二十二章 物に魂が宿るとか言われても? 今お前が読んでいるものはどうだ? 四
「妖鬼魔王が覇権を認められてより二十年。しかし個人戦闘力のみならず、支配戦力でも最弱と言われる覇者です。敵対者を殺さずに取りこみ、巧みな外交によって安定維持させてきました。その利害関係を自ら崩しては、多くの内部勢力が情勢不安の元になります」
会場の要人席も自分たちの前線送りを知って動揺が広がり、中には前線部隊と交信して叫ぶ姿もあった。
「このままでは我々が……もっと犠牲を出してアピールせんか! 撤退だと?! そんなことをすれば、貴様や部下の命だけで済ますと思うなよ?! 能無しのクズどもが!」
洒落も品性もない、ピパイパよりひどい恐喝口調だけど、一応は人間の外見。
「見よ! あれこそが魔王なぞに従う者たちの末路! 魔王の本性など誰もが知っていたであろうに、臆病が目を背けさせたのだ! 聖神ユイーツ様を崇拝し、勇者に従う我ら教団の信徒であろうとするならば、ただちに悔い改めよ!」
神官長は名目ばかりの『反魔王連合』諸国軍を罵り、得意げに笑っていた。
「大戦の終結した今、人類に有利な体制バランスをもたらすには、魔王軍において、我らがいかに重要な戦力かを示さねばならん! まさに今はその好機! ……なに? 諸国は損害の大きさに足踏みしている? ならばこそ騎士団が率先せんかあ! 私の理念も『理解できない』連中から順に、最前線で現実を学ばせてやれい!」
騎士団長は人類諸国の苦難と魔王のあせりを喜び、得意げに笑っていた。
覇権が衰えれば、対抗勢力は伸びやすく、追従勢力は高く身売りできる。
魔王の懐を探って利権を奪おうとしている点では一緒か。
「なお表彰式の会場は予定通りですが、会場がじわじわ動いていますので、移動中のかたは再度の確認をお願いしま~す」
モニターが切り換わり、ごみごみとしたビル群が映る。
なぜか全体にグラグラと揺れて土煙を上げている。
「地震速報?」
「首都移転ですが、これも予告はありません」
建物へ真横に刺さる桜並木で開始地点のスラム街とわかった。
屋台や洗濯物、横倒しになった馬車などが道路に散乱している。
「居住者すら知らなかったようですね……」
カメラがひくと、都市を囲む巨大岩ブロックの一辺に高く盛り上がる砂山があった。
「世界の空を舞った魔道黄金期の王城は『光の勇者』様に撃墜され、『闇の勇者』様は地下を中心とした生活機能を回復し、『邪鬼魔王』は残っていた魔法機構を移動装置に集中させました」
カメラが横の角度になると、城壁が砂を吸い上げるように左右へ押し分けている。
「地下遺跡へ直接ぶつけて横づけする盗掘特化の改造です。砂の深い部分に限って移動できますが、発動に伴う被害の大きさで邪鬼魔王でも二度、妖鬼魔王は一度しか使ったことがありません。一説にはすでに耐久限界とも」
さらにモニターが切り換わると、コース上のオアシス陣地まで砂オバケの群れに襲撃されていた。
「棄権選手は優先して後方輸送されていました。ザンナさんたちはだいぶ前なのでだいじょうぶだと思いますが、冷やし中華のおばあさんが心配です」
『六手巨人』と『双頭洞窟鬼』は砂オバケを何十と投げ壊しながら塔の入口へ向かっていたけど、何百という追加攻勢の波に少しずつ押し戻され、力尽きつつあった。
まだしもマシな塔内部の玄関ホール近くでは閉じこめられた選手たちが協力して脱出の機会を探っている。
象獣人の剣士は仲間を両脇に抱えたまま、鼻に持った巨剣と長い二本牙で土偶をたたき飛ばし、虫人罠師トリオが謎の粘液でがれきをつなげて通路をふさぎ、ズタボロの鎧宣伝トリオも警戒役くらいにはなっていた。
「ちょうど昼出発の九選手が再合流できたのか。みんなしぶといな」
その近くには半馬人のオッサンまで床からわき出て、歓迎土偶の大群に呆然としていた。
「がんばれ。象さんたちと合流できればまだ望みはある」
