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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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27話

戦闘描写難しい・・・

「おう、来たか。」


10時ぴったり、冒険者ギルドに着くと完全武装のマスターが待っていた。

普段の軽い性格は鳴りを潜め、厳格な師匠としての姿がそこにはある。


「メリッサ、お前は1年前。二人を命に代えても守ると言ったな。今でも気持ちは変わらんか。」


「はい、師匠。その思いは1年前より強くなっています。」


「・・・分かった、最終試験の内容を伝える、俺から二人を守りきれ。俺の事は殺しても構わん、死ぬ気で守りきれ。これは試験であると同時に決闘でもある。どちらかが死んでも罪に問われることは無い。」


アンジェとデイジィは息を呑む、無茶苦茶だ。

だがメリッサは師匠の眼を見て頷いた。


「そうだ、それでいい。俺の職はちゃんと覚えてるだろうな。」


「はい、<バーサーカー>です。」


「<バーサーカー>の真骨頂は<狂化>による身体能力の大幅な上昇だ、変わりに理性が奪われ、周りのものを無差別に攻撃する。これのせいで俺は現役時代PTを組む事はほとんどなかったが、今回の試験では<狂化>を使う。お前に襲い掛かるか、嬢ちゃん達に襲い掛かるかは俺でも分からん。だが命に代えてもと啖呵を切ったんだ、守り抜いて見せろ。


お前の装備はいつもの場所においてある、<おもし>は外せ。鎧は俺の予備だがベルトを締めれば問題なく使えるだろう、準備が出来たらグラウンドへ来い。」


そう言ってマスターは踵を返してギルドの裏へと先に向かった。

3人になった途端アンジェとデイジィが噛み付く。


「なんで!なんで命の取り合いみたいな事しなきゃならないのよ!」


「そうだよ、勝っても負けても得るものなんてないよ、無意味だよ!」


アンジェは久しぶりに、デイジィは初めて声を荒げるのを見たメリッサはふと微笑みながら言う。


「師匠は常々師弟の関係についてこう言っていた、「師匠ってのはな、最終的に弟子の踏み台になるもんだ」、と勿論これは師匠の持論なだけで世間一般の師弟に当てはまるかは分からない、だが師匠は欲しているんだ。僕が師匠を超える事を、だが普通にやっては情が混じって純粋に闘えないだろう。その為に二人を危険に晒すのは申し訳なく思う。だが今回だけでいい、二人分の男の意地を通させて欲しい。」


そう言って二人を見つめるメリッサの瞳は凪いだ海のように穏やかだった。

何も言えなくなってしまった二人は瞳に涙を溜めながらも俯いた。



           ~~~



金属鎧を身に着け、背中に投槍(ジャベリン)、腰に(シミター)合成弓(コンポジットボウ)、矢筒を、左手に大盾(タワーシールド)、右手には斧槍(ハルバード)を、この一年で扱いを身に付けた全ての武具を装備し、メリッサはマスターの前に立った。マスターは金属鎧と大斧(バトルアクス)、腰には(サーベル)を装備している。


「完全装備だな、ちゃんと俺の意思を汲み取ってくれたか、ありがとうよ。」


「はい、師匠。全力を以って貴方を打倒させて頂きます。」


「抜かせ。・・・途中で邪魔されるわけにいかんのでな、嬢ちゃん達にはこの吸魔の腕輪をつけてもらう。んでそこの円の中から出るな。いいな?」


何を言っても二人はやめる気がないのだろう、諦めた二人は主に魔法使いの罪人に嵌められる吸魔の腕輪を受け入れた。鍵はマスターの首元だ、この戦いが終わるまで二人はただの無力な乙女に成り下がる。

指定された円の中に立ち、それを守るようにメリッサが立つ。十分な距離を置いてからマスターは言った。


「行くぞ。」


短く呟いて<狂化>を発動させる。

全身の血管が盛り上がり、筋肉が隆起する。瞳からは理性の色が失われ。形相はまるで悪鬼のようだ、しかし体が覚えている戦い方は忘れない。マスターは大斧を手に取り、距離を詰めるべく疾走する。


