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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅥ
522/550

天竜界編 アーヴェンストツアー 中




「……なるほど。そういうことだったのですね」


 悲鳴が木霊した艦橋に、今度は納得の声音が響いた。


 G10による、というかハジメ達による〝意思を持ったアーヴェンスト〟というサプライズに最高のリアクションを返してくれたローゼ達。


 だがしかし、このドッキリはハジメ達の想像を超えて〝こうかはばつぐんだ!〟と称するべき衝撃をローゼ達に与えたようで。


「もう、ハジメ様ったら……本当に、本当に驚いたんですからっ」

『流石に、肝が冷えたよね……』


 ほぼパニックである。なんなら阿鼻叫喚である。「アーヴェンストがしゃべるなんて!」「どういう仕組みで!?」などと興奮と好奇心に満ちた顔になって尋ねてくれるかと期待していたのに、むしろ顔面蒼白である。


「まさか、かつての王竜の魂が船に定着していて目覚めた……と思うなんてなぁ」


 そう、彼女・彼等は勘違いしたのだ。


 何せ、〝戦艦アーヴェンスト〟は王竜の核を以て建造された船だ。相棒だった王子に殺されて船の動力にされた王竜の、である。恨み辛みはさぞかし強いだろう。


 長く王竜核を欠いていたとはいえ、あのヘルムートが王竜の領域を超越した存在になっていたことを思えば、あるいは……と。


 それは確かに蒼白にもなるというものだ。


 おまけに、実はずっと意識があって船上国家だった時の生活も知られていたのでは!? なんて懸念まで湧き上がったようで。


「心臓が止まるかと思いましたぞ。ボーヴィッドなど五体投地で謝罪するだけの生き物と化していましたしね」

「謝罪は当然でしょう。不潔です。軽蔑します」

「ゆるしてくれよぅ。パイロットは割とやってるやつ多かったんだよぅ」


 サバスがハンカチで冷や汗を拭い、オルガ近衛隊長が冷たい眼をボーヴィッドに向けている。


 かつての人間の行いを必死に謝罪したり命乞いしたりは当然、中にはしょうもない謝罪もあった。


 ボーヴィッドを筆頭にパイロット組の一部が面倒くさがって艦内のトイレに行かず甲板から致していて(一応、ちゃんとトイレでするよう禁じられていた)、たまに船体にひっかけちゃっていたらしい。


 ローゼ達の真剣極まりない謝罪の隣で、野ションの自白と五体投地謝罪……


 ボーヴィッド達の自白と謝罪はレベルが違った。


 だが、まぁ、何より驚いたのは、きっと、


「ジーテン、大丈夫?」

「え、ええ、ミュウ様。私は大丈夫です」


 G10だろう。ハジメ達が〝きっと喜ぶから〟と提案するから乗ったのに、いざ蓋を開けてみれば必死の形相での謝罪祭りである。


 ボーヴィッドに「小便ひっかけてすみませんでしたぁーーっ」とスライディング五体投地をかまされた時など、あまりの迫力に「ひっ」と悲鳴を上げてハジメの背後に飛び込んだくらいである。


「南雲君の肩越しにチラチラ様子を窺うG10、ちょっと可愛かったかも」

「それな」


 鈴と龍太郎のボソッとした呟きに淳史や優花達は頷いた。


 何はともあれ、流石にそこまで混乱するとは思いもせず、慌ててG10の正体とアーヴェンストへと至る決意をした経緯を簡潔ながら説明し、今、ようやく落ち着きが戻って来たところだった。


「ローゼ様、そして皆様。大変申し訳ございませんでした」


 G10がモノアイをキュッと閉じて謝罪する。ローゼは慌てて首を振った。


「いえいえ。じーてん、様? でよろしかったでしょうか?」

「どうぞ、G10と呼び捨てに。私は人に仕えるために生まれた存在。それこそを誇りにしておりますので」

「誇り……ふふ、ハジメ様とティオ様もそうですが、異世界というのは本当に不思議な所ですね」


 機械知性体――人の手で作られた意思を有する機械というだけでも驚愕なのに、ただ是非を判断するだけでなく〝誇り〟を持つと言う。


 だがローゼの瞳に疑いの色はなかった。生まれた時から役目と使命を背負った者としての〝誇り〟ならば、ローゼもよく知っている。故に心がG10の言葉を認めていた。


「分かりました。ジーテン、謝罪は不要です。こういうのは〝だいたいハジメ様のせい〟だと決まっているのです。実際、そうでしたし」

「お、出た出た。南雲っちのDHS」

「やるね、異世界の女王様。ちゃんと理解してるよ」

「私の場合は、〝だいたい奈々と妙子のせい〟だけどね」


 語呂が悪そうなので略称は略! と渾身のジト目をスルーされる優花はさておき。


「ちなみにだが、このG10は通信端末だ。本体は今も機工界にいる」

「まぁ! そうなのですか?」

「ああ。人類を見守ることがG10の今の使命だからな。まだ自分の世界を離れるわけにはいかないんだ」

「なるほど」

「それに、今や〝聖樹の化身〟だ。この世界で言うところのメーレスだな。そういう意味でも安易に離れるわけにはいかないんだよ」

「なる――え? ……エッ!?」


 ローゼが納得顔で頷きかけ、頭上に〝?〟を浮かべ、告げられた言葉の意味を咀嚼し、スゥ~ッと青ざめる。


 神霊メーレスの威容を思い出してか、クワイベルが震えた。存在の格が違うと、確かに覚えた畏敬の念。まして、メーレスは己等と姿形は異なれど、敬愛する母上(ティオ)の本気――龍神の姿と同じ。紛うことなき最高位の龍。


 目の前のG10からは感じないが、それでも同格の存在と聞けば自然と緊張してしまう。


 恐る恐る、窺うように尋ねる。


『あ、あの、それってつまり……神様ってこと――』

「違いますが?」

『え、で、でも――』

「違いますが?」

『メーレス様と同じって――』

「違うと言っているが?」

『あ、はい』


 有無を言わせぬとは、まさにこのこと。声音が冷えていくどころか口調まで変わる。


 不興を買ってしまった!? とますます青ざめるローゼ達に、ハジメはG10を宥めながら急ぎ補足説明をした。G10の〝神気取りのAI嫌い〟を。


 それでなんとなく理解したローゼ達に、G10は「失礼しました。クソマザ……最悪の人敵を思い出して少し熱くなってしまいました」と己の態度を侘びる。口がわるわるになりかけているのは、やはりキャプテンのせいだろうか?


