8話 コイツまじか!
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●ギフト
クラスやジョブによるものではなく、その人自身に与えられた力。
神から与えられたといわれるもので恩恵と呼ぶものもいる。
個々人や種族によってギフトは違い、また先天的なものや後から突然発生する後天的なものもある。
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ポイントの説明が終わり、ギフトの説明。
最初のキャラメイキングのときは選べなかった項目。
「正直、貴方をどうするかが一番の問題だったわ」
「すいません」
閉口一番、神様は言う。
謝るはことはないと思うけど、つい謝ってしまう。
「貴方達をここに呼び込み、予定より人数が多くない? と首を捻った私達は貴方というイレギュラーを発見し……うん、まぁ、色々あって……返品することは無理だし、人数が一人ぐらい増えてもいいかなとポジティブに考えたわ」
「柔軟な発想というわけですね、はい」
「万全を期したものでも、アクシデントが発生するものだからね。そこで問われるのは対応力よ。そこは神でも人間でも変わらないと思うの。貴方達に試練を与えたつもりだったけど、本当に与えられたのは私達だったのかと思ったわ。試練を与えてきた貴方に恨みを抱いたけど」
「そこは伏せていてほしかったなぁと」
「理不尽な八つ当たりってわかってるわ。もうみんな別の存在を恨んでいるし、大丈夫よ」
仲良く話している横の女神様、こちらを微笑んでいるあのキツネ耳の女神様も実は僕を恨んでいたとなったら、もう何を信じていいかわからくなりそうだ。
恨んでいないという言葉は文字通りなのかもしれない。別の存在はなんなのか、それを聞くとやぶ蛇っぽくなりそうだから黙っておくけど。
「で、生かすことになった貴方を調べてみたら、まぁびっくり。一度異世界に行ってやらかしてるみたいや! 肉体性能が普通ぐらいのはずなのに魔王倒しとるでコイツ! ありえへん存在やわ! 表面上の力は探れるちゅーのに深部はわからん! イカれた存在に格上げや! 封印指定ものや! ってなったの」
なんで関西弁になってるの?
「まぁ、探れないのは私達も知らない別の異世界、理の異なる世界に渡ったせいだからなんでしょうけど。詳しく調べたらわかるかもしれないけど、時間も設備も足りないし、なによりそんなことやりたくないわ! 学者じゃないのよ、こっちは! 魔王を解剖してる場合じゃないの!」
「魔王呼びはやめてください」
「そのせいでポイントが凄いことになってるし。再度、緊急会議が開かれて、どうするか色々話あったわ。この時点で貴方達が集められてからゆうに一日は過ぎているわ」
「想像以上に大事になっているのですね。今この場で仲良く女神様と話をしているのが奇跡だと感じてます」
もう僕を殺したほうが楽なんじゃないかなと他人事のように思ってしまう。
しかし目が覚めたらこの白い空間にいたけど、拉致されてから結構時間が経っていたんだなと。それはもうみんな早く終わらせたいのもわかる。
色々解説してくれる女神様には感謝しかない。
「ポイントが文字通り桁外れで、こちらもその数値をなかったことにできない以上、困ったことになったの。全ての項目で使い切ってもポイントが余ってしまうの」
「それが問題なのですか?」
女神様のニュアンス的に、キャラメイキングをポイントを使って全取得して強さを得るより、まるでポイントを余らせることのほうが問題かのようだ。
「ポイントは可能性を意味するわ。力と言ってもいいわね。貴方達は力が与えられ、自分の望むように力を振り分けて異世界に行くの。異世界という理の異なる場所に適合できるように神の力を混ぜ合わせると言ってもいいわ」
「そう解説されると、かなり配慮されて異世界に送られるのがわかりますね。こっちに連れてこられた方法は拉致ですけど」
「拉致型に決めた担当者(上役)にはこのプロジェクト全員から恨まれているわ。拉致型には反対意見もあったのに。希望制や招待制、もう最悪トラックにひかれた人限定とかにしていればと何度も頭によぎったわ。なに、拉致型の方が色々な人材が集まるから、その方が楽しいじゃんよ。無敵結界持ってる魔王を召喚しちゃったじゃない!」
その魔王を倒した側なんですけど、入れ替わってない?
話が脱線したわねと女神様は話を戻す。
「ポイントを使って貴方を無類の強さにする案もあったけど、強くなりすぎて異世界滅ぼしちゃったってなったら、私達の評判も地に落ちるから却下されたわ」
「そんなこと一切やるつもりありません」
「力を持っていないのに魔王倒す時点で何も説得力がないのよ! 魔王舐めてるの!?」
「すいません!」
いや、アイテムを使っただけですと反論できない雰囲気だ。
魔王のところまで屈強な護衛に連れられた村人的存在なのに。
「文字通り、可能性の塊を持っているって神の存在から言うと怖いのよ。向こうの世界の神も嫌がると思うわ。最悪消しにくるわよ」
「怖っ!」
「神と戦争して、万が一貴方が勝ったりしたらもう世界滅亡エンドへ行く流れじゃない?」
「そんな当然のように言われても……」
神様と戦って勝てるはずもないけど、それを確信しているのは僕だけだ。
経歴で言えば、力を持ってないはずの村人が魔王を倒したのだから。
文字にすると不思議だね。怖い存在に思えるよ。
「そもそも貴方の自由意志を認めている以上、意に反してポイントを使わせるわけにもいかないからね。かといって異世界にポイント持ち越してどう化けるかもわかないし、もう最悪、異世界滅ぶ可能性もあるかなとちょっと諦めも入ったわ」
ちょこちょこ異世界全滅ルートを前提に話をしているけど過大評価し過ぎだと思う。
村人はどこまでいっても村人なのだ。
「貴方の希望とこちらの権限とポイントの兼ね合い、どうすればいいか会議をしたわ。時間がかかったわ」
「僕の希望ってなんなのでしょう?」
そんな会議参加した覚えがないのですか?
