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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフター最終章
555/555

全世界防衛戦① 天上天下ユエが独尊





『族長ぉ!! あれはいったいなんなんですかっ!!』


 眼下に広がる異常な光景、そして、あまりにもおぞましく異質な存在を前に、藍色の氷竜が悲鳴じみた声を上げた。


 勇壮な姿に似つかわしくない、本気で怯え、困惑している内心が手に取るように分かる。


 無理もない。とても「竜人たる者、戦場で取り乱すな」などとは言えぬな。とアドゥルは思った。何せ、若き氷竜たるリスタスは()()奪われかけたのだから。


 なので、返答の代わりに弱気を吹き飛ばすような咆哮を一発。


 天より緋色の閃光が地に突き立つ。凝縮された熱量はあらゆる金属を融解させ、大地に大穴を生み出し、その表面をガラスに変える力がある。


 最強の緋竜にして竜人族の長が放つ〝竜の咆哮(ブレス)〟だ。


 ハジメ達のいない今のトータスで、彼の本気のブレスを受けて無事でいられる存在は、ほんの数人程度だろう。あるいは、その数人さえも結界の名手複数人と組んでどうにか……といったところか。


 それでも、耐えられるのはきっと一撃のみ。


 だというのに、


『くっ、やはり効かぬか……』


 灼熱の放射が止まる。天空から見下ろす緋竜形態のアドゥルが苦々しい声を漏らす。その目は細められ、理知の詰まった竜の瞳には神話決戦以来の本気が宿っていた。


 健在だった。全身を覆っていた黒い霧のベールは吹き飛んだものの、しかし、千年を生きる竜の長老が放つ一撃を受けてなお、その存在は。


 人間の集合体……とでも表現すべきか。ヘドロを浴びて黒く染まった人間が何百人と練り合わさったような姿。


 まるで底なし沼から抜け出そうと必死に手を伸ばしているみたいに、体表からは無数の黒い人型が上半身だけを生やし、限界まで両手を伸ばしてもがいている。


 そんな異形の肉塊が這うようにして、しかし、地形を無視した嫌に滑らかな動きで、滑るようにして進んでいる。少し横長な形なのもあって、遠目にはまるで人を貼り付けた黒い列車のようだった。


 見ているだけで怖気を震う存在だ。悪夢の中にでも放り込まれたかのようだった。


 空が黒々とした雲に覆われ陽の光が届かない薄暗さも、その悪夢めいた空気感を助長している。遙か遠くの空は嘘みたいに晴れているので余計に。この異形を中心に半径十数キロ以内だけが暗雲に覆われるのだ。


 その暗雲から無数の雷が降り注いだ。頭上に障壁を展開しつつランダム回避飛行を行うアドゥルとリスタス。


 この異形、限定範囲ながら天候と落雷を操れるのである。狙いが大雑把なのがせめてもの救いだが、それ以上に厄介で、かつ恐ろしいのが……


――※※♯×××###※ッッ!!!


 奇怪で、神経を逆撫でするような絶叫が脳を揺さぶってくる。空気の伝播ではない声が直接、脳髄を侵そうと広がってくる。意識を攪拌するそれは、間違いなく精神異常をもたらす魔法の類いだ。こちらの行動と魔法がいちいち阻害される。


 そして、その隙を突くようにして、あの感覚が襲い来る。


『あっ、ぐ、ぁ……』

『しっかりしろっ、リスタス!!』


 アドゥルもまた咆えた。ブレスではない竜の咆哮が緋色の魔力に乗って放射される。


 それが、いつの間にかリスタスを覆っていた黒い霧を吹き飛ばした。


『くそぉっ、なんなんだよっ。俺の中に入ろうとするなっ!!』


 狂ったように頭を振り、目を血走らせるリスタス。その言葉通り、あの怪物は精神に入り込もうとしてくる。


 ただ掻き乱すだけではない。アドゥルも受けた感覚からすれば、おそらく……乗っ取りだ。怪物から放たれる不可視の何かが、絶えずこちらに憑依しようとしてくるのである。


 それが成功した時、己がどうなるのか……


 あの恐ろしく、そしておぞましい感覚からすれば明るい未来は全く見えない。あるいは、あの無数の藻掻く人形の仲間入りをすることになるのか。


 加えて、単純にタフだった。常時展開の障壁は強固で、並の攻撃では全く届かない。空間遮断系でないことがせめてもの救いだが、突破には最低でも最上級クラスの攻撃力が必要で、そのうえ本体に攻撃が届いてもまるで効いた様子が見えないのだ。


『なんという存在だ。これが……別世界からの来訪者、〝無神〟か……』

『む、じん……族長、奴はいったい……』

『説明している時間はない。リスタス、こちらはいい。フェアベルゲンへ向かい、備えよ。避難を急がせるのだ。敵の手が伸びた時は樹海の民を死守せよ』

『! や、奴だけではないと?』

『分からぬ。だから備えるのだ。行け!!』


 ユエ達を通して伝わった最悪の事態。世界の滅亡と〝無神〟による全世界同時襲撃。


 既にフェアベルゲンの長老アルフレリックと王国のルルアリア王妃には、ハジメが備えてくれた各国のリーダー専用の通信機を介して大雑把ではあるが状況を伝えている。


 流石は竜人の長、アドゥルの信頼の厚さというべきか。事細かな事情を説明している余裕はなく、とにもかくにも大樹に迫る脅威あり、過程にて樹海の民に甚大なる被害が予想される旨を伝えただけで彼等は即座に動いてくれた。


 各国を繋ぐ〝ゲート〟を両者の合意のもと開門し、直ぐにフェアベルゲンの民の王国側への避難通告が出されたのだ。


 だが、樹海は広大だ。特に外部の脅威や種族間差別が薄まり、共存の気風が色濃くなった今のトータスでは都の近くに固まっている必要がない。その生活圏は広く分布を始めているのだ。


 また、人間族や魔人族の移住者や逗留者も多い故に魔物の脅威度も減っていて、必然、連れだって気軽に都の外へ出かける者達も多い。


 元より、そんな大規模な避難が直ぐにできるわけもない。

 

 そして、【北の山脈地帯】の東側で確認したこの怪物は、列車のようと表現した通り、その巨体に見合わず足が速い。


 既に山脈地帯と樹海の境界線を越え、普通なら足止めになるだろう大木を軽々と挽き潰しながら進行している。このままだと数時間足らずで大樹やフェアベルゲンに到達するだろう。


(そもそも、いつ、どこから、どうやって出現したのかも分からぬ。ならば突然、何かしらの方法でフェアベルゲンや大樹のもとに出現してもおかしくはない)


 視界の端に、悔しそうに唸り声を上げながらも一礼し飛び去っていくリスタスを捉える。役に立てないどころか、明らかに足手まといになっていると理解しているのだろう。


 〝無神〟は一体とは限らない。なので、フェアベルゲンや大樹が心配なのは事実だったが、言外の言葉をきちんと読み取り、呑み込んだようだ。以前ならきっと、肉壁くらいにはなれますっと息巻いていただろうから成長していると言えば成長しているのだろう。


 なんて若者の成長を想いつつも、アドゥルは練り上げた魔力と構築した魔法を発動した。


 攻撃ではなく足止めのための魔法を。


 とある事情から会得するに至った新たな魔法を!


