1話 またあの白い空間
リハビリ作です。場合により設定の一部が変更になる可能性があります。ご了承のほどお願いいたします。
「貴方達には異世界に行ってもらうわ」
その一言に、ここに集められたと思われる男女は絶句した。
周囲には僕の他に十名ちょいだろうか、そのぐらいの人数がいた。年齢層は若めで、制服を着ている人が多いので学生なのだろう。顔立ちの幼さから中学生と思える子もいる。
白い空間に僕たちは集められ、円柱型の椅子に座っている。いや、座らされていると言った方がいいのかもしれない。立ち上がれないのだから。
僕たちの目の前に一際美しい女性が立っていた。ここに集められた人も美男美女ばかりだけど、存在感が違う。肌のきめ細かさもそうだけど、オーラというものを感じさせてしまう。
どこか、学校の先生を彷彿させるように僕たちを睥睨し、言う。
だが、学校の先生と違うのは威圧感だ。
この場所。白い空間。どこを見まわしても白い景色が続き果てがない。
この空気。誰もが女性を一心に見つめている。侵すことできない神聖さ。
誰もがその雰囲気を作り出している女性から一挙一動目を離せない。ひと目見て、自分たちとは違う人種であることがわかるから。
上位者。
そう、神と呼ばれるモノの存在を嫌でも感じ取ってしまう。
だが、その存在を前にしても。
僕は…………。
「まじかーー」
この既視感のある景色に絶望していた。
頭を抱えて現実逃避をしてしまう。
「―――――――」
目蓋は現実を見ることを拒絶し硬く閉じる。
周囲の喧騒と、神様と思われる女性が何か言っているが、頭に入ってこない。悲鳴とか聞こえるけど、そりゃいきなり異世界行きを告げられたら悲鳴の一つや百はあがるよねと判断してしまい、脳が雑音と分類してしまう。
思うことは唯一つ。
「またなのか」
それだけだ。
つい一、二週間ほど前になるけれど、僕は異世界から帰ってきたばかりなのだ。
体感時間では半年前(異世界から戻ってきたら呼び出された時になっていたため)ぐらいになるけれど、この白い空間に呼び出されて問答無用に異世界に召喚されたのだ。
その時には神様はおらず、声だけが天から降ってきたのだが。
それを考えると今の状況は、あ、前回よりアップデートされたのかなぐらいしか思えない。説明役の人がいるんだから。
半年といえど、違う世界に呼び出されて軟禁され、無理やり魔王を倒せと強制させられれば大抵のことは耐性がつくと思う。
前回の異世界召喚はひどかった。白い空間に連れ出され、声が聞こえてきたと思ったら心の準備もできないまま、異世界に飛ばされ、貴方は魔王を倒すために勇者として召喚しましたと言われたのだ。臨戦態勢の兵士さんに周りを固められてね。
すぐにわかりましたと言えたのが異世界史上最高の決断だったと今でも自画自賛している。だって、断ったら奴隷の首輪をつけられたり、魔法で自我を奪われたりする可能性があったのだもの。
一応、相手方も倫理観というか良心というかそういったものを使うリスクもあったので、協力的にすれば手荒なことはしなかった。最後の最後まで監視や警戒はありましたが、はい。
勇者と言われても、それは役割か便宜上の役職以外何物でもなかった。
異世界から召喚された者しか扱えないアイテム。魔王の衣を剥がすためのアイテムは異世界の者しか扱えなかった。
魔王の衣、闇の衣とも言われ、異世界の人達では魔王に傷をつけられない。
いや、この言い方は正確ではないね。威力の低い攻撃は弾かれ、威力の高い攻撃でも減衰させ、ダメージを与えられてもかすり傷。致命傷を与えられない。
魔王自身も自己治癒力が高く、かすり傷をいくら与えても倒せない。
異世界の人達は闇の衣さえなくなれば倒せるはずだと信じていた。
だから戦力という点では当てにされず。アイテムを使う要員として、魔王を倒す旅に連れ出された。厳重な警備のもとに。
異世界の人は優しかったが、それ以上に異世界の旅は苦しかった。生活水準の違い。常識の違い。なにより、命を奪い合う戦い。戦闘を見ているだけの役立たずの存在。どこにでもいる普通の高校生になにができるのだろうか。
だからこそ、周囲は優しかった。いや、壁があったと言い換えてもいいかもしれない。憐憫と罪悪感からくる優しさは、ある種の毒だった。僕の代わりに死んでいく者がでてくるたびに。人が死んだのに責められることもなく、逆に生きていてよかったと言われるたびに心が軋む音がした。
旅は数ヶ月だったが、その濃度と思い出は深く僕に刻み込まれた。
だからこそ、地球に戻ってきた瞬間安堵した。
今の生活がどれほど恵まれているものなのか実感し、極楽の毎日だった。
半年の異世界経験で学校の勉強を忘れて必死に遅れを取り戻すのは大変だったけど、口にするものは苦味のない食事。
コミュ症だったけど、大人に囲まれた生活だったためコミュニケーションはある程度改善され、次第にクラスメイトと打ち解けられた学校生活。
バラ色の未来が約束されたかのような気分だった。何も束縛されずに自由に生きられる。なんと素晴らしいことでしょうと歌い出したくなるほどだった。
だが、傲慢になってはいけないと自戒し、感謝を忘れなかった。
そのその一環として神社に参拝するようになった。
いや、今ままでも登下校のルートに神社があるので何度も参拝はしいてるが、異世界に帰って来てからは真摯に参拝するようになった。