僕の意志とは関係なく話は進む。
「それがこれよ!!」
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《今は遠き理想郷》 消費ポイント11000P
鳴神水面が暮らしていた部屋を異世界に再現させる神の御業。
住居へはゲートを使って入ることができる。
時間経過は変わらず、住居由来のものは外部へ持ち込めない。
外部の者は侵入できず、隠密性、隠蔽性、誤認性、忘却性を兼ね備えている。
DPによって物品補充・拡張可能。
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「これでクレームばかり出して、拒否されたら泣くわよ! もう異世界を滅ぼすなり好きにして!」
「そんなヤケクソ気味に言われても……」
温度差がっ……。
しかし、じっくり説明を読んでみると、悪くないような。
いや、悪くないどころか、かなりいい?
「異世界にいて、僕の部屋にいるような生活ができるということで間違いないですか? もしそうなら、最高なんですが」
「ええ、概ね合ってるわ。ネットには繋がらないけど、電気も水道もガスも動くようにしている。貴方の家をほぼ再現しているわ」
「すごい!」
まさしく神の御業だ。
ネットに繋がらないのは残念だけど、そこに文句を言うのは無理筋と思う。
自分でも納得しているのに駄々をこねるのは悪意のあるクレーマーだ。
「DPってなんです?」
「ダンジョンポイントの略よ。貴方はダンジョンを攻略していくことでDPを得るの。そのDPを使って、貴方の住居を維持していけばいいの。食べ物は食べたらなくなっちゃうからね。補充したかったら頑張ってということよ」
「なるほど」
「ダンジョン攻略する世界で、転生者全員を平等に扱う手前、貴方だけを特別扱いできないからね。ごめんね。そこだけは譲れないの」
私が横にいて口をだしている時点で平等とはなんなのか私にもわからないけど、建前ってものがあるのと女神様は言う。
僕も仕事をせずニート生活が理想ではあるけれど、駄々をこねる気はない。
神様達が僕の内なる願望を最大限考慮した結果がこれなのだろう。感謝はあれど、不満はない。
「もし、貴方の希望があれば聞くわ。消費ポイントをもうちょっと下げてとか、ギフトの名前とか、何かあるでしょ?」
「うーん、特には」
「え、ほんとに? よく考えるのよ。今が貴方の運命を分ける分水嶺よ? 私がここまで親身になるのもおかしいけど。ノリで判断していい内容じゃないわ」
女神様は信じられないと目を丸くする。
感謝に対して行動で示すなら、そのまま受け取るべきだと僕は考える。
ユーザーの意見を反映することも誠意という考えもあるけれど、この権能を創る際、僕の意見はなかった。どういう理由かはわからないけれど、そうすることが最善だったのだろう。
僕としては内容に不満もない。消費ポイントの多さには驚くけど、それでもポイントは多く残る。
平等と優遇の兼ね合いの妥協点がそこなのだろう。
もし、消費ポイントを下げてと言えば、女神様はそこまで嫌な顔をせずに下げて貰える未来が見える。だけど、そうすることが嫌だった。僕のワガママというか矜持なのかもしれない。不利益よりも大事にしたい、譲れない部分。
ここまで丁寧に説明してくれた神様。最大限の便宜を図ってもらえていると断言してもらってもいいだろう。その神様が消費ポイントにおいても配慮してくれてないとは思えない。ワガママを言えばポイントを下げてもらえ、異世界の生活が楽になるのは確かなのだろう。神様とは二度と会えない存在だから、これっきり。旅の恥は掻き捨てで、図々しくしてもいいという考え方もある。
だけど、それは恩を仇で返すようなものと僕は思ってしまう。損な性格と言えばそれまでだけど。
だから、僕は何も要求しない選択をした。
神様は要求しない僕の態度に目を丸くした後、肩をすくめた。
その姿はどこか残念そうに見えた。
「え、じゃあ、文句なかったら契約書にサインしてね。サインしちゃうと決定だから以後、クレームや返品・交換できないのでご注意ください」
僕の胸元にポンと一枚の紙とペンが現れる。
ともに空中に浮いており、僕が手に取るのを待っているかのようだった。
とりあえず紙を手に取る。
紙には《今は遠き理想郷》の説明と注意事項がビジネスの契約書みたいに難解な文章で記されていた。
その文章の最後に僕の名前の記入欄がある。
女神様に文章の要約を説明され、ギフトの欄で取得できる他のスキルを見させられ、もう一度消費ポイントはこれでいいかと再度問われ、
「では、名前を書きます」
僕は契約書にサインをしたのだった。
光の粒子が契約書を包み込み、消滅するかのように目の前から消えた。
女神様はそれを見届け、謳う。
「契約は成った。それは神々との約束であり、宣誓であり、不可侵の盟約。それを侵そうとするならば大逆としれ」
先程の親しみのある口調とは一転して、厳かで侵すことのできない荘厳さがそこにあった。
紡ぎ出される言葉は厳しく、穏やかだった。
女神様の言葉が僕の中に打ち込まれるような錯覚を覚える。契約という言葉が頭から離れない。僕は簡単に決めすぎてしまったのではないかと恐怖を抱くほど。分水嶺という言葉が脳奥から……浮かび上がってくる。
契約はここに成った。
女神様の言葉が終わっても、
僕はただ、それを……呆然と……眺めることしか、できなかった。
9話はそこそこ書き直し必要な感じなので2-3日いただきます。
1月10日追記 風邪ひきました。治ってからの投稿になります。申し訳ございません。




