嘘か真か 後編
「ドカスが。挽き肉にしてやろうか」
ハジメの、誰が聞いても分かるほど不機嫌度MAXの声音が響く。と、同時に、更に引き金を引かれ、炸裂の轟音が鳴り響いた。紅い閃光が四条奔り、倒れるディンリードの手足を撃ち抜いた。ビクンビクンと震えるディンリード。
ハジメは〝宝物庫〟からボーラを取り出してディンリードへと投げつけながら、同時にオルカンを取り出して倒れている使徒に向けて引き金を引いた。
パシュンッパシュンッパシュンッと、連続した発射音が鳴り響き、宙に幾条もの火線が尾を引いた。
一拍の後、盛大な爆炎と衝撃が発生し、その絶大な威力を遺憾無く発揮したミサイル群が使徒達を吹き飛ばしていく。あちこち弾け飛んで壊れた人形のようになる使徒達。ハジメは、オルカンを〝宝物庫〟にしまうと、更に、死んだように倒れているフリードと恵里にドンナー&シュラークの銃口を向けた。
そこで、ようやく周囲が我を取り戻した。
まず最初に悲鳴じみた奇声を上げたのは鈴だ。「うわぁああっ!!」と、やけくそとも、パニックとも取れる絶叫を上げながらハジメの腕に飛びつきぶら下がる。そうでもしないと、恵里を粉微塵にされると思ったのだ。涙目でハジメを見上げる瞳が、「約束を思い出してぇ~!!」と必死に訴えている。
次いで、シアが「ストップですぅうう!」と叫びながら鈴とは反対側の腕に飛びついた。
「ハハハハハハ、ハジメさん!? なにをしているんですかっ! ユエさんの叔父さんですよ!?」
「そ、そうだよ! 脈絡がなさすぎるよ! ああ、頭を撃たれちゃってるぅ。は、早く再生魔法で……」
「か、香織ぃ、急いでぇ! 超急いでぇ! どう見ても即死級だけど、貴女ならなんとか出来るかもしれないわ!」
「な、南雲。お前は、いつかやらかすと思ってたぜ……」
シアを皮切りに、香織、雫が騒ぎ出し、龍太郎が冷汗を流しながら失礼なことをいう。ティオは唖然とした表情から考え込むように顎に手をやっている。こういうとき、光輝が真っ先に飛び出すかと思われたが、その光輝は恵里の前に立っている。ハジメが銃口を向けた瞬間、割り込んだようだ。
そして、目の前で、恋人に叔父を銃殺されたユエは、
「……ハジ、メ?」
目を大きく見開きなら傍らのハジメを呆然と見上げていた。
ハジメは、そんなユエを一瞥すると腕にしがみついているシアと鈴を引き離し、蘇生と治癒のためディンリードのもとへ行こうとする香織を制止した。
そして、物凄く自然に、誰も止める暇がないほど、素早く、視線すら向けずにドンナーでフリードを撃ち抜き、ボーラを恵里に投げつけた。頭部がパチュンしたフリードと、体をぐるぐる巻きにされた恵里を見て、鈴が「ひっ」と短い悲鳴を上げ、「うわぁ」と龍太郎が引き攣ったような声音を漏らす。
そんな二人には、やはり視線すら向けず、ハジメは、苛ついた表情で目元を歪めながら、それでも油断なく銃口を倒れたままのディンリードや使徒達に向けつつ口を開いた。
「ユエが自分で区切りをつけるまでは、と思って黙っていたが、どうもユエが動揺しすぎてあの戯言を受け入れそうだったんでな。強制的に終わらせてもらった」
「……戯言? どういうこと?」
大切な身内を最愛の恋人に撃ち殺されたかもしれないという衝撃の事実に、ユエの瞳が困惑したように彷徨う。そんなユエに、ここまで動揺させるくらいなら、さっさと殺っておくべきだったと少々後悔しながらハジメは説明する。
「いや、どういうこともなにも穴だらけの説明じゃねぇか。ユエだってもう少し冷静であれば気がついただろうけど……まぁ、身内と同じ姿でいきなり登場されちゃあ仕方ないか」
そう言ってハジメが指摘したのは、ユエの存在を隠す必要があったと言っても、生きていたのなら、ディンリードがユエに会いに来ることは出来たはずだということだ。最愛の姪だというなら、三百年も暗闇の中に放置するはずがない。