 何はともあれ、G10は改めて告げた。


「確かに、客観的には現在の私の立場は世界の管理者と言えるのでしょう。ですが、私はあくまで〝人類のための支援AI〟。神を名乗る気は毛頭ありませんし、敬われたくもありません。何より、一時的な立場ですので」

「一時的、ですか?」

「ええ、私はいつか必ず――〝アーヴェンスト〟になるのですから」


 そう言って、機械の眼とは思えないほど〝愛しい〟という感情が伝わってくるモノアイで艦橋に視線を巡らせるG10。


 下手な言葉より雄弁に伝わった。


 G10にとって〝神様〟なんて立場より、この〝船〟になることの方がよほど名誉なことなのだと。


 それをこそ、G10は心から望んでいるのだと。


 どんな言葉を返せばいいのか、ローゼ達は咄嗟に思いつけなかった。不意打ちのように湧き上がった感情が胸に詰まって、言葉までせき止めてしまったみたいに。


 自分達のかつての故郷が、これほどに大切に想われ、望まれている。


 神様より素敵だ、なんてとんだ殺し文句だ。


 ましてそれが、人類のためにたった一人で二百年も戦い続けた戦士であり、かつ〝大いなる樹〟に世界の守護者として認められた偉大な存在の言葉とあればなおさら。


 だから、ローゼは、きっと同じような表情になっているだろうクワイベルやサバス達を代表して、うっすら浮かんだ目尻の雫を指で拭いながら、


「……ありがとう」


 そんな感謝の気持ちだけを、どうにか絞り出したのだった。


「さて」


 パァンッと柏手を一つ。深く感じ入っている様子のローゼ達に、ハジメは空気を切り替えるように声をかけた。


「お互いに紹介も済んだことだし、そろそろツアーに行こうか」

「ふふ、ええ! そうしましょう!」


 ローゼ達も気持ちを切り替え、輝く笑顔で頷く。


 G10が艦橋の分厚い両開き扉を開いた。と同時に、ハジメがお手本を見せるようにカード端末からエアロバイクを召喚し乗って見せる。


 トータスのような純粋な剣と魔法のファンタジー世界ではなく、機械文明も進んだ世界だからだろう。ローゼ達はそれほど困惑することなくカード端末を操作し、エアロバイクを召喚していった。


 もちろん、〝宝物庫〟のような別空間からの転送システムなどないので、その利便性には改めて目を剥いているが。


「な、なんか頼りねぇなぁ。これほんと乗って大丈夫か?」

「なんだパイロットのくせにビビってるのか?」


 床から十センチくらいの高さでピタリと浮いて静止しているエアロバイクに、片足を乗せてトントンしては引っ込める……を繰り返しているボーヴィッド。


 ハジメが揶揄うような笑みを向けると、ムッとした表情になった。


「パイロットだからだよ! どう見ても自立してるのもおかしい機体バランスじゃねぇか!」


 それはそうだ。セグウェイの車輪部分を取り外し、レコード盤くらいに薄くした円盤を水平に寝かせた状態で前後につけているだけ、という見た目なのだ。

 

 見るからに不安を煽る。パイロットだからこそ、そのあり得ない見た目に戦々恐々としてしまうのだろう。


 それは他のパイロット組も同じらしい。隊長と同じく、まるでプールに浮かぶフロートベッドの上に立とうとしている人の如き慎重さを見せている。


「もう、何をしているのですか、ボーヴィッド。情けないですよ?」

「へ、陛下……」


 ローゼが普通に乗っていた。サバスとクロー姉弟も。むしろ、四人とも「おぉ~」と感動したように早速、広い艦橋内で試運転している。


「これはこれは……凄まじく直感的な乗り物ですなぁ。これならば操縦技術の修練など確かに無用だ。素晴らしい!」

「こんなに体を傾けているのに揺らぎもしないわ。むしろ勝手にバランスを取ってくれている……。ハンドル操作だけでなく、軽い体重移動でもスムーズに動くのね……ふふ、楽しい……♪」

「お、おぉ! 見てください、姉さん! 壁まで走れますよ! 不思議だ……体は横向きなのに、重力はきちんと足下から感じる!」


 流石は元最強の近衛隊長と、彼の直弟子である現役近衛隊長&副隊長というべきか。転倒するくらいなんだと言わんばかりに、スイ~ッスイ~ッと実にスムーズに乗りこなしていた。


 いつも職務に忠実でお堅い印象すら感じるクロー姉弟が、きゃっきゃっというオノマトペが見えそうなくらいニコニコ顔で操縦しているのが大変微笑ましい。


「ククッ、オルガお姉さん、ジャンお兄さん、まだまだ甘いの。ミュウの美技を見ろ! なの! ジーテン、カモン!!」

「アイアイマム」


 シャーッと艦橋前方に向けてエアロバイクを走らせたミュウ。G10が阿吽の呼吸で中央の流体金属の泉を操作し、瞬く間に急勾配のスロープを生み出す。


 それに勢いよく乗ったミュウは、そのまま空中で一回転。それどころか空中でハンドルを握ったまま足を浮かせ、エアロバイク自体も三百六十度回転させて、見事に着地。


 ドリフトのようにエアロバイクを横滑りさせ、停止直後、髪をファサッと掻き上げる。

 

 クロー姉弟から拍手喝采が送られた。「おぉ! お見事です! ミュウ様!」「素晴らしいです! これは、エアロバイク自体を競技とすることもできそうですね!」と童心に戻ったようなキラキラ笑顔付きだ。


 で、そんなミュウは小さなお鼻を得意げにふすっふすっと鳴らしながら、これ以上ないほどのキメ顔を向けた。


 ボーヴィッド達、パイロット勢へ。


「「「「!!?」」」」


 果たして、それが〝(あお)り〟に見えたのはパイロットのプライド故か。ミュウ的にはたぶん「ほら、怖くないの。とっても楽しいの!」と教えてあげたかっただけだと思うが。


「は? ビビってないが? こんなん余裕だが?」

「くっ、隊長! 自分、屈辱です! いくら魔神様のご息女様とはいえ、こんな幼い女の子に〝ざぁこ♡ ざぁこ♡〟されるなんてっ」

「くそっ、なんだこの胸の奥に湧き上がる得体の知れない感情は……っ」

「ちょっと待ってほしいの! 誰もそんなこと言ってないの!」


 パイロット組の予想外の反応に、ミュウがあたふたしちゃう。


 ミュウの演技で尻込みしていた近衛隊員や側近達も気を緩めて乗り始めていたのだが、彼等のパイロット組を見る目は……


 彼等の今後が危ぶまれる……


「ちなみに、ジャンの言う通りの競技場もあるぞ。普段は速度制限がかかってるが、その競技場なら上限開放されるから、興味があれば後で遊ぶといい」

「なんと! 姉さん!」

「ああっ、行くしかないな! ジャン!」


 どうやらクロー姉弟はモトクロス系の競技に興味津々らしい。


「南雲、そろそろ行こうぜ。時間がいくらあっても足りねぇだろ? この船の案内は」

「俺等も全部をきちんと見られたわけじゃねぇしな」

「っていうか体験したのも片手で数えられる程度だもんな」


 龍太郎、淳史、(のぼる)が出入り口付近から呼びかけてくる。一度見学しているにもかかわらず好奇心に駆られた笑顔全開だ。


 実際、アーヴェンストの船内は広すぎて、また施設も多すぎて、機工界での見学は十全とは到底言えないレベルだったのだ。


 ハジメは頷き、先導を開始した。


「広い……」

『僕達が住んでいた時とは全然違うね』


 まず驚くのは通路の広さだ。白を基調とした通路で、四方五メートルはあるだろう。床も壁も天井も、両端にだけクリスタルのような透明度のある青白い素材になっている。


 ミュウが逸る気持ちそのままに先頭を行き、その隣に子守でもするようにG10が並走し、直ぐ後ろにティオ、ユエ、ハジメ、ローゼ、クワイベルの順に並び、更に後ろにシア達とサバス達が続く形だ。