『未だ研鑽は足りぬのだが、泣き言は言ってられんな』


 苦笑と同時に呟かれる魔法名。


 直後、怪物の頭上に黒く渦巻く球体が出現した。怪物の進行が止まる。地面に押しつけられたようにひしゃげる。天へ向けて助けを求めるように手を伸ばしていた体表の人形(ひとがた)も撫でつけられた毛のように倒れ込んだ。


 それは紛れもなく超重力場を形成する神代の魔法――重力魔法〝禍天〟だった。なんらかのアーティファクトを使用した様子はない。自力での発動だ。


『このまま押し潰せるか……?』


 怪物の下部の人形が黒い液体を撒き散らしながら潰れる光景を確認する。だが、やはりというべきか。そう甘くはないらしい。油断せず注視していたからこそ気が付けた。


『槍……?』


 怪物の頂点から腕が一本、突き出した。その手に握られている物が何か認識した刹那、


『ッッ!!?』


 まるで先程のブレスのお返しだ。槍らしき物体の穂先から黒い閃光が放たれた。間一髪、身を捻って回避に成功するアドゥル。


 だが、完全ではない。翼の端に掠った。


 途端に感じる、長い生の間でも感じたことのない強烈な忌避感と悪寒。


 見れば掠った部分が黒く変色し、それがジワジワと広がっていく光景が……


『侵食するか!?』


 ブレスを細く圧縮し自らの翼目がけて放つ。念のために翼の半分を溶断する。


 もちろん、その程度で墜落したりはしない。部分的に〝再竜化〟することで瞬く間に欠損部位を再生する。


 だが、その間に怪物も手を打ったようだ。


『む!? 〝禍天〟が消えた!?』


 黒い星が霧散した。破壊されたという感じではない。むしろ、発動中の魔法を解除した時の現象に近い。もちろん、アドゥルは解除などしていない。


 再び動き出す肉塊の怪物。慌てて重力魔法をかけ直そうとするアドゥルだったが、


――####****!!


『なっ!? 使えたのか!?』


 アドゥルの頭上に〝禍天〟が出現した。超重力場がアドゥルを一気に地へ叩き落とさんとする。


 咄嗟に発動しかけていた重力魔法を使って超重力を相殺。撃墜をギリギリで免れ高度を稼ぐ。


 そこへ、黒い槍の閃光が飛んできた。ロール回避するが後ろ脚の一部を持って行かれる。当然、侵食が始まるのでブレスで自ら焼き落とし〝部分的再竜化〟を発動。


 怪物の〝禍天〟が消えた。直後、再び落雷の雨が降り注いだ。


 任意方向への重力場も利用した高速飛行で潜り抜けつつブレスを放つ。障壁に防がれるが、ガンシップが旋回しながら地上の目標を集中攻撃するようにブレスを当て続ける。


 数秒で障壁は破砕し、本体に灼熱が直撃するが……


『やはり効果が……いや?』


 上空を高速で旋回していたが故に奇妙な現象が見えた。直撃箇所とは全く別の場所に生えていた人形が消し飛んだのだ。


『もしや……そういうことか?』


 真実を見抜くと言われる竜の眼と、千年の叡智が一つの仮説をもたらす。


 そこへ、閃光が飛来した。ただし、今度は黒ではなく緋色の灼熱。


『私のブレス!?』


 見紛うはずもない。翼を掠めるそれを至近距離で確認したのだから。


 どういうことだ? と思考を回す。それを許さぬとばかりに怒濤の対空攻撃が始まった。


 体表の黒い人形が手に様々な武器を持ち、それを振るう度に黒い斬撃や衝撃波、砲弾のような何かが乱れ飛んでくる。


 槍の閃光よりは脅威を感じない。おそらくアドゥルの竜鱗なら同じ箇所に直撃を受けても数発なら耐えられるだろう。だが、あの侵食能力を考えれば防御力に頼るのは得策ではない。


(落雷とブレス、重力魔法に憑依能力も気を付けねば……)


 落雷を障壁で防ぐ。雷の雨が止んだと思えば、今度はブレスが飛来する。それを回避して反撃しようとすれば、魔法を阻害するような何かのデバフが襲い来る。


 その間にも怪物は足を止めない。それどころか坂道を転がる石ころのように進行速度は刻一刻と速くなっていく。


 猛烈な対空攻撃をしながらもアドゥルを倒そうとしているのではなく、あくまで大樹へ向かうことを優先しているのだ。


 再び重力魔法で足止めを狙う。だが、直ぐに霧散してしまう。


(攻撃は効いていた。仮説が正しければ……)


 被弾を覚悟で攻撃に集中力を割く。再びブレスを放つ。やはり直撃箇所とは関係ない場所の人形が消し炭になった。


『やはり、身代わりか?』


 要はダメージの肩代わりだ。もしかすると、あの無数の人形はただの造形物ではないのかもしれない。一つ一つの命を持った存在で、多彩な攻撃手段を持つ理由もそこにあるのなら……だから、優先度の低い人形からダメージの肩代わりをしているなら?


 そこで、ふと気が付いた。


(む、待て。今、障壁は発動していたか?)


 あの強力な障壁。それが展開されていなかった。


 雪崩を打つようにして〝答え〟がアドゥルの中に満ちていく。


(……黒色の攻撃以外は……同時に発動したことがない……?)


 思えば、デバフや精神攻撃。これらは攻撃と併用した方が効果的に決まっている。なのに、必ず単発だ。雷が黒色攻撃以外と同時使用されたこともない。


 そもそも重力魔法が使えるなら、なぜ疑似飛翔しない? なぜ、地を這うような不格好な移動方法を続ける?


 極めつけはブレスだ。槍から強力な閃光を放てるのに、なぜわざわざ灼熱のブレスを?


