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宵闇小話  作者: 吉野花色
6/6

雪に溶かして

こちらは魔法のiらんどにて「朽ち果ての王と宵闇烏」のクリスマス企画として公開していた作品です。

もう一度読みたいとのお声を頂いていたので一部改稿し、再録しました。

ちょっとシーズンを過ぎてしまいましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

▼12/24 14:35


 やわらかい午後の光に包まれて目覚める「吸血鬼の朝」にも随分と慣れた。意識がふわりと明るい方へ浮かび上がっていく感覚。同時に冬らしく澄んで冷たい空気だとか、気侭にさえずる鳥の声だとか、そんなものが意識に滲んでくる。だけどもうちょっと――このままで。私は微かに昨夜の熱を残したベッドの中で丸くなり、去っていこうとする心地いい眠気を引きとめようと足掻くのだ。


 けれど今朝の覚醒はいつもと少し違った。どうしてだろう? 閉じた瞼の向こうがいつもより明るい気がする。明るい、と言うより瞼の薄い皮膚で遮っても尚眩くすらあるその白さ。不思議に思って目を開けば。


「……十季?」


 窓辺に立つ十季は静かに外を見つめていた。ガラス越しに差し込む陽光を受ける彼の肌はことさら白く見えて、浮かべる表情が穏やかなことに何故だか安堵する。


 それにしても、どうしたっていうんだろう。いや、そもそもここは彼の部屋なのだから別に何処にいたって問題はないんだけれど、ただこうして一緒に眠った日、彼はいつも私が目覚めるまでベッドの中に留まっていることが多い。――なんて、十季が隣にいない朝を不思議に思えるくらいに彼の側で過ごすことに自分は馴染んでいたのか。それを今さらながら思い知って気恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちになってしまった。


「木蓮? 起きたの」


 ひとり身悶える私に気付いた十季が、おはようと微笑む。その穏やかな微笑みすらも今の私にはくすぐったくて、それでも何とか取り繕った顔でおはよう、と返した。そのまま自分の不自然さを誤魔化すように「そういえば、どうかしたの?」と視線を窓の方へと向ければ、笑みを深めた十季が私を手招く。


「こっちにきてごらん」


 誘われるままに十季の傍へ。するりとベッドを抜け出せばひやりとした冬の空気が体を包む。勿論これくらいで寒いと感じることはない。でも、吸血鬼だってわずかな温もりが失われてしまう瞬間をちょっと淋しく思ったりはするものだ――けれど。近づけば十季は当然のように私の腰を引き寄せ腕の中に私の身体を閉じ込めるのだ。それにまた気恥ずかしさを覚えた私は咄嗟に形ばかりの反抗をしようかと思って、でもそれよりも先に。


「う、わあ」


 視界に飛び込んできたのは、一面の雪景色。窓の向こうは屋敷の庭、そしてその先に広がる朽ち果ての国――十季の直轄領。常は木立と遠くに広がる山々の深い緑とに覆われている景色が今日は眩いばかりの白に塗り潰されていた。夜明けから降り出したのだろうか。ふかふかの雪を被った暗緑の枝葉はまるで古い童話の風景みたいで可愛らしい。何より、今日はクリスマスイブ。


「ホワイトクリスマスだ……」


 東京では滅多に見ることのなかったホワイトクリスマスの風景。思わず表情を輝かせて窓の外の景色に見入る私に喜ぶと思った、と十季が笑って――何だかこの時間がとても、とても幸せだ。だから、ね、十季。


「もうちょっと、こうしてていい?」


 優しく腰にまわされた十季の手に、私のそれを重ねれば互いの指が絡んで。


「君の望むだけ」


 十季の囁きが耳をくすぐって、ふたりして小さく笑う。さあ、この幸福を思う存分噛みしめたら――折角のクリスマスをもっと楽しもうじゃないか。




 ◆◆◆




▼12/24 16:32 


 レトロな雰囲気のオーバーコートを着てマフラーをくるり、編み上げのブーツを履いた今日のコーディネートはすっかりクリスマスキャロル気分だ。冬の屋外だろうと別に寒さは感じないのだけれど、一応季節感に合わせた服装を選ぶのが吸血鬼のマナーらしい。確かに他の種族からしてみれば雪の中を薄着で歩いていられると見ているだけで寒々しいだろう。