白い空間に飛ばされた時に聞こえた声、異世界の経験があり、神様がいることを実感したので参拝も熱が入るというものだ。
……異世界に飛ばされたときに助けがなかったので、祈りに愚痴が多分に入るのはご愛嬌といったところだけど。
しかし、今回、二度目の異世界に飛ばされることになったので自信を持って言える。
「――神は死んだ」
「目の前にいるでしょうが」
「イタッ」
コツンと軽く頭を叩かれた。
気がつくと、神様と思われる女性が腕組しながら半眼で睨んでいた。
「……話聞いてた?」
「……いえっ?」
ため息と共に腕を組む女神様。目は胡乱げなでコイツマジカと物語っている。周りを見回しても、女神様と同じような目でいる人や絶句している人ばかりだ。いや、女神様より信じられないという目で見られている気がする。
ちゃうねん。
異世界に二度も飛ばされそうになれば誰だってこうなると思う。宝くじに当たる確率が交通事故に遭う確率と同じなら、異世界に飛ばされる確率はなんなんだろう。天文学的確率はずだ。
そんなことが起こった僕の身になってほしい。軽い現実逃避ぐらい許されるはずだ。
「……ま、いいけど」
呆れが多大に含まれる声だったが、女神様は許してくれたようだ。
えっ、と周りの人達から驚きの声がする。
もしかして再度説明してくれる流れでしょうか。女神様優しい。
「こういうタイプの馬鹿もいるけど、同じ説明はしないからね。馬鹿には優しくしないのよ」
「……?」
「なんで後ろを向くのよ。貴方に言ってるのよ」
僕でしょうか? と自分を指差すと、うんうんと女神様は頷く。
「キャライキングの際の「はじめに」の欄を読みなさい。さっき説明したことが、ある程度、要約されてるわ」
キャラメイキング? はじめに?
頭の中がクエッションマークで埋め尽くされる。左右を見回しても、理解しているようで同情や軽蔑の眼差しで俺を見返してくる。
「さっきも説明したように今から異世界に向けてのキャラメイキングをするわ。各自の目の前にウィンドウを出現させるわよ」
そう言うと、ブオンと音と共にウィンドウが立ち上がった。
――――――――――――――――――――――――――
●はじめに
・名前: ・年齢: ▼
・性別:男 ▼ ・種族 ▼
・造形 ▼
・クラス ▼
・主能力 ▼
・耐性 ▼
・魔法 ▼ ・適正属性:
・アイテム ▼
・ギフト ▼
・スキル▼
・転移場所 ▼
・パーティー ▼
残り時間 ●●分
獲得ボーナスポイント ▼ ※※193P
残りボーナスポイント ※※193P
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未来技術というか、そのうち発明されるだろうと思われる空間ウィンドウみたいなものが目の前に出てきた。そこには僕の名前でいくつかの項目が表示されていた。
何気なしに▼を触るけれど、何も変わらなかった。どういうことだろうと少し不思議に思った瞬間、答え合わせをするかのように女神様の声が聞こえてきた。
「今は説明の時間だから触っても意味はないわ。そして、重要だから聞きなさい。時間は有限よ。この空間を維持するのもリミットがあるわ。その限られた時間の中で貴方達は自分の力を仲間を選ばないといけないわ」
項目の一番下のところにある残り時間がその制限時間なのだろう。
その時間は長いようで短い。自分の今後の人生が決まるのだから。
「理不尽に思うかもしれないけれど、ここに集めれた時点で理不尽なのよ。諦めなさい」
うん、そうだね。
人生はいつも理不尽だ。なんで自分がと思うことが山のようにある。
「けれど、貴方達にはこれから起こる理不尽に対抗する力が与えられる。それも自分で選んでね。残りポイントや使用ポイントは貴方が今まで歩いてきた人生の結果。それを元に決めらるわ。例えば、クラスを前衛にしようにも必要ポイントが個々人で違ってくるわ。適正と言ってもいい。運動神経がある人や格闘後等の経験がある人は必要ポイントが低く、そういった経験のない人は必要ポイントが高くなる。自分の理想と現実をうまく折り合いをつけて選びなさい」
女神様の言葉には圧力がある。いや、語弊があると言ってもいいかもしれない。不思議な説得力がある。反論しようと思わず、受け入れてしまう。神様の言葉は不思議だ。
だからこそ、神様なのかもしれない。小さい子が親を信じるように、僕たち人間は神に従ってしまう。
「二回に分けてキャラメイキングできるようにするわ。一度目は基本的な内容を知るため。ポイントの割り振りも一部制限しているし。そして、パーティーを決める時間を作って、その後話し合いをして最終決定すること。いいわね?」
誰も反論しない。
ところでパーティー決めってなんなんでしょうね。言葉の意味はわかるけど脳が理解を拒否している。
周りをもう一度見回してみる。十数人のうち、ほとんどが女性で3人ほど男の人がいる。男女比が偏っているなぁ。それに女性もどの人も可愛いというか綺麗で整っている人ばかりだ。
この中でパーティーを作るって無理じゃないかな?
「じゃあ、最初のキャラメイキングの時間よ。恩恵でもあり試練でもあるわ。常識も文化も違う世界に対抗する力を決めなさい」
その言葉と同時に、ウィンドウの残り時間が30分と書き換えられた。