『そうか。貴様、黒色の攻撃以外は一度に一つしか使えんのだな? そして、数ある能力の一つには〝魔法を模倣する魔法〟がある』


 看破した。だが、だからこそ苦々しく思う。分かったところで強力すぎる能力は簡単には突破できない。


 と、その時だった。


『アドゥル様!』


 念話が届いた。腹心の従者にしてティオの第二の母とも言うべきヴェンリからだ。王国にいたはずだが、〝ゲート〟を通って駆けつけてくれたのだろう。


『後方、約十キロメートルに集落がございます!!』

『!!』


 おそらくフェアベルゲンでアルフレリック達長老衆と連携して避難の手伝いをしてくれているに違いない。最新の集落分布を伝えてくれたのだ。


 まずい……と焦りが浮かぶ。怪物の進行速度を思えば十キロメートルなど目と鼻の先だ。ある程度は足止めできるだろうが、とても避難が間に合うとは思えない。


 その場合、轢殺されるか、それとも情報通りなら糧にされるか。


『ユエ君から連絡は!?』

『ございません!』


 ユエの号令を聞いた後、実はアドゥルには直接、指示がなされていた。


 時間稼ぎだ。何やら準備したいことがユエにはあるらしく、そのために少しの間、怪物の足止めをしておいてほしいと頼まれたのだ。


 もちろん、大樹やフェアベルゲンに到達するよりずっと前に救援は可能とお墨付きを貰ってはいる。ユエもまた居住域が広がっている樹海の現状を考慮に入れていたのだろう。


 だが、樹海の居住域は予想以上に広がっていたらしい。


『……承知した。私が対応する。ユエ君には現状の報告を』

『アドゥル様……ご武運を』


 重く静かな声音に、もう長い付き合いだ。ヴェンリも理解したらしい。


 アドゥルが不退転の決意と覚悟を決めたと。


 集落の規模、竜人族の長の命と彼等・彼女等の命の重さの比較。そんなものは関係なかった。たとえ幼子一人を救うためであっても、きっとアドゥルは同じ決断をした。


 それが竜人族である、と。


『いずれにしろ、であるしな』


 怪物の進行を感じ取っていたのだろう。怪物が樹海に到達する前から魔物や動物達が南へ南へと一目散に逃げ出しているのは分かっていた。


 だが、それも限界だった。進行速度からして逃げ切れない。大樹より南へ逃げ切る前に追いつかれ、その命を散らすことになっていただろう。


 ずっと本能が訴えていた。


 アレはダメだと。


 アレを大樹や樹海の民の元へ行かせてはいけないと。


 樹海の魔物共の命と魂でさえもくれてやるわけにはいかないと。


 実際に相対して、ユエ達から伝えられた情報以上に、その脅威度を実感できていた。


 だから、もはや躊躇いはない。


 後のことは考えない。継戦能力を失ったとしても、今、この瞬間に己に可能な全てを費やす。


 滑空の角度で、しかし、速度だけは自由落下の如き速さで降下していく。着陸地点は怪物の進路上、集落を背に数キロメートルは先の位置。


『許せ、樹海よ。そして、森の民よ。少しばかり荒らすぞッ!!』


 砲弾じみた勢いで木々を薙ぎ倒しながら着陸したアドゥルは、その見るからに強靱な四肢を、まるで力士が四股(しこ)を踏むかのように持ち上げ、そして大地へと突き立てた。


 地響きが樹海を揺らす。強靱な爪が大地に埋もれ、アンカーのように巨体を固定する。


『救援が来るまで時間稼ぎもできないでは竜人の名折れ。それに、こんな時のために老骨に鞭を打って得た力だ。ゆくぞ、遠き世界の怪物よ――〝限界突破〟』


 ドォッと凄まじい火炎が噴き上がった。樹海の木々には影響のない火炎――否、そう見えるほど苛烈な迫力を持った緋色の魔力だ。あり得ざる急激な力の増大は、確かに〝限界突破〟の証。


 重力魔法と同じく、アーティファクトの力を借りるでもなく、アドゥルはそれを自力で発現した。そう、魂魄魔法を使ったのだ。


 更に、


――オォオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 特大の咆哮が上がる。世界に響くかのような、まさに竜王と称するに相応しい〝威〟を宿した咆哮だ。


 怪物の接近を感じ取って浮き足立っていた魔物や動物が竦み上がって動きを止め、大樹を止まり木にしていた鳥類も息を潜めるようにして硬直した。


 一拍、樹海が一気に騒然とした。感じ取ったのだ。〝威〟の中の意志を。逃げよという命令を。


 時を取り戻したように一目散。魔物や動物は脇目も振らず樹海の奥へ奥へと全力で走り出し、鳥類は一斉に飛び立った。


 当然ながら、それは例の集落にも伝わった。辺境中の辺境であったが故に事態を把握できていなかったが、数キロ先から届いたその勇壮な咆哮を聞き間違えるはずもなく、何かのっぴきならない異常事態が起きていると理解できないはずもなかった。彼等もまた着の身着のまま集落を離れていく。


 その直後、アドゥルを中心に周囲の景色が歪んだ。


 熱だ。その巨体から発せられる常軌を逸した熱量により本物の蜃気楼の如く景色が歪み出したのだ。その証といわんばかりに蒸気まで立ち昇り始め、地面に突き立った四肢を中心に大地が赤熱化していく。


 かと思えば、今度は地響きが発生した。大地が放射状に砕け、刻一刻と亀裂が広がっていく。その隙間からは蒸気が噴き出し、遂には周囲の木々や植物が一斉に発火し始めた。


 にもかかわらず、周囲の熱気はなお上昇する。際限なく、留まるところを知らず。


 地熱エネルギーの吸収。


 それは、重力魔法を使ったアドゥルの新たな技。


『まったく老人使いの荒いことだと苦笑したものだが……まさか、こんな事態を想定していたわけではあるまいな? ハジメ君』


 かなりの負荷がかかっているのだろう。食いしばった牙の隙間から苦しげな声を漏らしながらも瞳に苦笑が浮かぶ。


 既に半分の距離まで詰めてきた異形の肉塊を睨み付けながらも、つい思い出さずにはいられない。


――アドゥルさん、大迷宮に挑戦してみませんか?


 復興と共存社会のため世界中を飛び回っている現状、とても忙しいのは分かっている。だが、ハジメ達のいないトータスで不測の事態が起きた時、実力的に最も信頼できるのは竜人族であり、アドゥルだ。


 〝龍の事件〟以降、異常なほど備えることに余念がなかったハジメである。未だ神代魔法の自力継承法が確立していない段階で、〝竜人族の強化〟はある意味、合理的な判断だった。


 当初、アドゥルは断った。


 大迷宮内部の情報がある今、若手はともかくとして上位層の竜人なら、相性次第ではおそらく攻略できてしまうと思ったからだ。


 実際、血気に逸る若手の中には自主的に挑もうとしている者達もいたくらいだ。というか、リスタスなどその筆頭だ。どこかの誰かさんへの対抗意識バリバリであったが故に。


 だが、アドゥルが止めていた。断った理由と同じだ。


 竜人族は既にトータスにおいては十分すぎるほど強い。強すぎる力は恐怖を呼ぶ。調和を崩す要因になるからと。


 しかし、ハジメは食い下がった。どこか切羽詰まったような()()()()()説得だった。


 他でもないハジメの頼みだ。元より無下にできるはずもなく、また、〝龍〟の存在や異世界の強者達、そして、何よりハジメの様子に何か感じるものがあって、アドゥルは最終的に条件付きで了承した。


 各国のリーダーへの情報共有は当然、竜人の大迷宮挑戦は彼等との合議に基づく許可制にすること。


 ハジメも各国の首脳陣も、この条件に合意した。


 結果、アドゥルは現在、ハジメとティオに勧められた通り、重力魔法、変成魔法、そして魂魄魔法を自力で会得している。他は、歴戦の猛者たる竜人が数人、一つだけ神代魔法を会得している状況だ。


