十二章 竜は羽があって火を吐くトカゲでオッケー? チャイナドレスは外せんな! 二
「古代種の竜は全身が魔力に満たされ、生体魔法道具とも言うべき根本から異質な生命体……それくらいは知っている! 留年はしたが中等部卒だからな!」
超巨体な暴竜プルプンテ氏の学び舎が気になる……通信教育か?
「竜は聖魔大戦よりも前、神代の百年を終わらせて以来、常に最強の魔物として覇権の行方に関わった、最も古い伝統を持つ種族でもある……だが生物も文明も進化を続ける! 魔物の頂点も、いつまでも古代竜ではない! 見よ! 我が同胞を!」
ドルドナの両脇にまわりこんだ二匹が顔を上げる。
「我こそは新時代の四天王が一角、剣竜ドッデンバーなり!」
剣竜……つまりはステゴザウルスの名のとおり、頭が小さくズングリした体型で、背中には幅広剣のような背びれが並んでいる。
少し長くなった腕に、体格に比べても巨大な幅広剣を持っているけど……その振りは常人サイズのように速い。
「我が『踊りの丸木舟』は胸の踊る気持ちに合わせて軽快にはずむ……水上でなくても!」
少し楽しい程度の魔法カヌーを改造して、巨体用の魔法剣にしちゃったのか。
「我こそは三角竜バモクリクなり!」
より太い体型で頭からは三本の大きな角を生やした……たぶん三角竜の名のとおり、トリケラトプスなんだろうけど、なぜか頭へかぶせるように木馬をくくりつけていてわかりにくい。
こちらは体型のわりに軽いステップを見せ、大きな騎乗槍を両脇に構えている。
「我が『青二才の木馬』は精神が若いほど身軽になる……乗っていなくても触れていればオッケーなのがミソだ!」
これも普通の人間なら、木馬に触れていなくちゃいけない条件が身軽さという効果を台無しにするデメリットになるのに、あの体格で頭装備にできるならメリットしかない……みなさんよく工夫している。
「ドルドナよ! 我々は魔法道具によって、貴様の古代種としての魔法体質……『灼熱の骨』にも匹敵する戦闘力を得た! 貴様を相手にすれば我々も無傷では済むまいが、新たな四天王としての力を示すためなら、一戦もいとわぬ!」
暴竜プルプンテは手近な壁のタイマツを台ごともぎとり、背中のリュックからホースをゴソゴソと引き延ばす。
ドルドナは不気味なほど辛抱強く、目をつぶって聞いていた。
眠ってないことは膨らみ続ける『憤怒の巾着』でわかる。
「そんなものが貴様らの誇りか。ならば異世界から核兵器が持ちこまれるまでもない。爆薬や銃砲の密造程度でゆらぐもの……それでなにが魔王配下四天王か! なにが竜の黄金時代か!」
静かに叱責し、再び目を見開く。
「かくへいき……?」
ちょこまかと動く直立トリケラトプスが首をかしげる。
その腹へ魔竜の燃えさかる拳がめりこみ、片手背負いに頭から溶岩へたたきこむ。
「姿や能力など、竜という存在の表層にすぎん!」
ドルドナがカメラを……ボクをにらみつけた。
「おぼえておくがいい。このドルドナは、たかが数十発の魔竜砲を放てば倒れ、あるいは数発の魔竜砲を受ければ倒れる程度の強さしか持たぬ!」
清之助くんたちの分析とほぼ一致する、魔竜攻略の肝要とも言うべき情報。
「だが竜は、最強の魔物であるがゆえに竜なのではない!」
直立ステゴザウルスは振り上げた巨剣ごと殴りつぶされる。
「竜こそがすべての魔物の始祖であり! 創造主である神と敵対した最初の生命体である!」
ドルドナは髪、角、羽根をオレンジに輝かせ、その全身も溶岩のように赤熱させて周囲の地面を焼きはじめる。
羽つきティラノサウルスは圧倒され、自分の火炎放射器が有効な相手か迷いはじめていた。
「ゆえに、神の敵となる魔物の中にあっても、最も神に抗い! 最も神に呪われ! 最も神に近しい! それこそが竜たる誇り!」
高まる叫びに呼応し、炎の突風が吹き荒れる。
火の粉にまかれた暴竜が倒れ、背負い袋が煙を上げはじめる。
「図体だけのトカゲ風情が!」「このドルドナを前に!」「竜を騙るな!!」
一喝ごとに広がる衝撃波が暴竜を転がし、ついには溶岩へ突き落とす。
ほどなく、引火した背負い袋が爆発的に炎上し、ドルドナは一度だけうなずく。
「恥じ入る程度の誇りは持ち合わせていたか。騙りにしても竜を名乗るだけはある最期」