メリッサが冒険者になってから、最も長い戦いが始まった。





こちらに向かってくるマスターにメリッサはまず矢筒から矢を抜き、放つ。一息に3本、続けて3本。急所を狙うがマスターは僅かに体を捻って急所を外す。牽制にもならない。そう判断したメリッサはすぐに弓と矢筒を捨てて右手に斧槍を握りなおした。


突進してきたマスターがそのままの勢いで斧を振るう、大盾で受け止めるが勢いが殺しきれない、後ろにずり下がりながら衝撃を殺す。

大きく凹んだ大盾を見て鎧では受けきれないと判断した。今のマスターの膂力は自分と同等以上だ。様子見はしない、全力を込めて突きを見舞うが大斧で引っ掛けられて止められる。急いで引き寄せ次の攻撃に備える。受け止め、薙ぎ、かわして、突く。


幾度繰り返しただろう、命のやり取りから来る緊張からか、それとも別の要因か、メリッサの呼吸は随分速くなっている。

マスターが体を捻り、フルスウィングを放ってきた。タイミング自体は問題ない、大盾で受け止める。が


ミシリ、嫌な音がした。咄嗟に屈む、大盾をの上部分を食いちぎった大斧がメリッサの髪の毛を何本かもっていった。


大盾は使い物にならない。手早く固定のベルトを緩め、腕の降りだけでマスターに投げつけた。十分な威力を伴った投擲はしかし、ハエでも掃うように打ち払われた。


両手で斧槍を握りなおす、斧槍ももう限界が近い。柄の部分に皹が入っている。柄に負担をかけないように振るうが3合の打ち合いで折れた。

剣を抜くがこれで大斧の攻撃を防げるとは思わない、案の定即座に折られ、とうとうメリッサの左わき腹に大斧が突き刺さった。


声にならない悲鳴を上げ吹き飛ぶメリッサ。アンジェとデイジィが思わず叫ぶが声は届かない、あまりの激痛で耳鳴りがしているからだ、アバラが何本かもっていかれただろう。地面を二転三転したが辛うじて立ち上がる、足は震えたままだ。

こちらを無力化したと判断したのだろうか、二人の方に向き直るマスター。



それはだめだ。それだけはさせない。二人は守るのだ、命に代えても。

最後の武器、投槍を右手で掴み投擲体勢を取る、マスターの意識は二人に向いている、今だ。


「オオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


死力を振り絞って投擲した。必殺の威力を以って空を裂く槍はしかし、残酷にも斧で受け止められる、しかし効果はあった、何度も打ち合った斧は疲労していたのだろう。柄の部分から上を丸ごと持って行った。得物を壊された怒りか、悪鬼のような形相を更に歪ませ、剣を抜いてこちらへ向かってくる。

対してこちらはもう武器がない、振り下ろされた剣をサイドステップでかわし、手元を後ろ向きのまま蹴り上げる。運が良いのか、蹴りが上手く入ってマスターの手から剣が抜けた、空中でくるりくるりと回った剣は少し遠くの地面に突き刺さった。


両者もう武器はない、先に飛び掛ったのはメリッサだ。渾身の力を込めてボディブローを放つ。金属鎧を凹ましながら確実にマスターにダメージを与えた。だがマスターは止まらない、<狂化>した事により痛みを感じていないのだ。今度はマスターがメリッサを殴る、腹に入ったそれも金属鎧を凹ませ、メリッサは吐瀉物を撒き散らす、しかし倒れない。殴る、殴られる、殴る、殴られる。

人外の膂力で以って行われる殴り合いは壮絶の一言に尽きた。アンジェとデイジィは震えている、このままでは死んでしまう、しかし見守らねばならぬ、視線は外せない。涙が止め処なくあふれる。


やがてお互い殴る力が弱まってきた、肉体の限界が近いのだ。

子供の殴り合い程度の力しか入らなくなり、とうとう崩れ落ちた。



地の耐久力で勝っていたのだろう、最後に立っていたのはメリッサだ。

そのメリッサも一度空を見上げてからマスターの上に崩れ落ちた。





ああ、もう二人が傷つくのを見なくて良い。アンジェとデイジィは声を上げて泣いた。






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