十一章 鬼や悪魔は人の心に住むもの? 人の心をオブラードに包んだものだろ? 三
「ダイカ……乗せてくれ!」
アレッサはそれだけ言うと、三人の鎧姿が見えてきた通路へ引き返す。
「足きりの一部はもうすぐ煉瓦砦に着く。オレの足でもぎりぎりの距離だし、地下森林は大乱戦だ。いいのか?」
ダイカは清之助くんを見て、清之助くんはボクを見る。
「いける?」「行け」
ボクが聞くなり清之助くんは即答し、キラティカにも同行をうながす。
「もう一人、誰か乗せる?」
「え……っと、リフィヌ、お願い!」
残るメンバーで最も獣人の足を引っ張らず、大きな戦力。
リフィヌはコクコクうなずき、挨拶もまだだった獣人コンビへ頭を下げる。
「万能防御は歓迎。よろしくね」
キラティカも会釈を返し、大きく息を吸いこんで二メートル近い虎獣人に変身する。
「小人の避難を手伝っていたから、こんなものしかないが、預かっていてくれ」
ダイカも体を膨らませながら、ボクにタワシを預ける……これはもしやザンナの言っていた有名クズアイテム『私のたわし』か?
「失くしても手元にもどるだけね。『気に入りの枕』と違って、誰かにひろわれちゃうと所有者は移るよ」
レオンタの治療をしていたはずのラウネラトラが解説しながら、定位置のようにメセムスの背へ這い上がっていた。
「止まりなさいアレッサ! 仲間を置いて一人で逃げる気?!」
激しい勘違いを毅然と言ってのける巨乳スレンダー長身ピンク髪の美人……騎士団選手の総隊長『渦の聖騎士』ことシャルラ女史。
「お嬢まずい。あれを止めたら三人とも斬られる」
背の高い、やせた中年男がなにくわぬ顔でシャルラを背にかばう。
要注意人物『砂の聖騎士』ことヒギンズ。
「な?! ……ちょっ?! あなた師匠でしょ?!」
「弟子だからこそ、やばさもわかるってもんでしてね」
もう一人はかなり背が低く、じっと様子を見ているだけ。
アレッサの表情は見えないけど、まったくペースを変えない早足で脇を抜けようとしていた。
「用ならあとで聞く。今は騎士としての人助けだ。邪魔だてするなら騎士とも人とも思わん」
静かな声に圧され、シャルラは息を飲む。
でも横にならびかけたところで剣を抜き、刃でアレッサの通り道をふさぐ。
「レオンタの代わりを務める気もないなら、それなりの代償を……」
パシンと小さな音しか聞こえなかったけど、シャルラの剣が宙にはじき上げられていた。
ボクの目では、アレッサが剣を抜かずに両腕だけ動かした『らしい』様子しか見えなかった。
そしてまったくペースを変えないまま、すれ違う。
「あとは引き受けた。行け」
清之助くんの声を背にダイカ、キラティカ、リフィヌが追う。
「こっちゃは四対八でだいじょうぶかのう?」
ラウネラトラはもはやメセムスの背中装備と化していた。
「ユキタが行かせたいなら、行かせてから考えるだけだ」
清之助くんはダイカたちがアレッサに合流したことを確認すると、広間へ引き返す。
シャルラは不機嫌顔で剣をひろい、早足で追いかけてきた。
「お嬢、やりあえばよくても四人は減る」
「それで? ヒギンズ、あなたの意見は?」
ボクたちを避け、倒れているレオンタたちへ向かう。
スコナたちはすでに自分たちの装備をひろっていた。
広間の向うの通路からは別の三人も近づいていた。
男二人に女一人だけど『認識の旗』を持っている人はいなくて、たぶん二度ほど見かけた、挨拶はしないですぐに隠れていた隊。
最初に転がっていた二匹のアザラシ獣人と、隅にいたはずの茶色ローブのおじさんはいつの間にか消えていた。
「こうやって合流させたということは、あちらさんも停戦を望んでいる。レオンタが動けなくなった今は、協力してもらったほうがいい」
「なに言ってるの? 四人使えば殲滅できるんでしょ? 『してもらう』なんて頭を下げる必要なんてあるのかしら?」