 優花達や龍太郎達も、ツアーの合間に質疑応答できるよう竜王国組の中に紛れるようにして続く。


 そんな中、最後尾までよく届く声量でハジメがガイドを開始した。


「ええ~、竜王国の皆様。本日は新生豪華客船アーヴェンストのツアーに、ようこそおいでくださいました。改めまして、船長(キャプテン)の南雲ハジメと申します」


 改まったうえに演技がかったしゃべりに、隣のユエやティオから「ふふっ」と笑い声が漏れ出す。ローゼ達も思わず頬を綻ばせた。


 だがしかし。


「これより、わたくしめが本船のガイドをさせていただき――」

「……ハジメ? それはG10の役目じゃない?」


 ユエの言葉に、ハジメが「え……?」となる。ご馳走を前にお預けを食らった子供のような表情だ。ユエ様、ちょっとキュンッ。


 それはそれとして、シア達も正妻様の意見には賛成らしい。


「そうですよぉ~。自作品の解説をしたい気持ちは分かりますけど、ハジメさん、一度説明し出したら止まらないんですから」

「機工界でいっぱい説明してくれたんだし……今度はG10がガイドで良いんじゃないかな? でないと、なんのためにG10を呼んだの?って話になっちゃうよ?」

「設計書と部材を用意したのはハジメだけど、実際に改修作業をしたのはG10だし、ね?」

「っていうかさぁ、南雲っち。またあの長文早口説明を聞くのは正直……ごめんね? きついでっす!」


 ユエ、シア、香織、雫から苦笑気味に自重を促されるハジメ。何気に奈々の苦言が一番辛辣だった。やはりギャルにオタク特有の早口長文説明は苦だったのか……


 思わずむっつりと黙ってしまうハジメに、ミュウが速度を落として並走。ハンドルを握るパパの手に小さな自分の手を重ねるようにしてポンポンし、また前に出て行った。


 言葉より雄弁に伝わる。娘がどちらサイドなのか。居たたまれない。


 G10がバック走しながら遠慮を見せるが、


「あの、皆さん。私は別に――」

「さっ、やっちゃってください! G10さん!」


 愛子がインターセプト。更に、ティオと優花まで。


「うむ、ガイドを頼むのじゃ。簡潔に、分かりやすくな」

「南雲、G10の説明に十倍の補足説明とかいらないからね?」

「……うぃ」


 ハジメさん、とっても不満そう。でも機工界で散々気持ち良く解説したんだから、もういいですよね? みたいな視線がリリアーナとレミアからも届いているので渋々頷く。


 確かに、身内や仲間内ならともかく、外部の客人にまで微に入り細に入った説明の洪水を起こすのは困らせてしまうだけだろう、という自覚はあるから。


 魔神の子供っぽい姿に、意外というか、逆に親近感が湧いた様子というか、とにかく驚いた様子を見せるローゼ達。


 G10はハジメを気にしつつも、ユエの頷きに応じてピコンッとモノアイを光らせ了解を返す。そして、


「ごほんっ。ええ、では僭越ながらガイドをさせていただきます」


 なんとなく必要のない咳払いを一つ挟んでガイド役を引き受けた。


「まず、当船の区画と移動手段に関して、説明させていただきます」


 曰く、豪華客船アーヴェンストには大きく分けて七つの区画がある。


 船の中心部に広がるのは、様々な環境を再現した〝自然エリア〟。


 船の後部には遊戯系施設が集まった〝娯楽エリア〟と様々な訓練が可能な〝訓練エリア〟。


 船の前部は〝客室・居住エリア〟、右舷には〝温泉エリア〟、左舷は〝商店街エリア〟、そして、先程見た甲板と船底前部の区域を合わせて〝展望エリア〟がある。


 もちろん、船底の後部全域の〝貨物エリア〟や〝機関部〟、それに〝艦橋〟等々、豪華客船の運行関係のエリアは多数があるが、客には関係のないエリアなので、G10は説明を省いた。


 キャプテンが「えっ、そこ説明しないの? 補足しようか?」みたいな目で見てくる! いや、むしろ「説明すべきだよね? ね?」みたいな圧のある目だ!


 汗腺などないのに、G10から冷や汗が流れる光景を幻視できてしまう……


 なので、ユエさん、旦那の襟元をグイッと引き寄せキス! 物理的に口を塞ぐ。


 ローゼが「きゃっ」と頬を染めて思わず顔を覆うが、もちろん、指の隙間からつぶさに観察するのはお約束だ。ボーヴィッドからも当然のように「ひゅ~♪」と冷やかすような口笛が鳴らされる。


「……んっ。G10? さぁ、続けて?」

「イエスッ、マム!!」


 ペロリッと美味しいスイーツでも堪能したみたいな艶やかな表情で舌舐めずりする正妻様に、逆らい難い何かを感じたのか。G10の返事にはキレがあった。


「いや、ユエさんのあれはちょっとした災害だから、口封じにしても別のやり方にしてほしいんだけど」

「ほんと、それね。もはや男女関係ないもんね」


 (のぼる)と妙子が苦笑交じりに呟く。その視界には後続の竜王国の者達が見惚れたり頬を染めている光景が。男性の中には壁に手を突いて、少し前屈みになっている者も。ジャンお兄さんなど心臓を撃ち抜かれたみたいに胸元を握り締め「ふ、ふつくしい……」とか呟いている。


 相変わらず、ユエ様はエロテロリストだった。今は大学生モードなので余計に。


「ハジメ君。いちいち皆の動きが止まっちゃうから、ね?」

「そうだな。妖艶モードのユエに注目されまくるのもちょっと嫌だし、自重する」


 香織に言われるまでもなく、正妻様のキスは魔神を自重させるには実に効果的だったらしい。


「ええ、続けます。今から向かうのは自然エリアです。そこを散策しながら後部へ抜け、娯楽エリア、訓練エリアを見て頂きたく思います」

「んっんっ。ジーテン。後部へ向かうなら商店街エリアを見学しながら、というわけにいきませんか?」


 未だに真っ赤な顔のまま、それでもお澄まし顔を取り繕ったローゼが尋ねる。船の中に自然が広がっているのは確かに驚きで是非見てみたいところだが、その驚きは甲板でも体験している。


 それよりも異世界の商品が並んでいるであろうエリアの方が興味を惹かれたのだ。


 だが、どうやらそれはまだ叶わないようで。


「申し訳ございません、ローゼ様。キャプテンからも説明があったかと思いますが、アーヴェンストはまだ完成には至っていないのです」


 あくまで、ハジメが地球にいる間に用意し、機工界に転送できた部材だけで作られたのが機工界での見学時のアーヴェンストだ。そこに、ハジメが機工界にいる間に手を加えたのが現在のアーヴェンストである。


 なので、商店街の商品はもちろん、全体的な内装を含め未完成な部分は多々あるのだ。


「悪いな。本当なら完璧にした後でお披露目すべきだったんだろうが……」


 元々、今回の旅行でお披露目の予定はなかった。ハジメの時間認識では、これから本格的な建造というスケジュールだったのだ。


 旅行から帰った後の残りの夏休み中に、急ピッチで〝絶対安全圏の船〟としてだけは完成させるつもりで。


 だが、思わぬアクシデントにより、不幸中の幸いというべきか内装や設備の充実化を除いて船はかなりの完成度を誇っていた。


 逆にここまで出来ているなら、せっかくなんだしお披露目しないのは勿体ぶるが過ぎるだろう、と感じたのだ。


「一応、昨日の晩にアワークリスタルで時間を引き延ばして可能な限り手を加えたんだが、商店街にしろ全体の内装にしろ、この辺りはユエ達の意見も取り入れながらやりたいところだからなぁ」


