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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【愛にすべてを】
115/123

愛にすべてを(3)

「――何故僕がこんな事を始めたのか、興味はないかい?」


 至近距離で爆ぜた圧力の衝撃でレイジの髪が揺れる。ケイオスはその手の中に炎を生み出し、剣のように変化させレイジを襲う。

 レイジはマフラーでその炎を弾き飛ばし剣を振るうが、ケイオスの周囲には目に見える程の空間のずれがあり、それが物理衝撃をカットする障壁となっていた。


「君が何をしようと俺には関係のない事だ」

「つれないね、本当に。だけど君は知らなければならないはずだ。今惣助おじさんがどこにいるのかとか……僕が座とどんな契約を交わしたのか、とか」


 うっすらと笑みを浮かべ切れ長の目を細めるケイオス。障壁と剣が激突する衝撃で魔力の光が爆ぜ、レイジは思わず舌打ちする。


「……ほら、やっぱり興味がある。まあそんなに長話をするつもりもないからさ……話に付き合ってよ、レイジ君!」


 レイジの後方より飛来するミユキの矢が次々にケイオスの周囲に着弾する。空間のずれでガードしたとしても、周辺の時を停止させられればケイオスの逃げ場はなくなる。

 しかしそこへ割り込んだオリヴィアが切っ先に白い光を纏わせた。単純な白ではない。それは内側に光を吸い込み虚無となす虚幻の力を秘めている。

 一閃で空間凍結の力が破砕される。最強クラスの勇者達の戦いの中で、しかし虚幻の力を扱う事が出来るのはオリヴィアただ一人。

 レイジとケイオスは現実の肉体を持ち込んでいる。虚幻魔法はあくまでこの世界に依存した存在を消滅させる力であり、異世界の肉体を消す事は出来ない。だがミユキはこの世界の魔力で作った肉体に魂を乗せた召喚形式だ。故に、ミユキに大してリヴァイヴは即死の威力を持つ。

 結果、ミユキはレイジの援護に回ることになる。虚幻魔法をエンチャントした剣はレイジを消すことは出来ないが、彼が持つ精霊器への効果は絶大だ。レイジは受ける事を諦め、回避に集中する。


「神が扱う虚幻魔法……オリヴィアはそんなに自在に扱えるのか……!?」

「伊達に何年も特訓はしていませんからね! この世界では、他にすることもなかった!」


 それでも使用には限界がある。オリヴィアのMPもまたその精神力に依存する。万物創造と破滅の力である虚幻の力は連続発動が困難だ。

 その隙をケイオスは魔法でカバーする。ことあらゆる勇者の中で“魔術師”として正しい適正と能力を持つのはケイオスただ一人。彼一人だけが、世界の神秘を精霊器を通じ魔法として発動出来る。

 笑みを浮かべたケイオスがその右手から溢れんばかりの光を放つ。迸る紫電はまるで光線のようにレイジとミユキへ迫るが、レイジはそれをマフラーで弾き飛ばす。


「僕はね。別に正直な所、この世界がどうなっても構わないんだよ。滅んだとしても再生したとしても構わないし、オリヴィアが勝ってもレイジ君が勝ってもどっちでもいいんだ」

「だったら邪魔するんじゃねえ! どっちでもいいなんてふざけた事を抜かす奴が本気の人間の足を引っ張るな!」

「僕はふざけてなんかいないし、それに誰より本気だよ? 僕はただ、“世界”の選択を見届けたいだけなんだ」


 雷撃を弾ききったレイジはその両手に別々の形状の剣を作り出す。更に袖の内側から白い茨を出現させ、それを自らの手首に、指先まで巻き付けていく。


「世界は救いを求めているだけなんだ。親を失った子供のように、道標を探している」

「その結果この世界は責任を放棄して他の世界に目を向けている!」

「それは君達のせいだろう? 君達がこの世界に教えたんだ。痛みを、恐怖を、絶望を……そして喜びと、人の魂が放つ熱を。だが君達に罪はない。いや、何かと求める事に、ただ生きる命に罪なんてないんだよ。それは規模が大きくても小さくても同じなんだ」


