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第28話 ご褒美の結末


 していたのだけども、その結果は私の乙女心を砕くものだった。

 あれほど言ったのにどういうわけかシノは私の頬に三度目のキスをしたのだ。

 そのことに怒りを通り越して涙が出てきた。


「ぐすっ」


 私が声を漏らすと、


「お、お嬢様!? ど、どうしたんですか!?」

「ふえっ、どうし、たって、んぐっ、シノが、シノが悪いのよ!! せっかく、せっかくキスできるって、えぐっ、思ったのに、んっ、また……また頬にキス、したぁ!」


 涙を流す私はそれまでの完璧な令嬢のイメージを破壊するほど。

 自分でもこんなに涙を流すなんて……と思ったけども、それだけ三度も頬へキスされたのがショックだったのだろう。

 未来で誰ともキスなどのスキンシップはしなかったが、心の底ではこういうことに憧れでも持っていたのかもしれない。私も、あんな婚約者相手だったが、結婚生活というのには憧れがあったのは否定できない。


「唇にっ、唇にしてほしかったのにっ!」


 泣きじゃくる私にシノが私を自分のほうへと抱き寄せた。

 その顔には困ったような表情が。


「えっとですね、お嬢様」

「な、に?」


 シノの胸元に顔を埋める。


「その、お嬢様は唇へのキスをお求めのようでしたが、えっと、私は最初から唇じゃなくて頬にキスするつもりだったんです」


 バツが悪そうに言うシノ。

 シノの言葉をすぐには理解することはできなかった。

 私の想定していたものではなかったのが大きい。

 その言葉を飲み込み、ようやく出た言葉は、


「……………………え?」


 これだった。

 だってシノの言葉が事実なら私が先ほどまでやっていたことは……。

 途端に湧いてくる猛烈な羞恥心。

 た、確かにキスとは言っても色んな種類がある。唇以外に頬や額、指先など。それらもキスと呼べるものだ。そして、そのキスの中でシノがするであろうキスを深く考えれば、それは唇へのキスではないことはすぐに分かったはず。

 ううっ、な、なんで私、唇へキスされると思ったのだろう。そして、なんでそれを受け入れようとしていたのだろう。

 これは雰囲気に流されたというのではないだろうか。

 未来では学園でたまに令嬢が子息と一時的な関係を持ったなどという噂があった。それはもちろん結婚前提とかではなく、遊び的なもの。

 それを聞いていた私ははしたないと思ってはいたが、今私がやっていたことはそれと同じことだ。今度からそのような噂を聞いても何も言うことができない。同じように一時的な雰囲気に流されたのは間違いないもの。

 それを理解した私はベッドに潜り込んですぐさま頭から布団に突っ込んだ。

 今の私の姿をシノに見せられないし、キスしてほしくて泣き喚いたので、顔を合わすことができない。きっと顔が赤くなっているし。


「~~~~~!!!!」


 布団の中で声にならない悲鳴を上げる。

 ここまで羞恥心を感じたことは未来を含めてもきっとないだろう。それほどの羞恥だった。


「あっ、お嬢様!」


 シノが私を呼ぶが顔を出すことはもちろんのこと、返事もできない。


「え、えっとその、私が悪かったですね! ええ! キスと言えば普通に考えて唇ですよね!」


 返事をしない私がかなりショックを受けているのを察したシノがそう言ってフォローしてくる。

 そのフォローに乗ればお互いになかったことにできるのだけども、それはただ単に暗黙の了解というもので、私たちの中にはこういうことがあったということは消えることはない。それに私たちの関係性を考えれば、キス普通に考えて唇にするものではなく、頬などが正解だ。

 悪いのは私である。

 まあ、何が言いたいのかというとそのフォローには乗りたくはないということだ。

 わ、私にだってプライドがあるもん! そのような情けは無用!

 とはいえ、このような情けなくて恥ずかしい状況を脱する糸口さえ見つかっていない。


「お、お嬢様~?」


 フォローに乗ってくださいという意思が感じられるシノの言葉。

 その言葉に甘えたいけども、私は一度決めたことはやり遂げる女。甘えるわけにはいかない。……たぶん。

 そうして布団の中で引きこもっているとシノが布団を剥がそうとしてきた。


「お嬢様~、出てきてくださ~い!」

「嫌よ! あ、あんなことがあって顔を合わせられないわ!」

「そ、それは……その、なかったことにしましょう! お互いに言わなければ問題ないですよ~!」

「それはできないわ! これは私の失態だもの……」

「う~ん、面倒くさいですね」


 シノが小声にせずにそう言った。

 うぐっ。


「どうしたら出てくれます? 個人的にはご褒美のキスは失敗だったので、別のご褒美をしたいのですが」

「……私を慰めなさいよ」


 確かに私へのご褒美の途中なのだけども、それよりもこちらの方を優先してほしい。


「ご褒美で慰めます」

「……雑だわ」


 私は布団から顔だけ出す。


「あっ、出てきましたね」

「……全部は出てきてないわ」

「顔だけで大丈夫です」

「ひ、ひどい」


 私、あなたの主なのだけど。


「それでですね、先ほどのはご褒美にはできませんので、何か別のことをしたいのです」

「……私の唇にキスでいいじゃない」


 なかったことにはしないことにしたので、こうして私から口にする。


「だ、ダメですよ。お嬢様は公爵家のご令嬢ですよ? そのようなことは……」

「分かってるわよ。でも、その公爵家のご令嬢は政略結婚をするのよ。愛のないキスをするならここでキスしてもいいじゃない」


 もちろん未来のことを知っているので、少なくともラルド様よりもはるかにマシな旦那様と結婚する予定。そういう意味では初めてのキスはその人に捧げるのは悪くはないが、シノに初めてのキスを捧げてもいいかなと思うくらいはシノに懐いている。


