4話 駄目でした
作品の雰囲気としてはこんな感じになるかと。
「終了ーーーー!!」
女神様の明るい声が響いた。
キャラメイキングのウインドが消え、僕たちは顔をあげる。
そういえば、途中から周りことが目に入らなかった。雑念が消えたかのようにウィンドウに集中していた。
みんなはどうだったかと、顔を上げると、
「「……………………」」
大なり小なりはあるけど、僕を含めた全員、顔を朱に染めた。
「はいはい、恥ずかしがらない! いいじゃない、耳が尖ってたって、ネコ耳ついてたり、綺麗になったって。自分がそうなりたいからしたんでしょ! 変じゃないわよ! 似合ってるわよ! もうウィンドウ出して変更しようにもウィンドウ出せなくしてるから諦めなさい!」
そう、造形で決めたことが反映されていたのだ。
僕も背が高く、足が長くなっている。
顔もちょっと凛々しくなってたり。
「じゃあ、自己紹介してね」
そう言って女神様は、端にいる女性を指差す。指を差された女性は、私が驚くが、早くと女神様に促されると慌てて自己紹介を始めた。
自己紹介といっても、名前と年齢を言うくらいの簡素なものだったけど、
「私は九冬雨月。そこにいる鳴神水面くんと同じ学校のクラスメイト。以後よろしく?」
まさか知っている人がいるとは思わなかった。
クラスどころか学年でも、いや学校でも有数の美少女。
そんな存在なのに、僕は最初チラッと見たときには気がつかなかったのだ。自分の世界に入ってたもんなぁ……。
そして、有名人といえば……。
「はじめまして。知っているかもしれませんが俳優の森人直人です」
自己紹介と共にキャーッと黄色い声が飛ぶ人物。
今話題のドラマで主演を演じる芸能人がそこにいた。
似ているなと思ったけど、まさかの本人だった。
貴方、ここにいてもいいのと言いたくなるけど、僕たちは拉致同然で連れて来られたんだから良いも悪いもないね。
ドラマ放送中だけど、ドラマはこれからどうなるのかなとか、この人消えたら世の中大騒ぎになるんじゃないかなとかどうでもいいことが頭の中にでてくる。
女神様の前で言うのはなんだけど、あまりの非現実な存在の登場で僕たちは放心し、その後の、幼なじみ三人組も霞むぐらいの衝撃と共に自己紹介は終わった。
僕の自己紹介とか全然覚えられてないと思う。序盤に森人さんの自己紹介とか反則です。
「とりあえず自己紹介は終わったわね。知っている人もいるから組みやすいかもしれないけれど、ちゃんと交流してパーティーを決めなさいよ」
女神様はそう言って、30分後に最終のキャラメイキングをすると言った。
女神様の話が終わると、自然と三つのグループに分かれた。
一つ目のグループは森人さんグループ。森人さんとそのファンらしき人の四人だ。森人さん自身のイケメンと芸能人というオーラで、キャーキャー女性陣が騒いでいる。本人は少し引き気味だけど、嫌な顔せず女性陣と握手している姿は芸能人なんだなぁ、やっぱ凄いなと思う。
二つ目のグループは幼なじみーズ。
自己紹介で幼なじみと言っていた三人組。男の子一人と女性二人だ。
仲は悪くないようで、男の子はたけちゃんと愛称で呼ばれている。
そして三つ目のグループが僕達。
いや、正確に言えば、彼らからあぶれた人達の集まりというか個人組が集まってきている。
芸能人のグループに入りづらく、幼なじみーズのところに割って入るのもと思った人達が集まってくる。
「ばんわ」
「……ばんわ?」
ただ唯一の顔見知りの九冬さんと挨拶する。
クラスメイトと言っても、話をする仲でもなかった。クラスでも僕とは違った意味で浮いている存在。独特な世界観というか雰囲気を持つ人だった。口数は多くはないし、表情もあまり変化しないのだけれど、容姿の良さと背の低さが相まって独特の愛くるしさがあり、クラスの女子から愛されていた。
男子からは胸部の豊かさから一部熱狂的な人気を獲得してたりもする。
今もその胸部は健在で、むしろキツネ耳が生えていたりするので破壊力増加中だ。