そのひとつ上、『邪鬼魔王』の階層ではブラビスが祖父の悪影響を堪能していた。
小型土偶に囲まれ、手下の鳥男が抱えて跳び越え続け、それすらできないと三輪車に頼る。
「待ってろよアレッサ!」
映っていると気がついたとたんにカメラ目線の決め顔はやめろ。
「待ってない。引っこめ。来るな。陽動だけしていろ、オレのかませ犬!」
そのアレッサは相性の悪い土偶群に足止めされ、たびたび隠れて休む姿が映っていた。
いつの間にかこちらが追い抜いていたようで、今は『光の勇者』層の倒壊ビル群に身を隠し、激しさを増すミサイル土偶の爆撃をやり過ごしている。
いや……すでに別の一戦をこなしていたらしい。
足元に血まみれの巨体が倒れていた。
六足獣人『妖獣妃』レキュスラは魔法か魔法体質か、その両肩から巨大な爪のある虫のような腕を伸ばし、背からも獣の頭が追加で三つ伸びていた。
「待て。ユキタン同盟への懸賞金などは断った。戦国覇者『獣人魔王』の傍流たるわらわはそこまで落ちぶれておらん!」
アレッサは無傷で、ボロボロになった剣が二本、床に転がっているだけだった。
「だがその言葉を確かめるすべはない。その再生力、変形能力、次も勝てる相手とは思わん。今も爆撃にまぎれた奇襲ができねば無傷では済まなかっただろう……覚悟!」
「誰も命乞いなどしておらん。まあ、見逃してもらえれば在庫の『幼獣くん』グッズくらいは贈ったが」
腕輪の光がぽしゃりと消える。
妖獣妃……『着ていてよかった』西南妖獣社の関係者?
「わらわも息子の開発路線は気に食わんが、これからは戦争をいかに捨てるかが真の戦争などと言っておった。あれは昔から賢い。社長を譲った以上は口を出すのも野暮。あれの幼いころをモデルにした販促グッズはいまだに使ってくれているようじゃし……どうした? はよう首を落とせ。古い戦争を生きた世代として、恥のない最期を息子に贈りたい」
「このアレッサは友愛を旨としたユキタン同盟のはしくれ。現社長の賢明な路線変更も知らず、失言を後悔している。……だが貴様、子を信じるならば、敗残の群雄として不様に死にそこねようと、母として生にしがみつき、その成果を見届ける気はないのか?」
「それが聖騎士三巨頭の忘れ形見が言葉か? 妖鬼王に敗れし妖獣王の妃にこれからも負け続けろと?」
「わずかな勝利より、その何倍もの敗戦こそ支えとなる誇り……私の母の言だ。思い出させた礼に、その恥はしばらく預けよう」
アレッサは背を向け、わずかに間の開いた爆撃の雨へ飛び出す。
「あとグッズの送り先はロックルフ商会に……」
おい。
「あの巨体でいつの間にあの階層まで……アレッサ様と接近する不運さえなければ、十分に優勝も狙えた実力ですね」
リフィヌはまじめな顔で、アレッサのボケには触れない。
「不運なのかな?」
妖獣妃の呆れ顔から、少しずつ苦笑がもれていた。
「決着が近づいてみんな殺伐としてきたのに、アレッサだけは笑いの中心で、ねたましい気もする」
「非常識もまた、新たな価値観でしょうか?」
オレは笑って言ったのに、リフィヌは一層、真剣な顔になる。
「迷宮地獄の戦場で笑いを提供し続けているかたでしたら、ほかにも……というか、アレッサ様にあのような悪影響を与えた心当たりですと、たったひとりですね」
「それは誰だい?」
胸を張って返答を要求したけど、浮かない表情で目をそらされた。
「これで優勝にからみそうな魔族選手は邪鬼王子と鳥男さんのみ。会場の騒ぎを考えると喜びきれませんが」
「優勝とは別方向の探求に走っている勇者がもうひとり……」
魔術団は『妖術魔王』の層で粉々になったローブ土偶の破片をひろい集めてきれいに並べていた。
オッサンは泣いて悲しんだり感動したり、ババ様は頭を抱えてなだめたり急かしたり。
「というかあの人数なのに早いし近いな? 人形フェチ恐るべし」
「少ししか映りませんでしたが、内部の部品まで正確に位置がわかるようです。土偶に関する実践的な知識ではマキャラさんは世界有数の人材のようですね?」