 なお、リスタス君は必死に何度も頼み込んで、どうにかライセン大迷宮挑戦の許可だけはもぎ取ったが……


――誰が攻略できんだよっ、スーパーミレディG!! 南雲ハジメぇっ、やっぱり許せなぁいッッ


 満身創痍で地団駄を踏む姿が多数人に目撃されていたことから推して知るべし。


 閑話休題。


『あと百年も生きぬ身だ。若者がそれで安心してくれるならと受け入れたが……まさか本当に今一度、身命を賭すべき(いくさ)が待っていたとはな』


 僅かな回想の間にも異形の肉塊との距離は残り一キロメートルを切った。


 今や灼熱に熱せられ発生した上昇気流が周囲の炎を巻き込み火炎旋風となって天に昇っている。


 その莫大な火炎が渦巻く中心にそびえ立つ勇壮な火竜を前にしても進路を曲げる様子はない。


 その無言の傲慢を前に、アドゥルは笑った。


『これ以上、先へはいかせんよ!!』


 再度、咆哮。空気がビリビリと震える。そして――大地が噴火した。


 地下で熱せられ溶岩と化したそれが火山噴火の如くあちこちから噴き出したのだ。


 足下の赤熱化も一気に広がる。大地が赤く染まり融解していく。圧倒的熱量が樹海の一部を瞬く間に溶岩地帯へと変貌させてしまった。


 煮え立ち、周囲の全てが赤き大地に呑み込まれていく。


 アドゥルの竜体は、気が付けば熱膨張でも起こしたみたいに全長二十メートル近くに膨れ上がり、その竜鱗はマグマでも纏っているかのような輝きを帯びていた。


 まるで炎熱の化身。


 溶岩の大地で火炎とマグマを纏う緋色の巨竜は、あたかも神話の一ページを切り取ったかのようだ。


――※##※****※ッッ


 黒い閃光が、邪魔だと言うかのようにアドゥルへ迫った。


 重力魔法〝禍天〟を発動するアドゥル。黒い閃光は軌道を上空へ捻じ曲げられる。


 当然、怪物は〝禍天〟の模倣により解除を試みる。今まで通りに。


 良い隙だった。


 怪物が重力魔法に意識を割いている間に、無防備にも侵入する。アドゥルとの距離、残り五百メートルの位置に。


 直後、怪物の足下の大地が砕けた。


『模倣してみよ。できるのならば』


 薄い地面の下は溶岩の海だった。それほど深くはない。せいぜい怪物の半分が沈む程度だ。だが、それでいい。狙い通りだった。


――※※##※***##ッッ!!


 怪物が絶叫を上げた。確かな苦悶を感じさせる叫びだ。肉の焼けるような音と凄まじい黒煙が怪物を中心に噴き上がる。


 大いに暴れるが、しかし、溶岩が消える様子はない。


 溶岩はあくまで魔法により生じた副産物だからだ。模倣すべき魔法がない。アドゥルの仮説は間違っていなかった。


『勝機はここにあり』


 怪物が障壁を展開したのが分かった。更に、人形の上半身を繋げたような触手が伸びて大穴から這い出ようとしている。


 その地面も融解した。アドゥルから怪物までの間が瞬く間に赤き灼熱の海へと変わっていく。それも、本来の溶岩ではあり得ない熱量を保有し、にもかかわらず粘度は極めて高い溶岩の、だ。


 更に、アドゥルを起点に扇状に溶岩の海が出現する。周囲の赤き灼熱の海が津波となって怪物を呑み込む。


 速度が一気に落ちた。そこへ再び〝禍天〟が発動され、溶岩の海に押しつけるようにして怪物の動きを止めた。


 障壁が消える。模倣する魔法で〝禍天〟を解くために。当然、灼熱が身を包む。


 〝禍天〟を解いて再び障壁――の間に、またも〝禍天〟が発生する。


――####****※※!!


 それは苦悶というより憤怒を感じさせる絶叫だった。


 煮え立つ巨大な溶岩の釜の中で、叫び声を上げながら藻掻く怪物。体表の人型がより激しく暴れる様が余計に……そう、地獄の釜のようだった。まさに、地獄絵図だった。


『〝無〟とやらに耐えた存在だ。元より溶岩如きでどうにかなるとは思っておらん』


 障壁か、重力魔法の模倣か。選択肢を迫る。思考できないと分かっている怪物に、敢えて選択を突きつける。無駄な時間を使わせるために。


――####****※※!!


 怪物に異変が生じた。体表から体毛のように生えていた無数の人型が、あたかも毛が抜け落ちるように分離を始めたのだ。


 正しく、怪物は一個の生命体ではなく集合体だったのかもしれない。


 だが、遅い。歴戦の古竜に使わされた無駄な時間の間に、その古竜の準備は終わっていた。


『悪いが、最初からそれは足止め用だ』


 怪物の周囲から赫灼の輝きが急速に失われ、溶岩が瞬く間に黒く変色していく。


 最強の火竜とは、すなわち火と熱のエキスパートということ。まして、千年を生きる古竜にして竜人族の王だ。


 重力魔法を得てまだ一年と経っていないというのに、〝星のエネルギーに干渉する〟という神髄の一部たる〝地熱に干渉する〟ことが早々に出来たのも、その長き研鑽と適性故。


 ならば、ただ炎熱を放つだけが芸なわけもなく、逆に溶岩から熱を奪い取っていくこととて可能だった。


 溶岩が岩石に戻る。大質量のそれが、そのまま物理的な結界となる。細部まで入り込んで拘束具ともなっているだろう。


 代わりに、一気に吸収された熱量がアドゥルの元に集った。鼓動に合わせて熱波が脈打つ。冷えていく大地に比例して、アドゥルが纏う灼熱の輝きは刻一刻と増していく。


 大地を掴む四肢から凄まじいエネルギーが吸い上げられているのが分かった。


『渾身の一撃だ。受けてみよ』


 ガバッと開く顎門。そこに収束する信じ難いほどの熱量。〝限界突破〟状態での重力魔法併用による地熱混合式ブレス。


『――〝緋陽の咆哮・廻禁(かいきん)〟」


 その瞬間、音が消えた。ただただ赫灼たる輝きだけが広がった。暗雲の天下が緋色に染まり、満たされる。


 一拍。


 音が戻る。大気が唸るような轟音を響かせ、緋色の閃光の到達点からは絶叫が鳴り響いている。


――******###※※※ッッッ!!?


 拘束具だった大質量の溶岩石など一瞬の内に溶けて消え、怪物の結界は紙屑のように砕かれ、その身に特大のブレスが直撃していた。


 怪物の全面の面積とほぼ同等といえば、そのブレスの規模が分かるだろうか。


 ハジメが使う太陽光収束レーザー〝バルス・ヒュベリオン〟の最大解放状態、それも複数基分を同時に放ったような光景だ。


 巨体を大地に固定してブレスを放ち続ける巨竜の姿は、そういう造形にしただけの巨大固定砲台にも見えた。


 ブレスが不意に揺らめく。だが、直ぐに元に戻り、凄まじい勢いで怪物の表面の人形が焼滅していく。


 模倣されて消される様子はない。それもそのはずだ。


 このブレスには対象を射線から逃がさない重力場と、更に魂魄に直接、熱エネルギーを伝える魂魄魔法が併用されているからだ。


 〝廻禁〟とは、すなわち魂が巡ることを許さないということ。魂さえも焼き尽くすという意味だ。


 怪物は一つの魔法しか模倣・解除できない。そして、解除されてもアドゥルは常に発動し続けている。


 物理的な火力を防ごうとすれば魂魄が焼かれ、魂魄を守ろうとすれば肉体が焼失する。そして、ユエの〝雷龍〟の顎門と同じく重力場に囚われ、対応しようとすれば肉体も魂魄も焼かれる。


『思考力が残っていたなら違ったかもしれぬ。だが、本能的な足掻きだけでは抜け出せんだろう。いや、抜け出すことは許さん!!』


 魂魄を焼かれる痛みを感じた時点で、あるいは勝敗は決まっていたのかもしれない。特大の混乱と焦燥が怪物をがむしゃらにさせ、窮地を脱せた可能性が刻一刻と消えていく。


 アドゥルが会得した最終奥義とも言うべきブレスが、更に太く、輝きを増した。


 遂に怪物の肉体、その前面が大きく焼失し出す。身代わりの許容量を超えて、本体の崩壊が始まったのだ。


 同時に、アドゥルの竜鱗からもビシッピキッと不吉な音が響き出した。竜鱗がひび割れ、砕け始めている。〝限界突破〟と変成魔法で強化はしたが、それでも星のエネルギーの一端たる莫大な地熱を抱えるには限界があるのだ。


 そこからは我慢比べだった。


『ォオオオオオオオオオオオッ!!!』


――※※※##**※※ッッッ!!