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「いや、なんで挨拶から会話がないのよ」
何を言えばいいかなと見つめ合っていると、横から声が飛んだ。
そちらに目を向けると、ギャルっぽい雰囲気の女性がいた。ギャルというのは偏見があるのかもしれない。長い髪をツーサイドアップでまとめられて、明るい髪色で、もともとの髪色なのか、造形で変えたのかよくわからないけどよく似合っている。垢抜けた女性というのが僕の印象。
口調は呆れた感じだけど、非難している色はなく、親しみがそこにはあった。
「私とミナモはこれで通じるから」
「すごっ!」
「えっ?」
「でも、彼すごい驚いてるけど?」
「照れ隠し」
「目を見開いてるよ?」
「照れ隠し」
強硬に照れ隠しを主張する九冬さん。
どうすればいいのかなと思っていると、
「二人ともいい加減にしなさい。時間が決まっているのよ。無駄話は止めるべきだわ」
「みきぽん、お堅ーい」
声が飛んできた。
えーっと非難をあげる九冬さん。
九冬さんは無表情で発言者を見上げている。顔の表情からはやっぱり何を考えているのかわからない。
「仲良くなるための挨拶みたいなものだよ?」
「あの中身のない会話が?」
「助走って言葉知らない? 知らないかー? ここから私達が彼の家族構成から趣味まで丸裸にする流れだったんだよ」
「そう」
「そんなの知ってどうするのよ」
みきぽんと呼ばれた女性は黒髪の長い髪で背中まで届こうかというロングヘアで、ツリ目でキリッとした印象から真面目な委員長といった感じだけど、豊かすぎる胸部と目元の泣きぼくろが独特の色気を醸し出している。
しかし、愛称で呼ぶので二人はもしかしたら友達なのかもしれない。
「そもそも彼とはパーティー組まないでしょ。家族構成とか知っても意味ないじゃない」
「えっ……」
「みきぽん、酷い! 彼ショック受けてるよ」
「マイコーの悪魔―。横暴ー」
「むしろなんで二人はそんなに乗り気なのよ! おかしいでしょ!」
二人から反対されて少したじろぐ、みきぽん。
三人は会ったばかり?なのに息があっている。羨ましい。
ソロでもいいけど、パーティーを組めるなら組みたい。三者三様の美少女なので気後れみたいなものを感じるけど、頑張ってアピールしていこう。諦めるにはまだ早い。
「みきぽん、あの……」
「みきぽん言うなっ!! 失礼よ」
目を釣り上げて怒るみきぽんさん。
確かにいきなり愛称で呼ぶのは失礼だった。
「みきぽんさん、あのっ……」
「さんをつけなさいって意味じゃないわよ! みきぽんって言うのをやめなさい! なんで見ず知らずの男の子からみきぽんって言われないといけないのよ!」
目を限界まで釣り上げ、猫の威嚇のようにシャーッと声をあげられた。
名前覚えていないんですと言ったら、更に怒られそう。一回の自己紹介で名前を覚えるのは難しいのです。人数も多いし、森人さんの衝撃もあったし。
どうしよう。初手で対応ミスってしまったみたいだ。好感度が地に落ちた気がする。
「ごめんねー。みきぽんは男の子慣れしてなくてね。男の子だっていうだけで、威嚇してしまう悲しき習性を持つ生き物なんだよ。慣れていけば大丈夫だから、優しく見守ってあげてね」
「照れ隠し」
「あ、自己紹介したけど一応言っとくと、星崎理沙だよー。気軽にりさりさでも理沙でも好きなように呼んでね。で、こっちはみきぽん」
「愛称で言わないで! ……三木谷未空よ」
みきぽんさんの頭をよしよしと撫でながらそう言う星崎さん。不本意ですと顔をぶすっとさせているけど、撫でられるままいるみきぽんさん。
「照れ隠しとか習性とかじゃないから。男の子ってだけで論外なの! 異世界なのよ! 危険だわ! 警察も頼れる人もいないのよ!」
「でも危険だからこそ、男の子がいた方がいいじゃん」
「そうだ、そうだ」
「でも、それなら彼じゃなくてもいいでしょ!」
頭から手を払い除けながらみきぽんさんは言う。目線はチラチラと森人さんの方を向いている。
わかっていてもクリティカルヒットだよ!
