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うろなの小さな夏休み   作者: 三衣 千月
うろなの小さな夏休み
12/20

8月4日 4人の少年と幽霊探し その2

 8月4日(日) 昼



 森に幽霊探しに来た4人は、白い髪で赤い目をした不思議な少女、ユキと出会った。

 一緒に昼食を食べようと提案され、その具材となる山菜をユキの指示に従って採っているのだが、ダイサクはどうにも附に落ちないものを感じていた。


「ユキねーちゃん、コレ、大丈夫かー?」


「大丈夫ですよー」


「コレは?」


「それはダメですー。食べちゃダメって言ってますよー」


 選別の基準が、どうにもよく分からないのだ。


「……ユキねーちゃん、大丈夫か?」


「何がですか?」


「いや、なんでもねえ」


 キノコや山菜を採る中で、「あら」とユキが声をあげた。どうしたのかと4人がユキの元へ行くと、そこには鮮やかなオレンジ色に染まった小さな果実がたくさん生えていた。


「クサイチゴですよ。甘くておいしいです。食べてみますか?」


「いいのか?ありがとー!」


ユウキをはじめとして、4人は礼を言ってその果実をそっともぎ取った。小さな粒が弾けそうなほどに集まっているそれを口に入れると、柔らかい甘さが口の中に広がった。森を歩きまわり、山菜採りで疲れた体にはとても優しい甘さであった。


「うわぁ、甘いねえ、ダイサク」


「おう!コレ、中は空洞なんだな」


「少し手間はかかりますが、ジャムにも出来るんですよ」


「え、ジャムって作れんの?」


「ええ、美味しくなっていく様子を見ながら作るのは楽しいですよ」




   ○   ○   ○




 一行は山菜を抱えて小屋に戻り、ユキは「採ってきたもので、お味噌汁作りますね」と台所に立った。


「へー、中はキレイなんだな。外はボロボロだったのに」


「こら。そういうこと言わないのユウキ君」


 あちこち見回すユウキをたしなめるタツキ。シンヤは少し気になっていた事を台所で作業をするユキに聞いてみた。


「ユキさん、あの御札ってなんのために貼ってるの?」


「あれはね、この前に森に来た人にもらったんです。

 貼っておけって言われたから。芦屋さん、って中学生の子ですよ」


 それを聞いて、ユウキとタツキが


「あ、ケイドロ大会で勝負した姉ちゃんだ。なんだっけ?、オンミョウジ?」


「うん、陰陽師。妖怪とか退治するんだって」


 と会話に参加する。ダイサクもそれに続く。


「マジかよ。じゃ天狗の兄ちゃん、退治されんじゃねーの?」


「天狗さんはただのお面付けた人間でしょ?」


「えー、わかんないじゃん。本物かもよ。ねえ?ダイサク」


「だよなー。自分で『町を守る天狗である!』とか言ってるもんな」


 天狗仮面について4人が談笑していると、ユキが「出来ましたよー」とテーブルに戻ってきた。話の内容に少し興味があるらしく、「天狗がいるのですか?」と聞いてきた。


 天狗仮面は、うろな町を代表する変態と言っても過言ではない。天狗の面にジャージ、唐草模様のマントがトレードマークだ。何より、幾度と無く警察の厄介になったと言う事実が、彼の変態という名を不動のものにしている。