不本意な自爆だと思うけど……選手村広場の赤髪ネズミ獣人リポーターは一切ふれずにドルドナコールに湧く観衆の賛辞を集めてまわる。
「それもうほかの人が言ってますから。もっと目新しい感想ありません? あ、もういいです! ……そこのトカゲ娘さん! トカゲ風情、トカゲごときと同族がめためたにされるのはどんな気分でしたか?! ある種の快感とかあります?!」
「恐竜人はほかの爬虫類獣人を見下しているから別になんとも……それより、古代竜が蜥蜴人もまとめてニセ竜よばわりで目の仇にするのはやめてほしいものだな」
暗殺団の首領ことデューコさんは素の状態で男装して新聞売りをしていた。
「思ったよりつまんなかった! そっちの宇宙人くさい彼女は?! なんか不思議ちゃんぶったコメントあります?!」
ヤラブカ嬢はまっとうな死に方できないだろうな……させたくないというか。
「あの竜は誰得で創造主に反抗期デス? 創造主がわざわざ敵を作るデス?」
先の丸い触覚を生やした、灰色肌の少女が首をかしげてリポーターに詰め寄る。
「うわ本物の電波! じゃあ、このあたりで……あ、すばらしいタイミングでシュタルガ様に中継がつながります!」
宮殿と山脈の向うに見える空は薄く赤みがかって暗くなりはじめていた。
切りかわった画面は巨大シダの森が遠くに見えて『竜の巣』の一部らしいけど、灼熱洞の近くと違って苔や茂みが多く、大きな段差も多い。
象よりも大きな竜たちがうろつき、双頭のライオンや馬のように大きなバッタを競うようにむさぼっていた。
「あれは森の南端だな。長老竜が着いたということは、森への一斉進軍がはじまる。出発準備を急いでくれ」
「まず君がなにか着ようよ」
清之助くんのせいで女子陣が振り向けないんだってば。
ボクたちは再び灼熱洞に向かって歩き出す。
長老竜はモニターのどこに映っているのかと思ったけど、前足が翼となったキリンが森から飛び出てくると、段差の一部がずるずると動いて巨大な首が持ち上がる。
ほかの竜の倍以上に大きいアゴがキリンの腹にかみつき、胴のほとんどをゴッソリ奪い取る。
「あと、君たちで食べなさい」
若い竜が残骸に群がるけど、一匹は老竜を心配そうに見上げていた。
「長老また内臓ばっかり……骨も一緒に食べないとカルシウム不足でボケますよ?」
有翼キリンのあとを追ってシュタルガの乗る紅い竜が滑空してくる。
「セハンヤ、ご苦労だった。夕飯はまだこれからが本番だ。ぞんぶんに食いためるがいい。虫だけは食わんでも殺しておいてくれ」
シュタルガは顔の血を洗い流していたけど、紅いローブにはまだ大きな染みが広がっている。
挨拶も手短に再び飛び去った。
ボクはラウネラトラにちょいちょいとそでを引かれ、自分の目つきが悪くなっていることに気がつく。
いけない。ドメリちゃんやリフィヌちゃんに怖がられる。
「巨人回廊以外の道は噴火口に集まる。東西から進軍して虫を追いたて、南は段差と竜の群れ、北は溶岩と選手でふさぐわけだ」
清之助くんの言うとおり、周囲には大きな気配も多くなっていた。
騎士団が先頭を歩き、レイミッサだけはさらに二十メートルほど先にいる。
そして時おり姿を消しては、斧についた血を拭きながらもどってくる。
木の影には巨大ネズミや巨大ミミズが転がっていた。
「いい手際だ。斧の乱れを小剣がよく補助している」
アレッサは斬殺死体を見て安心した表情。
人間より大きなカマキリが挟み撃ちをしてもレイミッサは冷静だった。
「短冊、くし、半月、ささがき、三枚おろし……」
謎の呪文で右腕に巻いた布が蒼く光り、濃霧が発生して小さな体を包み、大型昆虫の鎌は空をきる。
二匹の真上から赤くギラつく斧が降ってきて、メチャクチャに飛びまわる……まるで、握っているレイミッサのほうが振り回されているように見えた。
斧は四回転し、一回だけカマキリの胴のど真ん中へ当って仕留める。
残りの三回は急所ではないものの、足でも頭でも触れさえすれば断ち切った。
小剣は二回ほど閃き、一回はレイミッサを挟もうとした鎌をはじき、二回めはとどめを刺しきれてなかったもう一匹の首へ突き通された。