シャルラの突き放すような口調に、ヒギンズおじさんは呆れ気味に口を開け、ずっと黙っている小さな聖騎士も露骨に不満そうな顔。
「ここで四人減っても、残りの隊とも合流すれば、引きかえしてくるアレッサたちを倍以上で囲めるのよ?」
あのピンク髪さん、停戦を呼びかけた騎士団選手の総隊長のはずなのに……どシロウトのボクでもつっこめる破滅的な発想で得意顔。
「その場合はシャルラ、お前だけは最初に死ぬことになる。理由は言えんが」
清之助くんがメガネを整えながら見据える。
シャルラは片眉をピクリと動かすけど、見下す表情を保つ。
「個人的には、聖騎士の中でもお前だけは死なせたくなかった。その理由も今は言えんが」
騎士の何人かが首をひねり、ピンク頭も言葉の意味をはかりかねているらしく、表情を落ち着き無く変える。
「ど、どういう意味かしら? 騎士団相手の軍事戦略として? それとも女相手に同情をひく戦術? でもそんな……」
いぶかしみつつも、まんざらでもなさそうな……ちょろいな総隊長。
どうせイケメンだから……そういえば美少年ホージャックくんは『本当は優しい総隊長』とか言っていたな。
自覚のない美形男なんて最低だ。自覚があっても嫌だけど。
小さな聖騎士さんもウンザリといった表情でため息をつく。
迷いの森で会ったキチュードよりさらに小さく、ザンナに近い体格。
たぶんオカッパ髪の女の子だけど、かわいい童顔の男の子にも見える。
ヒギンズおじさんが苦笑いでなだめていた。
「魔竜将軍にゴール前をふさがれて困っているんだ。なにかいい手がありそうなら、組んでもよくねえかい?」
ヒギンズはシャルラにうかがいをたてる……ふりして、清之助くんに提案している?
「俺たちで勝つ予定だが、どう協力してもらえるんだ?」
清之助くんの返答で騎士たちに驚きが広がる。
「魔竜とやり合いたくねえからこその停戦だ。直接の加勢は難しい。だが戦って注意をひきつけてくれるなら、すりぬけやすくなるかもしれねえ。もし手傷でも負わせられたら、昼寝に入ることもありうる……」
ヒギンズがしわの深いやせた顔でにこやかに総隊長へ意見を述べる。
「いいから、直接セイノスケと話しなさいよ」
ピンク頭さんも、さすがに周囲の冷笑に気がついた。
「じゃあ……セイノスケさんよう。魔竜戦に使えそうな魔法道具を貸すってことでどうだい?」
「戦闘中や戦闘後に襲われることを考えたら、それくらいは最低の条件になる。もらえるもの、貸せるものをすべて提示してもらおうか」
どうにか戦闘は回避されたけど、まだ緊張感は濃い。
ヒギンズは交渉しながらたびたび巻貝を取り出し、報告らしき呼びかけをしていた。
シュタルガがマイクに使っていた貝に似ていて、より長細くて青っぽい。
ラウネラトラは交渉を清之助くんに任せ、レオンタの治療を再開する。
「人間の体力で魔竜砲なんぞ、日に一度が限界じゃろうに、何回ぶちかましたやら……その上にこのケガ。よく意識がもつもんじゃ」
レオンタの褐色肌は青ざめ、目にはくまが浮かんでいる。
「人の三倍は食うからな……五倍食っときゃよかった。……すまねえスコナ隊長。それにジュリエル、オレはお前が気にくわねえけど……」
「信用はしていたでしょ。あと、魔法に気がつくのが遅れたのはみんなの責任」
ジュリエルという美人は冷淡に答えるけど、言っている内容はそうでもない。
「この『生贄の手錠』を腕につけて念じると、使用者を探しているやつに方向と距離がおおよそで伝わる。部隊集合に使えるが、敵まで呼び寄せちまうから、ほかの通信道具を失くした時の非常用だな。とりあえずは前金がわりのクズ品だ。返さなくていい」
ヒギンズが自分の腰から外した手錠は大きく厚め。
鍵がなくて自分で止めネジをつけはずしできるので、実質は腕輪。
清之助くんはすぐに装着……裸の上半身と合わせてワイルドになってきた。
「ちょっとお! なにを勝手に……ま、まあ、それくらいなら……」