「ユキねーちゃん、見たことねえの?」「そこらを歩きまわってるよ。天狗さん」


「あんまり町を歩きまわることは無いので…。

 でも、面白そうな方ですね。会ってみたいです」


「商店街の近くがよく会えるポイントなんだぜ」ユウキが言う。


「ふふ、憶えておきますね。さあ、ご飯にしましょう」


 山菜と茄子の入った味噌汁がテーブルに置かれ、少年たちは自分で持ってきたおにぎりを取り出す。


「たくさん持ってきたから、一緒に食べよう」そう言ってユキにもおにぎりを渡す。


「あら、ありがとうございます。美味しそうですね」微笑むユキ。


 自分たちで採ってきた具材で作られた味噌汁は格別に美味いと感じられた。もちろん、ユキの腕もある。4人とユキは和やかに食事を楽しんだ。


「そういえば、茄子って横の庭にあったヤツか?」ダイサクが問う。


「ええ、そうですよ。しっかりお水をあげていれば、美味しく育ってくれるんですよ」


「すげえな。山口さんが聞いたらうらやましがるぜ。

 美味しい野菜を作るのは大変だっていつも言ってるもんな」


「おー、山口さん家の野菜、商店街にも売ってるんだろ?ウチ、最近は

 ずっとそこの野菜使ってるぜ」


「町には色々な方がいるのですね。楽しいですか?」


「うん、とっても。毎日楽しいよ!」


「あとは勉強さえなけりゃなぁ」


「ユウキはそればっかじゃん」


「うるせー」


 賑やかに食卓を囲む。とても楽しい昼食の時間であった。




   ○   ○   ○




 昼食も終わり、のんびりとしている所で、タツキが口を開いた。


「ユキさん。どうしてこんな森の中にいるんですか?」


 そう問いかけると、ユキは少し困ったように微笑みながら、


「お留守番…してるみたいなものです。

 最近は、ここにいないこともあるので少し不安ですけれど。

 あと、絵を描いているんですよ」


 それと同時に部屋の少し離れた所からユウキの声がする。


「その絵ってこの部屋にあるのか?ユキねーちゃん」


「もう!ダメだよユウキ君!勝手に人の家であれこれしたら!」


「う…ごめん、ユキねーちゃん。でも、少しだけ見てもいいか?」


「ええ、いいですよ」


 ユキは、絵画に触れないようにとお願いをして、4人をアトリエの方へと案内した。

 アトリエとして使われている部屋には、様々な絵が置かれており、中にはとても大きなサイズのものもあった。

 何も書かれていないキャンパスの横には、様々な道具が置かれているが、少年達にはそれが何のために使われるものか想像もつかないようなものもあった。


「学校の美術室よりすげーなー」


「あれ?ユキさん、あんな所にカマキリがいる」


「追い出すか?とってやるぜ?」


「ううん。大丈夫。あのカマキリ君は苛めないでね」


 少年たちは少し不思議に思ったが、山菜採りの時点からすでに不思議な感じがしていたので、特に何も言わず、そういうものなのだろうと結論付けた。

 彼らのこういった、そこにあるものを比較的容易に受け入れる性質は、おそらく天狗仮面と言う非日常的な存在が近くにいるからではないだろうか。

 それが少年達にとって良い事か悪い事かは、誰にも判別する方法はない。


「なあ、ユキねーちゃんってプロなのか?」


「お金をもらうこともありますが、まだまだ遠いです。

 上手くなるには、やっぱりたくさん書くことですね」


「じゃあ、今度天狗の兄ちゃんに会ったら、描いてみてくれよ!」


「先程、お話にあった天狗さんですか?」


「そう!きっと面白いと思うぜ!」


「天狗兄ちゃん、嬉し泣きするかも知れねーな」


「面白そうじゃん、それ」


「もう、みんな勝手なことばっかり言って……」



 タツキが呆れたように言い、少年たちは笑う。アトリエから出て庭の菜園の世話などを手伝ったりしていると、時刻は3時を回っていた。


「そろそろ行かないと暗くなって道が見えにくくなるね」


「そうだなタッキー。そろそろ帰らないとな」


「結局、幽霊なんていなかったじゃん!あー、良かった」


「シンヤは本当に怖がりだなぁ。帰りに“出る"かもしんねーぞ?」


「や、やめてよダイサク!」


 4人で遊んでいると笑い声が絶えない。それを微笑ましく見ていたユキは「私も行きますよー」と声をかけた。


「クマやイノシシも出ますから。あ、でも、途中の木の橋。

 あれを作ってくれたのはクマさんなんですよ」


 もう何も突っ込むまい。少年達はお互いに目で合図を交わしながら、ユキの台詞を聞いていた。それが真実だとも思わずに。





   ○   ○   ○




 帰りの道を歩きながら、ダイサクがこっそりとユウキに話しかける。


「おい、どう思う?」

「味噌汁つくれる幽霊なんて聞いたこともねーよ」

「だよな……。でも、普通じゃねえだろ」

「普通じゃないヤツなんかいっぱいいるだろ。天狗とか、天狗とか、あと天狗とか」

「天狗だけじゃねえか!」

「あ、ほら、つっちーとか、夏祭りにいたカラスマントとかよ」

「そういうのじゃねぇんだよなぁ……」


「どうしたんですか?」ユキが後ろから声をかける。


「い、いや、なんでもないぜ!」

「そ、そうそう!」


「そうですか?あ、そこ木の根が出てるので気をつけてくださいね」


ユキは最後尾からのほほんとついてきている。タツキとこの時期にとれる山菜の種類や、いつ頃うろな町に来たのかなどを話していた。


 「もうすぐバス停の近くですよー」とユキが言う。ひらひらと白い蝶がどこからともなく飛んできて少年たちの周りを飛び、ユキの肩へととまった。ちらりとそちらに目をやり、そのまま少年達に声をかけるユキ。


「しばらく、森に近づいちゃダメですよ」


「……?」


 少年たちは首をかしげる。とはいえ、せっかく忠告してくれているものを無碍にすることもない。「わかった」と曖昧に頷いて、再び前を向いて歩き出した。


 『うろな家前』のバス停の近くだという場所まで戻ってきた。ユウキは、ユキに礼を言うために後ろを振り返り、他の3人もそれにつられるように後ろを向く。


 しかし、その場所には誰の姿も見えず、少し薄暗くなった森への入り口が見えるだけだった。


「……え?」

「ユキねーちゃん?」


 今のいままで一緒にいたユキの名を呼んでみるが返事はない。4人の背筋を、何か冷たいものが走った。

 4人は顔を見合わせて早足でその場を後にし、自転車を取りに森の横の道を歩きながら疑問に思ったことを口に出す。


「やっぱり幽霊だったんじゃねえか!?」

「いやだから味噌汁食ったろ!?」

「そういえば、誰もユキさんに触ってないよね」

「やめようよぉ!話題に出すのやめようよぉ!!」




 夏休みも中盤になろうかと言う8月頭に、少しだけ恐ろしい体験をした4人。様々な経験をすることで、少年たちは少しづつ成長していく。


 余談であるが、北の森の幽霊騒動は4人の話によってさらに有名なものとなる。そして4人は許可もなく森の奥まで行ったことを「危ないじゃないか」と先生方に叱られることとなった。






桜月りまさんの雪姫ちゃん、引き続きお借りしました!


一体、最後に何が起こったのか!?

最後の“ウラ側”は桜月りまさんの8月4日相当部分でお楽しみ下さい!



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