第17話 子どもの体だと低いものも高くなる。
「やっぱり似合ってますよ!」
そう言われるが、あまりうれしくはない。
いや、だって魔王。悪の代名詞と言っても過言ではないあの魔王。
女性である私に言われてもあまり喜べない。どちらかというと女神とかのほうがいい。
「そこから足を組んで、ひじ掛けに肘をついて、気だるげに見下すように見下ろしてください!」
「……」
「あっ、そうです! その目です! 幼女魔王最高です!」
思わず引いてしまう。多分本当に
幼女と言っている相手が私だから、そこまで引かないけども、私が第三者視点から見たらもっと引いていただろう。きっと軽蔑の目で見ていただろう。
「これ、そんなにいいの?」
「はい! 幼女なのに実は年上とか、そういう幼女と何かっていうのはとても素晴らしいのです! 事実、世の中の作品の中には幼女系がたくさんあるのです! ある作品では九本の尻尾と狐耳がある生と死の神の幼女! ある作品ではスライムな幼女! ある作品では無口無表情の魔法使いな幼女! このように様々な需要があるのです!」
「そ、そう」
うん、私には分からない世界だ。
幼い子が可愛いのは分かるけど、さすがにここまでは分からない。
「あの、シノ?」
「はい!」
「その、他の子にこういうことはしないでね? やりたくなったら私がやってあげるわ」
シノのこれまでの興奮は、もしかしたら私が幼女だったというのがあるからかもしれない。つまり、これからもあるかもしれないこの着せ替えを私が断れば、シノは自分の欲求を満たすことができなければ、その欲求を満たそうと私以外の幼女を攫って手を出すかもしれない。そうなればそれは犯罪。
なので、そうなるんだったらこうして釘を刺しておく。
犠牲になるのは私だけで十分だ。
私はシノの主。従者の問題は私の問題。その問題が起こる前にそれを阻止するのも私の役目。
「ふふふ、何ですか~。嫉妬ですか~? 大丈夫ですよ! 私はお嬢様以外にしてもらおうなんて思ったことは一度もありませんから!」
ニヤニヤした顔でそう言ってきた。
ムカッ。
ねえ、これ、叩いても問題ないよね?
「……別に嫉妬なんかじゃないわ」
「ふふふ~、ちょっと返答までに間が空きましたよ~」
シノはそう言いながら私をぎゅ~っと抱きしめる。
本当に違うのだけども、怒りですぐに応えることができなかったのは事実。
またこれに何か返すとシノが調子に乗るで、何も言わない。
ま、まあ、こうしてくっつけたから、悪くはないとは思ってるけど。
「あ~、何だかいつもととは違う服装のお嬢様を抱きしめるのは何か一味違いますね。服の厚みがあるせいですね」
「いつもはここまで厚くないものね」
社交界などの公の場のドレスだとこのぐらいだが、いつもプライベートで着ている服はそのまま客人と会っても問題ない程度のもので、ドレスと比べると少々薄いくらい。
「お嬢様、私の膝の上に座ってくれませんか?」
「え? いいわよ」
シノの突然のお願い。
まあ、いつもやっていることなので、禍々しい椅子から降りてシノの膝の上に乗る。
「何だかこの服を着ているお嬢様を抱っこするのはお人形を抱っこしているみたいですね。持ち運びたくなります!」
「私、重いわよ?」
「大丈夫です! 鍛えていますので、お嬢様くらいなら軽々と持ち上げられますよ!」
遠回しに止めてくれと言ったのだけども、真正面から返された。
「そ、そう。それは頼もしいわ」
それしか言えない。
「あっ、今度街へ行くときは抱っこして行きましょうか?」
「それはさすがに恥ずかしいわ」
抱っこが嫌とかそういうのではないが、人前でするのは嫌だ。これでも羞恥心はある。他に人がいないならまだしも、知らない人がいるというのは嫌だ。
街に知り合いはいないのだけども、万が一、私を知っている人がそれを見たら……。
恥ずかしすぎて外に出られなくなる。
「残念です。じゃあ、部屋の中でやりましょう。これなら恥ずかしくはないですよね!」
「…………」
嫌ではない私は小さくこくりと頷いた。
するとシノの顔は先ほどよりも上の笑みを浮かべた。
「じゃあ、さっそく!」
「わっ」
そういうと私を軽々と抱き上げる。
私が特別に重いというわけではないが、それでも女性が軽々と持ち上げられるほどの軽さではない。
「軽いですね~。もっと食べていいと思いますよ~」
「嫌よ。絶対に太るわ」
「ダイエット、手伝いますよ?」
「そういう問題じゃないわよ。それにダイエットって大変なのでしょう? きつい思いはしたくはないわ」
いろんな本を読んでいるので、そういうダイエット本も興味本位で読んだことがある。
ダイエット法は色んなやり方があるようで、内容を見ただけでは一見簡単そうであった。
簡単そうなのだけども、失敗する人が多いダイエット。
その原因は慣れてしまった食への快楽から抜け出せないからだ。誰だって楽なのときついのだったら、前者を選ぶ。私だってそう。やっぱり楽なほうがいい。
なので、先ほどのようにお菓子を全て食べようとはしなかった。
快楽に覚えれる前だったらまだ自制できる。
「あ~、確かにダイエットはきついですからね」
