5話
数ヶ月が経った、以前の夫婦のような冒険者を何度も助けたりしてメリッサの<咆哮>がオークのダンジョンの名物になった頃。
バイス工房である話を聞いた。
「武道大会?」
大量の槍の柄を運びながら聞いた言葉にメリッサは首を傾げる。
話題を振ったバイス工房のナールは少し驚いた風だ。
「あれ、知らなかったんですか?王都で年一度行われるお祭りみたいなもんですけど」
「聞いた事があるような……いや、ないですね」
「入賞者には賞金と王様からの賞品があるんで、冒険者に限らず一般人からもかなりの数が参加するんです。数日かけて予選が行われ、本戦に出られるのは一部ですが予選の最後の方と本戦トーナメントは王都中央で観客集めてやるんですよ」
メリッサは思う。賞金と賞品も魅力的だが何より自分がどこまでいけるか試したくなるような大会だ。
「帰って仲間と相談してみます」
「それがいいですね、まぁ今はそれより仕事しましょ。その槍の柄は4番工房まで持っていってください」
「わかりました」
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「武道大会というのを聞いたのだが」
工房で汗をかいたので一旦汗を流したメリッサは夕食の席で報告した。
「もうそんな時期かぁ、私達魔法使いは出られないから忘れてたわ」
「一応魔法使い用の大会もあるんだけど、賞金も賞品も地味であんまり気にした事無いよね」
ふむ、とメリッサは腕を組む。
「……出てもいいだろうか」
「いいんじゃない?どこまでいけるかはともかく、挑戦するだけなら銀貨5枚と刃を潰した武器で登録できるから……顔にものすごく出たいって書いてあるわよ」
銀貨5枚、冒険者登録と同じ額だ。メリッサは少し<ベティラード>の皆の事が気になった。随分遠くへ来たと思う。
「ふふ、やっぱりめりーくんも男の子なんだね」
「なら尚更張り切ってダンジョン潜らないと、三人で効率よく潜れてるからメリィももうちょっとで転職できるでしょ?」
そうなのだ、Bランクダンジョンに移って一番変わった事は獲得できる魔素量が大幅に上がった点。この数ヶ月潜った結果、魔素との相性がいいメリッサは転職までもう少し、という所まできているのだ。
「えーと、後2ヶ月くらいかな、武道大会まで。それだけあれば十分転職までいけると思う」
「なら当分メリィの転職を目標にがんばりましょ。<クレリック>の次は<クルセイダー>か、使える回復スキルの幅が増えるんだっけ」
「そだね、めりーくんのだいっきらいな魔道書また読まなくちゃね」
「ぐ……む……必要となれば読む」
戦闘には妥協したくないメリッサである、今の所は<初級回復>で問題ないがこの先はそうはいかないだろう、転職で上の魔法が覚えれるならばそれに越した事は無い、無論魔道書はできれば読みたくないが。
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ストン。引き絞られた弓から放たれた矢がこちらに気付いていない三体のオークの内、魔法使いオークの首筋に突き刺さり、倒れる。
こちらに気付き慌てて突進してくるオーク達に牽制の2発目、3発目を放ち弓を腰に戻し、もう使い慣れた両刃の斧槍を地面から引き抜く。
敵の突進のタイミングに合わせてこちらも突撃し、先頭のオークに盾を叩きつけ、怯ませて正面から膝関節を蹴り砕く。
残りは弓持ちだけだ。放たれた矢を鎧で弾き、弓を破壊。斧槍を引っ掛けて引き摺り倒す。鎧はこの数ヶ月で細かい傷だらけになった、しかし汚くなったとは思わない。むしろ美しくなったのではないかとさえ思う。
そろそろ魔法の詠唱が完了する頃だろう、魔法使い陣の魔力を節約する為元弓持ちオークを先頭オークの方に放り投げる。
「<召喚><鋭い骨の杭>」
ドスリ、と二匹を貫いた一本の白亜の杭は二匹の命を瞬時に奪った。二匹を寄せたのを確認した時点でアンジェは詠唱を中断して魔力を温存した。
この数ヶ月でオークのダンジョンにも慣れた。命のやり取りなのは変わらないが手を抜いていい場面といえばいいのだろうか、体力や魔力を温存すべき所を理解する事によって以前より長時間潜れる様になった。
「一応緊急時の為に買ってあるけど、回復薬全然使わないわね」
「そりゃめりーくんが<初級回復>使えるし……」
「敵が後ろにくる事も無いし、ほんとメリィさまさまだわ」
魔法使いオークの魔石と牙を回収しにいったメリッサが戻ってくる。
「なんの話だ」
「メリィってば素敵ねって話」