「みきぽんは面食いだからねー」
「違う!」
「ねっ」
「違うって言ってるのよ! ひ、人柄よ! 私、彼のドラマとか見てるもの! 雑誌の対談とかも見てるし! 誠実な人なのよ、直人さんって」
「マイコー、バカ?」
「憧れは理解から最も遠い感情って偉い人も言うからね。まぁ、でも、あの中に割って入るの無理じゃないかな? 周りの女子たちめっちゃ威嚇しているし、勝ち目薄いよ?」
そう。森人さんグループに入っていけないのは周りの女性陣が、彼に近寄ろうとする動きがあれば強い目線でこちらを睨むからだ。最初、森人さんに視線を向けるだけで睨まれた。
今は勝ち誇ったように見られています。
どちらにしても好意的な目線ではないので、近寄るのもなぁと。
それも、森人さんにはバレないように仲間たちでチームワークよく威圧しているので、女性ってやっぱり怖いなと思ってしまう。
「幼なじみグループは縮こまってるしね。最年少だしね。中学生くらいでしょ。もし彼らを選ぶなら、頼るより頼られる感じにならない? みきぽんがお姉さんムーブしたいなら呼ぶけど。この年下好き!」
「違う! 話を聞きなさい!」
「でも、そうするとやはり、彼ってなるじゃない。男の子、もう三人しかいないし」
「なんでそうなるのよ。男の子はいらないって言ってるわよね」
「あの……?」
「ん、ごめんね。みきぽんの説得はもうちょっとでいけるから待ってて」
「いや、違うくて! あの、三人ってもしかして元から友達なんですか?」
さっきから気になっていたことがあった。
仲が良すぎない?と。
そう言うと、星崎さんは目を丸くしてあーって声をあげた。
「そういえば自己紹介で言ってなかったね。言うべきか迷ったけど、森人さんショックがあって、言わなくてもいっかって省略しちゃった。実は私達、中学校の同級生なんだー」
「なんだー」
「ええ、不本意ながら親友よ」
どこか苦労を滲ませながら髪をかき上げるみきぽんさん。九冬さん、慰めるように肩に手を置いているけど、その立場あってる?
「我ら三人、生まれし日は違えども高校入学は同じ学校を願わんって誓ったんだけど。私が入試で落ちちゃったんだよねー」
「あれは衝撃的だった」
「そして、みきぽんが男の子嫌って言って、女子校に入学しちゃてたし」
「まさかの裏切り」
「裏切ってない! もともとそんな誓いなかったでしょ!」
「ほら、あのお泊り会でお酒飲んだとき」
「あのとき!? 記憶が全然ないわよ!」
「みきぽん酒癖悪かったもんねー。絡み酒で」
「うんうん」
「違う! そもそも私を騙してお酒飲ませて酔つぶれさせたんでしょ! 無効だわ!」
「そんな私達は学校が違っても、たまに集まるぐらいの仲良しさんなのだ!」
「なのだ」
最後、強引に路線を変更して会話を閉めた感じがしたけど納得した。
そして理解した。
「仲がいい知り合いがいないのは僕だけなのかな」
森人さんはわからないけれど、あのグループの女性陣はチームワークの良さから知り合い以上の雰囲気を感じる。幼なじみーズは言わずもがなだ。
知っている人は一人だけだけど、仲がいいわけでもなくただのクラスメイトってだけだ。
「大丈夫。これから知り合って仲良くなっていけば問題ないよ。あたし達、ズッ友よ」
「星崎さん……」
優しさが身にしみるわぁ。
人ってこんなに優しいのだね。
「なんでパーティーを組む流れになってるのよ。反対って言ってるでしょ」
「ぶー」
「ぶー」
「ぶー」
「一緒になって指を差す貴方に一番ムカつくんですけど」
