十二章 竜は羽があって火を吐くトカゲでオッケー? チャイナドレスは外せんな! 一
魔竜将軍はチャイナドレスを引き裂いて脱ぎ捨てた。
「暇を持て余していたところである! 勇者ならば相手に不足なし!」
胸と腰だけを隠す鱗の防具。大きな羽と尾を出す都合からか、きわどく生地を削っている。
「さすがにひとつだけつっこませてもらうが……ドルドナ貴様、『福招きの鈴』を使っておらんな?」
「鈴は魔法道具しか探せん! 戦場で使うものではない!」
「ゴールに近づく選手は、区間通過のために必ず魔法道具を持っておるのだが……」
ドルドナの間断なきボケ攻勢に、魔王シュタルガは忍耐強く応じる。
「む?! 待て! ならばゴール前の噴火口で鈴を使えば、選手を見つける役にも立つのではないか?! 方向音痴どもを待ちくたびれずに済む! さっそく試してやろう!」
爆音と共に火の玉が飛び去る……シュタルガは自分の身長大の鉄扇を広げ、爆煙を防いでいた。
「すそが汚れてしまったな……騎竜隊、誰か息があればドルドナの服もひろい集めておいてやれ」
壁と竜につぶされた血まみれの肉塊がまだうごめいていた。
「うへへ……やったあ……俺がにおいを嗅いで、アイロンがけもしてお返しするんだ……」
「ほざくな我こそが先に……ぐぉお、もうすぐ腕が一本つながるぞぉ……」
「なんの拙者はアゴと首さえ動けばぁ……」
大鬼でもトップクラスのエリート……竜がなくとも危険な相手だ。
シュタルガは思い出したように振り向く。
「はて、勇者どのとはなんの話をしていたのか……」
話は終わっていたけど、ボケ将軍をあしらうために話し中ということにしたんでしょ。
「まあいい……ん? パミラめ、さすがにめざとい」
紫のコウモリがいつの間にか天井付近に三匹ほどうろついていた。
シュタルガの声に応えるように、水晶を握る一匹が空中に画像を映し出す。
選手村広場ではシュタルガとドルドナの名ばかりコールされている。
勘違いによる味方部隊の壊滅すら功績のように讃えられている。
騎士団司令部は噴火口付近が危険になったことであわて、団長バウルカット氏は凄まじい勢いで肩たたきを連打していた。
「それってもしかして『遠隔出張の肩たたき』ですかあ? 上下関係の下側へ同じ震動を伝えて部下をねぎらう健康グッズ……を転用してモールス信号で指示を送りつけ、過労へいざなうブラック企業ごようたしの……」
ネズミ娘ヤラブカさんのネタばらしリポートは途中で打ち切られる。
「なんかわからんが、魔王と魔竜と騎竜隊の袋だたきはまぬがれたんじゃ。はよはよっ」
再びラウネラトラに急かされ、出口へ向かう。
「勇者どの、先を急ぐのはかまわんが……」
シュタルガは自分の来た通路に振り返り、『映せ』と指示するようにカメラコウモリをアゴで使う。
山吹色ドレスの少女がゆっくりと広間に入ってきた。
入口の近くをとぼとぼと往復し、死体のひとつずつを何度も見回す。
「母親を守る……母親がいない。家を守る……誰もいない。家じゃないここは? 食事をはこぶ……家がない。誰もいない。食事はいらない。守りはいらない。母親がいない。家がない。誰もいない……」
小さくつぶやく、さびしげな瞳から目をはなせなくなる。
『まだアリュービーと産卵場の卵が残っている』
なぜかそんなことを考えてしまった。
「蜂人の保護は……区間ゴールで要求できる?」
ボクは誰にともなく、つぶやいていた。
「できるとも。もっとも、わしも絶滅までは考えておらんがな」
答えたのはシュタルガ。
足が止まったボクをアレッサが引っ張る。