総隊長様は抗議しかけて、部下のみなさんが一斉に非難……を通り越した呆れ顔になったことに気がつき、途中で言葉をひっこめる。
「で……魔竜戦に使うとなれば、これもやっぱ俺の『大地の脚絆』だろうなあ」
ヒギンズが自分の装着しているごつい脛当てをたたく。
名称のとおり、メセムスの『大地の小手』と似たデザイン。
「そっちは絶対ダメよ! 私だって写すんだから!」
シャルラは怒鳴って少し間を開けてから、気まずい顔をする。
ボクの『おこぼれの茶わん』以外にコピー系の魔法道具を持っていることを自分でばらしたと気がついたらしい。
ヒギンズもにこやかに間をおき、小さな聖騎士さんが再びウンザリ顔のため息。
「コピー系の魔法道具というのはね、コピー可能な数だけ魔法道具が増えるに等しい価値があるのよ?」
シャルラさんは突然にとりすまして助言をくれる……なんなんでしょうか一体。
「それだけに、より多くの魔法をコピーできる資質、多くの状況に対応できる魔法と軍事の知識、なによりそれらの魔法を使いこなせる多才な者にこそふさわしい……わかるかしらユキタくん? 異世界から来たばかりのあなたに『おこぼれの茶わん』は手に負えない。私に預けるべきです」
助言から恐喝に移行。
「魔王配下四天王の最後の一角となる千変万化の魔法の使い手『渦の聖騎士』に貢献できるチャンスよ? シロウトでも扱いやすい、代わりの道具なら用意してあげるから……ニューノ、タワシの在庫あといくつあったかしら?」
「三個ですが、茶わんによるユキタンさんの有効コピー率は総隊長の倍以上です」
小さい聖騎士さんがそっけなく答える。
総隊長様は顔をひきつらせてにらむけど、オカッパ頭のニューノさんはなにくわぬ顔で無視。
「それより交渉を再開しましょう。時間がもったいないです」
ヒギンズは苦笑いで顔をこする。
「で……まあ、この脚絆は俺の主力だし、そちらさんに渡すと厄介な道具だ。そこの『大地の小手』を使いこなす魔法人形さんなら、訓練なしでも動きがかなり良くなる」
メセムスにスピードが加わるなら、たしかに大きな戦力増加だ。
「だから、ゴール後は確実に俺か団長へ返すことを約束してもらいたい。あとはまず、アレッサたちが無事に帰ることだな……司令部からの情報で、森の中央にある洞窟へ入るまでは確認した。そこへもどって来たら迎えに行こう。うちからも護衛を一隊つける」
みんなで壁に止まっている紫のコウモリを見上げる。
選手が多いためか、カメラだけでなくモニターつきのコウモリも一匹残されていた。
「シャンガジャンガどの! 降参しに来たと伝えたではありませんか!」
両手と頭が大蛇になっている蛇男が両手をすり合わせて大鬼の軍勢にヒザをついていた。
その隣には胸部が半分以上も飛び散った燕尾服カタツムリ男の変死体が地面にへばりついている。
「あ、わりいわりい。そいつがいきなり変な声と顔を出すから……まあ、勇者や聖騎士様じゃあるまいし、やりあってる相手の言い分なんざ真面目に聞ける性分じゃねえんだよ。ほら、お前はもういいから行けって。……連れてく? これを? 生きてんのかよ?」
豪傑鬼が変死体を鉄棍棒でつつくと、ズルリと顔だけが持ち上がる。
「おおおほ、刃物の斬り口と違いましてえ、棍棒では傷口もボロボロでそう簡単にはつながりゃなぐふぶほおっ」
シャンガジャンガが少し嫌そうな顔をして鉄棍棒を振り上げ、蛇人が必死にすがって止める……画面はそこで変わってしまった。
蛙姫ジュエビーさんがゴールしても、そこに仲間はいるかどうか。
「これ、魔法道具ではありませんよねえ?」
次に映ったウサギ獣人ピパイパさんは金銀のマントを持っていた。
血に染まる大型の鉄靴にひれ伏しているのはトゲ鎧と刃鎧を見る影もなくクチャクチャにつぶされた犬鬼と小鬼の低身長ユニット。