 互いに雄叫びと絶叫を迸らせる。


 アドゥルが力尽きるのが先か。それとも怪物が耐えきるか……


 その結果は――


 緋色の閃光が突き抜けた。壁を失った濁流のように遥か後方へ。


 そうして、徐々に細くなっていき、やがて、フッと消えた。


 後には一直線に溶けた地面と、激しい上昇気流。火の粉も、熱も、残骸も、全てが風に巻かれて天へと消えていく。暗雲もその風に払われるようにして消えて陽の光が差し込んできた。


 それはまるで、死者が天に召されていく光景のようで。


『……』


 その直線上の始点にて、アドゥルは四肢を踏ん張ったまま沈黙していた。頭を垂れ、ピクリッとも動かない。


 全身からシュ~ッと蒸気を吹き上げ、熱せられた大気が陽炎のように周囲の景色を歪ませている。


 ガシャンッガシャンッと硬質な音も響いた。ひび割れた竜鱗が剥がれ、固く冷えた地面に落ちている音だ。


 一拍おいて、その巨体が緋色の光に包まれた。スルスルと小さくなっていき、その中心には片膝を突くアドゥルの姿が。


 全身が真っ赤だ。手足は焼き爛れ、ケロイド状になっている。


『――ルさ……アドゥ――ま!!』


 沈黙していたアドゥルがピクリッと反応した。


『アドゥル様!!』

『ッ――カハッ、ハァハァッ、聞こえている』


 少しの間、意識が飛んでいたらしい。アドゥルは呼吸を思い出したように大きく息を吸うと、脳内に響くヴェンリの憂慮に満ちた声音にどうにか返事をした。


『ご無事なのですね?』

『無事……とは言い難いが命に別状はない。しばらくは動けそうにないが、な』


 魔力がすっからかんだ、と苦笑しつつ足に力を入れて立ち上がろうとするが、よろめいて倒れそうになるだけ。慌てて片手を突いてバランスを取ろうとする。が、それも失敗しそうだったので素直に尻餅を突いて胡坐(あぐら)をかいた。


 大きく深呼吸。そして、気配で分かっていたが、改めて前方を確認する。


 綺麗さっぱり、あの黒い怪物の姿はなかった。魂で感じた忌避感もない。


『どうやら倒せたようだ。集落の者達が無事であればいいが……』


 肩越しに振り返るアドゥル。数百メートル向こうまで焦土と化しているが、それだけだ。その先にはしっかりと樹海の木々が見える。


 だが、魔物の群れもまた同じ方向に群れをなして逃げているはずだ。怪物という脅威が消えたと察知すれば落ち着きを取り戻し、その爪牙を周囲の獲物に振るいかねない。


『迎えは出していますが――』


 ヴェンリの声音にも憂慮が滲んでいる。


 と、そこへ答えがもたらされた。


『……ん、確認しました。大丈夫です』

『ユエ君!』

『ユエ様!』


 ユエの〝念話〟だ。どうやら、トータスに救援に来てくれたのはユエだったらしい。


 それを少し意外に思うアドゥルとヴェンリ。ユエは司令官だ。その拠点とするなら地球だろうと思っていたから。


 彼女が何より守りたいのがハジメの故郷であり帰る場所だというのもあるが、現状、厄災界と繋がっているのは地球なのだ。つまり、絶対に陥落してはならないのが地球と王樹のはず。


 だが、その疑問を口にする前に、アドゥルの頭上に黄金に輝く渦が生じた。かと思えば、そこから同じく黄金に輝く光が照射された。


 目を丸くするアドゥル。


『これは……おぉ、癒やしの光か。ありがたい』


 みるみると火傷が癒え、四肢に力が滾ってくる。魔力譲渡もされているようだ。瞬く間に全快してしまう。


『……樹海の住人の居場所は余さず把握しました。既に〝ゲート〟を展開済み。数分以内にフェアベルゲン周辺へ避難できるでしょう』

『す、数分? まさか……』


 一瞬、絶句するアドゥル。そのまさかだった。


『まさか、樹海にいる全ての人々の元へ同時に転移門を?』

『……いいえ』


 流石に違ったか。と苦笑するも直ぐに気が付く。遥か後方から津波にように押し寄せた凄まじい力の気配に。


 思わず息を呑む。あの怪物ですら赤子に感じる強大さ。なのに、忌避感など欠片もない。恐ろしさも、息が詰まるような圧迫感さえもない。


 思わず翼を展開して飛び上がり、竜の眼を強化して大樹の方を見やる。


 大樹の天頂に、黄金の太陽が生まれていた。


『……樹海近郊も含めて、全ての人々の元にゲートを開きました。近隣の防備が整った町か都へ避難するよう意識誘導も』

『な、なんと……そんなことが……』

『ア、アドゥル様。今、フェアベルゲンの全方角に城壁のようなゲートが出現しました。こ、これなら一気に何百人でも何千人でも通れます……』


 ヴェンリから狼狽えたような声音が。


『……ん。フェアベルゲンと王国を繋ぐゲートも増設したので、少なくとも〝人〟は、数十分もあれば全員、樹海から脱出できるはずです』


 樹海全体に広く人々が進出しているなら、当然、樹海近郊だって同じだ。


 樹海でしか得られない資源や魔物の素材は実に豊富で、フェアベルゲン公認の交易だって今ではある。


 であるなら必然、物流と経済圏が生まれる。人が集まってくる。樹海近郊にだって新たな町や拠点はたくさん作られていて、人も加速度的に増えているのだ。


 怪物が北の山脈地帯から出現したのは不幸中の幸いだった。もし内陸側からだったなら、アドゥルが駆けつける前に多くの人が犠牲になっていただろう。


 そんな樹海近隣に集まっていた膨大な数の人々の所在を全て把握し、ゲートまで展開し、更には意識誘導まで……


『……王国には既にリリィが到着しています。避難民の受け入れ態勢を含め、各国との連携、現場の指揮は任せて問題ありません』

『そ、そうか。駆けつけてくれたこと、この世界の者として感謝するよ』

『……それはこちらのセリフです、アドゥル殿。一応、いつでも加勢できるよう注意はしていましたが、貴方が対応しきってくださったおかげで、中断せずに集中できました。あれほどの怪物を一人で倒してしまうなんて、流石は竜人族の長です』


 言葉遣いからも分かる通り、ユエもまたハジメと同じくアドゥルには大きな敬意と信頼を抱いている。ティオが敬愛する祖父だからというのもあるが、それ以上に、伝説に語られる高潔な竜人の王そのものを体現したような存在だからだ。