また、ユエに対して施された封印処置は、どう考えても自分亡き後のことを考慮したものだ。自分がいなくなっても、決してユエの気配を察知されることなく、また自分の死をもって秘匿を完全なものにする。そういう意図が透けて見える対処なのだ。現存する者が取る方法としては、少なくとも愛情など感じられない。
また、戦力を集めていたというのなら、解放者の話が出なかったのは不自然であるし、アルヴ自身が知らなくとも、少なくともディンリードは【氷雪洞窟】や【オルクス大迷宮】の内部を熟知しているはずで、そうであればフリード以外にも使い手がいないのは不自然だった。
つまり、来るべきときのために戦力を集めているようには到底見えないのである。
ユエの記憶の断片と、ディンリードの昔語りが一致している部分もあることから、確かに一見すればディンリード本人であるように思える。しかし、ハジメ達は、記憶を持った同じような存在と散々相対してきたが故に、そんなものは本人である証拠にはならない。
ただ、魔王がディンリード本人でないにしても、記憶を引き継いでいるとすると、三百年前の時点で、力ある存在として神に目をつけられていたであろうユエを確保しに奈落へ来なかったことが疑問だ。
それ故に、ハジメは、ユエが納得するまで邪魔はしないという目的の他、魔王の言葉が真実かどうか、本当にディンリードというユエの叔父なのかどうか、その決定的証拠について注意に注意を重ねて探っていたのである。
その方法とは、本当にディンリードの魂が肉体に宿っているのか、魔眼石で確認するというものだ。昇華魔法により、より多くの能力を付与できるようになったことで、魔眼石には魂魄魔法により、相手の魂魄を見ることが出来る機能が追加で組み込まれていたのである。
結果、ハジメの魔眼には、一つの薄汚い魂魄しか見えなかった。まるで、蜘蛛が張り巡らせた巣のように肉体を侵食している魂魄。普通は溶け込むように調和した状態で、体の中心に燦然と輝いているはずなのだ。
そういうわけで、肉体はともかく、中身はディンリード本人であるはずがないと確信したハジメは、祭壇という強力な防壁アーティファクトの範囲から出た瞬間を狙って、ユエの大切な叔父を騙った何者かに先制攻撃を仕掛けたというわけだ。
また、中身が偽物である以上、使徒達を封じたという話も信憑性に欠けるので、そちらにも先制攻撃を仕掛けたというわけである。
もちろん、神が絡む話であるから、ディンリードの魂が封じられているという可能性もゼロパーセントではない。が、その場合でも、魂魄魔法でディンリードを騙る何者かの記憶を探り、その可能性の有無を確かめることは可能であるし、肉体的損傷も、再生魔法でどうにでも出来る。つまり、相手の真実を更に探るのは、ぶちのめしてからで十分ということだ。
以上のことを手短に纏めて説明したハジメに、ポカンとするメンバー達。怒涛の展開に、そこまで頭が回っていなかったが、言われてみれば、ハジメが指摘した部分以外にも矛盾や不自然な点はボロボロと出て来る。
まるで、ユエの身内で、魔王で、神に対する反逆者で、というインパクトの強すぎる事実によるゴリ押しで、一時的にでもユエを引き込めれば、それでいいとでもいうかのような……
納得顔をし始めたメンバー達に、ハジメは、油断のない目つきで周囲を探りつつ結論を述べる。
「そういうわけで、野郎の言葉を信じる理由なんざ、微塵もないってことだ。なにより……」
そして、一度、言葉を切ると、未だ収まらない苛立ちを滲み出しつつ言葉を続けた。
「なにが〝私の可愛いアレーティア〟だぁ、ボケェ! こいつは〝俺の可愛いユエ〟だ! 大体、アレーティア、アレーティア連呼してんじゃねぇよ、クソが。〝共に行こう〟だの抱き締めようだの、誰の許可得てんだ? ア゛ァ゛? 勝手に連れて行かせるわけねぇだろうが。四肢切り取って肥溜めに沈めんぞ、ゴラァ!!」
「「「ただの嫉妬じゃない(ですかっ)!」」」
要するにそういうことだった。九割方、嫉妬である。額に青筋を浮かべ、銃をチラつかせながら、メンチを切って悪態を吐くその言動は、完全にチンピラである。