「そういえば清之助くんのマントや鉄棒は? ダイカたちはつけていたけど……」
「鉄棒はうっとうしいから最初に捨てた」
君たしか剣道は全国レベルで、棒術もなにか免状を持っていたよね……
「マントは暑くなってきたから、挨拶してきたあいつらにくれてやった」
モニターに映っているのは清之助くんの銀のマントと、一緒にうなずいたラウネラトラの金のマントらしい。
メセムスだけが胸にまだ銀の大型リボンをつけていた。
「撹乱用の偽物だそうでして。今、人気急上昇中のユキタン同盟で新たな四天王とも言われる勇者セイノスケ様からの頂き物ですから、いずれプレミアが……」
「ん~。とりあえず君たちは自爆部隊でがんばってね。はいみんな出発~」
ピパイパさんは周囲の豚鬼たちに脱落選手を胴上げさせ、後方へ送らせる。
「セイノスケくん、こちらが資材を大量投入してつかんだ情報をただで得るなんて虫がよすぎるのではなくて?」
シャルラ総隊長閣下がまた突然に居丈高な声をだす……言うことがいちいちトンチキすぎて、もはや新たな衝撃を期待しないでもない。
「なにか欲しい情報でもあるのか?」
清之助くんの従順な返しに、シャルラはフフフフと鼻で笑って間を作る。
もうそれ以上、ボクの長身スレンダー巨乳美人に対するイメージをこわさないでください閣下。
「貴重な『虚空の外套』を守るために姑息な手を考えたようだけどね? あなたたちから獣人が別れて行動した時点で本物の所持者なんて特定できているのよ?」
清之助くんは要求を尋ねたのに、ピンク頭は謎のダメだしをはじめた。
「転送基地は打たれ強い獣人か魔法人形を選ぶ……そして魔法人形は銀色をつけているから、もう一枚は虎獣人の持つ金色が本物……と見せかけて! 実は狼獣人の持つ銀色こそが本物! あなたたちのミスは、魔法人形につける銀のマントを結んでしまったこと! すぐに使える状態にないマントが本物のわけがないのよ!」
説明はわかるのだけど、今ここで言う理由が最強にミステリーだよシャルラお嬢。
ボクたちよりもニューノさんのほうがそろそろ事件を起こしそうな虚ろな目。
「では本物の金色のマントはどこにあるのか? 裏をかいて、あの虎獣人の金色がそうかと? ……フフフ、違うわ。それはあせって飛躍しすぎた発想ね」
ボクは少し楽しくなってきたけど、二番隊スコナ隊長は頭痛を発症し、あとからきた三人の隊長格ノッポさんだって金属ブーツでガリガリと床をかきむしりはじめて隊仲間からなだめられているよ閣下。
「答えはその魔法人形の大きすぎるスカート! 人が一人、十分に隠れられる大きさのスカート内に金色のマントを設置しておけば! 周囲から隠れて転送ができる!」
「……と、ぼくと副隊長で出した推論はすでに必要ない状況ですから、要求する情報だけ伝えてはいかがでしょう?」
ニューノさんはもはや暗い微笑みすら浮かべていた。
「まあその一応……部下が出した結論が合っているかどうか、確かめる必要があるでしょう? これから協力し合うなら、マントの効果が重要になる局面も考えられるでしょうから、念のため」
あれが協力を求める態度と推理できる手がかりはどこにもありませんでした。
そして清之助くんがメセムスのリボンを結んだ意図は『どうせすぐばれるから見た目を重視』だったとは言い出しにくい。
「メセムスすまない。少しの間、無礼を辛抱してもらえるか?」
普段セクハラ三昧の清之助くんがなぜか紳士的に詫びを入れて断り、うなずきの確認を得てからスカートのはしをつまむものだから、男性陣は思わず巨体の土人形から顔をそらす。
「フフフ! それではお礼に、私のコピーさばきを披露してさしあげますわ! アレッサに見くびられたままでも困りますし!」
……え。
総隊長様は長いスカーフのついたコンパクトケースを開き、メセムスのスカート下から見えた金色の『虚空の外套』を鏡に映す。
閣下もしや、転移魔法をコピーする気?