「蜂人に義理や情は通用しない……増え広がる以外の意志はなく、戦争のたびに軍事目的で改造されてきた、最悪の部類と言っていい生物兵器だ!」
ザンナからも同じことは聞いていた。
「だからこそ、わしの手元に飼い残す価値がある。……しかし寄生という習性は、通常の蜂人は持たんことを知っておるか? 数百年前に神官が開発した技術だ。最初の『案内人』は、外部から人為的に幼虫を植えこんで作り出す必要がある……そして『案内人』を作る習性は『案内人』だけに受け継がれてゆく」
魔王少女が嘲笑をはりつけたまま、つらつらとノウガキをならべる。
嫌な予感がして、もう一度アリュービーを見る。
「かまうな。あれは人間とは違う……ユキタン!」
アレッサが泣きそうな顔でボクを呼び、アリュービーが振り返る。
「……ユキタン? アナタ蜜い……」
かすかに微笑んだ細い体へ、巨大な鉄扇が振り下ろされた。
「案内人だけはつぶしておかんと、寄生の連鎖で爆発的に増える原因になる」
あとの記憶があまりない。
ボクの目をふさいだアレッサの腰から剣を奪い、返り血にまみれた嘲笑へ斬りかかっていた。
烈風斬が援護に乱射され、魔王は巨大鉄扇をうならせて身を守る。
おかげでボクはたたきつぶされずにすんだらしい。
ボクはラウネラトラのツル草にからみとられ、ダイカに首を握られ……そのあたりで記憶が途切れている。
絞め落とされたのか?
起きてもあまり、実感がない。
「だいじょうぶか? もう暴れるなよ?」
ツル草と『癒しの包帯』に巻かれ、ダイカにかつがれていた。
「ごめん。助けてもらったみたいだね。もうだいじょうぶ……」
下ろされたのは巨大シダの森の中。
誰かに追われている様子はなく、蜂人の巣穴にいたみんなは無事。
清之助くんとメセムス、騎士団の三人も見える。
つきまとうコウモリが不意にモニターを開き、全身を血に染めた魔王を映す。
「映しておいて」
ボクが抑えて、アレッサは手刀をゆっくり下ろす。
広場前は歓声に包まれ、ヤラブカリポーターが相変わらずの悪ノリをしている。
「勇者一行、見事な敗走です! 今朝がた勇者様と濃厚な口づけをして別れたカワイコちゃんは、魔王様の愛撫でグチャグチャになって永遠のお別れです!」
シュタルガは魔王で、悪の頂点だったよな。
あの下卑たバカ笑いをしている豚鬼たちにも、少し親近感とか感じはじめていたけど……この殺し合い祭の主催者の手下だったよな。
「やっぱり、ドルドナくらいには勝ちたいな」
ボクはぽつりとつぶやく。
「だが……殺してなんになる? 貴様は勇者になりに来たわけではないのだろう?」
アレッサの声も、とても小さい。
「さすが勇者アレッサ! 言うことが違います! 母親の仇を前に逃げ続ける底無しの勇気!」
ボクたちの会話をコウモリがひろっていたらしい。
「いい。映しておいてくれ」
今度はアレッサが、ダイカの爪を抑える。
「名将『山の聖騎士』リューリッサも墓石の下で感涙でしょう! あ、シュタルガ様にたたきつぶされたひき肉って、かけらくらいは家族に届いたのですかね? ぜんぶ魔獣の胃ぶ……」
バツリとヤラブカさんのリポートは切り換えられ、選手村広場の巨大モニターには無言で歩くボクたちが映される……パミラさんの指示? なにかしゃべってみろってこと?
「ユキタン同盟の代表としては、ドルドナは殺さないで勝ちたいね。殺して勝つより何倍も難しいだろうけど」
やけに普通に声が出た。ヒーロー症候群というやつだろうか?
非日常的な緊張で感覚がおかしくなって、自分を物語の超人みたいに錯覚している?