ごめんなさい。ついノリで。
両手で指差していた手を下ろす。表情もキリッとさせる。
「そもそも、貴方、彼氏に悪いと思わないの? 別の男と一緒になるのは不義理だと思うわ」
「「えっ?」」
驚きの声が三つ重なる。
言われた本人さえ驚いてる。
「あたし彼氏いないよ?」
「でも、この前会った時にちょっと気になっている人に告白されたって自慢されてたじゃない。イケメンだ―って金持ちだって、それでいて有名な大学に通っている人だって惚気けてたじゃない」
「少し迷ったけど、振ったよ」
「え、その優良物件さんをですか?」
思わず会話に入ってしまう。男から見ても、完璧じゃないかという高スペック。僕が女性なら一、二もなく飛びつくと思う。少し気になっていたらなおさら。
「チチチ。男は顔や肩書だけじゃないんだよ。心にズキュンと来るものがなければ断るのさ。中身を見ないで外側だけで判断する、昔のあたしのようなみきぽんと一緒にしないでくれたまえ。あたしは覚醒したんだ」
「私を引き合いにだすのはやめなさい! 事実無根の中傷だわ」
「奥さん、この子ってね。男は嫌って普段から言ってるのに、王子様が現れるって信じてるんですよー」
「うっわっー」
「ね、酷いでしょ」
「でもわかる気がします。みきぽんさんガラスのようにガチガチだけど、その壁が割れたら一瞬ってなりそうですよね。この人は別、特別なんだからって言いそう」
「わかるー。うけるよねー」
「のるな! なんで貴方も一緒になって言ってくるのよ!」
みきぽんさんは怒るけど、顔を赤くして森人さんをチラチラ見ていたので、失礼ながらミーハーっぽいなって思ってしまったのだ。
みきぽんさんは裁判なら名誉毀損だわと小さくこぼす。
「イケメンが付き合ってくださいって来たら、低~中確率でうんって言っちゃいそうな、みきぽんと違って、月に二回くらい告白されるあたしはお眼鏡が高いのよ」
そう言うけど、星崎さんなぜか僕に好意的なのが不思議だ。
何がお眼鏡に叶ったのだろう。
そして、毎月告白されるって凄い。単純計算で一年で一クラス分以上の男子告白されてるの? 怖っ!
「私も先月と先々月、告白されたことがある」
フフンと自慢するように九冬さんが胸を張る。
彼女もほとんど話をしたことないのに、パーティーを組もうとしている。元からどこか世間離れしていて不思議な感性をしているけれど、何が琴線に触れたんだろう。
そして、三者の目が不思議とみきぽんさんに集まる。同情と期待と好奇の目で。誰と誰がどの視線だというのはみきぽんさんの名誉のためにも言わないけど。
その視線を受け、
「わ、私だって昨日学校で告白されたわよ!」
「みきぽん、女子校だよね?」
「ッ……いまのなし!! ちゅ、中学のときは山下くんに告白されたわ!」
「あのドMの山下? 女子に踏んでもらいたいっていつも言ってる山下? 凄い! 初耳!」
「お似合い?」
「アアアアアア……ッ! 言うんじゃなかった」
みきぽんさんは負けず嫌いの面もあるようだ。
そして、しまったとばかりに顔を真っ赤にさせて、両手で顔を覆ってい首を振る。
僕は山下くんのことは知らないのだから、そんな個人情報開示してみきぽんさんを傷つけなくてもと思ったり。
そして、九冬さん、その一言攻撃力あるから言わない方がいいよ。
しかし、そろそろだ。
無駄話をするなって言ったのに、無駄話しかしていない気がする。だけど、楽しかった。三人の仲の良さは十分わかった。そして、彼女達が善人だということも。
