6話 いろんな意味で台無しになる話
「じゃあ、最後のキャラメイキングの時間始めるわよ!」
あの後、ちょっとグダグダとした時間もあったけど、僕たちは無事に最終フェーズへと進もうとしていた。
泣いても笑っても、この30分でこれからの異世界生活の未来が決まってしまう。
交流のフェーズは癒やしの時間だったが、これからは真剣な時間だ。一秒も無駄にはできない。シリアスに挑もう。ここからはおちゃらけはなしだ。
「始めっ!!」
女神様の言葉と共に僕たちは転送される。
白い空間には変わりがないが、僕だけしかいない空間へと変貌する。
女神様曰く、パーティーごとにバラけさせると。基本的に自分の力でキャラメイキングをするのだが、話し合いをしてもいいとのこと。
僕はソロなので、一人ぼっちだ。
「でも、人と相談すると時間取られるから、この場合ソロの方が有利なのかもしれない。あの集められた人の誰よりも」
「負け惜しみよね」
「それは言わないで」
ダンジョン攻略ってパーティー単位だから、役割分担とかできた方が有利なんだよなー。ポイントが限られているんだからアイテムとかも共有した方が良いし。
それに、ソロだと特化型が不利なんだよねぇ……
「って女神様!?」
「うわっ、いきなり大声! びっくりするじゃない」
なんで横にいるの!?
「先に言っとくけど、近くにいるからって、私の胸を触らないでよねっ!」
「冤罪です!」
触ってないよ!
触るのはみきぽんさんの胸だけで、他の人の胸を触る気は一切ない!
脳内でみきぽんさんが切れてるイメージが浮かぶが、僕の本音だ。女神様に触れるとか恐れ多い。祟られそうだしね。
「不謹慎なこと考えてない?」
「滅相もない」
女神様は胡乱げな瞳でこちらを見る。
流石、神様。
こちらの考えていることなんてお見通しみたいだ。
「私の胸のサイズみきぽんに負けてないからね? 胸の大きさってアンダーバストってものがあってね。大きさで一概に判断しちゃ駄目なのよ。男の人って単純に考えちゃうけど」
「そんなこと一切考えてませんが」
気の所為だったみたいだ。
胸の大きさというかブラのサイズの話になってる気がするけど。
しかし、この女神様、神様の威厳がなくなって話しかけやすくなってるのが困る。
友達かのような気安さだ。人間として、上位種の存在に失礼なんじゃないかな、怒られないかなと思うが、女神様は寛大なようで気にしてないはいないみたいだ。
僕の危機察知センサーにも反応はない。
それでも、どこに地雷があるのかわからないので注意しながら丁寧に会話をしなければ。
「これは罠。時間が限られているから、神様に惑わされずにキャラメイキングをしないといけないという試練」
神様には悪いが、ウィンドウに集中しよう。
これは試練なんだ。横におわす存在に心を乱して時間を削っては駄目だ。
神様には道楽というか観戦気分なのかもしれないけれど、こちらは真剣勝負。
もう1分も経っている。このままじゃ不味い。
「あ、私がいるし、時間延長したいならできるわよ? というか話したいことあるし、貴方だけ制限時間なしにしちゃおう」
「シリアスを返して!!」
先程の決意を木っ端微塵にするような一言が女神様から放たれる。
体ごと女神様に向いてしまう。
「なんで女神様が横にいるんです!? 話かけてくるし! キャラメイキングは? というか制限時間無視しちゃっていいんですか!? この空間維持できないとかあるから時間が決められているのでは?」
「うわっ! いきなり、そんな質問攻めしないでよ!」
したくもなるよ!
なんでそんな身近な存在になってるの?
色んな意味で全否定だよ!