 あ……と全員が納得した。


 この趣味人、前夜に徹夜していたどころの話じゃなかったのだ。たぶん、一晩の間に数日、もしかしたら数十日分は作業している。


「深夜テンションというより、完全に徹夜明けテンションだったの……」


 しかも、何徹明けなのかも定かでない。


 それはうっかり船をゲーミング仕様にしてしまうはずだ。と、なんとも言えない表情で振り返っているミュウの言葉に、ユエ達は揃って同じような表情になってしまう。


「一応、並べる予定の商品の一部は持って来てるから、興味があるなら後で別に見るといい」

「それはぜひ! しかし、世界を旅する船の商業区ということは、私達の世界の特産品なども、いずれは?」

「ああ、考えてる。そっちが良いなら、いずれ貿易もな」

「それも〝異世界交流計画〟の一環ですね? ふふ、ワクワクしますね!」


 異世界の品がよほど気になっているのだろう。瞳をキラキラさせるローゼに、リリアーナが共感を得たように同じキラキラの眼差しで応じる。


「ですよね! いったいどれほど利益が見込めるか……異世界レベルでの貿易なんてワクワクしますね!」

「え?」

「え?」


 女王と王女の目がお互い点になった。どうやらすれ違いがあったらしい。というか、よく見れば二人の目の輝きは種類が違う。


 ローゼのそれが未だ見ぬ世界に想いを馳せる普通の少女の如き綺麗なキラキラとするなら、リリアーナのそれは獲物を狙う野性のオオカミの目の如きギラギラだ。


 レミアが「あらあらうふふ」と愛想笑いをしながら、仲間のはずの女王から共感を得られなかったショックに固まっている王女様を静かに引き取っていった。


 なんとも言えない空気感。


「そこに! そこに見えますのは転送装置(ゲートポイント)でございます!」


 G10の殊更響く声音。強引に空気の入れ替えを図ったらしい。助かるぅ、という眼差しが全員から向けられる。特にローゼから。


 ヒュインッと飛んで少し先の通路脇に設けられた広場の前に止まるG10。


 追いついて見れば、扉が開きっぱなしのエレベーターのような箱形の空間が四つ、奥の壁に並んでいた。


「この転送装置(ゲートポイント)は各エリア及び施設等、船内の至るところにございます。お手元のカード端末で転送先を設定し、ゲートを潜るだけで目的地の転送装置に転移することが可能です。マップに表示されている転送装置マークを押していただくだけでも起動しますので、ぜひご活用ください」


 おぉ~っと感嘆の声が竜王国の者達から上がった。早速、カード端末でマップ機能を表示している者もいる。


「なんという便利さでしょう。ぜひ、我が国に取り入れたいですな」

「船上生活中にスクランブルがかかった時、ちょうど離れた位置にいた時とかめっちゃ焦ったよな。船内が広いからよぉ。確かに欲しいわ」


 サバスの言葉にボーヴィッドを筆頭にパイロット達が激しく頷いている。待機もパイロットにとっては仕事の内だが、だからこそ一瞬で格納庫に行ける機能は喉から手が出るほど欲しいのだろう。


 彼等のハジメに向ける瞳が何より雄弁に物語っていた。カード端末の準備はできている! と。


「早速、使ってみるか?」


 苦笑気味なハジメの問いに、パイロット組のみならず竜王国の者達は「使う!」と綺麗にハモッて答えたのだった。












〝自然エリア〟にて。


 正直な話、ローゼ達は舐めていた。と自覚した。


 自然公園化した甲板は見学したから、商店街エリアを優先したい?


「馬鹿な……」


 絶句しているローゼ達。唯一、オルガ隊長だけが無意識に呟いた言葉は、きっと二重の意味が含まれていたに違いない。


 そう、〝自然エリア〟を知った気に、あるいは己の想像の範囲内だろうと思っていた自分自身への罵倒と、目の前の非現実的な光景へ驚愕だ。


 だって……


「なななななっ、なぁんでぇ船内に海があるのぉーーーっ!!?」


 ざざぁ~んっざざぁ~んっと寄せては返す潮騒の狭間に戦慄くローゼの絶叫が木霊した。


 誰も彼も、目ん玉が飛び出している、と表現しても過言ではない驚きようだ。


 当然だろう。ローゼの言う通り、転送装置を抜けた先には海が、否、〝常夏のビーチ〟があったのだから!


「バカンスと言えば、やっぱり常夏のビーチだよな」


 うんうんと得意げに頷いているハジメに、優花や龍太郎達までギギギッと油を差し忘れたブリキ人形みたいな動きで目を向ける。


 実は、この〝自然エリア:常夏のビーチサイド〟は機工界での見学ツアーでは見なかったものなのだ。


 〝自然エリア〟は、船の中央付近に全部で四エリア存在する。巨大な正方形の区画を更に四分割したような形だ。


 そのうち、機工界で見たのは〝森林と草原サイド〟のみ。他の三つは巨大倉庫の如き広さを持つ何もない真っ白な空間だった。


 なので、当然〝森林と草原サイド〟を見学するものと思っていたのに、これである。


 ユエ達が呆れ半分、感嘆半分の眼差しをハジメに向ける中、


「……流石はキャプテンです。私が〝森林と草原サイド〟を整備するのに三年かけたというのに、まさかたった十数日で全自然エリアを見学に十分なレベルまで仕上げるとは……」


 きっと当時、せっせとお手伝いしていただろうG10のモノアイが、どこか遠くを見ている気がする。それほど凄まじかったのだろう。


「いやいやいや、待ってください! ちょっと待って!」


 ローゼが息を吹き返した。頭を抱えながら必死に冷静になろうとしている。もちろん、無理だった。


「これは幻覚? そうよね、幻覚よね? きっと私達の気が付かないうちに、ハジメ様から怪しいお薬でも投与されて――」

「人聞きの悪いこと言うなよ。現実だよ、これは」

「あ、そういうことですね! ハジメ様も人が悪いです! 謎は全て解けましたよ! つまり、ここは普通に外なんですね? どこかのビーチに転送したんでしょ!」

「いや、確かに船内だぞ?」

「嘘だ! ハジメ様は嘘を吐いてる!」


 発狂寸前だろうか? 目の前の現実があまりに非現実的すぎて、ローゼ達の様子がちょっとおかしい。パイロット組なんてクロスカウンターを放ち合って正気を取り戻そうとしているし。


「落ち着け、今、説明を――」

「だっておかしいじゃないですか! 百歩譲って海水と砂浜を取り入れたとしても! してもぉ! なんで船内なのに()()()()()があるんですか! なぁんで()()()が見えているんですか! どう考えてもぉーーっ! 船の大きさと合ってないでしょうがぁーーーっ!!!」


 喉をからさんばかりの盛大なツッコミだった。一息で叫んだので、ぜぇぜぇっと肩で息をしている。


 だが、その甲斐あって他の者達も少しは驚天動地の心境から冷静さを取り戻せたらしい。隣に死ぬほど取り乱した人がいると、逆に冷静になれるあの心理現象だろう。


 愛子が発動寸前の〝鎮魂〟をすっと取り下げる。


「外観と内部の広さの差は空間拡張だ。この内壁が全てアーティファクトなんだよ。とはいえ、実際は四方一キロメートルくらいの空間だ。青空や水平線は幻術の類いだな」

「キャプテンは疑似的な太陽も創れるのです。空調もアーティファクトによるもの。海水と砂は地球からの持ち込みですが、一定時間毎に〝再生〟されるので汚染の心配もありません」