「『霧の聖騎士』に受け継がれる『濃霧の頭巾』も使いこなしているようだな。発動条件は知らないが……」
アレッサは妹さんの活躍で少しだけ明るい声をだす。
「たしか霧の魔法道具は『迷い』が条件で、斧は元の『勇敢さ』が歪んで『狂暴さ』で発動なのですが……」
リフィヌが小さくつぶやく。
そのレイミッサが茂みから突然に飛び出た古代戦車にはね飛ばされる。
「っしゃあ~! 肺呼吸を中心に世界を作ってんじゃねえぞお!」
乗り手の人魚娘ミュウリームは理解しがたい主張と共に『酔いどれの斧』をひろい上げて振り上げる。
「烈風斬! ……烈風斬!」
ミュウリームがあわてて手をひっこめて斧を落とし、アレッサの一撃目は地面を削る。
二撃目はシダの幹を狙ったもので、戦車の行く手をふさぐように倒れる。
しかし戦車は強引に乗り上げ、枝をぶち折りながら迫ってきた。
「あの風呂桶、小回りや上下移動はきかねえ! 幹に身を寄せな!」
ヒギンズの指示でみんなが巨大シダに隠れると戦車は蛇行をやめて真っ直ぐにすれ違う。
「ちぇ、対策を知っているなら仕方ない。次いってみよ~!」
そのまま逃げ去ろうとする。
「あの魚人は生け捕りたいな。追えるか?」
清之助くんが鉄釜をメセムスに預けながら騎士団に尋ねる。
「持ってくるだけならまあ、やってみるかね……出力三割『土石走行』!」
ヒギンズが脚絆を赤く光らせ、メセムスの『土石装甲』みたいに周囲の地面へヒビを広げる。
踏みこんだ地面は次々と盛り上がって足を押し返し、獣人のような走りとなって戦車へ追いすがり、追い抜かす。
「うろちょろ邪魔くさいね~。水中じゃないからって、調子にのりすぎ!」
戦車が急カーブして加速し、ヒギンズの背に迫る。
「俺だって、無茶したい年じゃねえよ……出力九割『土石走行』!」
はねられる直前、ヒギンズの足元の地面がサーフィンの波のように大きく持ち上がり、三日月形に丸くなり、やせぎす中年は二階くらいの高さからバク転して着地。
続いて三日月に乗り上げた戦車はひっくり返って空中へ放り出される。
「わわわ?! これだから水圧のない空間は~?!」
ミュウリームの謎の抗議と共に戦車……正式名称『ひき逃げの風呂桶』が光り、グシャグシャ車体をゆがませて地面を跳ねながら、強引に体勢を持ち直す。
でもその先には腰を落とした変態メガネが両腕を広げて待っていた。
ピンクのネクタイがヌラヌラと輝いて伸び、戦車の突撃を押しとどめる。
「ぬにゃ?! ちょいとまずい頑丈さ……だね!」
ミュウリームは金属桶の中で暴れ、進行方向を少しずつずらそうとする。
「はれ?! なに?! どしたのワタシの海人魂?!」
戦車の動きが急激に鈍り、輝きが失われる。
「ほい、いっちょあがり~」
ラウネラトラがツル草を戦車に巻きつけ、『封印の指輪』で魔法効果を霧散させていた。
「これだけのメンバーがいるんだから、時間さえあれば稼ぎまくれるのにな」
ダイカは呆然とする魚人をかつぎ上げて無敵戦車からひきはがす。
「お医者さん、ツル草を出しすぎてない? 無理して倒れないでよ?」
キラティカは心配しながら捕虜の体を手早く探る。
「ん。休ませてもらってはおるが……」
ツル草は念のためかミュウリームの体も縛っているけど、胸をやたらに強調する余計な作為も感じられる。
「メンバーと魔法道具は豊富だが、時間がなくて疲労もたまっている。ミュウリーム、貴様の助けが必要だ」
清之助くんは人魚娘をお姫様だっこで受け取り、率直にくどきはじめる。
「ええ~?! なにこれ一本釣り? みんなセイノスケが釣ったの? あのオジサンも愛人?」
十名を超える武装集団に囲まれて魚娘さんはなお明るく、教室ノリで嬉しげに困ったふりをする。
「ドルドナ戦は少しでも戦力が欲しい。この戦車をフルに使えるお前なら、後ろで逃げまわるだけでも大きい……発動には水分か水源に対する意識が必要だな?」
清之助くんは苦労して戦車からひっこぬいた魚娘を再び戦車の風呂桶にもどし、ツル草も解いてやる。
「そ、そこまで言われちゃねえ? ゴール前の乱戦も第一区間ほど甘くなさそうだし、大所帯にのらせてもらおっかな?」
ミュウリームはもじもじと顔を赤らめる……イケメンだと、こうもちょろいものか?