「そんで勝ったあと、シュタルガにも『殺す気はないから安心して負けろ』って言ってやる」
でもアレッサに蹴られて走った第一区間の地下道と違って、妙に頭が冷静で、周囲の様子もよく見えていた。
宮殿前広場にはブーイングが渦巻く。
血にまみれたシュタルガはなにくわぬ顔で巣の広間を立ち去る。
ヒギンズたち騎士団の三人は静かに距離をとっている。
アレッサ、リフィヌ、キラティカ、ドメリちゃん、カノアンくんは呆然と見ている。
ラウネラトラはかすかに苦笑して見えた。
ずっとにらむように見ていたダイカは、突然ボクの胸ぐらをつかみ上げる。
「つくづく……節操なくものを言うやつだな! 弱っちいくせに!」
そう怒鳴ったあとで、ボクの唇を思い切り吸う。
厚めの唇が長く強く押しつけられる。
「あ。……つい……なんなんだよオマエ、本当に」
唇を離して最初の言葉がそれで、困ったような苦笑でボクを突き飛ばす。
なんなんだろう、本当に。
さっきアリュービーが殺されたばかりだよ。
昨晩はメイライが成仏しちゃったよ。
「それでも今、うれしいものはうれしいよ。ヒャッホーと叫んでもいいかな?」
誰も止めない。
みんなの顔が、まだ暗い。
清之助くんが考えこんでいるだけでなく、メセムスがそれをずっと心配そうに見下ろしているのが気になる。
「温泉だ。ここは温泉に行くべきだよ清之助くん」
当然みんなの怪訝な視線が集まる……でもなんで清之助くんまで驚いているの?
「ちょうど今、向かっている所だ」
「さすが清之助くん」
みんな虫人の返り血でひどい姿になっていたこともあるけど、もっと楽しい雰囲気がほしかった。
戦場で考えるようなことじゃない気はするけど、今はなぜか勝ったり身を守ったりより、みんなを笑わせたいと思った。
自分がアリュービーのためになにもできなかったからかもしれない。
「あのモニターの向こうで騒いでいる連中より楽しくやろう。そのほうが勝てそうな気がしてこない?」
選手村広場はボクに対するひどい予測で盛り上がっていた。
「ヒギンズさんみたいなことを言いますね」
ニューノさんが少し眉をしかめてポソリとつぶやく。
「人死に、殺し合いの現場だからこそよう。前線のベテランほど陽気なもんだ」
温泉は灼熱洞に近い森の北西にあった。
騎士団の三人が見張りに立ち、ボクたちは虫人の返り血を洗い流す。
足きり部隊の多くはすでに森へ入っていて、のんびりしている時間はない。
「ボク、この戦いが終わったらみんなで混浴するんだ……」
リフィヌやアレッサが生足を洗う仕草だけでも目の保養になったけど、それだけにあわただしい状況が恨めしい。
全身ネバネバだった小人の子供二人と、元からビキニ同然のダイカとキラティカ、それと瞬間も躊躇なしに全裸となった変態野郎は肩までつかって気持ち良さそうだ。
ボクも頭と手足を洗い、足を湯につからせておくだけで、かなり体が楽になる。
とりあえずは、怯えていた小人娘ドメリちゃんが、愛しのキラティカお姉様に甘え放題で笑顔がもどってなにより。
ドメリとキラティカの会話にカノアン、続いてダイカとラウネラトラが呼ばれ、リフィヌや清之助くんも加わって小声の会議が広がる。
「ちょっちいいかのう?」
ラウネラトラが小声でボクとアレッサも呼ぶ。
ドメリは騎士団の目を気にしながら服をまくり、下着のような布をとりだす。