「なんだ、ただの魔神の所業か」


 ボーヴィッドが納得の声を漏らすが、目は遠い。〝太陽を創れる〟と聞こえた時点で理解を放棄したらしい。


 その方が精神衛生上きっと良い……と、他の者達も倣い始める。結果、遠い目になりながら菩薩のような微笑を浮かべる集団が生まれた。


 香織が眩しそうに片手で陽光を遮りながら、くすりっと笑う。


「それにしても、ハジメ君。機工界だと残りの三エリアに何を創るのかは秘密って言ってたけど……ビーチにしたんだね?」

「ミュウとレミアに喜んで欲しくて」


 案の定であった。ミュウとレミアが、ハジメから慈愛の眼差しを向けられてくすぐったそうにはにかむ。


「とはいえ、ここも未完成だ。海底には珊瑚礁と熱帯魚を入れたいし、海の家も作りたい。店員はひとまず悪魔入りゴーレムの予定だから焼きそばの作り方、教えねぇと。……いや、いっそ本物の海の家へバイトに行かせるか?」


 ブツブツと構想を漏らすハジメは、やはり筋金入りのクリエイターだ。妥協はないらしい。


 ボソッと呟いた「ライフセーバー代わりにリーさんの息子さんでも雇うか? 奥さんが夫みたいな風来坊にはなってほしくないって言ってたし……就職先の斡旋として」という思いつきはどうかと思うが。熱帯魚に紛れて人面魚がいたら、それこそレスキュー案件になりそうだ。


「パパ! パパ! 後で一緒に泳ごうなの!」

「ああ、そうしよう。ついでに海底のデザインも相談させてくれ」

「あらあら、それは楽しそうですね。うふふっ」

「おお~、いいね! 優花っちのためのエチエチ水着も用意してあるし!」

「!!?」

「南雲君、悩殺される準備は万全かな?」


 妙子大先生がフッと髪をかき上げながら〝宝物庫〟を光らせた。パッと出てきたのは、布の切れ端……と見紛う黒のマイクロビキニだった。しかも下は紐がエグい角度だ。一応、紐部分や結び目に装飾が施されていて可愛いデザインではあるのだが……


 竜王国の方々がザワッとなった。特に男性陣。


 嘘だろ……異世界の女性はあんな格好で人前に出るのか!? とカルチャーショック(?)を受けている。


 胸元を掻き抱くようにして隠し、少し内股になって顔を真っ赤にしている脇巫女風衣装の優花ちゃんから目が離せない!


「そ、そんなの着られるわけないでしょ!? 私は露出狂(シア)じゃないのよ!?」

「あれ? 今、露出狂って副音声が聞こえた気がするんですけど……」


 シアは訝しんだ。


「優花」

「リ、リリィ?」

「あそこまで露出している方が、もはやエッチじゃないまでありますよ」

「何を言ってるのか分からない!」

「今までの衣装の方が、ある意味でよほどエッチです!!」

「何を言ってるのか分かりたくない!」


 マイクロビキニなんて、いっそ清々しいのでエロくない! とリリアーナは主張しているらしい。今までの衣装を見てきて脳か感性をやられたようだ。


「安心して、優花」

「妙子のその言葉を、私は信じない」


 人間(たえこ)不信な優花がキッと睨んでくるか、大先生はそんなの気にしない。


「ちゃんと上に着る衣装も用意してるから」

「……そう、なの?」


 あっさり不信が揺らぐチョロ花ちゃん。


「優花っち、ニーソとウサミミ風のカチューシャだって付けちゃうぜ!」

「それなら……いや、待って。泳ぐのにニーソ? ウサミミカチューシャ?」


 カッと光が爆ぜて出てきたのは、丈が極端に短い白と青のセーラー服、それに黒いウサミミカチューシャと、紅白のしましまニーソだった。


 どう見ても某速い駆逐艦を擬人化したキャラ――しま○ぜ風衣装だった。


「馬鹿な……あれを着た方がエロさが上がった、だと?」


 ボーヴィッドがなんか想像してなんか言ってる。でも、パイロット仲間達が激しく同意しているので的外れな感想ではないようだ。


「……優花、やりおる」

「ユエさん? 流石に人前であれは着ないわよ。いえ、セーラー服を着ていいなら、まぁ、別にいいけど」


 いいんだ……と男性陣の期待が高まる。


「……けど、甘い。その程度、私だって用意している!」


 カッと〝宝物庫〟が光った。ユエの手には、やはり黒のマイクロビキニが。お、おぉーーっ!? と歓声(?)が上がった。


「……なんなら、ハジメの幅広いニーズに応えられるよう、他にも用意してる」


 ニーズ、幅広いんだ? みたいな視線を、竜王国の女性陣から向けられてスッと視線を逸らす魔神様。


「水着なら当然、みんな用意してますよ!」

「あはは、せっかくの旅行だし、ちょっと大胆なの買っちゃったよね。みんなで」


 シアと香織も水着を取り出した。やはり、とても布面積が少ない。雫達も照れくさそうに見せてくるが、デザインに差こそあれ案の定だった。


 ティオやレミアはワンピースタイプなのに、なぜそこをカットしたとツッコミたくなるような場所が大胆に切り抜かれていたり、全体がスケスケのレース状で、結局隠せている面積はマイクロビキニと変わらない……みたいなデザインだ。


 ジャンお兄さんが顔を真っ赤にしてフッと倒れた。熱射病だろうか? 想像だけで倒れるほど初心ではないと思うが……並んでいる女性陣の美貌とスタイルの良さに、違う意味でオーバーヒートした可能性は否めない。


 オルガお姉さんが「は、はしたない。異性の前でそんな……いえ、身内だけならあり、なのかしら? でもっ」とか顔を真っ赤にしてオロオロしている。


 そんな中、ローゼはというと。


「サバス」

「はい、ローゼ様」

「用意なさい! 針子に命じ、あれと同じ物を早急に!」

「なりません」

「!!?」


 キリッとした顔で勅命を下し、真顔の執事に却下されていた。


 そして、


「優花お姉ちゃん、大丈夫なの」

「みゅ、ミュウちゃん?」

「みんなで着れば恥ずかしくない! の!」


 ミュウもまた、絶対に子供が着ちゃダメな白のマイクロビキニを取り出し、優花お姉ちゃんにサムズアップして、


「誰だ! ミュウにまでこんな水着を用意したのは! パパ許しませんからね!」

「あっ!? パパ、何するの!? 返して!」

「ダメだ。ミュウにはまだ早い!」


 パパに没収されていた。なお、ミュウ用マイクロビキニを用意したのはお姉ちゃんズ全員である。自分だけ仲間はずれ? としょぼくれるミュウがかわいそうかわいくて、つい用意してしまったのだ。なので、全員が目を逸らしている。


「それで、大将。今からここでバカンスってことでいいのかい?」


 たぶん本人的には精一杯の男前顔をしながら問いかけてくるボーヴィッドおじさん。後続には期待に輝く瞳のパイロット達が控えている。


「ツアーを続けるに決まってるだろ」

「じゃ、じゃあいつここで」

「後で開放するが……お前等がいる時に水着のユエ達が来ると思うなよ」

「やっぱりかよクソがっ、この魔神めっ」


 一人だけイチャイチャするんでしょ! そうなんでしょ! と泣き崩れるボーヴィッド。砂浜に彼が叩き付ける拳の跡がついていく。


 この世の悲劇と理不尽を存分に味わったみたいにパイロット達も天を仰いだり、肩を抱き合って慰め合ったり……


 ちょっとした阿鼻叫喚の様相に気持ちは分かると男性陣が苦笑し、竜王国の女性陣が呆れた様子を見せたりしている中、こそっとユエに近づく者が。


「……ユエ様、ユエ様」

「……ん? どうしたの、ローゼ」

「いえ、その……できれば親睦を深めるためにも、〝その時が来たら〟ご一緒させていただければなぁ、と」


 もじもじ、そわそわ。二十歳モードのユエはローゼより背が高いので、必然、ローゼの眼差しは上目遣いだ。


 ……ふむ。なかなか愛らしいじゃないか。よき!