無理をさせる必要はない。時間もそろそろ迫ってきたし。30分間ぼっちでいて、気まずい思いをすると覚悟していただけに、彼女達には感謝しかない。
だからこそ言おう。
「僕、ソロでも大丈夫ですよ?」
パーティーを組めれればいいが、是が非でもというわけでもない。
彼女達の仲を壊してまで、空気を悪くしてまで、組みたくない。もうさっきのキャラメイキングのときにソロの可能性を覚悟をしてたからね。覚悟完了した僕は強い。
「えーーっ。みきぽんがいじめるから? 酷いと思わないの、みきぽん? 良心ある? 彼、泣いてるじゃん!」
「泣いてないじゃない! 悪人に仕立てあげないで。私達の安全のために心を鬼にして言ってるの! 犯されてからじゃ遅いのよ! 自分を大切にしなさい!」
「彼はそんなことしないって」
ねぇと言われるけど、みきぽんさんのほうが正しいと思う。
男なんて性欲で動くときがあるから危険だ。クラスメイトというだけで、知り合いだからというだけで信じるのは悪だと僕は思ってしまう。
そして、みきぽんさんが正しいと思うと言うとショックを受けたような表情になった。
危機意識がないのは悪だ。
「ほら、彼自身が言ってるわ! 決定ね」
「待って。私の意見を言ってない」
九冬さんが待ったと手を挙げる。
「これを聞けば、マイコーも考え直す」
「おぉ! 待ってました! 雨月がすごい乗り気だからのったものね、あたしは。雨月、あたし達に向かわず一直線で行ったし。これは何かあるなとピーンときたもの」
「考え直すと思わないけど、とりあえず聞くわ」
衝撃の事実。
星崎さんは九冬が僕を誘うからパーティーに入れようとしていたみたいだ。麗しき友情というか、オールインワンみたいな賭けをして心配になる。そんな簡単に決めていいの?
そして、なんだかんだ友人の話は聞いてあげる優しいみきぽんさん。
「彼には特別な力がある。只者じゃない」
「えっ……」
心臓がドクリと音を立てた。
彼女は何を言おうとしているのか。何を知っているのか。
瞳は何も語らず、ただじっと僕の眼を見ていた。そう、まるで心の奥底を暴くように。
そして、九冬さんは語る。
とある学校での休み時間。
次の授業に向けて学生がダラダラしていた時だった。
僕の後方にいる人が消しゴム忘れたと言い、大きな声で、彼と仲が良い友達、僕の前方の席にいた彼に向けて消しゴムちょうだいと言ったそうだ。
いいよと彼は言った。しかし、彼らには距離があった。
僕は彼らの中間地点にいた。
面倒臭がった彼は消しゴム投げるわ―と言って、前方にいる友達に向けて消しゴムを投げたそうだ。
「あっ、ごめん!」
だが、不運にも手が滑り、のほほんと次の授業の準備をしていた僕の頭めがけて消しゴムが飛んだ。前方ではなく、後方という死角からの奇襲。
「回避不能の一撃。だけど、ミナモは後ろに目がついてるように首を傾けて躱し、消しゴムを取ったの」
「そう……すごいのね?」
「うん」
「…………」
「…………」
「え、終わり?」
「終わり」
「ええっ……」
「ええっ……」
「そんなことできる人、彼以外に見たことない」
「そりゃそうでしょう……場面がまずないもん」
満足したとばかりにむふーっと鼻息荒くしている。
みきぽんさんも、星崎さんもどうしようと目配せしている。
言われた僕もあったけなーってぐらいの記憶が曖昧だ。異世界から帰って来たときなら、あってもおかしくないけど、毎回できる自信はない。まぐれと言ってしまえばそれまでだ。
「ほかは何かある?」
「……ない。私も消しゴムをぶつけようとしたら怒られた」
