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第20話 うちのお菓子は好評です!

「……いいわよ」

「やった」


 嬉しそうに言われるともう否定はできない。私は大人しく目の前で私の話をきくしかない。


「ラヴィリア様、噂でとっても優秀って聞いているけど、どのくらい優秀なの?」


 まず最初はエミリーから私のへの質問。

 てっきり私が見ているだけなのかと思ったのだけども、私も会話に参加する形になるようだ。

 まあ、いきなりこういう質問が来るとは思わなかったけど。

 他の二人はやや慌てていた。


「そうね。優秀の定義が分からないけども、一先ずマナーや勉学に関してはすでに終了しているわね」

「「「!!」」」


 私のその言葉に三人は驚きを表す。


「す、すごいです! わ、私、まだまだなのに!」

「私も体を動かすマナーはともかく、勉学は全くできないんですよ!」

「べ、勉学には自信があったのに……」


 三人とも得意不得意があるものの、それぞれで頑張っているようだ。


「でも、こうして勉強をしていても、本番で役立つかが問題よ」


 今学んでいるのは将来に使うため。その時に使えなければ意味がない。

 まあ、私は婚約破棄された上に死んじゃったので、マナー以外は使う機会がほとんどなかったんだけど。


「わあっ! ラヴィリア様は私たちよりも先のことを考えているんですね! 私、そこまで考えてなかったです!」


 ライラがそう言うが、言った本人としては未来を生きたからできる発言なので、その言葉に素直に喜ぶことはできなかった。

 で、でも、この子たちに将来絶対に役立つことを教えることができたので、そういう部分は喜ぼう。


「わ、私ももっと頑張らないと!」

「私も」


 他の二人もやる気に満ちている。

 未来よりももっと優秀な令嬢へと変わるかもしれない。


「でも、勉強って難しいですね。わ、私、覚えることが多くて、大変です……」


 ミシェルの言う通り、覚えることはとても多い。

 その理由として考えられるのは貴族は庶民の見本でなければならないというのがあるからかもしれない。学園で学ぶとはいえ、そこで貴族の令息令嬢が庶民に劣ることないようにという意図があると思う。

 まあ、学園では優秀な庶民ばかりが集まっているので、貴族の子息たちが庶民に負けるというのはよくあるけど。多分、昔からの慣習が消えてないのだろう。


「私もですよ! 体動かすほうが好きなんですけども、覚えるマナーが多すぎて……。できないときはとってもテンションが下がります……」


 元気いっぱいが売りのライラがテンションを下げるほどなので、やっぱり勉学とマナーはかなりきつい。

 私も最初はそうだった。何度も復習してようやく覚えられた。


「ずっとやり続けているとできないことが続くわ。何度も失敗するようなら一旦別のことをやるといいわよ」

「さすがラヴィリア様。とっても役立つ情報」


 私が喋ると三人が顔を輝かせてこちらを見てくる。

 うう、な、何だか恥ずかしい。そ、そんなに見てくるほどのことじゃないのに。

 ただ、やっぱり三人が私をこうして言ってくれるというのは気分が良い。

 でも、ここで調子に乗ると痛い目に会うという展開があるというのを小説で読んだことがあるので、そのようにならないように注意する。


「お嬢様、紅茶とお菓子の準備が」


 シノがそっと近寄り、私に聞こえるほどの大きさで教えてくれる。


「じゃあ、運んでちょうだい」

「はい、かしこまりました」


 シノが少し部屋を出て、すぐにシノと一緒に他のメイドが入ってくる。

 メイドたちが私たちの前に紅茶を置き、テーブル中央にお菓子を並べる。

 どのお菓子も私たち用にとサイズが小さくて、大きな口を開けずとも食べられるようになっている。こうして気遣いをしてくれるのはうれしい。三人は口を大きく変えるなどそこまで気にしてはいないだろうけども、未来を生きた私としては大きな口を開けるということはしたくはなかった。

 ……淑女としてはそんな無意識な所作は完璧であるのだけども、他の三人がまだそのような所作を気にせずに食べるということを考えると、何だか仲間外れのように感じてマイナスのように感じる。

 ま、まあ、すでにマナーや勉学を修めている私が三人に見せつけることで、三人の意欲を上げるという意味ができるからプラスマイナスゼロになるはず。うん、なる。


「ど、どれも美味しそうです!」

「じゅるり、出来立てだから匂いがすごいですね!」

「ライラ、涎。はしたない」


 お菓子を目の前にした三人はがっちりと目をお菓子に奪われているようだ。

 私が作ったわけではないが、そうやってされるとこちらも誇らしい気分になる。


「さあ、冷める前に食べましょう」


 私の言葉と同時にライラが素早くお菓子を手に取り、はむっと一口含む。

 令嬢としてはもう少し落ち着きを持つべきなのだけども、それよりも小動物みたいに食べるライラが可愛いので何も言いたくはない。


「ふふふ、落ち着きなさい。まだたくさんあるわ」

「はむはむっ、ふぁいっ」


 ライラは口の中にお菓子を頬張ったまま返事をした。


「わあ! これ、ふんわりとしてますね! しかも、出来立てだから尚更!」

「ん、熱すぎず冷たすぎずちょうどいい温度。ゆっくり食べても冷たくならない」


 ミシェルとエミリーのほうはライラとは違って、落ち着いた手つきでお菓子を食べていた。こっちは、特に伯爵令嬢であるミシェルはマナーに気を付けて食べているようだ。まだ二人ともぎこちないが、奇麗な所作になっている。

