第25話 プレゼントを渡し合いたい
三人は私の言葉を聞いて、その姿を想像しているようだ。
これで人形を頼まないかと思っていたのだけども、三人の反応を見ていると何だか様子がおかしい。三人とも俯いてもじもじしている。しかも、顔も赤いような……。
あ、あれ? 私の予想ではその光景を思い浮かべて、その光景に引いて引き攣った顔でもして拒否感を出すかと思っていたのだけども。これでは全くの反対の反応だ。
「さ、三人とも、嫌だったでしょう?」
恐る恐る聞いてみる。
「い、いえ! むしろ、その……よかった、です」
ミシェルはえへへと幸せそうに言う。
「う、嘘……」
「嘘じゃないですよ。だって、ラヴィリア様に私たちの人形を愛でられるのは悪い気どころか、とってもうれしいんですから」
「それ、あなたたちじゃないのよ? 人形よ?」
「それでもですよ。だって私たちに似ている人形です。すぐに自分と置換できます」
その言葉に他二人も同意する。
こ、この子たち、上級者過ぎる……! 好きな人に可愛がられるというのは、体験していないけど、うれしいのは分かる。分かるのだけども、私としては私自身を可愛がってもらえなければ意味がないと思っている。いくら自分に似た人形を愛でられていても、私からしたら全く満足できないもの。むしろ、現実の人間(自分自身)に似ている分、嫉妬を抱いてしまいそうだ。
ソレを愛でるのなら私を直接愛でればいいじゃないって。
「……私には分からないわ」
「むう、残念です」
ガクリと肩を落とす三人。
「仕方ない。人の好みは人の数だけある。そのすべてを理解されることはない。ただ単にラヴィリア様には合わなかっただけ」
「です! 無理強いしても心から受け入れないと意味がありませんから!」
「むう、二人の言う通りです……。残念ですが、無理強いはせずにさりげなくアピールしましょう」
とりあえず今は受け入れずに済みそうだ。
……ただ長い時間をかけてアピールするみたいだけど。私、上手く躱せるだろうか。あと、何か仲間外れ感がするのは気のせい? 私が間違っているのだろうか。
「ねえ、三人とも」
人形やぬいぐるみを十分堪能した後、私は三人に話しかける。
「こうして仲良くなれたことだし、今はやらないけども、一つやりたいことがあるのよ」
「なんですか?」
「それはね、誕生日プレゼントを渡し合うってことをしたいのよ」
これは前にシノに話していたことだ。
まだ二回目だが、ここまででかなり仲が良くなったのではないだろうか。もうこの話をしても問題はないだろう。
「誕生日プレゼント……」
「? この前のラヴィリア様の誕生日で渡しませんでしたか?」
「ん」
三人ともきょとんとしている。
まあ、分かる。まだ幼いとはいえ、この子たちも貴族の子女。こういうプレゼントは家ごとで渡すものだ。つまり、三人が個人で私に何かを渡すというのは彼女たちにとって未知のもの。理解できなくても仕方ない。
「違うわ。それはあくまでもあなたたちの家が私へ渡したものよ。そこにはあなたたちの意思はないでしょう?」
そう言うと、
「そう言われると……」
「なるほどなるほど!」
「ん、つまり私たち個人同士でプレゼントするってこと」
三人ともすぐに理解できたようだ。
「理解できたようね」
「でも、それは結構難しい。ラヴィリア様に見合うものを私たちが用意できるとは思わない」
「そうね。でも、それは金銭的なものが大部分を占めているでしょう?」
「ん、そう」
「だから、色々と条件を付けようかなと思って」
「条件?」
「そうよ。例えばそうね。手作りだけにする、とかかしら」
手作りだと材料に関しては多少お金がかかるが、私たちの腕のことを考えるとそこまで大きな差ができることはないと思う。
まあ、もちろん手作りというのは案の一つ。他にも案はある。
「確かに手作りだとお金がかかるのは材料だけですね。特別高いものを使わなければ周りと合わせることもできます」
「うぅ~、私、変なものを作っちゃいそうで不安です!」
ミシェルは問題ないみたいだけど、ライラのほうは手作りということで不安があるようだ。
確かに手作りなんてもう少し大きくなった時に家族や婚約者にハンカチなどを刺繍する程度。なので、私も特別なものを手作りすることは未体験だったりする。
「大丈夫よ。そこまで難しいものはやらないわ」
難しいものを作ろうとしても満足できるものを作ろうとしたらかなり時間がかかる。私たちがやるべきこと(勉学等)の時間を考えるとそこまで難しいものではないものを作るほうがいいだろう。それに私も難しい物を作ってひどいものを作ったら私もショックだし。
「もちろんこれは案の一つよ。これだけではないわ。もう一つは店の条件を決めて既製品を買うということかしら。同じ条件の店ならば特別に高級な物なんてないと思うわ」