「これはオレの一族に伝わる宝で、『夢見の腹掛け』です。みんなの思いを夢で見られるって聞きました。族長の一族が誕生日やお祝いの時につけて眠ります」
カノアンくんが説明する間にも清之助くんはなぜかボクの服をテキパキ脱がせ、子供用サイズの腹掛けを装着させる。
「それをなんでボクにつけさせる流れ? 小人でも誕生日でもないのだけど」
背が低く丸めのボクでは悪い意味で似合ってそうで、あわててワイシャツを着る。
「魔王の顔が見えるの。いつもは私の顔とか、お父さんたちの顔が見えるのに」
ドメリちゃんはキラティカに抱えられたまま、小さな声でつぶやく。
「でも魔王は私と同じくらいの年だったの」
「話を聞いてみたら、わりかし不穏な魔法道具らしくてのう。周囲の強い意識を夢に見せる効果らしいのじゃが……魔王の過去を知る者の意識が流れこんでおるようじゃ」
ラウネラトラは深刻な顔で言いながら、アレッサの全身をツル草でまさぐって治療らしきなにかをしている。
「魔王シュタルガの出身は小規模な鬼の一族で、『吸血公女』パミラに勝つ前の記録はとても少ないのです。意図的に抹消されていて、調査だけでも危険とされています」
リフィヌは真面目な顔で言いながら、ラウネラトラからぐんぐん距離をとる。
「カノアンの判断で俺たちが持つことになったが、持ち主は貴様以外にはありえん。魔王に斬りかかった記念に持っておけ。ついでにほかの道具の整理もしておくか……」
さっそくというか、狙ったわけでもないのにボクは清之助くんの話の途中で睡魔に襲われていた。
さっき気絶したばかりだけど、歩き通し、戦い通しが長く続いている……
夢に見たのは血に染まるシュタルガの顔。
でも背景は暗い雪原で、鉄扇でたたきのめしている相手は女騎士だった。
蒼髪を後ろに結び、アレッサより少し背が高く、手にした剣も幅広で厚い。
周囲には魔物の姿もたくさんあるようだけど『見ている誰か』の視線はひたすらシュタルガだけに焦点を合わせていた。
小柄な体で繰り返し振り回す巨大鉄扇はネジ巻き時計の歯車のように複雑に接合された大小の鉄扇に支えられている。
返り血を浴び続ける魔王の童顔は頬の筋肉だけで笑い、目には涙がにじんでいる……
その顔がいっそう幼くなり、ドメリと同じくらいに幼い、紅髪の女の子が泣きじゃくっている姿に変わる。
これは『見ている誰か』の記憶の中のシュタルガ?
「わしが魔王になる。わしが魔王になるから……」
すがりついて見上げる幼い女の子の額に、小さく白い二本角。
気がつくと、一分もたってないようだった。
夢で見たのと同じ、ほんの数十秒の間だけ意識がとんでいたらしい。
「ユキタ、眠れるなら数分でも眠っておけ……どうした? なにか『見た』のか?」
清之助くんと目が合い、アレッサもナイフの手入れをしながら気にしていた。
「アレッサのお母さんて、今のアレッサより少し背が高くて、髪を後ろで結んでいる?」
「それで幅広の剣とヒギンズの『大地の脚絆』を身につけているなら、まず間違いない。……前々回、八年前の競技祭でシュタルガに殺されたが、私たち姉妹はまだ幼く、詳しいことを教えられたのは騎士団の訓練生になる直前だった」
母親の仇でも、アレッサがシュタルガに攻撃するのは追い詰められた時だけ。
そしてシュタルガはアレッサを配下に欲しがっている。
あの涙が本物なら……鬼の支配者だけど、顔で笑いつつ心では泣いているってやつなのか?