「……フッ、水着はこちらで用意してあげる」

「! ありがたき幸せ!」

「……うむ、くるしゅうない」


 破顔しながらペコッと頭を下げるローゼの銀髪を、ユエは優しくぽんぽんした。どちらが女王か分からない光景に、見逃していなかったサバスが小さく溜息を吐いていた。


「ええ~、キャプテン。そろそろ次に?」


 G10の苦笑交じりの掛け声にハジメは頷き、愛子をチラ見。合点承知と〝鎮魂〟が放たれ、圧倒的格差(?)に嘆いていたボーヴィッド達をスンッとさせて、一行は次の自然エリアへと向かった。












 そうして、およそ一時間後。


 〝娯楽・訓練エリア〟に向かう道中にて。


「たった一晩でやりすぎよ……ハジメ」

「既に見学したはずの〝森林と草原サイド〟ですら、あんなことになっているなんて……」


 エアロバイクが自動でバランスを取ってくれるのを良いことに、ハンドルにもたれかかるようにして乾いた笑い声を上げたのは雫と愛子だった。


 心境は同じだと、シアや優花達の表情が言っている。


 何があったのか。淳史が若干興奮気味に、かつ端的に表現してくれた。機工界で見学した時にはなかった明確な差異を。


「まさかリアルジュラシッ○パークを体験できるなんてな!」

「しかも初代! 南雲、やっぱお前は分かってる男だな!」

「へっ、よせやい」


 (のぼる)も加わっての絶賛に、ハジメは得意げに鼻の下を指で擦った。


 そう、世界で最も有名と言っても過言ではない某恐竜パニック映画が再現されていたのだ。


 機工界や甲板でも見た動物達がいることは知っていたが、まさか、輝く光のベールがかかった出入り口を抜けるや否や、ティラノサウルスの咆哮がお出迎えするなど誰が予想できるというのか。


 竜王国の非戦闘員は軒並み腰を抜かし、サバス達は一瞬でローゼの前に出て、更にクワイベルなど光の障壁を展開したくらいだ。


「レミアよ、大丈夫かの?」

「え、ええ、もう平気です」


 ユエ達でさえ咄嗟に身構えたのだから、レミアがあらあらうふふスマイルのまま気絶したとしても仕方のない話である。


「南雲のことだから、マジで恐竜を復活させたのかと思ったけどよぉ。流石にそれはなかったか」

「もう、悪魔入りゴーレムを流体金属で覆って見た目だけ好きに変えるって手法を確立してから……やりたい放題だね」


 龍太郎と鈴の言う通り、本物の恐竜ではなかった。


 しかし、今回の計画を事前に聞いていた中身の悪魔さん達は、「え? ボスが豪華客船での〝マスコット役〟を募集してる!?」「お、俺達悪魔が、ミ○キーマ○スのように成れる日が来るというのか?」「こうしちゃいられねぇ! 乗るしかねぇだろ! このビッグウエ~ブに!!」と熱いパトスを持って採用された者達なので、某映画は全シリーズしっかり予習済みだったりする。


 それで動きから何まで迫真の恐竜ムーブをかましたものだから、見た目の精巧さと相まって凄まじいリアル感があった。


 きっと今頃、ティラノ君も他の恐竜仲間に短い前脚をポンポンしながら、互いの初仕事の大成功を祝い合っていることだろう。


「っていうかさ、南雲っちなら変成魔法を付与したアーティファクトで魔物を従えられるだろうし、今なら箱庭にそれっぽい生き物がいっぱいいるんだから、それで良かったんじゃ――」

「「「「宮崎は分かってねぇなぁ。恐竜だから良いんだろうが」」」」


 ハジメ、龍太郎、淳史、そして昇から一斉に注がれる呆れた表情。


 恐竜、ああ、恐竜……そのロマンが分からないなんて、なんて可哀想な生き物なんだ。と言ってる。表情と眼差しが。


 これには宮崎さんの頬もヒクヒク。


 しかし、しょうがないのだ。だって、恐竜だもの。初めてジュ○シックパークを見た時の感動と興奮は忘れようにも忘れられないのだから。


 残念なことに奈々だけでなく、魔物という恐竜より遥かに凶悪で多種多様な生物を知っているユエ達トータス出身組も、このロマンは分からないらしいが。


「まぁ、確かに私達もちょっと感動したけど……だからって、ラプトルとの追いかけっこをサプライズイベントにするのはないよ」

「あはは、確かにちょっとやり過ぎだったかもですねぇ。私達だけならともかく、ローゼさん達には安全性も伝えてないんですし」

「ほ、本当ですよ……エアロバイクの操作を少しでもミスしたら……いえ、万が一の時はハジメ様や皆さんが助けてくださると信じていましたが」


 信じていたが、そういう問題じゃない。お化け屋敷の安全性は信頼できても、怖いものは怖いというのと同じだ。


『でも、最後はあんなにたくさんの生き物と遊べて、僕は楽しかったよ』


 クワイベルが上機嫌に喉を鳴らした。確かに、〝森林と草原サイド〟で最もはしゃいでいたのはクワイベルだろう。有事に備えて常に携帯している〝真竜の涙泉〟を数滴摂取し、一時的に成竜モードになってティラノとじゃれ合っていたくらいだ。


 ラプトル組も参加し、まるで恐竜に襲われる白竜……みたいな図になっていたが、本人は楽しかったようで何よりである。


 途中、はしゃぎすぎて白銀の光をうっかり放ってしまい、なんだか恐竜達から黒い影が霧散するようにして飛び出した気がしたが……


 ついでに、おぞましい声音で「ギィアアアアアッ!?」と断末魔の悲鳴が響いたり、「ま、眩しいっ、これは聖なるひか、り……」とか今にも消え入りそうな声が聞こえたり、途中から何体か動かなくなった恐竜もいた気がしたが……


 きっと気のせいに違いない!


ルシファー(るーちゃん)、みんなの容態は……一命は取り留めた? そう、良かったの……」


 気のせいに違いない!!


