓子以外を楽しみにしている。

 シノと二人で街へ行ったとき、庶民の食べ物を食べたが、苦手ではなくて好きだったので庶民系でも問題はない。むしろ、あのときのような濃い味付けもいいかなとか思っている。


「なるほど。ならお嬢様が喜ぶものを持ってきますね!」


 自信満々に言うシノ。

 何か私が喜ぶようなものが思い当たるのだろうか。それとも今から探すのだろうか。どちらにしても自信満々なシノを見ると期待してしまう。


「期待しているわ」

「はい! きっと満足していただけます! そして、名誉挽回です!」


 そうして、シノが何を買ってくるのかと楽しみにしながらシノと一緒に眠りに就いた。






 それから一週間ほどして、シノがご褒美であるお菓子を用意できたようだ。

 この一週間、シノが、もうすぐですよ、もうすぐですよと何度も言っていたので、逆に長く感じた。

 今はテーブルの前に座って、シノが用意するお菓子を待っている。


「いつもなら一週間なんて短く感じるのに。この一週間は本当に長かったわ」


 つい愚痴ってしまう。こうしてつい愚痴ってしまうのは昼食を食べられなかったからというのもある。なんでも、たくさん食べれるようにとのことだ。

 ……私、そんなにたくさん食べられないわよ。

 甘いものは好きだけども、お菓子を昼食にするほどたくさん食べられるわけではない。

 しばらく待つとシノがシノが用意したお菓子を載せたカートを引いて部屋に入ってきた。


「遅いわよ」


 一時間も待たされたので、頬を膨らませて抗議する。


「申し訳ございません。少し手間がかかりまして」

「手間って何よ」

「ふふふ~、実はですね~」


 シノはにこりと笑みを浮かべる。


「今からお嬢様に召し上がってもらうお菓子は私が作ったんですよ!」

「!!」


 シノの言葉に驚く。


「……あなた、お菓子を作れたの?」

「はい! プロに劣らぬ腕を持っていますのでお嬢様は満足できると思います!」


 そう言ってカートの上に置いてあるお菓子をテーブルに並べて見せていく。

 種類は三種類で、どれも初めて見るお菓子とケーキだ。

 ただ、ケーキのほうは私の知っているケーキとは大きく違っており、クリームもなく、果物も乗っていない。生地だけのような円形のケーキ。正直見た目の華やかさはない。

 で、他二種類だけども、こちらは表面がぱさぱさしたパンのようなものと白い粉が付いた丸いもの。

 前者はともかく後者のお菓子はかなり不安になる。


「……プロと言うには地味ね」


 一通り見て、ぽつりとつぶやく。


「あはは、まあ、見た目に関しては地味ですが、味のほうは完全にプロです!」


 そこまで言うなら食べて決めよう。


「それでなんて名前なの? もしかしてあなたの創作?」

「いえ、創作ではありませんよ。遠い国のお菓子なんです。庶民用のお菓子なので、お嬢様が知らないのも無理はありません」


 それを聞いた私は心の中で大喜びする。

 街へ出て庶民の料理を食べたあのときを考えれば、シノが作ったという庶民のお菓子はとても期待できる。まあ、見た目が微妙だけども、シノが言うには味には自信があるようだし。

 さっそく食べようとするが、まずはお菓子のそれぞれの説明を聞こう。

 シノが作ったようだし、詳しく教えてくれるはず。


「ねえ、説明してちょうだい」

「はい」


 シノはまずパンのようなものを私の前に持ってくる。


「こちらのお菓子ですが、名前をシュークリームと言います。焼いた生地の中にカスタードクリームを入れたお菓子ですね」

「中に?」

「はい。空洞になっていて、その空洞いっぱいにカスタードクリームを入れているんです。そのまま齧り付くとクリームが溢れ出るほどです」

「まあ! そんなにカスタードクリームが?」


 このお菓子は知らないがカスタードクリームは知っている。かなり甘くて、普段の貴族のお菓子とは一風変わった味がある。少し甘さが強いので、上品というよりはがっつり系だ。