なにか事情があるのかもしれないけど、シュタルガが目の前に立てば、やっぱりボクはまたとびかかりそうに思える。
「シュタルガとの戦いを見た気がする……あと、小さいころのシュタルガ」
詳しくは言いにくい。
「ところでシュタルガって、ドルドナより強いの?」
みんなは一様に間をおく。
「ボクは巨大鉄扇を振り回すところしか見てないから……弱くないのはわかるけど、あれで魔竜将軍や巨人将軍に勝てるようには思えなくて」
コウモリが離れていることを確認して、最初にリフィヌが小声をだす。
「今でも盛んに議論されている話題です。鉄扇のほかに、相手の動きを読む魔法道具も使うと言われていますが……それでもやはり、あの『双璧』の力押しにかなうとは考えにくいのです。魔王シュタルガは前線に立つことが少なく、自ら戦う時にも集団戦や騙まし討ちばかり。現役支配中の今日ですら、聖魔大戦の歴代覇者でも最弱という説が根強い、異例の存在です」
最弱……って、立ち向かう気力を変な角度から奪わないでよシュタルガ様。
「しかしただ一戦、竜族との抗争で『魔竜姫』ドルドナを一騎打ちで屈服させた実績が大きいのです。その決闘は覇権を大きく引き寄せた転機にも関わらず証言が少ないため、シュタルガによる捏造説や、ドルドナ黒幕説などの疑惑も出たのですが……どの研究家さんも、ドルドナさんの言行を知るほどに自説への自信がなくなるようです」
「まあ、そうだよね。あの暴走火薬庫が買収されて口裏を合わせる分別なんか微塵もなさそうだし、まして支配者を背後から操って自分は部下のふりとか……そんな知性理性を隠してできる芸当じゃないよ。あの頭のひどさは」
みんなが大きくうなずく。
「そんなわけで、配下筆頭ドルドナの人格に根ざした……その……『独特の絶対的信用』によって、魔王の強さに関する議論は堂々巡りとなって、明確な結論が出にくいのです」
「だが『曖昧な結論』はすでに出ている」
湯から上がった清之助くんは前を隠して語ってください。
「少なくとも三魔将なみには強く、ドルドナを圧倒するほどの強さではないということだ。その程度のシュタルガが、わずかな手勢だけで各勢力の強豪が群れなすコース内をうろついている」
「あせっている、ということかのう? 覇権を承認された魔王がなんで今さら?」
女性陣でラウネラトラだけはまじまじと清之助くんを直視しながら答える。
メセムスですら目をそむけているのに……というか魔王の娘さんで大幹部の六烈臣なのに、ずっと同席していてなにか言いたいことはないのだろうか。
「魔竜さんがトップ選手とやり合うみたいだぜ?」
ヒギンズさんの声でみんなはあわてて身支度を整え、コウモリモニターに近寄って見上げる。
朱色髪の長身美女は直立不動で目をつぶり、広間のように大きな通路で下から溶岩に照らされている。
囲んで近づくやられ役は、常人の四倍近い体格の恐竜型の獣人戦士が三匹。
でも意外に動きが速い……あれはもう、ゴルダシスと互角じゃないのか?
最も体格の大きい一匹が前に進み出る。
「我こそは暴竜プルプンテ! 我々が魔王配下十一大豪と呼ばれていたのは、もはや過去のこと! 我々は新たな魔法道具を得て、新たな三魔将として君臨する!」
ティラノサウルスに似ているけど両腕は太く長く、頭は小さめで、姿勢だけでなく体型もかなり人間に近い。
背にはなぜか巨大な背負い袋と、そこから伸びた羽根が一対。
「ドルドナよ! 洞窟深くに引きこもる旧時代の竜どもをいつまでかばうつもりだ? 我らと手を組むならば、新時代の四天王として、竜の新たな黄金時代を共に築く栄誉をやろう! …………起きてる?」
ドルドナはひととおり聞き終えると、ようやく目を開ける。
「貴様はなぜ、竜を名乗る?」
「俺の体に含まれる遺伝子のティラノサウルスが、古くは暴竜とも呼ばれていただけなんだが……いや、そんなことはもう、俺という個体には当てはまらない! 魔法道具『通行止めの翼』によって空を駆け、魔法道具……じゃないけど『手製の火炎放射器』によって城をも焼きつくす俺はすでに、旧時代の竜どもを凌駕する飛行性能と火力を身につけた!」
ドルドナは再び目をつぶって耳を傾けていた。
ダイカがモニターを見上げたまま青ざめる。
「腰につけたあれ……『憤怒の巾着』じゃないか?」
ためこんだ怒りを爆発の威力に変える魔法道具で、今朝の襲撃では山小人の王ズガパッグが『にんじん』と呼ばれる大きさまで膨らませ、魔竜砲の何倍もの範囲を吹き飛ばした。
それが今、ドルドナの腰でみるみる膨らみ、大根に近づきつつある。
「まさか図体や羽や炎を手にしただけのトカゲごときが、竜を名乗れると勘違いしているのか?」