「星霊界でダリア達に触発されたからな。いずれは、リアルモ○ハンを再現して、ハンター気分が味わえるアトラクションも取り入れようと思ってる」

「「「絶対に呼んでくれよな!!」」」


 ミ○キーマ○スに憧れた悪魔達には、まだまだ別方向の業務が課されそうだ。


 そのうち「ボスっていつもそうですよね! 悪魔のことなんだと思ってるんですか!」とか言われそうである。


「順番的に、〝森林と草原サイド〟の前に〝凍土と雪山サイド〟の方が良かったかもしれませんね」


 苦笑気味にリリアーナが言うと、ローゼが同じような表情で頷く。


「そちらは大変楽しませていただきました。夜天に揺れるオーロラ、透き通るような氷の大地、そびえる雪山に一面の粉雪。それに何より、可愛らしく人なつっこい雪ウサギの群れ……」

「あれは可愛かったですね、陛下。貸し出しのアーティファクトとやらで、寒さもあまり感じませんでしたし」

「スケートやスキー、スノーボードといった遊びも興味深かったですね」


 ローゼが思い出してうっとりと頬に手を添えると、クロー姉弟も、ようやく〝森林と草原サイド〟で覚えた精神的疲れから回復したらしい。同じく穏やかな表情で同意している。


 四つ目のエリアは内容と相まって娯楽エリアを見学した後ということになっており、まだ見ていないのだが、少なくとも現状では、ウィンタースポーツを楽しめる〝凍土と雪山サイド〟が竜王国の人達にとって一番興味深く楽しめたところだったようだ。


「でも、ハジメさん。流石に()()雪ウサギはどうなんです?」

「……ん。モデルにするなら地球のウサギでも良いと思うけど」

「うん? なんの話だ?」


 こっそり耳打ちしてくるシアとユエに、ハジメは目をぱちくりとした。香織が当時を思い出して苦笑いしながら言う。


「だから、何もゴーレムのモデルに、氷雪洞窟でハジメ君が容赦なく千切っては投げ千切っては投げした魔物の雪ウサギを使わなくてもってことだよ」

「いや、モデルも何も、あれはゴーレムじゃないが?」

「「「「「え?」」」」」

「え?」


 香織、ユエ、シアのみならず、当時の惨劇を目撃したメンバー全員がハジメを凝視した。


「ご、ご主人様よ。まさかと思うが……トータスから連れて?」

「ああ。流石に恐竜以外は準備してなくてな。でも、雪山サイドを完成させたのに、動物が一匹もいないんじゃ味気ないかと思って」


 思って、昨晩、一狩り行ったらしい。羅針盤で場所を特定し、一網打尽にして、変成魔法を付与したアーティファクトを埋め込み、従魔化して。


「あいつら、見た目だけは神秘的で地球のウサギより可愛いからな。おまけに熱を奪う固有魔法もあるから、まぁ、あり得ないが万が一、火災や船体が過熱状態になった時にも使えるかと思って」

「あの、皆さん。どうかしたのですか?」


 異世界の魔物とは随分と可愛らしいのだな、と微笑ましく思っていたG10のみならず、優花達も訝しむ様子を見せる。


 が、ユエ達は顔を見合わせ、次いで楽しそうに雪ウサギとの戯れを話すローゼ達を見て、一拍。


「「「「「なんでもない(です)(のじゃ)」」」」」


 と真実に蓋をすることで満場一致した。


 まさか言えまい。貴女達が抱いていたあの雪ウサギ、実は頭部が花弁みたいに裂けて世にもおぞましい顎門を開いたかと思えば、触手を伸ばして獲物に群がる化け物ですよ、なんて。


 もちろん、従魔化されているので危険はないのだろうけど……


「ハジメさん……恐ろしい人ッ、ですぅっ」

「なんでだよ」


 中身が悪魔の方がエグいだろうに、解せぬ……と言いたげなハジメだったが、シアの言葉に、ユエ達は一人の反対もなく頷いたのだった。


 後で、いずれアーヴェンストになるG10にだけは、船内に潜む小さな化け物達の真実を話しておかなきゃ、と目配せしながら。


 何はともあれ、だ。


 自然の驚異……いや、船の中という場所や内容を考えれば、正確には不自然の脅威かもしれないが、それをたっぷり味わったローゼ達を引き連れ、ハジメとG10は次のエリア――〝娯楽・訓練エリア〟へとやってきた。


「「「「「おぉ~~」」」」」


 と、本日何度目かも分からない感嘆の声が広がる。


 円柱形の巨大な吹き抜けと、全七階層あるドーナツ状の空中回廊。


 通路の壁際は、やはりデザインや装飾が間に合っておらず白い壁ばかりで少し殺風景ではあるが、光り輝くベールのかかった出入り口が並んでいて、巨大なショッピングモールを彷彿とさせた。


 だが何より驚くべきは、吹き抜けの天蓋だ。


「あれは……水、ですよね?」


 ローゼが不思議そうに尋ねる。


 そう、天井には揺らめく水面があったのだ。それも巨大な球体状の。


「あれは後部甲板にある遊泳施設の一つです。浮遊する球体状のプールで、どこからでも自由に出入りできます。もちろん、落下防止策は万全です」

「ミュウがお願いしてパパが作ってくれたスフィ○プールなの! 気持ち良すぎだろ! するの!」


 なるほど、全然分からない、と言いたげな竜王国の方々。


 ともあれ、浮遊する巨大な空中球体プール――全天球型プールは圧巻の一言である。陽光と水面が作り出す揺れる陰影が、吹き抜けの〝娯楽・訓練エリア〟をなんとも言えぬ幻想世界に変えてくれていた。


「なお、各階にあるコンソールを操作しますと、このようなこともできます」


 G10が何やら機能にアクセスしたらしい。モノアイが一瞬光った直後、全天球型プールから水柱が、吹き抜けのエントランスまで降りてきた。


「マイ○ラの水流エレベーターなの! 入った途端、しゅぽ~んって上のプールまで運んでくれるの! コンソールがある場所にも伸びてくれて、上からだとウォータースライダーみたいで楽しいの!」


 やはり海の申し子。機工界で体験した時も大はしゃぎだった。空中で水が形を保って自在に道を作る光景に、ローゼ達は追撃を受けたみたいに言葉もない様子だ。


「まぁ、後部甲板のレジャー施設は一般的な物が多いから、見学は時間があればで……」


 ハジメがG10に目配せする。天を仰いで唖然呆然、あるいは見惚れていたローゼ達が思わずハジメを凝視する。


「ハジメ様の一般的は、果たして本当に一般的なのでしょうか……?」

『もしそうなら、地球は凄まじいところなんだろうね……』

「いやいや、あんな空中プールなんてないから! 普通のプールとか、クレー射撃とか、バンジージャンプとか、そういうのだから!」


 優花が慌てて、危うく魔境と誤解されそうな地球の娯楽施設の認識を正した。ナイスフォローと香織達がサムズアップしている中、G10はハジメの意を受け首肯した。


「流石に全てを体験していただくのは時間的に難しいでしょうから、こちらでオススメをピックアップさせていただきます。キャプテン、まずはフルダイブ型VRを体験していただくのはいかがでしょう?」


 かつてユエと香織が迷い込んだアーティファクトを用いた空間。今ではミュウの訓練に使われているそれの発展型だ。


「そうだな。自然エリアの見学でちょっと疲れ気味っぽいし、小休止も兼ねていいんじゃないか」


 ナイス判断と笑顔で頷くハジメ。自信作の一つでもあるので、うきうきな足取りで近くの施設へ一行を誘導する。


 輝くベールの出入り口を抜けると、そこには大量の三角型白色パネルで構成された半球状の広い空間があった。


 出入り口に近い方に、ゆったりサイズのマッサージ機のようなコクーン型のチェアが規則正しく三十席ほど並んでいて、その先には某人をダメにするクッションや、おしゃれで座り心地の良さげなソファーが大量に置かれていた。


「好きな場所でくつろいでくれ」


 そう言って、早速巨大ヨ○ボーの虜囚になるハジメさん。ミュウが「パパの隣、もーらい! なの!」と満面の笑みで飛び込む。膝が股間に直撃コースだったので、慌ててキャッチ。そのまま後ろから抱きかかえるようにして座らせる。


