5話 アウェイは友達だ。
その後、みきぽんさんは女神様の御力ですぐに復活した。
女神様に、貴方って本当に私に迷惑ばかりかけてくるけど、私に恨みでもあるのって、文句なのか小言なのかわかない言葉を貰った。かなり心外である。
「えーっと、少し話を聞いてたけど、君って彼女らとパーティーを組むのではなく、ソロで行くんだよね?」
「ええと、はい、そうです。ソロ好きなんで」
森人さんが僕に話かける。
もともと、森人さんが僕に話をかけにきたことで起こったのが発端だ。何か僕に用があったのだろう。まさかと思うけど、少しこの先の展開が予想できたりするので予防線を張ってみる。
周りの視線がなぜか僕に集まっているし。森人女子軍が親の仇のように睨んでるし。
「よかったら、僕のパーティーに入ってくれないかな?」
注目が集めっているのに、なんのそのと、森人さんは朗らかに言う。
さすが俳優さんだ。視線とか怖くないみたいだ。
森人女子軍からは、なんでとかポイントが勿体ないとかセクハラ男を入れるのは危険ですとかの声が飛ぶ。他には、なんで貴方達はここで世間話ばっかりしてるの? 危機感ないの? ピクニック気分でいるの? 馬鹿じゃない? という罵詈雑言のフルコースが。
やめて! 僕だけじゃなく、みきぽんさん達にもダメージがくるから! 視界の端で女神様が小さく頷いているのが一番心にくるけど。
「静かに」
森人さんの一言で女性達の非難の声が止む。
森人さんが僕の目を見て言う。
「僕のパーティーが失礼なことを言ったね。申し訳ない。僕の仲間に入ってほしいのは本当さ。男手があった方が助かるし。君も理由もなくセクハラをしたわけじゃ……ないよね? うん。なら、きっと大丈夫なはず。男の人がいたら、僕も気が休まるし、助けると思って受けてくれないかな? 何かあったら責任は僕が取るから。森人直人の名にかけて」
何を言っても格好良さがある。さすが俳優。言葉に力がある。
それに、誠実さがある。僕を立て、女性を立て、自分を下に置く。この集められた中で一番発言力、影響力があるのに。
けど、それでも思う。
なんで僕を擁護するときはそんなに自信がなさそうなんですか? 理由もなくセクハラするわけないじゃないですか。
森人さんの言葉でみんながぽ―っと熱に浮かされ、視界の端で女神様はありえねーとばかりに白目をむいて、
「すいません。お断りします」
そんな空気の中、僕は断った。
森人さんの目が見開く。
「僕を思っての提案ありがとうございます。大変ありがたいのですが、お断りさせていただきます。ソロ、好きなんで」
「そう。彼は私と組む」
「違うからね」
「ぶー」
突然入って来ないでほしい。空気読まず来るね。
そして、断ったら断ったで怒るらしい。
森人さんのご提案なのになんで断るのかという森人さんガールズの非難の視線が貫いてくるが、森人さん自身は肩をすくませ、笑って許してくれた。人間ができているね。すごい。
「じゃあ、仕方がないね。ごめんね」
「いえ、せっかくのご提案断ってすいません。誘ってもらって嬉しかったです」
本当に僕には過ぎた提案だ。ぼっちを救おうとするなんて勇者の行いだと思う。一度目の異世界召喚の森人さんならもっとうまく救っていたかもしれない。
気がつくと残り時間は五分を切っていた。
このフェーズ、大部分が無駄話となって情報交換とかできてないけれど、不思議と後悔はない。これからみんなで情報交換するって空気とかもうなさそうだし、有意義な話なんてできないだろう。
ならば、まぁ、
「タケルくん。少し、いいかな?」
「えっ、あ、はい!」
女神様も交流しなさいと言っていたので、幼なじみーズの黒一点のタケルくんに話かける。名字は忘れたけど、タケルっていうのは覚えていた。
突然、年長の人に話をかけらて少し驚いている。怖がらせないように、優しく声をかける。
ゆっくりと記憶に残るように。
「タケルくん。その年で異世界に行くとなると僕らより不安になると思う。けど、君の隣の幼なじみさんも不安なことを忘れないでほしい。自分のことだけじゃなく、周りを見て、気遣い。周りもそれに甘えずいい関係を築いてほしい」
「……はい」
年長者から年下に向けて言葉を贈る。
ちょっとくらい格好つけてもいいだろう。
「みきぽんさん」
「えっ!? あ、はい」
毒気を抜かれたように返事をするみきぽんさん。
どうやら怒ってないようだ。
「胸触ってごめんね」
「ひっ!」
みきぽんさんに謝ると、咄嗟に胸を隠された。
トラウマになったようだ。
もう触らないから大丈夫です。怯えないで!