「横にいるのは貴方を監視するため。これ以上変なことになっても困るもの。私が直に見てあげるの。キャラメイキングの助言と解説もしたあげるし、貴方にとっても悪くないはずよ」
「ええっ、それはありがたいですけど。ええっ……」
「時間は規則ってだけで融通が効くのよ。空間云々は方便。神様の力舐めんじゃないわよ。維持できないわけないじゃん」
女神様は律儀に僕の質問に一個づつ答えてくれたようだ。
新しい疑問が湧いてくるけど、とりあえずジャブ程度に簡単なことから質問していこう。
「なんでそんな方便を?」
「いち早く帰りたいから」
そんな俗っぽい理由で僕たちの運命は決まってしまったのか。
ジャブ投げたらカウンターを返された気分だ。お腹痛い。
「あのねー。馬鹿にしてるけど、大変なのよこっちも。私は残業とか大丈夫だけど、予定とかある神もいるのよ? プロジェクトを率いる者としてうまく不満を減らさないといけないの。あと、貴方達にとってはこれは恩恵と同時に試練でもあるし。貴方に時間制限とか、ちゃっちい試練を与えたくないわ」
まるきっり社会人のような台詞だ。
威厳とか尊厳とか消滅しちゃってるけど、いいのかな?
「って他の神?」
「他の神」
神様の視線につられてみると、少し遠くの位置に一人の女性が立っていた。
静々と、ただ立っているだけで威厳があり、大和撫子そこにありという貫禄があった。そして、人間とは絶対に違う点があった。キツネ耳が生えている。
そのキツネ耳の女神様はこちらを見て静かに微笑んでいる。
思わず手を合わせ頭を垂れてしまう。
「まぁ、彼女は予定がある神じゃないけどね。他の転生者を見ている神とかが予定あるのよ」
「あれが神様という存在……すごい」
「ねぇ、すっごい失礼なこと言ってる自覚ある? 私を見て言ってみて。コラッ、目を逸らすな!」
こ、神々しくて直視できない!
「あ、あの、とても気になってたんですが、監視ってなんですか!?」
「露骨に話を変えてきたわね」
ジト―っとした目で睨まれるが、諦めたようだ。
はぁとため息をつきながら神様は説明してくれた。
「内情喋っちゃうけど、貴方本当はこの異世界転移に呼ばれるはずがなかったの」
「え、でも呼ばれてますよね?」
「うん。イレギュラーね。神としても想定外。うわっやばいっと思ったら」
神様はジャパニーズマフィアが来ちゃったと、消え入りそうな声で小さくこぼした。
え、なに? マフィア?
「もう変更もできないし、にっちもさっちもいかないからもう貴方を異世界に飛ばすしかなくてね。もうてんやわんや。もう貴方のことをなかったことにして消しちゃいたいけど、そうもいかないし」
「地味に始まる前から殺されそうになってるんですね」
「貴方の悪運の強さなんなの? 調べたら、もう過去に一回異世界行って、魔王倒したとか言うし、そんな人がホイホイこの企画に参加しにきてんじゃないわよ。デスゲームじゃないのよ! 楽しそうだからって飛び入りで参加してもらっても困るのよ!」
「僕の意志じゃないんですけど!」
はなはだ不本意です。
できるなら地球で貴族的なニートになりたいと思ってます。神社で願ったこともあります。
「このプロジェクトに集めれた人は、あーこっちの人にわかりやすく言うとAI? AIによって自動的に条件に合う人物が強制的に集められたのよ。そして、細かな条件を当てはめ、それに当てはまらない人は弾くみたいな」
「なるほど」
それなら腑に落ちる。
美男美女しかいないのと、関係性がある人物を一緒にまとめて集められたのと。
こうまであからさまだと偶然の一致とは言えない。
神様が言うには漁で使うような大きな網で魚を掬う感じだそうな。この場合、魚は人だけど。とある地域の人をがばっと集めてから選別して、いらない人は弾く。
「強制的に集められる術式には逆らわないのに、弾く術式には断固として抵抗するって貴方の体どうなってるの? なんかそんな信念でもあるの?」
「知りません」
言いがかりだ。
僕だって弾かれたいよ。平和に生きたい。
「でもしょうがないから人数にいれるしかないか、ってなったら騒ぎばっか起こすし」
「すいません」
「魔王倒したとか異世界行ったことあるとかの偉業のせいでポイントがとんでもないことになってるみたいなのよ、貴方」
「え?」
ウィンドウ見てみと神様に言われて、ウィンドウを出現させる。
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・名前:鳴神水面 ・年齢:17 ▼
・性別:男 ▼ ・種族 ▼
・造形 ▼
・クラス ▼
・主能力 ▼
・耐性 ▼
・魔法 ▼ ・適正属性:
・アイテム ▼
・ギフト ▼
・スキル▼
・転移場所 ▼
・パーティー ▼
残り時間 ●●分
獲得ボーナスポイント ▼ 11194P
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