「くどいておけばよかった!」
「で、でもあのように、遅れの原因にもなっていますから……ええ、もう勝手になさってください」
リフィヌはようやく少しだけ苦笑してくれた。
でもそのあとで考えこむ表情。
「あの…………ユキタン様はアレッサ様やザンナさんに対しても、マキャラさんへの能力評価のような好意を持っているのでしょうか? 道具として利用できる部品として……」
「そんなツルとゾウリムシを比べるような真似は女の子のかわいさに対する冒涜だよ。道具として考えるなら部品はオレ。節操なき接合パテこそオレの役割! 色とりどりの花が咲き乱れる楽園ハーレムの土壌を作るミミズヤロウ!」
くいと動かした腰をすかさずヌンチャクで打たれる。
「それはほっとしたというか、あらためてガッカリというか……」
思春期の女の子が頭を抱える。
「拙者はここでなにをしているのでしたっけ?」
「君の教典『いいことをして、いいひとになり、いいせかいをつくろう』の第一歩だよ。君を慕っている子たちの元へ笑顔で帰るため、勇者を……勇者って誰だ? ともかく、暫定ではオレを守り導く最強美少女神官が君だ」
「はあ…………勇者って、なんでしょうねえ?」
あきらめたような遠い目。
「そ、それを宣伝するのがカミゴッド教団の役割では?」
「まったくです」
自嘲するような口のゆがみ。
「助けて姉御。頭のいい子がまじめに悩みはじめた。冷静に疑ったらオレが勇者である根拠なんてあるわけないじゃん」
「はいはい。しばらく選手とのぶつかりはなさそうですし、乗り換えだけ土偶に気をつけて、休み休みいきましょーか」
一緒に脱力しきってゆらゆら踊る姿を放映されてしまった。
土偶は頭部がついて二メートルほどに背が伸び、より人型に近づいた。
もう十分にマネキンがつとまる。
斜面エレベーターを降りたとたん、客引きに寄って来るありがた迷惑は同じ。
「あの姿は魔法革命をはじめた『傀儡魔王』の主力、メセムスさんと同じ『魔法人形』をモデルにした……あれ?」
リフィヌは急に階下をのぞきこむ。
「って、いつの間に『魔道の勇者』様の時代を過ぎて?! 我が家のご先祖様の精神性は?!」
「つつましく平和的なかたということで」
「ご先祖様の好意で休めたと思っておきましょう……敬遠された気分ですが」
メセムスは自分をモデルにした土偶の頭を殴り砕いた。
「む、無理しないでくださいね?」
オレとリフィヌの声がハモって震える。
「問題ありマセン。しかし……」
「よし。オレも温存していた体力で茶わんを使うべき時かな?」
「ワタクシだけの戦闘を希望シマス」
こんな階層に限ってエスカレーターまで故障をはじめ、上昇経路の発見に手間取る。
「身内の最期は自分でつけたい感じ?」
「ワタクシはこの階層の深部で発見されマシタ。シュタルガ様の目的を推測するため。ワタクシに関する情報を収集していマス」
たたき壊しが多くなったのはヤケじゃなくて解剖観察?
「過去の競技祭の記録によれば。第二回競技祭の探索目標は。『招きの土偶』の製造ないし制御ないし修復の装置デス」
「それで持ち帰ったのがメセムス? たしかに土偶と話せたけど、あれを制御と呼ぶのは……」
「調査隊の情報不足デス。該当する目標はこの階層に存在しマセン。誤認の原因は。かたよって多くの『招きの土偶』が発生する区画の発見デス」
「でも妖鬼魔王は予定外だったメセムスさんの発見を優勝として認めたのですか?」
「三魔将に次ぐ戦闘力の上、頭も性格もいいもんな」
「その評価に異存はありませぬが、本来の目標や、ほかの優勝目標と比べると、いささか違和感が」
「第一回準優勝の豪傑鬼が持ち出した『自滅のタコ足配線』は選手村の中央制御装置になっています」
搭乗者全員への嫌がらせみたいな登録名だ。
「第三回は神官団が『神頼みの計算機』を持ち帰り、塔の内部分析が進んで今回の目標位置が絞られました」
神の住居に神頼みの効果?