「とてもいい感触でした。誇ってもいいと思います」
「そんな感想いらないわよ!」
「警察に捕まっても、もしかしたら後悔がなかったかもしれません。それほどのものでした」
「いらないって言ってるわよね! このセクハラおとこっ!!」
「惜しむらむは全盛期の胸の大きさを味わいたかったです」
「そろそろ殴っていい? グーで殴るわよ、グーで」
ごめんなさい。
視線のブリザードがまた強くなるけど、もう諦めた。
アウェイは友達だ。
「星崎さん」
「なーに?」
「結局、無駄な時間取らせて感じになっちゃたね。ごめんね」
友達の胸を触ったセクハラ男なのに、まるでそれがなかったかのように以前と同じ友好的な態度で接してくれる。そんな彼女に詫びを。
不純物の僕さえいなければ、この時間も有意義なものになったのかもしれない。
だから、最後に詫びないといけない。
「ううん。鳴神君と話せて楽しかったよ。君の人となりを知れたのはなによりの財産だよ。それに……」
「それに?」
「あたしたち、ズッ友じゃん」
「ははっ、そうだね! ありがとう!……理沙さん!」
「にゃはは! そこで理沙って呼んでくれるのかぁ。お姉さん少しズキュンときたよ。なる……私もみなもっちと呼ばさせてもらうよ。みなもっちと私達はズッ友だヨ!」
理沙さんの言う通りかもしれない。
彼女達と友達になったのがなによりの宝物かもしれない。あと、理沙さんが再度みきぽんさんに僕をパーティー入れようと掛け合っているのが少し嬉しかったり。
「って……うわっ!」
「次は私。あと雨月って呼んで」
順番制!?
理沙さんを押しのけるように、九冬さん、いや雨月さんが僕の前に立つ。
ノリで話しかけていたので、全員に言うつもりはなかったとは言えない。期待に目を輝かせてるし。なにか良いことを言わないといけない雰囲気だ。
「雨月さん。最初に話かけてきてくれてありがとうね」
「ん」
「もし、話かけてくれなきゃ、人見知りだったから誰にも声をかけれず、体操座りして俯いてたと思う。不安で絶望してたからね」
周囲から、あれギャグ? とか、絶対嘘よとか聞こえる。
ズッ友なのに酷い。
「だからこそ一番の感謝を。パーティーを組めないのは残念だけど、君達の人生がよいものになるように祈ってる」
「私は諦めない」
そう言って一歩後ろに下がる。
諦めないって言っても無理なんじゃないかな。異世界で会うのは難しいようなそうでもないような。
みんなの後方で、女神様が次は私に言うの? って小首を傾げ、自分を指差ししている。
いや、全員に何か言いたいわけじゃないので、次いってくださいとジェスチャーで返す。女神様に個人的に言うこともないですし。交流ないでしょ。
なぜか全員の注目を浴びてしまっている。そんな中で女神様とジェスチャー合戦。
周りの何やってるんだこの人達という視線が。
女神様は顔を赤くさせながらゴホンと、空気を変えるように咳払いをする。
「え、じゃあ終わったのね。最終フェーズ。キャラメイキングをするわ! よく聞きなさい、特に鳴神水面!」
名指しはやめてほしいな。
「ねぇ、ミナモの好み教えて?」
「聞きなさいって言ってるでしょ、鳴神水面!!」
僕、喋ってないよ!?
後ろに一歩下がったのになんで平然と会話しようとしてるの? 会話終了の合図じゃなかったの?
はぁ……。
気がつけば森人さんより注目されてるなぁ……。