これが本当の叔父との対面だというなら、ハジメも襟を正して「はじめまして、恋人のハジメです。お嬢さんを頂きに参りました。反対は認めません」と真面目に挨拶したことだろう。
だが、明らかに偽物のくせに、ユエを散々動揺させた挙句、気安く昔の名前を連呼し、更に抱擁しようとしたのだ。自分の目の前で、ユエに対し、肉体はともかく中身は見ず知らずの男 (おそらく)が抱きつくなど……万死に値する。ハジメ的に。
そんなある意味重い愛をこれでもかと撒き散らすハジメに、謁見の間に入ってから揺れ続けていたユエの心がピタリと定まる。それを示すように彷徨っていた瞳もピタリと定まった。今はもう、ハジメしか見えないというように一心に見つめている。頬は徐々に夢見るような薔薇色に染まっていき、砂漠のように乾いていた瞳はうるうると潤み始めた。
「……ハジメが嫉妬。私に嫉妬……ん。嬉しい」
ユエは内心で、ハジメの嫉妬全開な様子に女心を擽られながらも自分を叱咤した。
いくら衝撃的だったとは言え、なんという無様を晒してしまったのか、と。まして、言われるままに不自然な話を信じて叔父か否か定かでない相手を受け入れ、それだけでなく神との戦いまで受け入れようとするなど、ハジメとの約束を忘れた言語道断な決断だ。
確かに、ディンリードとの思い出は忘れ難く、裏切りの記憶はトラウマではある。だが、今は、それを遥かに上回る幸福な思い出が沢山胸に秘められている。数ヶ月という短い期間ではあるが、その密度は祖国で過ごした年月を軽く超えるほどに。たとえ、相手が本当に叔父であっても、その手を取るなど有り得ないほどに。
ディンリードの皮を被った何者かが話している間、ずっと支えるように置かれていたハジメの手の温もりを、もっと意識すべきだったのだ。
ユエは、そっとハジメの腕に額を擦りつけながら、甘く濡れた声音を響かせた。
「……ハジメ、格好悪いところを見せた。ごめんなさい。もう大丈夫だから」
「謝る必要なんてない。ユエの中で、奈落に幽閉される前の出来事がどれほど大きいものか、俺はよく知っているから」
「……ハジメ。好き。大好き」
お互いを守り合うという約束そのままに、ユエにとって一番の鬼門が立ち塞がったこのときに、大樹の如く支えてくれているハジメへ、ユエが熱い吐息と共に想いを零す。
と、そのとき、パチパチと拍手が響いた。
「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは……人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」
先程までと異なり全く温かみを感じないどころか、むしろ侮蔑と嘲笑をたっぷりと含めた声音でそんなことを言いながら立ち上がったのは、頭部と四肢を穿たれ、ボーラで何重にも拘束されていたはずのディンリードだった。
その身に纏う魔王の衣装に乱れはなく、本当に撃たれていたのか疑わしいほど。足元にボーラの残骸が落ちていなければ、白昼夢を疑うところだ。
「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは……あの御方に面目が立たないではないか」
「……叔父様じゃない」
「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」
「……それは乗っ取ったということ?」
ユエが右手に蒼炎を浮かべながら尋問する。その姿に、ディンリードはニヤーと口元を裂きながら嗤った。
「人聞きの悪いことを。有効な再利用と言って欲しいものだ。このエヒト様の眷属神たるアルヴが、死んだ後も肉体を使ってやっているのだ。選ばれたのだぞ? 身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね? 全く、この男も、死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは肉体以外は使えない男よ。生きていると知っていれば、なんとしても引きずり出してやったものを」