「なら、私達三人でパーティーを組むのに異論はないわね」
「ええと、強く反論できないかなーなんて」
「なんで? あの話を聞いても?」
「その話を聞いたからよ。まぐれじゃない」
「異論ありません。ソロで頑張っていこうと思います。ソロ大好き。あー人付き合い苦手っすわー。性欲あるし」
「まさかの裏切り。私は諦めない。徹底抗戦の覚悟」
九冬さんはまだ粘るようだ。
このままでは泥沼になる未来が見える。みきぽんさんは絶対に僕がパーティーに入ることを認めないだろうし、九冬さんは諦めない。時間を浪費していき、彼女達の仲を悪くするだけで何も得ることが出来ない。
その原因は僕だ。僕がいるからこそ問題が起きる。原因になるのも嫌だし、仲が良い彼女達を仲違いさせるのも嫌だ。そんなことが起きたら僕自身を許せなくなる。
最終手段にでるしかない。
この状況を崩す一手。
明鏡止水。虚心坦懐。覆水盆に返らず。
震える手は唇を噛んで無理やり止める。
「えっ?」
「嘘っ?」
「あっっ!!」
みんなの視線が――
みきぽんさんの視線が、自分の胸と、それに触れる僕の手、そして、僕の顔を往復する。
みきぽんさんは、目の前でおこったことが信じられないと、目を白黒とさせながら、
「ほらっ、性欲があるからね。仕方がない」
「すごっ、一点の曇りのない爽やかな笑顔でみきぽんの胸を触ってるよ!」
「ひどい裏切り」
マグマはこうやって噴火するんだよと体現するかのように、顔をこれ以上ないくらい高潮させていき、早鐘のように胸を鳴らせ、それでいてふにゅっとした感触を維持させながら、
「もう十秒以上時間が経っているのに悪びれずに、みきぽんの胸から手をどけない、澄んだ瞳の彼に、遅ばせながらあたしも特別な力があると信じてみたくなってきたよ。女神様見てみ、頭かかえてるよ」
「ひどい裏切り」
「もうみきぽんが自分で胸を押し付けてないかなって思ってきた。不思議だ。男嫌いなのに、声もあげないもん」
「ばっ……ばば、ばばっ!」
「ひどい裏切り。マイコーを訴える。胸を小さくしたのに誘惑するとは毒婦の所業。もぎたい」
「あ、やっぱり小さくなってるよね? ちょっとだけ小さくなってる気がしたんだ」
「男を誘惑するベストな大きさを狙ったかも」
「やばい。否定できない。そういうとこあるよね、みきぽんって」
「ばばばばばばっ!!!」
ばっちこーい?
いや、馬鹿かな。機関銃みたいに言葉が出てるけど詰まっている。
思ったより長時間胸を触ってるけど、ダメかな? もう一押し?
みきぽんさんは大声で叫ぼうとして、
僕も、もう片方の手も触ろうかなと腕を伸ばしかけ、
「あの、少しいいかな」
背後からかかる声によって、止められたのだった。
「会話の途中だけど、時間がないからね。ほんとごめんね」
森人さんが心底バツの悪そうな顔をして謝った。当然、彼を慕う女性陣は森人さんの数歩後ろにいたりする。
あの爆発間近の噴火を止めようとして、本当に止められるってどんな偉人なのだろうか。
俳優って凄いなと思いました。僕には真似できないよ。
胸から手を離すと、みきぽんさんは、今度は顔を青くさせ、そのまま後ろにばたんと倒れこみ、それを見ていた女神様は膝をついた。
静寂が辺りを包み込み、まるで吹雪のように冷たい視線の風が僕へと降り注ぐ。
アウェイだ。
気がついたら全員注目してるもん。
うん。どうしよう……。
突然声をかけてきた森人さんと両成敗でいけないかな。
いけないよねぇ。いけないかぁ。いけなかったぁ……。