 小さな集落を守るための勇壮なる竜王の戦い。


 いざとなれば手を貸せるよう見ていたからなのだろう。その声には若干の興奮が感じ取れる。


『奮闘した甲斐があったようだ。最強の吸血姫殿に称されるとは光栄の極みだよ』


 苦笑を禁じ得ない。といった様子で頬を掻くアドゥル。


 自分より遥かに凄いことをやっている自覚はあるのだろうか? と、なんとも言えない気持ちになったのだ。


 だが、実際のところ、アドゥルの驚愕はこの程度では済まなかった。アドゥルは未だ、ユエの力を、その全力を理解できていなかった。


 ということを、直ぐに思い知ることになった。加えて、そんな相手から〝伝説の竜王、すごい! 強い!〟 と無邪気とも言える評価を貰って、ますます居たたまれない気持ちになるまで、あと六十秒。


『……私以外にも念のためもう一手、大樹の守りが欲しいです。アドゥル殿、こちらへ』

『承知した』


 アドゥルの前に黄金に輝く長方形のベールが降りた。〝ゲート〟だ。素直に通り、視界が切り替わる。


 見えたのは庭園の如き美しい大樹の頂上、そして地平線まで広がる見慣れた樹海。


 そして、黄金の太陽。ユエだ。


 大人モードで、巨大な三重の輪後光を背に、全身に淡い輝きを帯びながらふわふわと浮いている。ギターのピックの如き小さな三角形の障壁のようなものが無数に、まるで土星の輪のように周回していた。


 服装は、前が短めで波打つ長い裾が特徴の、いわゆるフィッシュテールドレスのようなデザインだ。首筋や肩、腕や足はレースで覆われていて、透けてはいるが一応、露出は少ない。その上から同じくレースタイプのストールもかけているので余計に。裾がふわふわと浮いて揺れるストールは天女の羽衣のよう。


 純白一色なので、ウェディングドレスにも見えるそれは戦場には場違いにも見えるだろう。普通なら。


(若い連中は来るべきではないな……)


 思わず苦笑が浮かんでしまう。


 本気モードのユエにTPOなど関係ない。彼女の姿が、その場に相応しい基準となる。どんな場も、そう塗り替えられてしまう――と、言わざるを得ない周囲の全てを呑み込むような絶対的な美しさ。


 そして何より、その絶大な力の気配。


 近くに来れば余計に分かる。肌で、魂で感じるユエの力は未だかつて感じたことがないレベルだ。


 何かとんでもない力の奔流がユエを中心にして渦巻いているのが分かる。


 黄金の太陽と称したのは、何もユエが発する魔力の光だけを指してのことではない。実際に、大樹の天頂全てを覆うほどの巨大な輝く球体が出来ているからだ。


 どう表現すべきか。改めて見渡せば、この大樹を中心に巨大な魔力の流れが生じているのが分かった。見渡す限りの樹海から魔力が溢れ出し、それが地を這うようにして集まってきているのだ。


 そして、それが大樹を中心に渦巻きながら昇り、この天頂へと、ユエへと集束してくるのである。


 そこで溢れ出した魔力が黄金の輝きを帯び、緩やかに回る巨大な球体空間を作っているのだ。


 もちろん、その中心はユエだ。


(元々が強大な存在だ。それは周知の事実。だが、それでもここまでではなかったはず……いったい何が……)


 その発せられる太陽の如き強大な、それでいて母の腕に抱かれているかのような温かさと安心を感じる力の気配は、きっと見た者を虜にせずにはいられないだろう。


 アドゥルでさえ本能的に膝を折り敬意を示しそうになった。人生も最終盤の老竜にして、確固たる精神を持つ者だからこそ、その程度で済んでいるのだ。


 これが若者なら、きっと心に焼き付いて二度と忘れられないに違いない。手に入れたいなんて恐れ多くてできずに、ただ身も心も捧げて信者となりかねない。ある程度、歳を重ねた者でも危ういだろう。


 それほどの存在感、そして桁外れの〝美〟が、そこにはあった。


 はっきり言おう。


 ユエこそが、この大樹の化身と言われても誰も疑わないに違いない。


 よくよく見れば大樹も瑞々しく葉をつけ、うっすらとだが輝いてさえいる。化身の帰還を喜んでいるみたいに。あるいは、ユエの意志に応えているかのように。


「……こ、これは、旅行前にハジメが用意してくれた新しい戦闘服でして……」

「う、うむ?」


 圧倒される心情を払ったのは、その圧倒してきた存在だった。アドゥルが戸惑いつつ視線を周辺からユエへと戻す。ユエ様、なんかモジモジしていた。


「……わ、私はもう少し戦闘服っぽい感じがいいんじゃないかって言ったんです! けど、ハジメが……これが似合うって言ってきかなくて……」


 本人が誰よりもTPOを気にしていたらしい。でも、ハジメに熱望されるのは嬉しくて満更でもない……みたいな感じだ。実に乙女。大樹の化身と言われても普通に疑われそう。


「あ、ああ、そうか…………ふふっ、ふははっ。相変わらずの夫婦仲のようで何よりだ。うむ、場違いなどということはない。よく似合っていると思うぞ、ユエ君」

「……はぃ」


 見た目は完全に女神様。なのに、祖父の微笑ましげな眼差しにモジモジしながら言い訳しちゃう孫娘みたいな有様は、ある意味、神々しい雰囲気よりも凶悪だ。


 妖艶な大人の女性な見た目で見せる可愛らしさ。若者の情緒を破壊し尽くして余りある。


 アドゥル老は微笑を浮かべつつも、心の中では固く誓った。このモードの時のユエ君には若者達は決して近づけまいと。


 そんな微笑ましい雰囲気を張り飛ばすように声が響いた。


『ユエさぁーーん!? 恥ずかしがってる場合ですか!? 見えてます! もう目視できちゃってます!!』

『ユエ様! 報告でございます!! フェアベルゲンの周囲に異様な気配が……白霧が黒く染まっていきます!!』


 前者はリリアーナの声だった。ユエを中心に周回する三角形の一つから響いてくる。後者はヴェンリだ。見れば、確かに樹海がまだら模様になっていた。


 大樹やフェアベルゲンを囲むように、樹海を覆う白霧のあちこちが黒く染まり始めたのだ。更には木々が薙ぎ倒されたり、まるで地面が底なし沼にでも変わったかのように沈んでいく木々も。


 パッと確認しただけでも十数カ所。全ての場所から感じる、あの忌避感。


 間違いない。力の大小はあるようだが、この樹海だけで〝無神〟が十数体も出現したのだ。


 更には、


『おう、ユエの嬢ちゃん。エリセンの方にもやべぇのが迫ってらぁ。俺とイナバが旅人とやらに連れられている時に遭遇した奴たぁ、やっぱ別だな』


 というリーさんの声に続いて、帝国や魔王国、それに中立商業都市フューレンや公国からも〝見たことのもない黒い怪物が出現した〟という報告が重なるようにして響いてくる。


 どうやってか、既に通信機を介さず、直接、各国の主要な者達と相互に意思疎通できる方法を確立済みらしい。


 だが、そのことに感心している場合ではない。


「なんということだ。世界中に? やはりエネルギー源として都市が狙われたということか!」


 アドゥルの表情に隠しようのない焦りが浮かんだ。


 やはり潜んでいた〝無神〟は一体ではなかった。そして、恐れていた事態――平行世界へ渡るエネルギー不足を解決するため人口密集地への無差別襲撃が始まる――が起きてしまった。