 竜王国の者達が恐る恐るといった様子で、しかし、思い思いに座り心地の良さそうな場所を選んで座っていく。そして、そのチェアやクッションの質の良さに、たちまち蕩けるような表情になっていく。


 一方、ローゼだけは何やらそわそわ。ハジメの巨大ヨ○ボーの後ろ辺りでうろうろ。


 そして、同じくそわそわうろうろしている優花とバッチリ目が合う。


 乙女の共感と、少しのライバル心が一瞬のうちに交わされお互いに動きを止める……


 もっとも、当のハジメはというと、


「――〝天在〟!!」

「――〝神速〟!!」

「――〝レベルⅨ〟!!」

「どわぁっ!?」

「みゅ!?」


 遠慮などしないお三方が一斉に飛び込んできたせいで、それどころではなかったが。美女三人に揉みくちゃにされるようにして埋もれてしまう。


 これにはミュウも驚いて目をぱちくり。危険が及ぶようなヘマをユエ達がするはずもないが、びっくりはする。


「ほれほれ、ローゼとクワイベルは妾とくつろごうぞ?」

「あ、ティオ様、そんなぁ」

『わぁ~い! 母上とだぁ~~♪』


 両脇にローゼとクワイベルを抱えるようにして、別のソファーに座るティオが、いつになく大人の女性だった。


 ちょっと残念そうだったローゼも膝枕されて頭を優しく撫でられた途端、「ふわぁ…………まんまぁ~」と無自覚に呟いて蕩けたし。


 子作り計画が現実味を帯びてからというもの、ティオの母性レベルが天井知らずに上がっているように感じるのは気のせいか。


「はいはい、優花っち。たまにはイチャイチャしようぜ~」

「あ、奈々……」

「いいでしょ? 私達にも優花のわきぺぇを堪能させてよ」

「妙子、あんた旅行が始まってからどんどん様子がおかしくなってない?」


 両脇を抱えられるようにして、優花も連れられていく。


「……ん、それじゃあハジメ、ミュウ。また後で」

「だね! 雫ちゃ~ん! 一緒にごろんっしよ~」

「ユエさんは私とあっちのソファーです!」

「いや、それならなんで飛び込んできたんだよ」


 流石に三人追加はきつい! と言おうとしたハジメだが、それを察してか、それとも最初からそのつもりだったのか、みなまで言わせず自ら退いていくユエ達。


 なんとも言えない表情でツッコミを入れるハジメに、ユエ、シア、香織の三人は顔を見合わせ、


「……ん~、本能?」

「ん~、(さが)、かな?」

「ん~、条件反射ですぅ!」


 なんて、なかなか極まった答えを返した。考えるより先に体が動いていた……ということらしい。某ヒーローの如き在り方だが、その目的が人助けではなく自らの欲望を満たすためという点、すっごく魔神の妻。


 行動こそ起こしていないが、雫達がそっと視線を逸らしたところを見るに、一瞬、ハジメの隣を狙ったのは同じらしい。


 竜王国の皆さんと、ちゃっかりカップルシートで仲睦まじく寄り添っている龍太郎&鈴が生温かい目で見ている中、ユエ達はちょっと恥ずかしそうにしつつ、いそいそと別の場所に腰を下ろした。


 なお、淳史と昇は一人用ソファーでケッとやさぐれ気味に、抱き枕型ヨギ○ーを抱き締めていた。


「キャプテン、プログラムをお選びになりますか?」


 全員が席に着いたのを見て、G10が問う。説明役を降ろされたハジメへの、G10なりの配慮だろう。


 本当によくできたサポーターである。遠慮なく気遣いを受け取り、頷くハジメ。


「それじゃあ、地球で最も有名と称しても過言じゃないカートレースを……」


 と、カード端末を操作しながら呟く。


 本来は、カード端末でそれぞれ好きな項目を選ぶことで、同じ空間にいながらも別のVRプログラムを楽しめるのだが、今回はG10が統括してハジメが選択したプログラムを全員に見せられるよう調整する。


 だから、気が付いた。


「あ、違います! キャプテン! それは一個下の項目――」


 次の瞬間、ハジメ達の意識は一瞬の暗転の後、フルダイブ型VRの世界へと旅立ち。


 そして、


『『『『『ハロォーーーッ!! ニュービィーーーッ共ぉ!! 我が深淵によくぞ踏み込んだぁ!! 地獄の行軍(デスパレード)の覚悟は万全くぁ!?』』』』』


 香ばしさ漂う歓迎の言葉に意識をぶん殴られた。


 目が点になる。絶句する。


 だって、目の前にはピッチピチのタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツとブーツ姿の青年がいて、斜めに傾いだ香ばしい体勢でフッしていたから。もちろん、サングラスをつけている!


 だが、一番香ばしいのは、彼の後ろに彼が百人くらい整列していて、フッしながらキッレキレのダンスを踊っていることだ。


「あ、ごめん。間違えた」


 意識、暗転!!


 次に見えたのは、玩具の世界を具現化したような光景とレース場、綺麗に並べられたカートやバイクの数々だった。


「ここは地球で大人気のレースゲームを再現していてな、取り敢えず、自分の好きな乗り物を選んで――」


 うわぁ~っとなんとも言えない表情になっているユエ達はともかく、何事もなかったかのように説明を始めるハジメに、ローゼ達は当然の如く叫んだのだった。


「「「「「さっきのだれぇーーーっ!?」」」」」



いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


ようやく復調し、書けなかった鬱憤を晴らすように夢中で書いて二万字超え。なのに、予定の半分くらいという……話が進まなくて申し訳ないですが、後一話だけお付き合い頂ければと!

それと全天球型プール(FF10のスフィアプール)の案を書いてくださった方、感謝です! 他にも良い案が幾つもあったので次週、可能な限り書ければと思います! いろいろな施設のアイデア、ありがとうございました!


※ネタ紹介

・謎は全て解けましたよ!

 『金田一少年の事件簿』より。

・シアは訝しんだ

 『ニンジャスレイヤー』から自然発生したネタ。ボブは訝しんだ…

・嘘だ! ハジメ様は嘘を吐いてる!

 『ひぐらしのなく頃に』の竜宮レナより。

・ボスっていつもそう! 悪魔のことなんだと思って~

 『ゾンビにあふれた世界で俺だけが襲われない』より。悪魔だから良いよね。

・気持ち良すぎだろ!

 『FF10』のワッカより。玩具にされすぎなワッカさんも嫌いじゃないです。

・考えるより先に体が動いていた

 『僕のヒーローアカデミア』より。遅まきながら完結おめ!最高だった……

・キレキレダンスの深淵卿

 『デッドプール&ウルヴァリン』のOPダンスより。デップーダンスの動画、死ぬほど見ましたw 超好きです。



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― 新着の感想 ―
うさぎさん、、知らない方がいいことってたくさんあるよね。。あかん鳥肌が立ってきた、、妙子さんは久しく見てない鈴おじの座を狙っているのかな??
アビィwwwwwwwあかんこれわwwwwwww(爆笑)
白米先生! 「微に入り細に入った説明の洪水」は、恐らく「微に入り細を穿つ説明の洪水」ではないかと愚考します〜 兎に角最高に面白い回でした!!!!! G10の、何気に必要のない咳払いも面白かったデス〜…
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