「……待て! やめ……」
ヒギンズが止めようと振り返るけど、お嬢はお目付け役から何歩か離れて鏡を開いていた。
「あちらでは狼獣人が銀色のマントを見せて歩いているのだから、すぐにもどりま……」
シャルラが余裕の表情で広いスカーフをかぶって縮こまると、バサリと全体が平たくつぶれる。
「お嬢まさか、はじめからアレッサを驚かせたいだけで?!」
ヒギンズさんがあわててスカーフをつかみ上げると、シャルラさんの剣、鎧、靴、服が残され、スカーフの端には魔法コピーのコンパクトケースがぶら下がっていた。
聖騎士の皆さんが青ざめ、一斉にコウモリモニターを見上げる。
「ん? なんか落ちたか?」
まさに銀色マントの狼獣人と、その首にしがみつくアレッサが映っていた。
落ちゆく長い素足も一瞬だけ映る。
螺旋状の階段が外周にある縦穴で、獣人コンビは階段を無視して螺旋を縦に飛び上がり続けている。
カメラは急遽、謎の落下物であるピンク頭に向けられる。
「フフフ! 驚いたようね! せいぜい急いで…………え?」
シャルラさんは得意げにアレッサを指した自分の右手を見て、鏡を持ってないだけでなく、小手どころか服のそですらない腕の露出に気がつく。
そして自らのいき過ぎたクールビズに呆然とし、階下からせまっていた小鬼の大群にうろたえ、最も近い横穴へ身を隠す。
「問題ない! 急いで!」
キラティカの声が小さく聞こえた。
「あっちゃあ! すぐに助けを求めりゃ、なんとかしてもらえたかもしれねえのに、自分で隠れちまった!」
ヒギンズさんが常に消えない眉間のしわを一層深くして、ピシャリと額をたたく。
モニターには『これは芸術表現です』という謎のテロップが表示され、裸の女王様のランニングを後ろから追い続ける……さすがに気の毒で痛ましい。
「裸以外での転移はほぼ不可能だ。救助へ行くならつき合おう。アレッサを迎えに行くついでだ」
清之助くんがボクとメセムスに出発をうながし、ヒギンズさんは苦笑いで両手を合わせて感謝を示す。
「むしろ指揮権をヒギンズさんに移して効率を大幅に上げるチャンスでは」
ニューノさんが真顔でつぶやく。
「そうもいかねえだろ……俺とニューノで行く! 二番隊と五番隊はこの近くで待機! 『乱舞の銛』だけ貸してくれ! ……あれほど他人の魔法は不用意に使うなって言ったのによお……」
ヒギンズは慌ただしく指示を出しながらぼやきも混ぜる。
鏡はニューノさんに預け、シャルラの服と靴だけ自分の腰ベルトにひっかけている。
「あのピンク頭、余計なことをする分、カラッポよりたちが悪い」
五番隊の隊長らしきノッポが舌打ちしながら槍……ではなく、よく見れば魚とりに使う銛をヒギンズに渡す。
「どうせ脱落なら、せめてヒッソリ消えて欲しかったねえ」
スコナ隊長のつぶやきに静かにうなずく騎士多数。
ボクとラウネラトラは顔を見合わせ、あの状況で一言も同情されないシャルラ総隊長閣下の凄まじい人望に戦慄する。