「で、でも、ラヴィリア様に私たちの粗末なものなんて……」
「粗末ではないわ。上手くできなくてもそこにはあなたたちの想いが詰まっているわ。それだけで十分の価値があるわよ。あと、これはあなたたちが私に送るだけではないわよ。誰かの誕生日のときに他のみんながプレゼントするのよ」
先ほどから私へのプレゼントすることばかり言っていたので、もしかしてと思ってそう言う。
すると私の予想通りだったようで、三人とも目を見開いて静かに驚いていた。
「私がやりたいのはお互いにプレゼントし合うことよ。私があなたたちのを一方的に受け取ることではないわ」
「そうだったんですね……。ラヴィリア様、ごめんなさい」
「謝ることはないわ。詳しく説明していなかった私も悪いもの」
まあ、自分だけプレゼントを受け取るなんていう令嬢がいるということは否定できないけども。
未来でそういう令嬢の存在は聞いている。
「だから、そういうことを含めて考えてみてちょうだい」
もちろん手作りが難しいというのなら、別の物でも問題はない。先ほども言ったようにこれは案の一つ。大きく変わって、物ではなく食べものでもいい。それが手作りだって。
大切なのは相手を想ってプレゼントを選ぶことだ。小説に書いてあったので、それは確かだろう。
「とりあえず、最初に言ったお店の条件を決めて買うことと手作りにしましょう」
「「「はい」」」
「あなたたちは他に何かあるかしら?」
私だけでは思いつかないことはあるので、早速三人に聞いてみる。
三人はう~んと唸りながら考える。
「みんなで一緒に選ぶのはどうです?」
「どういうことかしら、ライラ」
「はい! 私、ラヴィリア様たちと一緒にお買い物したいです! だから、プレゼントを選ぶときもみんなと一緒に選んで楽しくやりたいなって!」
「でも、プレゼントする相手もいるのでしょう? 問題ないかしら?」
「うっ、やっぱりサプライズのほうがいいですか?」
「う~ん、そこは人それぞれね。私は気にしないけど」
何せ渡されると知っている物だ。サプライズという意味では全く驚きはしないだろう。
まあ、中身に関しては確かにサプライズにはなるだろうけども。
でも、そういうサプライズよりはみんなと楽しく買い物するほうが良い。そちらのほうを優先したい。
なので、ライラの提案には大賛成。
「二人はどう?」
聞いてみる。
「わ、私も大丈夫です! ラヴィリア様が一緒ならそっちのほうが」
「同じく。ラヴィリア様もいるならそっちがいい」
二人も賛成のようだ。
「決まりね。では、それも案の一つにしましょう」
「「「はい」」」
これで三つの案が出た。
再び考えるのだけども、微妙な案しかなかったので、とりあえず今後の誕生日プレゼントの方法は三つになった。
「そういえば一番近い誕生日は誰?」
「わ、私はもう過ぎました」
「私はまだですよ!」
「まだ」
三人の内二人はまだ誕生日が来ていないようだ。
え? 未来の記憶がある私は覚えていないのかって? ううっ、それを言われると辛いのだけども、言い訳としてあの時は興味がなかった。だって、その時はまだ友人と認識できなかったから。それに婚約者である第一王子のラルド様の誕生日だって覚えていない。メイドから、もうすぐ婚約者の誕生日ですね、の言葉でようやく思い出したほど。
なので、特別に誰かのを覚えていたとかはない。
「ライラとエミリーがまだなのね。どちらが先?」
「ん、私」
「エミリーね」
となればまずはエミリーの誕生日プレゼントを選ぶことになる。
「ミシェル、あなたの誕生日プレゼントを選ぶことができなくてごめんなさい」
ミシェルはすでに誕生日が過ぎている。つまり、この歳の分のプレゼントをミシェルだけが受け取れないということになる。
「い、いえ! 私は気にしてませんよ。それにラヴィリア様だって……」
「私は良いわ。どちらかというとあなたたちのが優先よ」
この子たちからプレゼントを貰えるというのはとてもうれしいのだけども、それよりもやっぱりこの子たちへのプレゼントが優先かな。
この子たちが悲しむのは見たくはない。
「むう」
ミシェルは不満そうだ。
「ミシェル様、ラヴィリア様がこれでいいって言ってる。次のラヴィリア様の誕生日プレゼントのときに一緒にたくさん選ぼう?」
「……そうですね。来年にたくさん選びます!」
ナイス、エミリー!
エミリーの機転によりミシェルが納得してくれた。ミシェルの目には激しい炎が灯っている。
「ラヴィリア様、次の誕生日プレゼントは絶対に良い物を送りますから!」
「あ、ありがとう。楽しみにしているわ」
私ももちろんミシェルの誕生日には今年分のを含めて豪華な誕生日プレゼントをしようかなと思っている。
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