 何より冬用のブーツがきゅっきゅっと地面を踏む音に気分は自然と浮き立ってくる。両隣を歩く善と睡蓮も今日はそれぞれコートとマフラーを装備していた。ちなみに善は暖かそうなキャメルのピーコートに焦げ茶色のマフラーという至って落ち着いた組み合わせ。一方の睡蓮は洒落たブルーグレーのトレンチコートに藍色のマフラーを合わせている。似合ってはいるのだが何処となくいけ好かないのは私の色眼鏡なんだろうか――。


 とは言え普段は制服姿ばかり見ている所為か、何だかいつもと違う恰好をしている彼らの姿は新鮮だ。そういえば折角だから羽衣の外出姿も拝んでみたかったのだけれど、残念ながら彼には「面倒臭い」の一言で同行を断られてしまった。隊舎で火鉢にあたりながら煙管を咥える羽衣の背中からは「梃子でもここから動かない」という意志が漲っていた気がする。まあそれはそれで頑固ジジイらしいので仕方がないとしよう。


「それで? あとは何を買うんだって?」

「肉と野菜は揃いましたから……あとはケーキの材料ですね」

「はぁ、ケーキまで作んのか。意外と女子力高いな、姫さんは」

「意外な、を今すぐ撤回せよ。でないと睡蓮はクリスマス会不参加です」

「はっは、悪かった悪かった」


 野菜や肉類の入ったスーパー袋を両手いっぱいに下げた善と、ちゃっかり荷物を全て善に押し付け失礼な発言をする睡蓮、それから私。何をしているのかと言えば、なんとクリスマスパーティーの買い出しに出てきている次第だ。まあ元を辿れば私達は日本人。クリスマスが一体何の日かという話は置いておいて、吸血鬼だってクリスマスを楽しんでもいいでしょと十季を押し切ったのは勿論私だった。


 ちなみに今私達が歩いているのは地上世界、それも東京23区内にある一見普通の(でもちょっと高級そうな)商店街だ。ただし、それはあくまでも見た目の話。そもそもここが普通の地上だったら、こうして私達がただ話して歩いているだけでモーゼの十戒もかくやという現象を引き起こし注目を掻っ攫っていただろう。けれど「ここ」ではそんな心配もなく、誰も彼もがのんびりと買い物を楽しんでいた。


「しっかし、地上にこんなところがあるなんてねぇ……」


 しみじみ呟けば、穴場だろと睡蓮が笑った。それもその筈、ここは普通の人間には入ることのできない「地下の住人専用」商店街。地上の商品を自らの手で買いに行きたいという物好きな吸血鬼を含む地下に生きる者達の為に開かれた場所なのだった。お陰で物好きなの一員である私も無事目的の品々をゲットすることができていた。


「しかし姫様、買い物なら柚木にでも行かせればよかったのでは……」

「いやあ、そうなんだけど。でもさ、久しぶりに普通の買い物したかったんだわ」


 善の言う通り、柚木や睡蓮の従者にでも頼めばすぐに欲しいものは揃っただろう。でも、こうして買う気のないものも冷やかしつつのショッピング、実は結構好きなのだ。


 そもそも最近の「買い物」と言えば柳田のところか、でなければ外商が見繕ってきた商品を自邸で眺めたりとどうしたって趣が違う感満載で。だからクリスマスを口実に、こうやってぶらぶら買い物もしたかったというのが本音である。結果、盛大に荷物持ちにされている善にはちょっと申し訳ないけれど。


 さあ、そんなこんなで最後に辿りついた製菓用品の店だ。クリスマスらしく華やかに装飾され賑わう店内をてくてく歩きながら、小麦粉、バターとカゴに次々材料を投入していく。そこでふと、棚の一角に置かれたココアパウダーが目に入った。そこでようやく重要なことに気がついた私は背後で物珍し気に棚を眺めていた善と睡蓮を振り返る。