 もし、己が戦った怪物と同等以上ならば……


 とてもではないが手が足りない。アドゥルやユエが到着するまで時間稼ぎするにしても限界がある。どこかに対応している間に、他が陥落する。


「ユエ君。無理を承知で聞くが、救援は君だけだろうか?」

「……はい。トータスに来たのは私とリリィ、それにリーさんだけです」


 采配を振ると宣言したユエの判断だ。それに同意したのはアドゥルだ。


 ならば、言葉を重ねるのは時間の浪費。更なる救援を、とは口にしない。


 アドゥルは深く息を吐いた。そして、決然とした眼差しで、そう、まさに高潔なる竜人族の長の目になって口を開いた。


「承知した。では、我々、竜人族が総力を以て各都市を死守しよう」


 身命を賭した時間稼ぎ。エネルギー源とされるだろうことを考えれば、死んでも蘇生してもらえるとは考えない。まさに、決死の覚悟。


 だが、そんなアドゥルに、


「……いいえ、必要ありません」


 いつの間にか超然とした雰囲気になって虚空を眺めていたユエは、そう断言し。


 そして、片手をスッと挙げて、


「……そのために、()()来ました」


 ゆるりと振り下ろした。


 その手に合わせて、天より光の柱が降り注いだ。


 あたかも、それは分厚い雲の隙間から差し込む数多の陽光――通称〝天使の梯子〟と称される自然現象のようで。


 しかし、確実に違うと言えた。全てが黄金の輝きを帯び、更には陽光ほど淡くもなく、むしろ物理的な質感さえ伴っているように見えたから。


 樹海の遥か高き天空に生じた幾つもの光の渦。そこから照射された黄金光の柱が樹海のあちこちに突き立つ。


 突き立った場所は、先程、異変が見て取れた場所。怪物の出現場所だ。


「……大丈夫です。全て捕捉しています」


 安心させるように柔らかい声音を響かせるユエ。それは、アドゥルにというより、世界中の人の耳に、あるいは意識に届けているかのようだった。


 否、実際に届けているのだろう。


 ユエの周囲を回る三角形の障壁らしきもの――おそらく各国の主要人物達と繋いでいるであろう空間の小窓的な魔法――を通して続々と息を呑むような気配が伝わってくるから。


 そう、無数の黄金の〝天使の梯子〟が降り注ぐ光景は、今、世界中で目撃されていた。


 突然、発令された緊急事態に騒然とする各都の住人達。


 正体不明の脅威が迫っていると言われても困惑するしかなく、それどころか気が付けば〝ゲート〟を通って別の場所にいて途方に暮れる者達。


 そして、リリアーナを始め各国の首脳陣達。


 その全てが、何百、何千万という人々が揃って天を仰ぎ、呆けた顔をさらして、その余りに神々しい光景に魅入っていた。


「まさか……まさか、大陸全土を?」


 信じられないと目を見開くアドゥルに、ユエはコクリッと頷く。目を細め、ここではない遠くを見る。全てを見通すような眼差しだった。


 直後、大陸のあちこちから絶叫が響いた。


「――ッ!? これは!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような叫び声が幾重にも重なっている。明らかに苦悶を感じさせる声音――〝無神〟達が断末魔の叫びの如き声を上げているのだ。


「……流石は平行世界の強者達。簡単には死なない。でも効いてる。効いているなら……」


 ユエの普段は眠たげな目元がカッと見開かれる。ユエを囲う黄金の天球が更に輝きを増す。凄まじいまでの魔力が大瀑布のように流れ込んでいく。


「……死ぬまで封じて殺すだけ」


 黄金の天使の梯子も、呼応するように輝きを増していく。


「そうか。あの光の柱は……過去映像で見た。君がかつて、魔王城でエヒトに使われた術か!」


 アドゥルの気づきは正解だった。


 ユエがエヒトに憑依された時の光柱と原理は同じである。ただし、出力も強度も、そして効果もほぼ別物だが。


――全神代魔法混合式封殺魔法 天使の黄金梯子


 多重空間遮断結界をベースに、その一枚に反射・拡散・吸収といった異なる性質が付与され、更にリアルタイムで再生し続ける結界だ。


 内部では分解砲撃を中心に、全属性最上級魔法と超重力場、空間振動、損傷再生、生成魔法と変成魔法による肉体物質の強制変質、魂魄魔法による意識撹乱、魔法行使阻害というフルコースの暴威にさらされる。


 当然ながら、その全てが昇華魔法により強化されていて、かつ、魂魄魔法により魂にまで効果が及ぶという徹底ぶりだ。


 〝絶対に殺す〟と決めた相手にのみ使う。


 そう己に制限を課して創り上げた、今のユエに可能な最新にして紛うこと無き最強の魔法である。


「空間魔法で大陸中を繋ぎ、空間跳躍攻撃を仕掛けた……ということか。だが……〝無神〟は羅針盤でさえ感知できないはず……」

「……魔力放射です。大陸各地の千箇所に展開した〝ゲート〟を通じて魔力を放射し続けています」


 集中しながらも答えてくれたユエに、しかし、アドゥルは困惑の眼差ししか返せなかった。


 〝無神〟は感知できない。魔力を放射したからといってなんだというのか……


「いや、まさか……」

「……はい。〝無神〟を感知できないなら、逆に〝無神〟以外の全てを感知してしまえばいい。感知の〝空白地帯〟、そこが〝無神〟の存在する場所です」

「馬鹿な……」


 とんでもない力業だ。


 そして、不可能な技だ。


 今、この瞬間、いったいどれだけの魔法を同時行使しているのか。それだけでも人智を超えているというのに、加えて大陸全土を知覚している?


 とても人間業とは思えない。


 とはいえ、そこまでは昇華魔法や魂魄魔法の極致を併用すれば、あるいはユエならば可能なのかもしれない。と百歩譲ることは出来る。


 だが、だがしかしだ。


 そもそもの話、大陸全土を覆う魔力放射? あり得ない。もちろん、短時間ならば無限魔力から貯蓄した分でどうにかなるだろう。だが、放射し続ける?


 いったい、どれだけの魔力があればそんなことができる?