「……お前が叔父様を殺したの?」
「ふふ、どうだろうな?」
「……答えろ」
ユエから殺気が噴き出す。紅の瞳が爛々と輝き、手元の蒼炎が煌きを増していく。その青き焔は〝神罰之焔〟だ。選別した魂のみを焼き滅ぼすことも出来る凶悪なもの。その脅威は、標的にされている魂そのものが感じ取るはずだ。
だが、相対するディンリード――否、その皮を被った悪神は、人を食ったような笑みを浮かべるだけで、なんの威容も感じていないようだった。
「ほぅ、いいのかね? 実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ? この身の内の深奥に隠されてな?」
「っ……」
思わず息を呑むユエ。キッと睨みながらも、惑わされるものかと焔を放とうとする。が、次の言葉で手を止めてしまった。
「くくっ、いい顔をする。その滑稽な表情に免じて、一つ教えてやろう。……死ぬ直前のディンリードの言葉だ。お前に宛てた最後の言葉だ」
「……叔父様の……」
ユエを嬲るような言葉の連続に調子に乗ってんじゃねぇぞと銃口を向けたハジメも、ユエが手を止めたことで同じように動きを止めてしまう。
しかし、後に、ハジメはこの選択を後悔することになった。ユエを想うばかりに、敵に対する手を鈍らせたことを。たとえ、ユエの望みに合わなくとも、敵の言葉など聞く必要はないと制するべきだったのだ。
嫌らしい笑みを浮かべながら、たっぷりと勿体振って、アルヴは口を開いた。
「ディンリードはな、お前の名を呟きながら、こう言っていた」
――苦しんで死んでいればいい
「っ……」
言葉の矢がユエの胸に突き立った。精神を乱すようなことは無くとも、鋭い痛みを感じずにはいられない。
その瞬間、それらは全て同時に起きた。
「うぉおおおおおっ!!」
――アルヴと対峙するハジメ達の後方で、恵里の傍らにいた光輝が、雄叫びを上げながらハジメに斬りかかった。
「っ」
――天から白銀の光が降り注いだ。天井を透過した綺麗な四角柱の光は、頭上から真っ直ぐユエへと落ちて来る。
「――〝堕識ぃ〟」
――そのユエに向かって、倒れたままの恵里の体とは、全く別の方向から、恵里の闇系魔法が放たれた。見れば、なにもない空間から、倒れている恵里と寸分違わない無傷の恵里がにじみ出て来るところだった。そして、明滅する闇黒色の球体がユエの眼前へと出現する。
「――〝震天〟!」
――恵里と同じく、やはり粉砕された肉体とは別の場所から、フリードが空間を割って出現し、既に詠唱を完了した空間爆砕魔法を、ミュウとレミアに向けて放った。
「お返しだ。イレギュラー」
――アルヴのフィンガースナップと同時に、ハジメ目掛けて特大の魔弾が飛んだ。
「駆逐します」
――なにもない空間が波打ち、にじみ出るように現れた数十体の使徒達が、ハジメ達へと一斉に襲いかかった。
タイミングを見計らっていたとしか思えない完璧な同時奇襲攻撃。頭部を穿たれたフリードの残骸と、体を拘束されたままの恵里は、まるで役目を終えたとでも言うかのように、サラサラと微塵となって崩れ去っていく。
どうやら、光で視界が埋め尽くされたあの瞬間に、何らかのアーティファクトと入れ替わっていたようだ。ハジメの魔眼すら欺くなど尋常ではない。
ハジメは、してやられたことに苦虫を噛み潰したような表情をしつつ、咄嗟に〝瞬光〟を発動して、刹那を数十秒へと引き伸ばす。時の流れが緩慢となり色褪せた世界で、ゆっくりと襲い来る数多の攻撃。
背後から聖剣の唸りが聞こえる。ユエの頭上から光の柱が落ちて来て、その眼前では明滅する黒い球体が不気味に脈動を打つ。前方から灰色の魔力弾が螺旋を描きながら迫る。ミュウとレミアへ不可視の衝撃が奔り、使徒達が愛子達へと大剣を振りかぶる。
放置すれば、待っている未来は悲惨の一言。
しかし、ハジメ一人では手が足りない。思わず歯噛みするハジメに、ふと傍らから突き刺さる視線が……眼だけを動かしてみれば、そこには自分を強く見つめるユエの姿があった。それだけで、ハジメはユエの意思を悟る。すなわち、ミュウとレミアを守れという意思を。