「それが聖神ユイーツの『絵日記』……どれも塔攻略の有効性で評価されている?」
「それに『魔法人形』の人工知能部分は個体差が激しい上、仕組みはほとんど解明されていません。専門家であっても、起動しなければ知的性能や故障の影響はわからないはずです。競技中に『修復が必要な魔法人形』をそこまで評価できた理由がわかりません」
「メセムスには塔攻略に関わる重要な秘密が別にある?」
「それほど重要ですと、なおさら単独で参加させた意図がわかりませんが、耐用試験もおざなりに急いでいたなら、あるいは可能性も」
予想外だったのは、異世界人の変態ぶりが人形をくどけるほど重症だったことか。
巨体メイドロボは黙々とマネキンを破壊していた。
戦闘になってしまうと、その無表情は土偶と差がない。
のっぽマネキンは長い手足のぶつかり合いを避け、それほど密集しない。
幅十メートルの標準通路では二体か三体が横に並び、それが二段か三段続く隊列があちこちで見られた。
人間の軍隊に近い集団行動だけど、人型となって怪しさは強調されている。
言葉に合わせたサービス案内の動作だけど、ことごとく力加減や速度調整に難がある。
「左手に見えますのは。お客様の頭部デス」
うっかり言葉どおりによそ見をしたら、手刀で首を切断されかけた。
二足歩行になって運動制御の故障も目立った。
よく転ぶ。
立ち上がるのはうまいけど、大きな動きをすると床や壁に頭を打ちつけていた。
手足が長く、重量のわりに動きも速いので、オレには助かる短所だけど……
なまじ人型の集団なので、のたうつように倒れては起き上がるくり返しは気まずい光景だった。
「なに……かお困りデショウカ? 安全システムは正常に動作し……ていマス」
殴られそうになっているのに、殴りにくい。
「拙者も胸が痛みはじめました」
「ガガガ……ガガ……」
メセムスが頭から煙を上げはじめた。
「やっぱりストレスが?! どこか休ませる場所ない?!」
「さきほどの通路へ!」
少し前の移動装置に引き返す。
安全なことは確かめていたけど、動作が遅すぎて通り過ぎていた。
この塔にしては小さい、大型バスほどの部屋の奥へメセムスを押しやり、リフィヌと一緒になかなか閉じない壁にかまえる。
マネキン土偶が集まり、壁いっぱいに並んで踊る。
「ご利用ありがとうございマシタ。またのクレームをお待ちしておりマス」
足首ほどの高さでも、閉じはじめた壁は越えようとしなかった。
邪鬼モデルの土偶ほど積極的でなくて助かる。
壁がじわじわと胸あたりまで上がり、ようやく一息つく。
「『傀儡魔王』は魔法道具でありながら人類に反抗し、多くの戦災を巻き起こしたと……一般的な学校では教わります」
リフィヌは壁ごしに透けて見える人型土偶の群れと、それをじっと眺めるメセムスを見比べる。
「しかし学会では解釈が複雑に分かれたままの時代です」
「戦国五期が終わり、復興をはじめた世界に突如として現われた新兵器が『魔法人形』でした。ほんの数人の魔術師が『無限の塔』から技術を持ち帰ることに成功したと言われています」
「数を大きく減らしていた竜や巨人、大魔獣にも匹敵する戦闘力を持ち、持久力や回復力は大きく上回り、しかも恐れを知りません。『人形帝国』は一方的な勝利を続けて領土を広げ、聖魔大戦の繁殖周期の前に覇権を奪う勢いでした」
「ところが一部の魔法人形が暴走をはじめ、中でも『焦土の魔法人形』は一機一夜で一都市を焼きつくす火力で旗頭となって『人形帝国』へ宣戦布告しました。のちに『傀儡王』さらには『傀儡魔王』と呼ばれる魔法人形です」
「メセムスの元の体も、その時代はどちらかの陣営に……子供みたいな質問で悪いけど、『人形帝国』と『傀儡王』はどっちが悪者?」
「それが専門的な議論の焦点です。『人形帝国』は圧倒的な兵器戦力で暴政を極め、主導する魔術師を魔王とした魔族国家と考える説もあります。しかし『光の勇者』様が魔術師を迫害する前の時代なので、まだ人類側に近かったともされています」
「対して『傀儡王国』は魔法人形への服従こそ強いられたものの、自治は広く認められ、むしろ指導によって汚職などは減ったそうです」
魔王がいい人なのはこっちの世界の伝統かなにか?