「ねぇねぇ、そういえばケーキはショートにする? それともチョコの?」

「え? クリスマスなんだからブッシュドノエルじゃねぇの?」


 私の問いに即答した睡蓮に、ぽつりと善が一言。


「……睡蓮隊長、意外とお詳しいですね」


 確かに、物珍し気にしているわりには地上の風習に詳しそうである。――つまりは、と含みのある視線を向けてやれば、そこにはこれまた珍しく視線を泳がせる睡蓮がいた。


「あー、まあ……わりと上で食事するしな」

「睡蓮隊長、女の子とおデートですか。やーらしー」

「バッ、違ぇよ! 人間と会食! 俺、パイプ役だって言ったろ!」


 ムキになる睡蓮をからかって遊んで。自分からネタを振っておきながらそれを気にも留めず善はマイペースにショートケーキとチョコケーキ両方の材料をカゴに放り込んでいく。そういえば昔は揶揄われる一方だったポチもこうして睡蓮を弄れるくらいにはなってくれて、成長したなあと私は目頭を熱くさせるのだった。


 とまあ、そんな風に久々のお買い物を楽しんでクリスマスディナーの準備も整った。あとは自邸に戻り、厨房をジャックしての料理大会といこう。何だか久しぶりなこと尽くしで楽しいことこの上ない。思わずカゴの中でこちらをにこにこと見上げているマジパンのサンタクロースに微笑みかけてしまったクリスマスイブである。




 ◆◆◆




▼12/24 18:29


 奮発した豚バラブロックに白菜、ネギ、白滝に焼き豆腐。さあ、これで由緒正しいお鍋の準備ができた――のはいいのだが。


「なんでクリスマスに鍋……」


 そんな私の呟きも、広大かつ本格的な厨房に流れては儚く消えていくばかり。クリスマスディナーがまさかの鍋にチェンジとなった原因は勿論あの頑固で我儘なおかっぱである。そしてそのおかっぱ頭はと言えば、何も聞こえないふりで機嫌がよさそうにしているのが腹立たしいことこの上ない。


「羽衣隊長はその、あまり洋食がお好きでないので……」


 あくまでも諸悪の根源は羽衣なのであって、申し訳なさそうに眉根を下げる善ではない。のだけれど、もうちょっとオタクの元隊長さんをどうにかしておけなかったものかと文句のひとつやふたつやみっつ言いたくなるのは仕方がないことだろう。


 事の次第はこうだ。私は当初、ミートソースたっぷりのラザニアと豚バラブロックを豪快に煮込んだポトフ、それからローストターキーを作る予定だった。圧力鍋も含めて調理器具は準備万端。私達が作りますからというシェフ達を追い出して、さあ作るぞというときにふらっとやってきた羽衣は開口一番。


「姫さん、俺鍋が食べたい」


 これである。だが相手は羽衣だ。紆余曲折は経たものの、結局はこちらは折れざるを得ず。ポトフは鍋に、ラザニアはそぼろの肉じゃがへとメニュー変更を余儀なくされたのであった。だが危うく豚バラ共々お鍋の具にされそうになった七面鳥だけは死守だ。これは中に詰め物をしてクリスマスらしく丸焼きにするのだ。それだって頑固ジジイに配慮して味付けは醤油ベースで和風寄りに変更した。まあ、吸血鬼はは基本お年寄りーズ。鍋も美味しいからまあいいけど。何にせよ、である。


「ホント、善と柚木がいてくれてよかったわ……」


 私は安堵の溜息を吐きつつ、並んで調理台に向かうふたりを見やった。慣れた手つきで七面鳥を捌く善と、その隣で鍋の出汁をとっている柚木。メニュー変更に際して、私対おかっぱの不毛な論争で相当にタイムロスをしてしまったから無事料理が完成させられるのは何時になるかと正直ヒヤヒヤしていたのだ。