 二人のライラのような無邪気な食べ方が見れないというのは残念だが、二人がきちんと成長しているという証でもある。

 さて、私も食べないと。

 お菓子を手に取り、はむっと一口食べる。

 ふむ、ミシェルとエミリーの言う通り、出来立てということもありふんわりとしている。その上、熱くない程度の熱さで、長く触っていられないという問題もない。味に関しても甘味があって、紅茶とよく合うようになっている。

 うん、どちらも私の好みのものだ。


「お菓子とよく合う組み合わせですね。私、この紅茶、結構好きです」

「私もです! いい香りですよ!」

「美味しい」


 お菓子とこの紅茶のこの組み合わせは三人に好評のようだ。

 ふう、よかった。

 このお茶会の主催者は私。なので、こう言ってもらえると嬉しい。


「他にも食べてみなさい。全て我が家の料理人が作ったのよ」

「え!? ということは、全て手作りなんですか!?」


 今食べていたのは温かったので、これはこの家で作られたものであることは分かっていただろうが、さすがにテーブルにある数々あるお菓子が全て手作りだとは思わなかったようだ。


「ええ、そうよ。食べてみなさい」

「はい!」


 三人とも他のお菓子に手を付ける。

 全てが焼き立てというわけではないが、そういうのは冷めていても美味しいものだったり、冷たいほうが美味しいものだったりする。なので、味が極端に落ちるということはない。


「ん~♪ めっちゃおいしいですね!」

「こ、これも好きです!」

「はむはむ」


 先ほどの焼き立てではなく、冷めているものではあるが、やはりこちらも好評。


「はむ、うん、美味しいわね」


 私も食べてみるが、美味しい。

 ただ、こちらは乾燥しているお菓子なので、口の中の水分がなくなってしまう。

 口の中を潤すという意味で紅茶を飲むと、口の中をさっぱりとさせてくれる。こちらのお菓子はそこまで甘くないので、紅茶の甘さが際立つ。


「あ~、どれも一級品だから、いつも食べているときよりも満足感があります!」


 ライラの満足げな声に他の二人もうんうんと頷く。


「でも、ここのを食べ慣れるといつも食べているのが物足りなくなりますね」

「分かります!」

「死活問題」


 お菓子をたくさん食べて一息。

 三人の言葉につい笑ってしまう。


「そう言われるとうれしいわね。あとで三人が絶賛していたって言っておくわ」


 とりあえずお菓子は置いておく。

 今からは談笑タイム。


「ラヴィリア様。今日のお洋服、とても似合ってます」


 ミシェルにそう言われて、すっかりと服のことを思い出す。


「ありがとう。みんなも今日はワンピースなのね」

「はい! ラヴィリア様がワンピースだったので、ラヴィリア様とお揃いがよかったので!」

「わ、私もです!」

「私も」


 ライラは元気よく、ミシェルとエミリーはやや顔を赤くしながら言った。

 うう、三人とも私に合わせてくれるなんて……。うれしすぎる!

 四人同じ服というのは第三者から見たらあまり面白くはないだろうけども、まあ、私たちのこれは誰かに見せるわけではない。私たちが満足するための服とも言える。


「ラヴィリア様のワンピースは色々と飾りがあって、素敵ですね」

「ありがとう。私も気に入っているのよ。この前街へ下りてそこのお店でオーダーメイドしてもらったのよ。見ての通り中々いいセンスをしているわ」

「ですね。ラヴィリア様の魅力が上がってます」


 ミシェルは私のワンピースをうっとりとした表情で見つめる。


「ああ~、ラヴィリア様、可愛すぎます~」


 瞳に妖しい炎を灯しながら言葉にするミシェル。

 そんな危険なミシェルを認識しているが、元々ミシェルはこういう子だ。というか、他の三人(まだ見ぬ最後の一人を含めて)もミシェルほどではないが、このような目をすることがあった。

 なので、ミシェルの反応に恐怖などの感情を抱くことはない。むしろ、まだ出会ったばかりだというのにそんなに私のことを想ってくれるのねと感激しているくらいだ。つまり、うれしい。


「同意です! ラヴィリア様、可愛いです!」

「私たちは幸せ者に違いない」


 二人の目にもミシェルほどではないが、小さな小さな炎が。

 時折見えるこの炎を見ると安心してしまうのは未来でよく見ていたからだろう。


「ラヴィリア様、その服は街で買ったんですよね?」

「ええ」

「じゃあ、街へ行ったんですよね?」

「そうよ」

「ど、どうでしたか!?」


 私が街へ行ったという話は外を出ることが許されていないミシェル。さすがに伯爵家となると公爵家ほどではないが、そう簡単に外へ出ることは許されない。

 そのためか、ミシェルがこうして目を輝かせて話を聞こうとしているが、そこまで厳しくない子爵令嬢であるライラとエミリーはそんなに興味津々というわけではないようだ。


「楽しかったわ。今までこの家の料理しか食べてこなかったのだけども、街の屋台というところで食べ物を買ったのだけどもいつも食べているものと違った味付けだったわ」

「ごくり、美味しかったんですか?」

「ええ! とても美味しかったわ! 味が濃いかったんだけどもそれがとても美味しかったのよ!」

「わあ! やっぱり味付けが違うのですね。わ、私も食べたいです」

「私もみんなと食べたいわ」


 前回はシノと一緒に食べたりしたが、きっと一人で食べていたならそこまで楽しくはなかっただろうし、美味しくなかったと思う。私が呼んでいる小説にもそういうことが書いてあった。

 なので、この子たちと一緒に食べればもっと美味しい。

 それに今も楽しいし、お菓子も美味しいもの。

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