第12話 どんどん登場する庶民の料理
「ねえ、シノ。次の場所へ行く前に屋台で昼食を取りたいわ」
よく考えてみればここで移動してしまうとこちらへ戻ってこれなくなる。
つまり、屋台でまだ食べていない料理を食べれなくなるということ。それは嫌だ。
え? 向こうにも屋台があるのではないか? 残念だけどないみたい。多くあるのはレストランばかり。それも高級系。
まあ、分かる。屋台を初めて見たけどもそのほとんどが簡単にすぐに調理できるものばかり。
時間と手間をかけるような料理ではないのが多かった。
そういう面から屋台がない理由が分かる。
他にも屋台をすることによる利益は到底プラスになることが難しいというのもあるだろう。利益を上げるには人が来なければならない。
残念だけども金持ちという人口の少ない層をターゲットでは人は来ない。
屋台というのは金持ちではない大部分がターゲットだからこそできることなのだろう。
ごほん、関係ない話になったけど、まずは昼食にしたいということ。
あれから時間も経ち、そろそろお腹が空いてきた。
「そうですか。では戻りましょうか。あっ、おんぶしますか?」
「……お願い」
すでに私の体力のなさは証明されている。ここで我慢する必要はない。素直にお願いする。
シノはご機嫌の表情で私をおんぶした。
しばらくおんぶしてもらって、屋台が多くある通りへ着いた。
「どれになさいますか?」
シノがゆっくりと歩きながら屋台を見せてくれる。
やっぱりどれも見たことのない料理で、私の食欲を刺激してくる。しかも、匂いも濃いので、なおさらだ。
じゅるり。
はしたなく涎が溢れてくる。
「ごくり。そうね。まずはあれが食べたいわ」
私が目を付けたのは串に肉を刺している食べもの。どうやら出来立てが食べられるようで、とても美味しそうだ。
「ああ、あれですね。でも、たくさん種類があります」
「そうなの?」
「はい。また、タレにするか、塩にするかでさらに種類が増えます」
「そうなのね。全種類食べてみたいというのはあるけども、それは無理のようね。すぐにお腹いっぱいになっちゃうわ」
「ですね。なので、今回は私がおすすめのを選びます」
「じゃあ、お願いするわ」
初めてなので、全てシノに任せる。
シノが注文するが、その内容は私にはよく分からない。
シノにおんぶしてもらいながら、しばらく待つ。
出来立てなので、注文してからしばらく待たなければならない。
そして、その料理がいくつもの入った袋をシノが受け取る。
見て回った時よりも濃い匂いが私の鼻に入ってくる。
や、やばい。口の中に涎が溢れてきてる。
「し、シノ。早くベンチへ行きましょう?」
早く食べたくてついそう言ってしまう。
「ふふふ、行きましょう!」
ベンチへ着くとシノは肉を串からはずし始める。
あれ? いつの間にお皿を?
「何をやっているの?」
「はい、前回は一つ丸ごとお嬢様が食べて、すぐにお腹いっぱいになりましたので、こうして少ない量にしているのです。そうすればたくさんの料理を食べることができますから」
「さすがね、シノ!」
よく分かってる。
シノがさらに皿に並べた肉は確かに色んな種類がある。
「どうぞ、お嬢様」
皿を受け取るとフォークを使って食べる。
「はむっ」
!! お、美味しい!!
初めての味に目を輝かせる。
「お気に召したようで」
「ええ! これもとっても美味しいわ!」
それから食べることに集中し、あっという間に食べきった。
でも、シノが食べる量を調整しれたので、まだお腹いっぱいではない。
「まだまだ食べられるわ!」
「では、また見ていきましょう」
今度はおんぶをしてもらわずに私も歩いて見て回る。
すぐ近くだからね。
「ん? シノ、あれは?」
一つの屋台に気になるものを見つけた。こちらも出来立てが食べられるようなのだが、今作られているというか、焼いているものに興味を示した。先ほどのような食べたいとかではなく、焼いているものに興味を持って。
興味を持ったそれは黄色いもの。食べものではあるのは間違いないのだけども、真っ黄色で鱗のようになっている食べものだ。食べたいという気持ちよりも何だあれはという感じだ。
「ああ、あれですか」
「そうよ。あれは何? 生き物なの?」
「ふふふ、違いますよ。あれは野菜です。お嬢様も食べたことがありますよ」
「え!? 嘘!」
そんな覚えはないのだけども食べたことがあるらしい。
「まあ、このままというわけではありませんからね。スープにしたりしていますからね。まあ、そうじゃなくても見たことあるはずですよ」
「す、スープ? そうじゃなくても見たことある?」
「はい。あっ、買って食べてみましょうか。きっと分かりますよ」
「え? でも……」
「食べれなかったら私が食べますよ。お嬢様はそのようなことを考えずに食べてください」
「ん~、分かったわ」
まあ、食べずに嫌いになるよりも食べて嫌いになるほうが良いだろう。そう思い、シノに買ってもらう。
少し待つとシノが一本のみ買ってきた。
まあ、結構でかいからシノでもお腹いっぱいになってしまう。
「これね」
「はい。これの食べ方は分かりますか?」
「いえ、分からないわ。でも、予想は最初に食べたみたいに齧り付くんじゃないの?」
私がそう言うとシノはくすくすと笑った。
「な、なんで笑うのよ」
「いえ、可愛らしいなと思いまして」
うぐぐ。
食べ方が違うというのは分かった。
でも、これじゃないとしたらどうやって食べるのだろうか。
「もしかしてお嬢様」
「な、何よ」
「これ全て食べると勘違いされてません?」
「…………」
図星なので、何も言わない。
するとまたシノが笑い出した。
「もう! 失礼よ!」
「ふふふ、申し訳ございません」
謝ってるのに顔が笑ってるシノ。
ぜ、全然反省してない……。
「これはですね、食べる部分は外側だけなのです」
「外側?」
「はい。この粒ですね」
そう言ってシノはその食べ物の鱗のような部分を千切った。
「!!」
あっさりと千切ったことに驚くと共に千切った部分を見て、その正体を理解した。
なるほど。これだったのか! 確かにこれは朝食のスープになってるし、それ以外でも千切った部分、つまり粒を軽く炒めたものを食べていた。
「これだったのね」
「はい。この芯の部分は硬くて食べられません。この外側だけをたべるのですよ」
「でも、どうやって?」
先ほどの料理とは違って、シノはフォークなどを用意していないし、出す様子もない。
「ふふふ、それはですね。こうやってです!」
そう言ってシノは齧り付いた。私が言った食べ方で食べた。
でも、シノが笑った理由が分かる。
私の食べ方は上のほうから齧り付いて、芯の部分も食べる食べ方。
一方のシノは側面から芯を食べないようにする食べ方だった。粒のみを齧り付く。
え? そ、そんな難易度の高い食べ方をしないといけないの?