頭にピンクのネクタイを巻いた変態でも?
「発動条件はほぼ正解。水を求める意志が強いほど速度も防御力も上がるから、陸の魚人にかなう使い手はまずいないっしょ!」
貝がらをはりつけているだけの大きな胸が戦力に加わる。
「でも人間ちゃんてワタシの胸しか見てくれないのよね~」
「そんなことはない。俺はお前の下半身も好きだ」
真顔で言うならもう少し言葉を選んで。
清之助くんは魚娘の腰のあたりから手を這わせ、ひれを避けて背と腹の色の変わり目へ指をすべらせる。
「えうぉ……?! 異世界人さんが、そういうことをどこで習ってくるのぉ?」
ミュウリームは妙な声を出して桶の隅に縮こまる。
「輝く鱗の並びが教えてくれた。どう優しくされたいか、いじめられたいかは身の中の声を聴き取って探るものだ。種族は関係ない」
みんなの気まずい顔を無視して敢然とエロレクチャー人外編を説く変態メガネ。
ニューノさんは耳まで真っ赤にした怒り顔で耐えていた。ごめんなさい。
レイミッサは頬まで真っ赤に血まみれの怒り顔で振り上げた斧を止めていた。
「今後、こういう手助けはいらない」
レイミッサはラウネラトラに止血されながら、なぜかアレッサに枕を渡す……ボクのリュックに入っていたはずの『気に入りの枕』だ。
「はねられるのを見た瞬間、なぜか握っていたので、つい投げて……クッションにはなっただろう?」
アレッサは返された枕を見て、刺繍されているヒヨコたちをねぎらうようになでる。
治療中に騎士団三番隊の三人も合流し、出発してからは後方の警戒につく。
『認識の旗』を持っている部隊で、本隊に次いで連絡を重視する部隊らしい。
ほかにまだ四番隊という『藪の聖騎士』キチュードのいた部隊もあるのだから、騎士団選手の層の厚さがうかがえる。
「セイノスケどのが『生贄の手錠』を発動し続けているので楽に合流できましたが……だいじょうぶなのですか?」
三番隊の隊長らしき肌の黒い男は平均くらいの身長だけどかなりの筋肉質。
「この大所帯を相手に稼ぐのは危険に見合わない。敵意のない者を仲間に引きこむことを優先したい。ほかに来るとしたらドルドナか、頭だけドルドナなみの者だけだ」
清之助くんが言った直後、たった二人で堂々と立ちはだかる選手が現われた。
生意気そうなガキと、ニワトリみたいな鳥男。
「久しぶりだなアレッサ! 勇者一行ども! 我こそは二代目邪鬼王の長子にして魔王配下十二獄候が一角、邪鬼王子ブラビスなるぞ! 烏合の衆どもがぞろぞろと集まったところで、まとめて我が魔法の前にひれ伏し、貢いでもらおうか!」
しまった……ブラビスは高らかに名乗りながら、すでに魔法道具らしき印籠を掲げていた。
「う……?!」「体が……?」
三番隊のみなさんが急にひざをつき、苦しげに身悶える。
「これこそは『からいばりの印籠』である! 我が威光に心を圧された者へ、物理的な重圧をも加えるという……」
得意げな説明の途中でニワトリ男ラカリトがあわてたように進言する。
「ぼっちゃま。なにやら効果が今ひとつ……くげっ」
ウッカリ印籠を目にした鳥男は地面にめりこむ勢いで謎の重圧に押しつぶされる。
「うわー、なんか肩だるー」
ミュウリームがボクと同じ感想をもらし、カノアンくんやニューノさんも同じ程度の困り顔だ。
ほかのみんなは不思議そうに三番隊の苦悶を見ていた。
平然としたアレッサ、リフィヌ、ダイカ、キラティカ、メセムス、ヒギンズなどを相手にどう戦うつもりなのか楽しみだったけど、清之助くんが普通に歩み寄って普通に殴り飛ばしていた。