 しかし救世主は物凄く身近にいた。いやまさか、この主従が今流行の料理男子だったとは――。急なメニュー変更の為、柚木は足りない食材の買い出しを素早く済ませてきてくれた。善は善で特にレシピを見るでもなくターキーに詰め物をしていく。


 正直に言えば、手際も包丁捌きも私の完敗だろう。指示する必要する感じさせない自然さで着々と作業を進めていくふたり。なので、わざわざ横から手を出すこともあるまいと私はさっきから大人しくケーキ担当をしている。


「善はあれ、やっぱり生前バー店主だったから?」

「そうですね。バーをはじめる前は洋食の店で修行してたこともあるんですよ」

「へぇ、道理で手慣れてる訳だ! で、柚木は?」

「最近はまってるんですよ、料理」

「あー、柚木って結構凝り性だもんね」


 そんな会話をしつつ、調理は至極順調に進んでいく。ケーキも生地を型に流し込んで気泡を抜き、予熱しておいたオーブンにインすれば焼き上がりまでしばらくは暇だ。さあて、じゃあ手が空いた隙に洗い物でもと流しを振り向けば。


「お、その辺りも洗っていいか? なら、こっち置いといてくれ」


 睡蓮がシャツの腕をまくって今まさに洗い物にとりかかるところで。料理はさっぱりらしいが、こういう空気の読める辺りモテる男の気配がする。やっぱり地上でも女の子と素敵ディナーで気取っているに違いない。そんな男がクリスマスに私のところで洗い物をしていていいのだろうか――なんて聞けば派が浮くような台詞を返されそうなので絶対に口にはしないけれど。


「ま、姫さんもこっちでちょっと休憩したら?」

「も、って偉そうに。羽衣はずっと休憩してるじゃないよ」

「だぁって俺、男の子だから」


 何がだぁって、だ。第一男子厨房に入るべからずなら大人しく自分の部屋で火鉢にでも当たってればいいものを。へらへらと舌を出して笑った羽衣にでこピンしつつ、まぁ、ちょっと休憩するのも悪くはないかと彼の隣に腰を下ろせば、珍しく羽衣がお茶を淹れてくれたのでそれをすする。


 厨房には出汁と醤油と七面鳥とケーキと――ちょっと混沌としつつも美味しそうな匂いが漂いはじめていた。




 ◆◆◆




▼12/24 20:12


 十季と、羽衣と、睡蓮と、善と、柚木と、そして私。この面子で大きな炬燵を囲んで鍋をしている。その光景は何だか不思議だけれど――。


「睡蓮、シャンパン開けて!」

「ペース早ぇな、姫さん。ったく次はロゼか?」

「イエース! ロゼ! 早く!」


 と、睡蓮をこき使う私はいつもの通り。


「おい」

「はい、隊長」


 羽衣の突き出した御猪口に甲斐甲斐しく酒を注ぐ善。このふたりは通常運転中。


「殿下、お鍋もう少し召し上がりますか?」

「あぁ、もらおう。しかし、そう気を使わないでいい。ほら、グラスが空じゃないか」

「あ、これは恐れ入ります。頂きます」


 そんな状況で面白いのはこのふたりだろうか。最初こそ「私、ここにいていいんでしょうかね」なんて流石に複雑そうにしていた柚木も、いつの間にやら場に馴染んで十季からシャンパンを注がれているという事態。これが善なら卒倒していそうだが、柚木は相変わらずの強心臓。本当に少し、善に分けて上げたいくらいの大物感だ。


「しっかし、まぁ……」


 とことんクリスマス感に欠けるというか。私は注いでもらったロゼ(超高級)をご満悦で飲み干しながらも苦笑を漏らした。


「鍋は炬燵で食べたい」


 そんな暴君の台詞によって、急遽羽衣の隊舎の一間が会場となったのは数十分前。最初は私の邸のダイニング辺りでやろうと思っていたというのに。とは言え、私は何もしていない。会場変更の準備に奔走したのは何というかやっぱり善だ。


