8月27日 4人の少年と夏の山 エピローグ
8月27日 夕方
4人の小学生達はうろな中央公園に集まり、1週間前の出来事について話し合っていた。
「考えれば考えるほどわかんねーな、やっぱ」
「諦めんなよ、ダイサク」
「じゃお前は分かるのかよ、ユウキ」
「いや、全っ然分かんねえけどさ」
「だろうがよ」
あの日の翌日、ユウキが眠る間際に聞いた声の事を思い出し「あれ、天狗の兄ちゃんの声と似てたな」と言うので、4人は商店街をうろうろして天狗仮面と遭遇するのを待った。
やっと見つけた天狗仮面に土産だと持って帰ってきた羽扇を渡した際、天狗仮面にならと事情を話したところ、「無事で何よりであるが、あまり危ない真似をするものではない!」と軽く拳骨をくらってしまった。
「天狗さんも知らないって言ってたしねえ」
「でも、何だかわざとらしい感じだったじゃん?怪しいと思うなー」
「天狗さんが怪しいのはいつもの事だよ、シンヤ君」
「その怪しいとは別だって。タツキ」
タツキが挫いた足もようやく良くなって今日もう一度西の山に行ってみた4人だったが、何度見ても一週間前に通ったあの道は見つからず、山頂休憩所からは一本道が続いているだけだった。
「うーん、今日は駅員さんもちゃんといたし、電話も出来たし…」
「それはユウキの勘違いって事になったじゃねえか」
「本当なんだってば!」
「僕が思うに、何だか不思議な感じだけど、本当なんだと思う」
「でもおかしいじゃん。やっぱり」
西の山で不思議な体験をした4人は、一体全体何がどうなっているのか分からなかったが、あれこれ調べまわった結果として「まあ、いいか」という結論に達しつつあった。
どの道、誰に話しても信じてくれないような突拍子も無い話である。自分達の中での共通の思い出としておけばそれでいいのではないかと皆思っているらしかった。
こういった、不思議や非日常をすんなり受け入れてしまうのは、天狗仮面の影響に拠る所が大きいのは周知の事実である。
天狗仮面のような非日常の存在と触れることで、彼らの日常の境と非日常の境は曖昧になりつつある。ただ、そんな突拍子も無い経験であっても、ひっそりと確実に彼らの中に積もっていくのである。
うろなの町には、まだまだ彼らが出会っていない非日常があるだろう。そういったものに、きっといつか彼らは出会うに違いない。
「ま、いいや。変な出来事だったけど、俺達4人だけの秘密ってことで」
「おう。それより明日は何して遊ぶ?」
「遊ぶのもいいけどダイサク君、夏休みの宿題やったの?」
「へん、あんなもん、無料の長物だぜ」
「確かにお金払ってまで宿題もらいたくないけど、
間違ってるよダイサク。無用の長物だよ」
「う、うるせえ。わざと間違えたんだよッ。
弘法も筆に謝るって言うだろ!?」
「言わねえって。何に対してゴメンなさいしてるんだよ。
やっぱ、ダイサクはダイサクだよなー」
「そうだねえ。もう夏休みも終わるし、明日はダイサク君の家で
宿題を終わらせようよ」
「さんせー。あ、タッキーもちゃんと終わった宿題持ってきてくれよな」
「お前も終わってねえんじゃねえか!」
彼らの笑い声が公園に響く。
夏休みは間もなく終わろうとしているが、彼らの日常は変わらず続いていくのである。
本編、これにて終了です!
イェー。不思議現象は天狗や仙狸の仕業だと思ってくださいまし。
見えない所で見守る天狗と、何かとけしかける仙狸が裏でこそこそやってた姿をどうぞご想像下さい。