「人間の子供をさらい、修理作業の奴隷にしていたとも言われていますが……工場長は魔王の幹部としては珍しく、白妖精人の若い女性だったとか」
それはザンナやナディジャから聞いた……
「ティディリーズさんの祖先?」
「はい。そう考えてしまうと、印象にものすごいずれが……」
そのまま顔をあてはめたりしたら、工場長のほうが苦労してそうだ。
「子供たちが『傀儡王』を操っていたという噂まであります」
「それだと本当の覇者は人間だから、勇者の時代? メセムスの性格につけこんでザンナがそそのかし、魔術師をぶっとばす構図だとスッキリ納得できるね」
リフィヌが大きく手を打って明るくうなずき、あわてて首をふる。
「い、いえいえ! そんな印象だけで断じては研究者さんたちの立場が?!」
リフィヌはまた少し、メセムスの横顔をうかがう。
もう壁の向うに人型は見えない。
「しかし史実が教団の見解とは異なるとしても、悪いことばかりではないようです。拙者はじかにメセムスさんと接し、製作したかたの優しさを感じております。ザンナさんの信じる妖鬼魔王との接点が小生にもあるとしたら、それは……はうわ?!」
メセムスがガクガクと全身を震わせだす。
「拙者、なにか失礼なことを?!」
「能天気すぎる新説に拒否反応が?!」
「ワ。ワワ。ワタクシは起動を承認しマシタ。名はシュタルガ。該当年齢を誤認。承認取消」
視線が宙を漂っている。
「目覚めた時のことを思い出している? シュタルガを顔と身長で子供と勘違い?」
「睡眠操作による老化抑制の技術は『傀儡魔王』よりあとの時代に発展しましたから。しかし承認というのは、起動に資格が?」
「承認基準は過去の操作者。子供……自分の意志。強い意志で起動」
子供の黒幕説に新資料が。
「例外の承認基準は過去の修理者。工場長……子供に相当する純粋性。例外に該当。『シュタルガ』を再承認」
「するな?!」
「だまされていますよ?!」
「あう。いえ、ザンナさんが信じるかたであるなら、きっと別の面も……あってたまるかとういうほど『闇の勇者』様に迫る逸話の数々を現在進行で量産中ですが……いえ、どちらも直接の殺傷人数は少なく……精神崩壊が死より軽いとは言えませんがががが」
こっちも修理が必要になってきた?
「でも子供が純粋なわけないよね。そもそも純粋さなんて騒動を起こすだけの未熟さで……オレのゆがんだ心も修理が必要?」
メセムスが力強くうなずく。
「ワタクシの情報に関して。セイノスケの推論を肯定しマス」
震えが止まり、視線をまっすぐ向けていた。
「ワタクシは『焦土の魔法人形』。聖魔大戦の十代覇者。『傀儡魔王』デス」
リフィヌは両手を突き出したまま固まっていたけど、やがて耳だけ小さく動かしはじめる。
「矛盾は……ありません。『傀儡魔王』は覇者となって数年で各地に委任統治者を配置。直後になぜか『無限の塔』へ入り、姿を消しました。魔法人形ならば生物百年の寿命もありません」
「じゃあ完全に修復されたら最弱覇者なんか指先で灰にする超兵器?!」
「しマセン」
赤熱する小手は勇者の首筋のうぶ毛を灰にした。
「いえ、記憶だけでも……競技を通じた記憶の修復こそ、妖鬼魔王の狙いかもしれません。黄金期へつながる魔法文明の中興を、おそらくは中心で見てきた生き証人です。『傀儡魔王』の世界制覇から『魔法人形』の製造は途絶えた一方、魔法道具を修復改造する技術は『魔法革命』の発端となります」
「歴代の優勝目標にも負けない、トンデモ発見か」
「というかセイノスケ様のヤローはいつどのようにそのような推論を?」
妖精さんは無理な微笑を作るたびに口調の品性を犠牲にしていた。