 それこそ無限に等しい魔力供給が必要だ。


 だが、先の情報共有では無限魔力の源はハジメが持っているはず。厄災界と断絶状態では供給も受けられないはずだ。


 それとも、ハジメとの繋がりが復活して……


「いや、そうか、そういうことなのか……この強大な魔力の奔流……まるで樹海中から湧き出し、集まってきているような感覚は……」

「……流石はアドゥル殿。その通りです」


 ユエの口元が少しだけ笑みを作った。


 考えが至っても唖然とした様子を隠せないまま、アドゥルは正解を口にする。


「重力魔法の神髄――〝星のエネルギーへの干渉〟……ユエ君、君は今、この世界の魔力そのものに干渉し、利用している。そう、ハジメ君が地球の氣力を掌握しているように」


 ただし、ハジメがライラという王樹の化身の全面協力のもとに成しているのに対し、ユエは己の力のみという信じ難い条件下だが。


 それは、奥義たる〝黒天窮〟を超える重力魔法の極致だった。


 人類に重力魔法を残してくれた者。


 何千年もの間、心折れずに時を待ち続けた者。


 人類の守護者。そのリーダー。


 重力魔法の申し子にして、最強の使い手――ミレディ・ライセン。


 神の使徒さえ意識せずにはいられず、幾星霜を経ても色褪せない畏怖にも似た感覚を刻みつけた、その力の根源こそがこれ。


――自然魔力の集束と無制限使用


 そう、実質的な無限魔力だ。


 ミレディ・ライセンが最強であった由縁。全盛期の彼女は、その手に無限に等しい力を自力で得ていたのだ。


 あるいは……


 かつての解放者との戦いにおいて、エヒトが最終的に人類を人質に取る選択をしたのは、ミレディ達の志を踏み躙る愉悦を得るためだけではなく。


 真っ向勝負となった場合、己の敗北の未来を感じていたからではないのか。


 何はともあれ、だ。


 全ての神代魔法を会得した時に得た知識で、それが可能であることは理解できていたが、結局、ユエでさえも至れていなかった境地。


 戦いは終わり、故に至る必要もないだろうと思っていた、その領域に。


「……ハジメが、あんなにも頑張っていたから」


 ユエは至った。


 最愛の人を誰よりも間近で見ていたユエ達が、まさか杞憂だと慰めるだけで終わるはずがない。


 ハジメが不安を感じるなら、それを吹き飛ばすほど強くなろう。


 ハジメが皆を守るために必死になるのなら、そのハジメを守るために私達が必死になろう。


 必死に、ならないわけがなかった。


 もちろん、ハジメが気に病まないよう、シア達と話し合って上手くカバーし合い、日常はしっかり楽しみ、努力を見せないようにしながら。


「……ユエさんも、ちょっと頑張りました♪」


 ちょっと頑張ったくらいでできることだろうか? と苦笑が浮かぶアドゥル。愛の力……ということにしておこうと、どうにか己を納得させる。


「なるほど。……正しく、この世界は〝君の世界〟なのだな」


 この世界に生まれた、ある種の特異点(イレギュラー)


 かつて世界が畏れ、世界が求め、神さえも手に入れようとした存在。


 この世界ならば、否、固有エネルギーが魔力である世界なら。


 今や、ユエは無敵だ。


 無制限の魔力は彼女を真の不死身とし、その神域の魔法技術と才覚は大陸全土に及ぶ。


 かつてのエヒト以上の領域に、今のユエは至っているのである。


 だから、ユエはトータスに来たのだ。


 トータスの防衛は、己一人で事足りるが故に。


 生まれ故郷の星が力を貸してくれるなら、全ての異世界にさえ手が届くから。


 これぞ魔神の正妻。


 夫の留守を、盤石を以て預かる最強の吸血姫様だった。


「……みんな、もう一度、言う。私がいる。だから、絶対に大丈夫」


 おそらくトータスだけではない。他の異世界に散らばった仲間、その世界で戦い始めているであろう者達に送った言葉だろう。


 圧倒的な存在感と力の奔流は、きっと彼等・彼女等にも届いているはず。


 ハジメに感じるのと同じ安心感と信頼を、感じ取っているはずだ。


「天晴れ見事なり」


 思わず、口から出たのは掛け値なしの称賛だった。


 ピッと指先を振るユエ。きっと、大陸のどこかに新たな〝無神〟が出現し、あの黄金の光柱がまた一本、神々しく周囲を照らしながら大地に突き立ったに違いない。


 同時に、絶句していたのだろうリリアーナ達、各地の首脳陣からも我を取り戻したかのように称賛と感謝の言葉が響いてくる。


 ユエは、そのタクトのように振った指先を上に向けつつ、何故か逆の手の指を下に向けた。


 そして、伝説の竜王やリリアーナ達に褒められたことを素直に喜ぶように、ちょっと胸を張って(特に〝流石は魔神の正妻様!〟には、小さな鼻をぷくぷくさせて)、得意げに言った。


 キメ顔で。


「……ん! まさに、天上天下ユエが独尊!」


 無限魔力が常に流れ込んできているからか。もしかして、ちょっとハイになってる? と思わなくもない、それはそれはお手本のようなドヤ顔だった。


 アドゥルは思った。ついでに口にした。


「ん? 天上てん……すまない、ユエ君。それは〝天上天下唯我独尊〟のことだろうか?」

「……エッ?」


 ユエさん、バッとアドゥルの方を見やった。まさか指摘されるとは思いもしなかった様子で。


「間違っていたら済まない。確か、その言葉は全ての命の平等、皆が尊いという意味ではなかったかな?」

「……え、え? 皆、尊い? え……?」

「以前、カム殿がお土産にと日本で買ったTシャツを贈ってくれてね。そのTシャツに書いてあったのだ。竜王が纏うに相応しい言葉だと」

「……」

「なぜ、この状況でその言葉を? 〝ユエが独尊〟と一部を変えているように聞こえたが……」

「……いえ、あの、その……」

「この状況で敢えて口にした言葉だ。誤解があってはいけない。不勉強で申し訳ないが、念のため正確な意味を教えて頂きたい――」

『もうやめてぇ! アドゥル殿ぉ! ユエさんの心のライフがゼロになってしまいますぅ!』


 響いたのはリリアーナの声だった。


『確かにそれが本来の意味ですが、ユエさんは単に〝私、最強〟という意味で使ったんです! これは間違ってるわけじゃなく、某創作物においてちゃんと背景があって使われた言葉なんですが、ユエさんもそれを見て影響されて、どこかで使う機会を窺っていたんだと思うんです! だって、私とミュウちゃんが一緒にアニメを見ている時、ユエさん、後ろでこっそりポーズとって楽しそうに真似してましたし! テレビ画面に反射して映ってましたから間違いありません! ちなみに、語感だけ気に入った感じだったので意味は知らないはずです! だから真面目に返さないで! これ以上、全世界が聞いてる中で追及しないであげてください!』


 アドゥルさんは、ハッとした。如何にも「やってしまった!」みたいな表情だ。


「す、すまない、ユエ君。己の不明を恥じるばかりだ。そのような深い使い方もあるとは知らなかったのだよ」


 心底申し訳なさそうに、かつ、曖昧な笑みを浮かべて謝罪してくれるアドゥルさん。


 それが余計に心に刺さる。


 ユエ様は両手で真っ赤になった顔を覆った。


 そして、


「……うぅ、リリィ、後で処す」

『エッ!!?』


 八つ当たり宣告をするのだった。


 どうやらこの世界でただ一人、リリアーナだけは無事には済まないようだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


すみません、遅れました。アドゥルさんの戦い部分、元々は勝てないまでも粘りピンチのところでユエが助けに来るという感じで書いていたんですが、アドゥルさんが負けるシーンはなんかやだなぁとモヤモヤしてしまいギリギリまで書き直しておりました。


※ネタ紹介

・アドゥルの最強ブレス

 イメージは『キングオブモンスターズ』のゴジラVSギドラです。ゴジラの全身が熱で真っ赤になっているシーンです。

・天上天下ユエが独尊

 言わずもがな『呪術廻戦』の五条先生からです。覚醒シーン、めちゃくちゃ好き。一番好きかも。アニメ、復活後の戦いが楽しみすぎる。

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― 新着の感想 ―
もうサブタイの時点で、オモシロ案件の予感アリでしたがキレッキレで草。 やむを得ない状況とはいえ、リアルタイムのこの場に香織がいないのが惜しいw きっと歴代トップクラスの良い笑顔になっていたでしょうw
いやいや、天にも地にも尊き御方はユエ様ただ独りですよ
アドゥルとかミレディに感動して涙してたのに最後w リリィ、やめたげてw
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