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「おかえりなさい、お疲れ様でした」
ダンジョン帰りの冒険者で溢れるギルドに戻ってきた三人は清算の為アーチェの座る席の前に座った。
「清算を頼む、いつもどおり口座へ。内訳書は次来た時に頼む」
「かしこまりました、一点だけお伝えする事があります」
三人は首を傾げる、こんな事は初めて言われた。
「冒険者を多数助けた感謝の証として上から書状が届いております。」
人を助けるのに下心があった訳ではない、だがAランク以降は国が認めないと昇級できない。こういう事を積み重ねていけば昇級できるという事だ。
「情けは人のためならず、というのだったか。ありがたく受け取らせてもらう」
ちゃんと勉強の成果出てるじゃない、とアンジェに突っつかれるメリッサが立ち上がって三人で宿へ戻ろうとすると声をかける一団があった。
「アンジェリカさんのパーティーですよね、よければお話しませんか?」
声をかけてきたのはなんというか、痩せたトロールのような男だ。鼻が大きく目が小さい、ハッキリ言って胡散臭い。
「私達これから宿に戻って休もうと思ってるのですけれど?」
「まぁまぁ、お時間は取らせません。飲み物くらいは奢らせて頂きますから」
強引にアンジェの背中を押そうとした男の手をメリッサが振り払う。
「……すぐに済ませてくださいな。」
「すぐ終わりますとも、私達のテーブルへどうぞ」
アンジェとデイジィは座るがメリッサは座らない、重量のせいもあるが何かあった時二人を守る為だ。対面には4人座って更に後ろに3人立っている。
「用件だけを申しますと、我々のクランに入っていただきたいのです」
「……私達がそちらのクランに入ってメリットはあるのかしら?」
「それはもう勿論、クランの基本的なメリットの他にも我々は前衛が豊富にいますのでお二人を全力でお守りできます」
「その口振りだとうちの前衛の事は誘っていただけないのかしら?」
「そちらの方、<クレリック>でしょう?さすがに2次職の方はちょっと……」
「へぇ、私達の職まで知ってるんだ、でもそれって要するに魔法使いが欲しいだけなのね」
「そ、そんな事ありませんとも」
「どちらにせよお断りさせて頂きますわ。アンジェ、メリィ、帰りましょ」
恨めしげな視線から二人を守るように歩くメリッサと共に三人はギルドから出て行った。
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「ああいう輩ほんと増えたわね」
場所は宿、夕食後の席でアンジェは口を開いた。
クランの勧誘は今に始まった事ではない、二人はBランクの最終職魔法使いなのだ。万年Bランクのクランからすれば喉から手が出るほど欲しいのだろう、度々今日の様な勧誘がある。
「前衛が豊富で守ってくれるんだってさ。メリッサ氏、どう思いますか」
デイジィが少し茶化した風に言う
「前衛というのは後衛の命を預かる役割だと僕は思っている。彼らにその覚悟があるとは思えなかった」
「ま、そーだよね。職だけで人を判断する時点で……顔がトロルみたいだったし」
「顔がトロルみたいなのは関係ないけど、せっかく書状もらっていい気分で一日が終われると思ったのに、台無しだわ」
ああ、忘れていた。とメリッサは懐に仕舞っていた書状をアンジェに手渡した、まだ封は切られていない。
アンジェは受け取ると封を切ると中身を取り出して読み始めた。
「うわ、上からって言ってたけどこれ王様からの書状だわ。えーと……」
長い前書きと分かり難い文面を要約するとこうだ。
冒険者とは我が国の大切な財産である。それを自身の危険を顧みず多数救ってくれた貴方達に感謝する、今後も冒険活動をがんばって欲しい。有事の際には協力を要請するかもしれないがその時はよろしく頼む。
「やっぱり褒められるならこういう褒められ方したいわよね、人助けも馬鹿にできないわぁ」
「さすが賢王様」
「冒険者は国防の要…と前に教えられた記憶があるな」
「私達が篭ってるオークのダンジョンみたいにBランク以降は人型モンスターが居るダンジョンが多いからね、なんだかんだ言って対人もこなせる冒険者が多いのよ、だから戦争が起きたら冒険者にも召集がかかるってわけ」
「ダンジョン外に沸いたモンスターの討伐も冒険者の仕事だしね、良い死体欲しいな……」
「その発言はどうかと思うが……僕は明日も工房に行くので先に休ませてもらおう」
「はいはい、今日もお疲れ様」
「おやすみなさーい」