「ダメです! 許されません」

「ここには私とあなただけよ? 私は決して喋らないわ」


 ちょっと誘惑してみる。


「それでも、ダメです。喋る喋らないは関係ないです。したということが問題なのです」

「……頑固ね」


 その瞳には決して揺るがない意思が感じられる。

 いつもは甘々なのに……。


「お嬢様の貞操に関わる問題ですので」


 ちょっと残念、かな。


「でも、キス以外に私のご褒美になるものがあるかしら?」


 日頃からスキンシップの多い私たち。

 スキンシップでご褒美となるのはかなり少ない。

 まあ、そもそもシノは貞操云々言っているが、お風呂では抱き着いたりとしているので、キスはダメなのはよく分からない。裸でくっついたりしているのだからキスも良いと思うのだけど。


「そ、そう言われると困りますね」

「でしょう? それにそもそも私へのご褒美でしょう? 私が望んでいるのだから唇へのキスが一番じゃないの?」


 キスは諦めない。


「ダ・メ・で・す! 別のをしますから」


 強引な手を使おうとかそうい思いが湧いてくるが、それをやってしまうと確実にシノから嫌われると思うのでやらない。


「では、私の胸を触る、というのはどうでしょう!」


 しばらく考えていたシノが提案したのはそんな意味不明なことだった。

 その提案に思わずため息をつく。


「はあ~、シノ、あなた、私の性別、知ってる?」

「もちろんです」

「なら、なんで胸を触ることがご褒美になるのよ」


 そういうのは男性が好きなことだろう。私が好きなことではない。

 まあ、女性でも好きな人は好きなのだろうけども。


「なりませんか? 私はお嬢様が大きくなったとき、成長した胸を触りたいと思っていますよ」


 何の恥ずかしげもなく言うシノの言葉に一瞬私が間違っているのかと思ってしまうが、絶対にシノがおかしいだけだ。

 なぜだろう。まだぺったんこな胸を隠してしまいそうになるのは。

 貞操云々言っていたけど、一番危ないのはシノではないだろうか。

 未来の自分は胸がかなり大きかったので、その時が怖い。


「……私、あなたの主人になったことを後悔しそうよ」

「え!?」


 とても驚いているが、いつも一緒にいる相手が私の成長を今か今かと待っていると思うとおかしな話ではない。むしろ、今すぐメイドを変えてもらうほうが一番正しいかも。

 まあ、もちろんそんなことをする気は一切ないけどね。


「冗談は置いといて、もうそれでいいわ」


 私にとってご褒美は唇へのキスだったので、それが勘違いだったことでご褒美への欲求も薄れてしまった。

 もう、どうでもいいなって感じ。


「……そのテンションで言われると触られるこっちもテンションが下げるのですが」

「当たり前よ。キスしてもらえると思ったら実は頬へのキスだったのよ。その時点で私のテンションはかなり落ちたわ。だから、シノの胸を触って終わろうかと思って」

「うぐっ、か、勘違いさせてしまったことについては謝りますけども、私の胸を触ることがそんな雑な扱いは傷つくのですが……」

「知っていて? 女性は胸を触るよりも甘い物が好きなのよ」


 先ほども言ったが、胸を触って喜ぶのは男性だろう。

 というか、今の私は五歳の子どもだ。色気よりも食い気。うん、私のご褒美だったらお菓子のほうが一番正解だ。


「ううっ、そ、そうですね」


 しょんぼりとするシノ。

 可愛い。


「ほら、さっさと胸を触らせなさい」

「あうっ」


 シノはわざとらしく声を上げる。


「や、優しくしてください」


 ……わざとらしく涙目になってそう言う。

 むかっ。

 何か知らないけどムカついたので、がしっとシノの胸を鷲掴みしてやった。


「いたっ、いたた! お、お嬢様! お嬢様! 痛いです!」

「…………」


 悲鳴を上げているがそれを無視してがしがしと掴む。

 ん~、やっぱり胸を揉んだからといってうれしいとかご褒美になったとかそういう感覚はない。

 まあ、確かに柔らかいので、触り心地良いのは認めるが、ご褒美になるかと言われると微妙。風呂のときはいつもくっつくから背中でその感触を堪能できる。つまり、ご褒美というほどレアなことではない。


「……まあまあね」

「ひ、ひどいですぅ!」


 乱暴に手を胸から離す。シノが胸が大きく揺れた。


「で、私へのご褒美は終わりね」

「ううっ、は、はい……」


 シノの胸を乱暴に扱ったせいか、色々とすっきりとした。

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