「シュタルガ様の評価とあつかいから可能性に着目。発熱機能の類似と故障を確認。『傀儡魔王』と周辺人物の情報を収集。人格と人物関係を推測して検討……」
『工場長は病的に内気で自閉的だな。主導したとは思えん。どこで技術を学んだかはわからんが、魔法人形を修復し、個人的に使っていただけだ。護衛や家事労働、下手すると愚痴り相手もだ。それに目をつけたガキがいる。そして工場長はショタだ。結婚相手の経歴に不明な点が多いが、工場にいた子供のひとりが年齢差ほかの特徴で一致するショタ好みの……』
リフィヌはすがるようにメセムスの口をふさぐ。
「詳しくは後日おうかがいするとして、競技に集中しましょうか」
知らないほうがいい史実もあるよね。
「でもいじましいって、そういうことか。清之助の暴論どおりなら工場長はザンナ……じゃなくて子供にそそのかされて兵器開発をしたけど、日常生活の補助機能も残していた」
「それはなぜ……いえ、マキャラさんと同じでしょうか?」
「うん。一緒に暮らす家族として感情移入していたなら、ただの兵器にはしたくなかったんだと思う。戦争が終わったら、また元の生活にもどれるように」
メセムスは黙って見つめていた。
「まさに友愛の精神。たしかに君と清之助の出会いは運命だね?」
ここぞとがっしり腕に抱きつき、親交をはかっておく。
リフィヌも反対の腕にしがみつきつつ、少しだけ眉をひそめる。
「またも劣情の餌食という気も」
奇妙なスキンシップ空間はほんの少しずつ上昇していた。
「それにしてもあのヤローは……」
リフィヌ様とハモった。
「もうすぐ出発の時間ですね……あまり、たしかめたくない気もしますが」
リフィヌが腰のポシェットから、手首つき水晶『孫の手』を渡してきた。
「ザンナが預けていたのか。ほかになにか言われた?」
なぜか真っ赤なしかめつらを再現するだけで答えてくれない。
気まずいのでさっそく発動してみる。
通信先の小瓶を持つはずのメガネは出ない。
念のため、ダイカやデューコなども思い浮かべてみる。
ひっかかったのはロックルフだった。
「おお! すぐにダイカくんを……勇者様じゃぞお!」
背景はジジイの店の奥だけど、なにやらあわただしい。
懐かしく恋しい犬耳顔と爆乳が映る。
「今、だいじょうぶなのか?! モニターなら見ている。セイノスケなら起きた!」
なぜか偉そうな人たちに囲まれ、わずかな話の息つぎにまで質問ぜめに合っていた。
「ちょ、ちょっと待てって! グガルルル!」
中にはショインク副神官長や、松葉杖のスコナ隊長までいる。
間に入るキラティカまでウンザリ顔。
「ティマコラの腹からは出てきたが、今度は宿舎の部屋に閉じこもっている。このビンと一緒にメシとか新聞とかの注文を送ってきた。預かっていた書類も押しつけようとまとめていたら、追加の客が大量に……んあ?! こっち来ている?!」
画像がゆらぎ、なぜかルクミラさんとデューコさんが顔を真っ赤にしてふらつく姿が映り、なぜかふたたび爆乳がアップになると、そこへ頭を載せやがるニヤニヤ顔が……
「ようユキタ。元気か?」
「くたばれクソメガネ!!」
「そういうプレイは帰ってからたっぷり、な?」
「しれっと跡形もなく復活してんじゃねえ! テメーにまず聞きたいのは! …………なんだっけ?!」
リフィヌさんの妙な薄笑いもなんなの?!
「すぐに狙撃がくる。仕留めるまでくる。そこで決着をつけろ」
「なに言ってやがる。神官団は騎士団に追いつくのに必死で……」
と言いながらも、剣と茶わんを開きはじめた壁にかまえる。
リフィヌとメセムスも隙間をにらむ。
「次の時代は中世戦国末期、銃砲土偶の階層です。もしあえて私たちからつぶす気だとしたら、環境としては……」