 善が奔走した結果、隊舎の座敷には大きな炬燵が運び込まれ、何処から調達したのやらカセットコンロに乗せられたお鍋はくつくつ、いい具合に煮えてきている。他にも前菜として買ってきていたチーズやハム、こんがりと焼き上がったターキーにケーキもテーブルにセット。あとはなし崩しに乾杯して、今や場は盛り上がりに盛り上がっていると言えよう。クリスマスらしいかは置いておくとして、宴会らしさはバッチリといったところだ。


 それにしたって不思議な空間だなあと思う。きっと他の近衛烏や宵闇烏が見たら目を見張るだろう。だってこうしていると本当にみんな普通の人みたいで。ひとつのお鍋をつついて、炬燵の中でちょっと足がぶつかったりして。でもそんなの誰も気にしないで、笑ってる。


「いいなぁ、こーゆーの」


 ぽつりと漏らした本音はきっと、隣にいる十季にはしっかりと聞こえていたことだろう。少し驚いたように私を見た十季はそれから、そうだねというように小さく微笑んでくれた。それに私も心の中で答える。そうだね、毎日毎日色々あって、吸血鬼としては相も変わらず大変なことも多いけど――いいよね、こういう風にみんなでいられるのって、やっぱり。


「お? 姫さんグラス空じゃねぇか」


 ちょっとだけしんみりした気持ちは、明るい睡蓮の声に瞬く間に掻き消え。


「空だよ? だから早いところお代りを注いでくれたまえ!」


 私はにっと笑顔を浮かべて、グラスにシャンパンのお代りを所望した。


 さあ、もうちょっとしてお鍋が粗方空になったら今度はケーキを切ろう。ピカピカの苺をたっぷり乗せたショートケーキと、濃厚なチョコレートケーキ。それで嫌がる羽衣の口に無理矢理突っ込んでやらなきゃ。うん、今日1日の我儘分それぐらいの仕返しは許されてもいいと思う。




 ◆◆◆




▼12/25 24:01


 食べて、飲んで、騒いで、笑って。それじゃ、そろそろお開きにしようか。そう言い出したのは誰だっただろう。夜も更け日付も変わろうかという頃、私と十季はみんなにおやすみを告げて再び十季の部屋へと帰ってきた。


「んあー、楽しかった!」


 吸血鬼はアルコールに酔わないと知りつつも、空気には酔えるもので。私はにこにことしながら、ふかふかのソファーに身を投げる。十季はそんな私の頭の方、ソファの肘かけに腰を下ろして微笑みながらいつものように私の髪に触れた。


「こんなクリスマス、初めてだよ」

「そうなの?」

「そもそもクリスマス自体、馴染みのない頃に生まれたからね」


 十季の言葉にそうかと納得する。それならもしかして無理に付き合わせてしまっただろうか。一瞬不安になるけれどすぐにそんな気持ち打ち消した。だって、あんなにみんな笑ってた。だから楽しかった?と聞こうと思ったのを、少しだけ変えて。


「楽しかったね」


 そう言えばほら、すぐに返ってきたのは笑顔の肯定だ。だって、私だってきっとそうだ。例えどんなところに行ったって、どんなことをしたって。十季と――みんなと一緒なら何だってきっと分かち合えると信じてる。それは吸血鬼になって、彼らとの関係を築きながら初めて知ったこと。


「……十季」


 呼べばすぐに返ってくる優しい声も、髪をすく優しい指も「愛おしい」その言葉が何よりもしっくりとくる。


「メリークリスマス」


 来年もまた、みんなでご飯食べようね。微笑みながら十季の頭を引き寄せて、そっと唇を寄せた。触れたまま、十季の唇が笑みの形に動くのが分かる。そして何度も、触れるだけの口付けを。私達は飽きるまで繰り返す。


「メリークリスマス、木蓮」


 吐息に乗せた呟きと共に目を閉じて、口付けはもっと深く、深く。クリスマスの夜はまだはじまったばかり。今はただ、雪のように降るこの幸せに溶けていよう。




 + Merry Christmas +

 吉野花色より、日頃の感謝をこめて。

 2014/12/24-25

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