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2-25 NTRな彼女。必ず寝取られるエロ漫画のヒロインを助けて、イチャラブエンドを目指す

「NTR(寝取り・寝取られ)だけは絶対に許さない!」


三度の飯よりエロ漫画が好きな俺は、推し作家の新作NTR漫画に絶望し、ショック死する。

しかし目覚めると、そこはNTR漫画の世界。

俺はヒロインを寝取られるだけの、惨めな『モブ主人公』。


天使のように純粋で可愛い幼馴染のJK、サヤカ。

彼女がクズ男たちに穢され、心を壊される未来なんて絶対に認めない。


「純愛しか勝たん!」


原作知識を武器に、全てのNTRフラグをへし折ってやる!

そう誓って最初のイベントを回避し、勝利を確信した俺。

だが世界は残酷な強制力で彼女を堕としにかかる。

彼女が穢される映像を見せられ、再び絶望して死んだ俺が目覚めたのは――。

全てが始まる、あの朝だった。


失敗すればNTR、そして死に戻り!?


これは、ループするNTR地獄を乗り越えて……。

ヒロインとイチャラブハッピーエンドを迎えるまでの物語。

 俺はエロ漫画が好きだ。

三度の飯より、エロ漫画が好きだ!


 高校生になるとアルバイトをして、稼いだお金は全てエロ漫画に使った。


 幼馴染が好きだ、ケモナーが好きだ、ツンデレが好きだ、ギャルが好きだ。


 教室で、屋上で、異世界で、洞窟で、〇〇しないと出られない部屋で。


 TS(性転換)も良い、百合も良い、時間停止も良い、透明人間も良い。


 ――ありとあらゆる、エロ漫画が大好きだ!


 そんな俺でも許せないエロジャンルがある。

誰もが忌諱すべき、憎むべき、滅ぶべき、呪われしそれは……。


 ――N・T・R(寝取り・寝取られ)!


 人の不幸を蜜にして、エロを売るNTRだけは許せなかった。


 それなのに……。


 俺は今、神として崇拝している、天才エロ漫画家――

広川恵先生の作品を前に固まっている。


 半年ぶりに出た新作が、まさかの、NTR……。


『堕ちていく、僕の幼馴染JK』


 嘘だろ……広川恵先生。

リアルで何があった?


 先生の書く作品はどれも愛があり、救いがあった。

必ずヒロインは主人公と結ばれ、幸せなセックスをして終わる。


 ハッピーエンドになるに違いない!


 そう思っていた、のに……。


「ううあああ!」


 涙が止まらないっ!


 天使の生まれ変わりのような純粋で可愛いヒロインが凌辱される。

優しさを利用され、騙され、罠にハメられ、NTRされる……。


 最後は闇落ちして、心も失い、人形のようになる。


(うっぷ……)


 吐き気と悪寒が止まらない。

許せない、こんな物語、俺には許せない……。


 俺は天井に向かって、両手を上げて叫んだ。


「あああああ!」


 地球がグルグル回転して、天と地の境界を失う。

視界が赤いのは血の涙でも流しているのだろうか。


(許せない……。こんな理不尽、あってたまるか!)


 ドクンッ! ドクンッ!


 胸の奥が、宇宙大爆発ビッグバンのように、慟哭する。

心臓が悲鳴を上げて、破裂するような痛みが俺を襲う。


 ――ブチン……ッ!


 そのとき頭の中で、決定的な音が響いた。

何かが切れる音。

それは意識の糸なのか、それとも……。


 ドンッ! と床に頭を打つ音がして、世界は暗黒に沈んだ。





 ――リリリリリ。


 頭の上で響く電子音がうるさくて、手を伸ばし止める。


「んっ……」


 どうやら俺は寝ていたらしい。

目をこすり身体を起こすと……。


「どこだ? ……ここ」


 自分の部屋じゃない。

それどころか――。


(誰だこれ……?)


 部屋の隅にある鏡を見ると、俺じゃない姿が映っていた。

そして、その顔には見覚えがあった。


(コウイチ?!)


 この存在感の薄い顔。

没個性を体現したような、モブ中のモブ。


『堕ちていく、僕の幼馴染JK』の主人公。


 ヒロインの幼馴染にして、NTRされる――寝取られる側の男、『遠藤コウイチ』だった。


(なぜ、こんなことに?!)


 俺が狼狽していると、ドアがコンコンと叩かれた。


「お兄ィ! サヤカちゃんが来てるよ!」

「は?」

「入ってもらうからね!」


 ――ガチャ。


 ドアがゆっくりと開く。


 そこに立っていたのは――。


 腰まで伸びた、桜色の髪。

八の字眉で困ったように笑っている。

高校の制服を着ていて、大きい胸と細い腰の存在感がヤバい。


 あのヒロインの、『真宵サヤカ』だった。


「コーちゃん、ごめんね……。ちょっと早く来ちゃった」


 嘘だろ……。


「……すぐ行くから待ってて!」


 俺は咄嗟に返事をして、ドアを閉める。

制服に着替えて一階のリビングに行くと、妹とヒロインが楽しそうに話していた。


「遅かったけど、なにしてたのお兄ィ? もしかして朝からエッチなこと、してたのぉ?」


 JC(女子中学生)のツインテールの妹がニヤニヤ笑いながら言う。

さすがエロ漫画の登場人物。


 間違いない。


 ――俺は、エロ漫画の主人公に転移した。





 ザコ妹は無視して、真宵サヤカと高校に向かった。


 原作を知らない読者に説明しよう。


 舞台は、高校生になったばかりの、主人公とヒロイン。

二人は付き合ってはいないけど、好き合っている。


 同じクラスになり、これから甘い青春が始まると思ったら……。


 次々と襲ってくるNTR(寝取られ)イベント。

主人公は、穢され堕ちていくヒロインを見ているだけで、何もできない。


 クソみたいな、どうしようもない結末。


 ……だったら!