「分かるのなら勧めないでよ。それに太るとあの子たちの前に立てないわ」
私の友人たちに情けない姿を見せたくはない。
太っていても友人でいてくれるだろうけども、それよりも太った私と一緒にいる友人たちが周りからバカにされないかが心配だ。
なので、我慢する。
「お嬢様……ご立派です!」
シノが力強く抱きしめるので、お腹がきつい……。というか、痛い。
「シノ、痛い」
「あっ、すみません」
そう言って、一気に腕の拘束を解いた。
「いたっ!」
抱き上げられていたので、地面に落ちてしまった。
「すみません!」
再び抱き上げられる。
「……痛かったわ」
私の体はまだ小さいので、大人にとって大したことのない高さでも、私からしたらかなりの高さになる。ダメージが大きい。
「も、申し訳ございません……」
「もう落ちたくないわ。椅子に座って」
「うう、はい……」
残念そうなシノは大人しく椅子に座って、私を膝の上に乗せた。
「あの~、足は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。足よりもお尻のほうが痛いわ」
幸いなことに落ちた時に、両足でしっかりと着地した後に尻もちをついたので、足にはそれほどダメージはなかった。ただ、お尻のほうが勢いがあったので、こちらのほうが痛かった。
「きっと痣になってるでしょうね」
「うう、お嬢様、申し訳ございません……」
ちょっと攻めるような言い方だけども仕方ない。
痛いのは誰だって嫌だもの。
「お嬢様、あとでお尻のほうの治療、させていただきます……」
「丁寧にやりなさいよ?」
「はい!」
こういう外傷のない怪我は塗り薬を塗れば早く治る。痛いのが嫌な私には最高の塗り薬だ。
「あっ、今塗りましょうか?」
「今? なぜ?」
ややお尻は痛いのは確かだけども、すぐに塗ってほしいとかそういうのはない。
なので、今すぐやる必要はない。
「次にお嬢様が着る服が今までとは違うんですよ。その関係です」
「……分かったわ」
よく分からないけども、シノに任せよう。
シノは私を自分が座っていた椅子に座らせ、服の山のほうへと歩いていく。その中から紺色の服を取った。
「それは?」
服の素材が他の物と違うのが遠目からでもよく分かった。
それに加え、服の形も他とは違う。
な、何だか面積が小さい気がするんだけども……。
「えへへ、これはですね、実は水着なんですよ!!」
「水着? 水着って海や湖で泳ぐときに着る、あの?」
「はい!」
水着という存在は本や学園にいた庶民の子たちから聞いていた。
え? 私は着たことはないのかって? 水着はかなり肌が露出するから、着ることはできない。なので、こうして近くで見るのは初めてだ。
こうしてみると着なくても肌の露出がかなりあることが分かる。見ているだけで恥ずかしい。
「これはですね、庶民の学園ではよく使われている学園用の水着なんです! 名前はスクール水着! 通称、スク水です!」
バッと見せてくるスクール水着、もといスク水。私の視界はスク水でいっぱいだ。
ん? よく見ると胸に当たる部分に『らう゛ぃりあ』と私の名前が書いてあった。
「あっ、この名前はですね、学園で授業をする中で、すぐに判別できるようにと付けられているんですよ」
「あら、そうなの? でも、制服には付いていないわよね?」
「はい。ですが、こちらは座学とは違って運動ですので怪我をしたときに瞬時に対応するためです」
「ふ~ん」
確かに大きな怪我をした場合、名前が分からなければ、医療関係の情報や親をすぐに呼ぶなどの対応が遅れてしまう。
なるほど。これは必要だ。やや恥ずかしいが、そういうことならしかたない。
「さっき薬を塗ると言っていたけど、水着を着るからなのね」
「はい! 裸になる必要があるので、ちょうどいいかなと。どうですか?」
「別にいいわ。やってちょうだい」
「はい!」
シノは薬を塗る準備として、ベッドにタオルを敷いた。
自分のベッドとはいえ、そこで裸になって寝転ぶというのは抵抗があるので、こういう気遣いはありがたい。
準備を終えるとシノが私の服を全て脱がした。
自分の部屋で一糸まとわぬ姿になるというのはとても恥ずかしい。
「さあ、お嬢様、どうぞ」
「え、ええ」
ベッドの上に乗り、敷かれたタオルの上にうつ伏せになった。
「お尻のほうはどうなってる? 青くなってないかしら?」
「あ~、なってます」
それを聞くと座るたびに訪れるであろう痛みに対して憂鬱になる。
「ねえ、ちょっと触ってみて」
「え?」
「どんな痛みか最初に知っておきたくて」
お尻の怪我を忘れて座った時に突然の痛みを受けるよりも、一旦どのくらいの痛みなのか知っておいたほうがいい。
「分かりました。ゆっくりと触りますね」
シノはゆっくりと手を私のお尻へ移動させる。
シノの手が私のお尻に優しく触れるが、外傷ではないので、痛みは全くなかった。
「どうですか?」
「痛くはないわ。もう少し強く触ってちょうだい」
「はい」
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