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第15話 ファッションショー?

「着ないの?」

「見せる相手もいなかったので別に気にしなくていいかなと思っていたのですが、お嬢様と一緒に寝るのでしたら素敵なものを買っておきたかったです」

「じゃあ、早く買ってちょうだい。これからも一緒に寝るのよ」

「ええ!? こ、これからもですか!?」

「嫌なのかしら?」


 嫌と言われると結構傷つくので、できればそうでないと願いたい。


「い、いえ! そんなことはありません! とってもうれしいです!」


 真剣な顔でそう言われ、逆にこっちが恥ずかしくなった。


「さあ、お嬢様。私も着替えて来ましたから、先ほどの続きをやりましょう!」


 そう言うとベッドに座り、私が膝に頭を乗せるのを待つ。

 な、何だかものすごくノリがよくて、こっちが困る。

 まあ、嫌ではないので、先ほどと同じようにシノの膝を枕にする。もちろん体の向きはシノ側。

 ん? あれ?

 先ほどのようにくんくんと嗅いでいたら先ほどよりも匂いが強いことに気づいた。

 そういえばメイド服とパジャマでは服の薄さが違う。なので、よりシノの匂いが分かるということのようだ。さらに言えば薄いということで、シノとの肌の距離もより近くなったということ。

 お風呂でしか感じなかったシノの感触を感じることができた。


「ねえ、これからはお風呂に入ったらメイド服じゃなくて、パジャマを着なさい。あなたが離れる時間は耐えられないわ」

「!! 分かりました!! これからはパジャマを着ますね!」


 シノは嬉しそうにそう言う。


「あっ、でも、シノもやることあるわよね。大丈夫?」


 今更という感じだが、そういう仕事があるならそちらを優先してほしい。


「いえ、大丈夫ですよ! 私のお仕事はお嬢様関連だけですので!」

「そう。よかったわ」


 優先してほしいが、やっぱり私に構うことを優先してほしいので、結構うれしかった。


「ところで、まだ就寝時間まで時間はありますが、ずっとこのまま膝枕でいいですか?」

「う~ん、本を読みたいわ。だから、膝の上に座っても?」

「ええ!」


 一先ず膝枕は終了して、膝の上に座る。本は未来で読んだもの。


「シノ、つらくなったら言ってね」


 こうして甘えたいが、無理はしない。他にも甘える方法はある。シノの隣に座ってくっつくだけでも十分満足できるし。

 シノは私が本を読んでいる間、私の腰に両腕を回して落ちないようにとするだけで、何もしなかった。

 何かしてもいいよとは思っても、この状態で何かできるのかと問われたら、私には何も思いつかない。

 ごめんね、シノ!

 で、本を読み終わり、就寝時間となる。

 結局シノは何も言わずにずっと膝を使わせてくれた。


「シノ、ありがとう」

「いえ、私も楽しかったですから」


 何が楽しかったかは分からないが、お互いにWIN-WINのようなのでよかった。


「じゃあ、寝ましょう、シノ」

「はい!」


 まず最初に私がベッドへ入る。最後にシノ。

 な、何だかこれ、結構恥ずかしい。

 今まで誰かと一緒に寝るなんてことはなかったので、こうして一緒に寝るとなると恥ずかしさが湧き上がってきた。

 すでに部屋の明かりはなく、部屋を照らすのはカーテンから漏れ出る月明かりのみ。

 だ、大丈夫かな? 私の顔、赤くなってるって気づかないかな?

 月明かりのみとはいえ、相手が笑っているかなど表情程度は分かる。顔の色に関してはさすがに暗くて分からないだろう。


「何だか緊張しちゃいますね。こんなに近いことなんて先ほどもありましたのに」

「ええ。私もよ。ドキドキしてるわ」


 いつもと違うというだけで、私の心臓は激しく鼓動していた。


「あっ、お嬢様、もうちょっとくっつきましょう。夜は寒いですからね。くっついたほうがいいですよ」

「え、ええ」


 恥ずかしいが、夜は寒いので、大人しくシノの体に抱き着く。

 やっぱりいつもの違うせいなのか、ただ布団の中で抱き着いたというだけで、新鮮さを覚える。


「どうですか? こうして布団の中で抱きつくのは」

「わ、悪くないわ」


 うう、こんなことを言うなんて恥ずかしすぎる!