芯を噛まずに粒のみ。
初めて見る食べ方に不安しかない。
「ふふふ、そのような顔をなさらなくても、お嬢様ならできますよ。さあ、やってみましょう!」
シノの食べかけを受け取り、ゆっくりと口を近づける。食べる場所はシノが口を付けたところの下。
その部分だと芯と粒の境が分かりやすい。
はむ、というよりはかじり。
うん、美味しい。
これとはちょっと違うが、食べたことのあるものなので、不安などない。
「どうですか?」
ニヤニヤしたシノが聞く。
「まあ、美味しいわね」
ただ、やっぱり食べたこともあるということで、先ほど食べたような大きな反応はない。
こういう料理もあるんだ、程度。
でも、美味しいので、芯以外を食べる。
うまうま。
「こういう食べ方、良いわね。食べたこともあるものもこうして形や食べ方が違うので、全く違うわ」
「ですね。あっ、他にも似たようなものはありますよ?」
「そうなの?」
「はい。まあ、とても数は少ないので、こちらにはないかもしれません」
「そうなの。でも、別にいいわよ。私が食べたいのは食べたことのない庶民の料理だもの」
せっかくこうして庶民の街にいる。それなのに貴族の料理に似たものを食べてもしょうがない。
「あはは、ですね。じゃあ、ちょっと重いものにしましょうか」
「重いもの?」
「はい。まあ、重量ではなく、胃的な意味ですけどね」
よく分からないけども、楽しみだ。
今度は私が探すのではなく、シノが先ほど言った食べ物へ向かう。
ただ、食べ物は知っていても、どの屋台でやっているかは知らないようで、キョロキョロしながら歩いていた。
「それ、屋台にあるの?」
料理の存在は疑ってはいない。疑ってはいないが、屋台には売っていない可能性もある。レストランや自分で作らなければならないものの可能性がある。
「いえ、あります。私の知識では屋台にその料理はよくあるんですよ」
「そう」
自信満々に言われるともう何も言えない。
まあ、そこまでこうして歩いて探すのも新鮮なことなので、文句はない。
むう~と唸りながら探すシノを微笑ましく見守る。
「あっ、ありましたよ!」
シノが興奮しながら、私の手を引いた。
シノが探していた屋台に着くと何やら先ほどまでのとは違った音が聞こえる。
何の音だろうか?
「これは油で揚げている音ですよ」
「油で?」
「はい。食べものを揚げるとこういう音がするんですよ」
「初めて知ったわ」
料理を始めるとき、こういうのも教えてもらえるように言っておこう。
「この料理はですね、鶏肉を揚げたものなんですよ」
シノはそう言いながら、その料理を買う。
「貴族の料理にはあまり見ない料理ね」
「ですね。ですので、お嬢様の望む料理に近い料理ですね」
「さすがね、シノ」
そして、買った料理を見ると今までとは違う見た目をしていた。
なんだろうか。他の食べ物は肉や野菜などが判別できていたのだが、目の前の料理は何度見ても分からない。シノが先ほど説明してもらっていても分からない。
ただの茶色い物体だ。肉要素は見た目にはない。
「……何だか食べるのに勇気がいるわね」
「あはは、私からすると食欲が増す見た目なんですけどね」
食べたこともないということもあり、今のところ不安しかない。
でも、匂いは美味しそうだ。
食べるのには勇気はいるけども、味に関しては匂いから問題ないと思う。
「さあ、座って食べましょう」
で、椅子に座ると今度はいつの間にか用意されていたフォークを使う。
「今度はフォークを使うのね」
「はい。こちらは揚げていますので、手に油が付きますし、作り立てなので、とても熱いのです。ですので、今回はこちらを用意しました」
なるほど。
確かに熱いものを素手で触るのは嫌だ。火傷するからね。
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