 俺のやることは決まっている。

こんなNTR世界なんかぶっ壊して、ヒロインを幸せにしてみせる!


 ――純愛しか勝たん!


 スマホを見ると、今日は4/10の月曜日。

原作知識のある俺は、この週にどんなイベントが起きるか知っていた。


 教室に行くと、俺と真宵サヤカの席は隣同士。

昼休みに二人でご飯を食べるはずだった。


 だけど彼女は席を立ち、こう言うんだ。


「コーちゃん、私……用事があるから、また後でね。すぐに戻ってくるから」


 俺は主人公と同じように、「分かった」と微笑む。


 サヤカがどこに行くのか知っている。

彼女の机に入っていた手紙の主に呼ばれて、化学準備室に向かうはずだ。


 タタタッと早足で駆ける彼女の後ろを、俺はコッソリ追いかける。


 ここで止めてもいいが、確証が欲しかった。

本当に原作通りに進んで行く世界なのか。


 ――彼女が化学準備室の戸を開けると、そこに立っているのは、最初にNTRするクソ野郎。


 チャラさを具現化したような、羽毛のように軽い男。

同じクラスの、『田々中ユウスケ』。


「来てくれたんだね、サヤカちゃん」

「私に話があるって……。なんですか?」

「そんなに緊張しないで。僕は、君に助けて欲しいんだ」


 田々中は金髪をかきわけて、フフッと笑う。


 俺は知っている。

奴は彼女に、あるお願いをする。


 ――勉強を教えてくれと。


 それは口実で、ほどなく奴は、自分の家にサヤカを誘い出す。

彼女は人を疑うことをしない。

聖女のごとく、助けを求められたら、純粋に行動をする。


 奴の家に行ったサヤカは、出されたお茶(薬入り)を飲んで眠ってしまう。

そのまま処女を奪われて、盗撮をされて、脅されて、逃げられなくなる。


(そんな未来を、俺が許すか!)


「やあ二人とも! こんなところで何をしてるんだい?」

「コーちゃん?」

「なんだ君は!」


 俺は陽気に二人の間に割って入った。


「田々中くん。君は勉強を教えて欲しいんだよね?」

「なぜそれを!」

「提案だが、三人で放課後に勉強をするのはどうだろうか?」

「いや僕は彼女と二人が……」


 田々中が言葉に詰まっていると、パアァッ! とサヤカは笑顔で言った。


「そうだったのね! 皆で勉強をするの、良いと思うわっ!」


 よしっ!

二人きりにさえしなかったら、何もできないはずだ。


 田々中はその場の空気に押されて、提案を受け入れた。


(ざまぁみろ!)


 これでNTRイベントのフラグをへし折ったと俺は思っていた。


 そう思っていた、のに……。





 日曜日、俺はベッドで寝転んでいた。


 ――ピロンッ!


 ふいにスマホが鳴った。

見ると、サヤカからのビデオ通話。


(なんだろう?)


 タップすると、雑音が聞こえる。

映像は暗く不鮮明で何か分からない。


「サヤカ、どうした?」


 俺が焦って言うと、しばらくして、男の声が聞こえる。


「言ってやれよ。今自分が、何をされてるってさあ!」

「……ハァ……ハァ」


(なんだこれは!)


「俺が見せてやんよ!」

「いやっ……」


 画面には、上半身裸のサヤカが映し出された。

手で顔を隠しているが間違いない、彼女だ。

大きな胸が、激しく揺れている。


「ハハハ! おい見えるか? 愛しの幼馴染が、犯されてるのを!」

「や、やめてっ! 見ないでえ!」


 パンパンパン! と音が鳴り響く。


「ううあああ!」


 涙が止まらないっ!

身体が震えて、激しい嗚咽が喉から出る。


 どうしてこうなった!


 NTRイベントは俺が潰したはずだ!


(うっぷ……)


 画面を見つめながら、吐き気と悪寒が止まらない。


 部屋がグルグル回転して、遠心分離機のようになる。

 視界が赤いのは血の涙でも流しているのだろうか。


(許せない……ッ!)


 ドクンッ! ドクンッ!


 胸の奥が、超新星爆発スーパーノヴァのように、慟哭する。

心臓が破裂するように痛い。


 ――ブチン!


 そのとき頭の中で、聞こえてはいけない音が響いた。


 ドンッ! と床に頭を打つ音がして、世界は暗黒に沈んだ。





 ――リリリリリ。


 頭の上で響く電子音に、思わず手を伸ばし止める。


「はっ?!」


 俺は汗まみれで飛び起きた。


 辺りを見回すと、ここは遠藤コウイチの部屋。

急いでスマホを確認する。


 ――日時は、4/10の月曜日。


 戻ったのか?

彼女がNTRされる前の世界に。


 俺が狼狽していると、ドアがコンコンと叩かれた。


「お兄ィ! サヤカちゃんが来てるよ!」

「は?」

「入ってもらうからね!」


――ガチャ。


 ドアがゆっくりと開く。

そこに立っていたのは――。


 真宵サヤカ。


 俺が守りたいと願った、まだ穢されていない、純粋無垢の天使。


 俺は理解した。

世界が巻き戻ったことを。


――今度こそは、絶対に彼女を守る。


 相手が神だろうが悪魔だろうが、このクソみたいなNTRから!

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