「私もですよ。こうしてお嬢様を抱きしめて寝られるのはとてもいいですね」


 シノはそう言うと私に抱き着くと私の頬をスリスリと頬ずりする。

 うう、嫌というわけじゃないけど、ペットみたいな感じが……。


「こうするのは良いけども、やり過ぎはダメよ? 肌が荒れちゃうわ」

「大丈夫です♪ ちゃんとお手入れはしますから」


 そういう問題では……。

 ま、まあ、私も嫌ではないし、このままシノにされるがままになっておこう。何だか私が甘えるんじゃなくて、シノが甘えている感じがするけど。


「はあ~、こうしているだけで幸せになれますね」

「も、もう! 大袈裟よ」


 そんなことを言うが結構うれしい。


「お嬢様は幸せですか?」

「そう、ね。幸せだわ」


 未来の私は王妃になるために日々勉強するだけだった。勉強がある程度終わり、学園に入れば他の貴族との繋がりを作るための交流。もちろん成績も上位を維持。

 今のと比べると断然こちらが幸せ。

 もちろんこの幸せがその未来の大変さがあったと理解はしているけど。


「ふふふ、もっと幸せにしますよ」

「頼むわ、シノ」


 そう言って私は眠りに就いた。




 時は少し過ぎて、今日はこの前街へ行って買った服を家で着てみることになった。

 服の受け取りはシノが行ってくれた。


「さあ! お嬢様! たくさん服を買いましたので、ぜひ着てみてくださいね!」


 どうやらシノはこの日を待ち望んでいたようで、私の服なのに私よりもテンションがとても高い。


「ええ。でも、何だか多くない?」


 シノが買ってきた服はかなり多い。

 数十着はあるだろう。少なくとも二十はあると思う。

 あれ? おかしいな? なんでそんなにあるの?

 あまりの多さにやや引いてしまう。


「いえ、これでも少ないほうですよ! 本当だったらもっと多くの服を用意したかったんですよ! 庶民の服ですが、それ故にその地域独自の服装なので、味があるんです! それをお嬢様に着てほしいのです!」


 シノの興奮した姿にさらに引いてしまう。

 別に庶民の服を着るのは嫌いじゃない。というか、着てみたい。


「わ、分かったわ」

「では、さっそく着てみてください!」


 まず最初にシノが手にしたのはワンピース。

 私も店にいたときに見たものだ。

 でも、そのときは絵だったけども、今目の前にしているのはそれよりもはるかに美しい現物。


「素敵ね。気に入ったわ」


 気づけばそう言っていた。


「ふふふ、でしょう! 絵では感じなかった魅力が出てますよね! やっぱりワンピースはどこの世界でも最高です!」

「そうね。私も好きだわ」


 もちろんドレスは別。ドレスと普通の服を比べるのは何か違う。


「さっそく着たいわ。シノ」

「はい」


 シノが私の服を脱がし、ワンピースを着せた。

 着替え終わった私は姿見の前でくるりくるりと回りながら、ワンピースを確かめる。

 うん、悪いところはない。私の体に合ってる。


「どうかしら?」

「とても、とてもお似合いです!! まるで天使のようです!!」

「い、言い過ぎよ」


 褒められた私は顔を真っ赤にする。


「何だかもうこの服だけで十分満足しちゃいそうですね」

「早いわよ」


 まだ一着だ。この服が確かに良いと思うが、まだ着ていない服はたくさんある。それを着てみたい。


「あっ、お嬢様。ただ着るのでは面白くないですよね! なので、何かポーズをお願いしますね!」

「ぽ、ポーズ?」

「はい! こんな天使なお嬢様は立っているだけで素晴らしいものですが、しかし、立っているだけで素晴らしいのならばポーズを付ければさらに素晴らしくなります!」


 キラキラとしたシノの目が私に刺さる。

 残念ながらポーズとかできない。やったことないし、恥ずかしすぎる。

 これでも中身は十八の淑女。それなりに羞恥心はもちろんある。そんなポーズなどできるはずもない。

 はずもないのだが……。


「わ、分かったわ」


 そう言っていた。 


「やった! では、私がポーズをしますので、お嬢様は私のポーズを真似てください!」


 そう言うとシノはポーズを取る。

 背筋をピンと立て、片手を腰に当てるポーズ。

 よく知らない私でもそのポーズは見たことある。つまり、良く知られているポーズだ。

 ただ、見るのとやるのとでは大きく違うので、すぐにはできなかった。

 えっと、足をこうして、手をこうして……。

 やや苦戦しつつ、シノと同じポーズを取ることができた。

 その間、シノはハアハア言いながら、私がポーズを取るのを待っていた。

 結構時間がかかったから疲れたようだ。

 ごめんね、シノ。


「ど、どうかしら?」


 そう難しいポーズではないが、自分で感じている完璧は他から見たら完璧じゃないということがあるので、安心はできない。むしろ、変なポーズになっていないか不安。


「最高です、お嬢様! 可愛すぎます!!」


 叫び過ぎたせいか、シノの息は荒い。


「も、もう、興奮し過ぎよ。テンションが上がって興奮するのは良いけど、倒れないようにしなさいよ」


 激しい運動をすると息苦しくなると言う。そこまでの運動はしたことはないが、学園では兵士や騎士を目指す庶民や貴族の子たちが、運動後に四肢を投げ出したり、膝をついたりとしていたので、そこまで運動をしていないメイドのシノはもっときついはずだ。すぐにでも倒れてしまうだろう。


「あ~、うん、そうですね。はい、気を付けますね」


 どうしてか、シノのテンションは一瞬にして下がった。

 あれ?

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