光の柱という、今の状況でもっとも異常な現象がユエを狙っている以上、あのアルヴの演技も、彼の言葉通り、次善策であるのだろうこの一斉襲撃も、全てはユエに対する何らかの策であると察していたハジメは、ユエの傍を離れることに僅かな心理的抵抗を覚えた。
だが、それでも、向けられる眼差しは、最愛の恋人の信頼の証なのだ。ならば、それを裏切るわけにはいかない。故に、決断した。
この間、一秒足らず。
ゴガンッ!! と凄まじい衝撃音を響かせながら、ハジメは、義手の肘からショットガンを撃ち放った。背後から迫っていた光輝に無数の礫と衝撃波がカウンターの如く襲い掛かり、その身を吹き飛ばす。
そのまま、激発の勢いをも利用して、ハジメは踏み込みで地面を粉砕しながら姿を霞ませる。残像すら残さない速度で駆け、迫る魔弾を回避しつつミュウとレミアの眼前へと姿を現した。ミュウとレミアからすれば、ハジメが瞬間移動でもしたように見えたかもしれない。
既に一メートルもないほど迫った空間爆砕の衝撃を、ハジメは移動しながら取り出していた大盾をかざして受け止めた。改良された大盾は、受けた衝撃に反応して衝撃波を放つという爆発反応装甲を持っている。これにより表面に亀裂は入れられたものの、完璧に〝震天〟の衝撃を防ぐことに成功した。
ハジメがミュウとレミアを優先した代償に、アルヴの放った魔弾がハジメの周囲にいたシア達に襲いかかった。しかも、着弾直前で、ユエを避けるように、かつ逃げ場を失くすように破裂して周囲へと散らばる。
「っ〝引天〟!」
スピードファイターである雫の反応速度が、仲間全員へ魔弾が着弾する寸前で、己へと強制的に標的を変えさせた。代償に、魔王の魔弾をその身に全て受けた雫は、黒刀に引き寄せたために直撃ではなかったものの凄まじい衝撃を受けて盛大に吹き飛ばされた。
「させません!」
それらの全てを無視して、シアが砲撃モードのドリュッケンを愛子達と使徒達との間に照準し、刹那の内に引き金を引いた。飛び出した炸裂スラッグ弾は、愛子達の手前の地面に突き刺さり、淡青色の波紋と共に衝撃を撒き散らした。
「きゃぁあああっ」
「うわぁあああ」
シアの狙いは時間稼ぎ。数人の使徒を一度に止められるとは思えなかったことから、使徒と愛子達、両方を吹き飛ばして、とにかく距離を取らせようとしたのだ。その目論見は成功して、衝撃に息を詰まらせながらも愛子達は吹き飛び使徒達の大剣から辛うじて逃れることが出来た。
体勢を立て直す使徒へ、シアと我を取り戻した香織が向かおうとする。同時に、ティオが、これ以上好きにさせるものかと、両手を突き出して、ブレスを放とうとした。目標は、魔王と、全くの無傷で、使徒達と同じように空間のゆらめきから姿を現したフリードだ。
だが、実際に行動を起こせたのはシアだけだった。
「はぁあああっ!」
「こ、光輝くん!?」
ハジメに弾かれたはずの光輝が、いつの間にか戻ってきて香織に斬りかかり、
「――〝堕識〟」
「っ、あ?」
恵里の詠唱と同時にティオが僅かな間、呆けてしまったからだ。
意識が数瞬とはいえ飛んでしまい隙を晒してしまったティオに、素人とは思えない恵里の飛び蹴りが炸裂し、ティオは雫と同じく盛大に吹き飛ばされた。香織の方は、聖剣の一撃を大剣で受け止めながら信じられないといった表情で鍔迫り合いをしている。
ここまでの出来事が、全て刹那の内に起きた。
そうして、ハジメがドンナー&シュラークの銃口をフリードとアルヴへ向け引き金を引こうとし、シアが愛子達を背に庇い使徒達と対峙し、ティオと雫が痛みを堪えながら立ち上がろうとし、香織が光輝へ説明を求めようと口を開きかけ、龍太郎と鈴がようやく我を取り戻したそのとき、
「うっ、あ?」
小さな呟きが響き、ユエの姿が光の柱に呑み込まれた。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字脱字報告も有難うございます。
次回も、土曜日の18時の更新予定です。