その様子を見て威光が霧散したのか、三番隊の皆様の苦悶が急に薄れ、ボクの肩の重みもすっかり無くなる。
「清之助くん、相手は子供だから……」
アレッサを性的に狙うクソ生意気なガキだから競技中に殺害しようなんて考えていたような気もするけど、今は仲間に引きこむほうが優先だし。
「こいつの実年齢は三十近いはずだぞ?」
「じゃあ撲殺で」
「ユキタン同盟は国家や種族を超えた友愛をはぐくめるすばらしい方の集まりと思いかけていましたが……」
リフィヌが笑顔をそむけて小さくつぶやき、ボクは素早く清之助くんを引きとめる。
「戦意を失った相手まで追い詰めることはないよ」
「別にかまわんが、それならどうする? ユキタに任せるぞ」
半殺しなら神官様も笑顔で納得してくれないかな?
「あいつらは無節操になんにでも発情するだけだぞ? 会った時から交尾にしか興味がないと言っていたし」
ダイカが神官様に無茶苦茶を吹きこんでいる……ボクはそんなこと言ってない……はず。
「あうあの、異世界人さんの友愛って、そういう意味だったのですか?! それを承知であのふるまいは、つまりダイカさんも……」
「違う! あれは魔王に堂々と刃向かう気概にあてられてうっかり……」
「私もたった今、魔王と戦う決心がついた……いや別に、それだけなのだが」
アレッサさん、なぜ今それを言う必要があるのですか。
すっかり忘れられた十二獄候ブラビス王子は半泣きで起き上がり、地面にはりついて気絶している鳥男ラカリト氏の背負い袋からなにかをとりだしていた。
「これだけは使うまいと思っていたが、こうなっては仕方あるまい!」
格調高いデザインの……三輪車。
ブラビスの体格でも窮屈そう。
「本気でそれに乗る気か? 思ったよりも勇敢だな。よし乗ってみろ」
清之助くんはメセムスと一緒に立ちはだかって精神的な重圧をかける。
「うぐ……後悔するなよ! この『無双の三輪車』の衝撃波は『ひき逃げの風呂桶』をも凌駕する攻防一体の……」
謎の間。邪鬼王子が三輪車にまたがってもなにも起きない。
「もういい。メセムス、これ以上に追い詰めないよう、一撃で撲殺してやれ」
「了解デス」
「うわああ!」
王子の叫びと共にようやく三輪車が光り、メセムスの拳と巨体をはじいて爆走する。
直後、またもやピンクネクタイの反則野郎が受け止め、その感触を満喫する。
「うむ。なかなかの消耗だ。魔竜砲も少しはしのげそうだな。発動条件に不安は残るが……」
そしてまたもや、ラウネラトラの『封印の指輪』つきツル草が三輪車の効果を失わせる。
うろたえるブラビスくんは起き上がったメセムスにガッチリとつかみ上げられ、そのまま鳥男と一緒に縛られて背中へ吊るされる。
森を抜けると、数人の選手が近寄ってきた。
遠巻きに注目している選手も数十ほど。
「ドルドナ戦に参加できる者は無条件に採用し、報酬も出す! ドルドナ戦の間、魔法道具をひとつ貸すだけでもゴール通過を手伝う! いずれかを希望するなら、俺たちが灼熱洞へ入る前に集まれ!」
清之助くんがよく通る声で周囲へ宣言する。
そしてユキタン同盟を集め、小声でつけ足す。
「ドルドナに味方する者、決着後に俺たちを襲うつもりの者も一緒に集めている。普通に疑っていいが、追い出す必要はない」
キラティカとラウネラトラは意図を察したらしく、悪人ぽく微笑む。