 そんなカスタードクリームはやっぱり庶民のお菓子。

 そう考えるとカスタードクリームは庶民のお菓子にはぴったりかもしれない。というか、かもじゃなくて、そうに違いない。貴族のお菓子には合わない。


「ええ。ですので、お嬢様には手で持ってもらって、そのまま齧り付いてください」

「え!? でも、溢れ出てしまうのでしょう?」


 手で持って齧り付くのは別に問題ない。庶民はそういう食べ方をするというのはすでに知っているので抵抗はない。

 問題なのは溢れ出るほうだ。

 齧り付けば中のカスタードクリームが出てくると分かっていながらやる人は、誰であってもわざわざする人はいないはず。汚れるのは庶民関係なく嫌だろう。


「はい、溢れ出て口周りがクリームだらけになります」

「尚更齧り付くのはダメじゃない」

「いえいえ、それがいいのです!」


 汚れるというのにそれが良いと言うシノ。

 普通であれば汚れないようにするのだけども……。もしかして庶民の間では口周りを汚すのがマナーなのだろうか。

 そうだとすればここはシノの言う通りにやるしかない。

 私は生涯を貴族でなくとも愛する人と過ごす女。その相手が庶民だった場合だって対応してみせる。

 そう思っていると、


「だって口周りにクリームをつけるお嬢様だなんてとても可愛いじゃないですか!! お嬢様、いつもお上品に食べてしまうので、見ているこっちは楽しみがないんですよ。ここはぜひがぶりと食べてください!」


 シノの私利私欲だった。

 う~ん、私、シノの(あるじ)になったの、間違いだったかな。


「大丈夫です! 見ているのは私だけですから!」


 いや、見るのはシノだけだからやってもいいとかいう問題ではないのだけども。

 これでも十八まで生きたことのある立派な淑女。そういうマナーならともかく、シノが見たいという理由でやるつもりはない。


「やらないわよ」

「え~! あっ、じゃあ、私もやります! 私も同じように齧り付いて口の周りにクリームをたくさん付けますよ!」

「それを見て、誰が喜ぶのよ」


 私よりも歳が上の人間が子どもみたいに口周りを汚す。そのような姿を見て他の人間がどう思うだろうか。

 少なくとも私は引く。喜びはしない。というか、主になったことを後悔してしまうだろう。そのレベルだ。


「え? 喜びません?」

「喜ばないわよ。あなた、お父様がマナーのなってない食べ方をして、口の周りを汚すのを見てどう思う?」

「……っ! た、耐えられません……!! 無理です!!」


 その姿を想像したのだろう。シノは少し体を震わせてそう言った。

 ……父を例にした私が言うのもなんだけども、その反応はどうなのだろうか。父が可哀そうだ。


「え? も、もしかして、わ、私がやってもですか? 私がやっても耐えられないレベルですか?」


 シノが鬼気迫る表情で私に聞いてくる。

 こ、怖い。


「え、えっと、そうね。見ていて引くくらい?」


 もっとオブラートに包もうかと思ったが、つい口が滑って言ってしまった。

 私の言葉を聞いて、シノはよろよろと下がる。


「そ、そんな! 自分では可愛げがあると思っていたのですが……」

「それは自意識過剰ね。汚して許されるのは幼い子だけよ」


 そう言って私は礼儀正しく紅茶を飲む。


「うぐぐっ」


 シノは涙目でこちらを睨む。


「で、食べていいのかしら?」


 せっかくシュークリームというお菓子を紹介されたのにシノがくだらないことを言うせいでお預け状態。ただでさえ、シノが用意するのに一時間まったというのに。こっちは早く食べたい。


「……はい、いいです」


 そう言われてシュークリームを手に取る。

 どうやらシュークリームというお菓子の外側はやわらかいというよりも少しパリッとしてるようだ。

 問題は中身。クリームがいっぱい入っているそうだが、生地の厚さがどのくらいかで大きく変わる。私の予想だとそれほど厚くはないと思う。だって、これ、かなり重いから。

 なんだろうか。見た目はパンみたいだから知っていても驚いてしまう。

 さっそく食べようと思ったが、一旦手を止めてシュークリームは皿の上に置いた。


「? どうしましたか?」

「……あなたも食べていいわよ」

「えー、いいんですかー」


 私の言葉にシノはわざとらしい棒読みでそう言ってきた。

 え? どういうことかって? 全ては持ってきたお菓子の数にある。まずお菓子のほう。シュークリームともう一つのお菓子の数がどれも二つあるのだ。ケーキはさすがに一ホールだけだけど。

 さすがの私も二個ずつ食べてケーキを一ホール食べるのには無理がある。ケーキに関して言えば半分も食べられないだろう。それを用意したシノが知らないわけがない。

 つまり、これらのお菓子とケーキは私だけが食べるのではなく、実はシノ自身も食べることを前提としているというわけだ。

 ……なんだかシノの掌の上で踊っているような気分だ。

 でも、掌の上で踊らなければ食べれなかったお菓子は無駄になる。つまり、私は必然的にシノに一緒に食べようと言うしかない。

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