 この世界の上に、小さな花が咲いたとしたら。その生がどんなにささやかであったとしても、それは世界の意思の一つだ。

 その花が自然に枯れたとしても、人の手で摘み取られたとしても、それさえも世界の意思の末端に過ぎない。

 生きる事も死ぬことも、生まれて朽ち果てていく事も、何もかもがすべて世界の意思だ。そこに貴賎などありはしない。全てが正しき自然の摂理の一つ。


「この世界は自らの限界を超えて他の世界に手を伸ばそうとしている。それはたしかに前例のないことかもしれない。だけどそれは決して罪ではないし、誰もそれを罰する権利なんてないんだ」

「俺は別にこの世界を裁こうなんて考えちゃいない! 前例がないから駄目とも言ってねぇよ! ただそいつは俺にとって不都合なんだ!」

「自らにとって不都合だという理由だけで世界の結果を変えようとする君こそ傲慢じゃないのかい?」

「難度も言わせるな。俺は傲慢でいい。やることなす事エゴでいい。幾ら御託を並べた所で無意味だぜケイオス。俺は心変わりなんかしねぇよ!」


 地を蹴り高速で接近するレイジ。それを足止めしようとしたオリヴィアだが、レイジの剣戟は先ほどまでとは比べ物にならないほど重く、とても立っていられる威力ではない。

 吹き飛ばされたオリヴィアに見向きもせずレイジは吼えながらケイオスへ向かう。空間湾曲結界――知ったことではない。滅多打ちで無理やりにでも超越するのみ。


「それだ。それだよレイジ君。君は強い。君は世界を変え得る逸材だ。僕は正直な話君に心酔しているんだ。惣助おじさんがそうであったように」

「その黒須はどこにやった!? どうせどっかに閉じ込めてんだろ!?」

「大正解。彼は自分がゲームに介入する事は最後まで拒んだからね。だけどあのままじゃよくなかったんだ。考えてもみてほしい。あのまま君がロギアと戦っていたら十中八九敗北していただろう? 僕は君を救いたかったんだ」

「ああ!?」

「あのまま君がロギアに敗北したら、ロギアはザナドゥを滅ぼしただろう。だけど君がロギアに勝利していたら、きっと惣助おじさんはこのゲームを終わりにしてしまっただろうね。それはどちらも困るんだ。結論は出てしまわないまま、世界には“考える時間”が必要だった。そうは思わないかい?」


 歯を食いしばり左右の剣を連続で叩きつける。すると次の瞬間、空間の湾曲は貫通された。レイジは両手の剣を投げ捨て、代わりに大鎌でケイオスを襲う。


「レイジ君は物語のエンディングはどこにあると思う?」


 例えばそう。異世界から召喚された救世主がその世界で勇者と手を取り合い、神を倒し世界を救ったとして。

 その後も平和が約束されるわけではない。ゲームには常にエンディングは必要だ。けれど世界はそこまで都合良くはない。

 確かに歴史の区切りは存在するだろう。だがそれまでの英雄の活躍を全て台無しにしてしまうような出来事が起こる事だってある。


「君はロギアを倒して救世主となっても、笑顔でめでたしめでたしと現実世界に帰るだけだろう? それではオリヴィアやこの世界があんまりにも可哀想じゃないか。かといってロギアに壊させるのも困る。世界がそれを拒絶出来る位には成長するために、時間が必要だったんだ」


 ケイオスは次々に指先から爆発を起こしてレイジを迎撃するが、レイジは身体を焦がしながら炎を突き抜ける。


「そうして僕がずるをして稼いだ時間の中で、世界は僕やオリヴィアと対話を繰り返す事で自らの願いを自覚したんだ。こんな所で終わりたくない……もっと自分も高みへ行きたい。知識欲と探究心は全ての生物に許された権利だよ。それを邪魔する事はあってはならないんだ」

「ゴチャゴチャうるせえ! 結局は世界の暴走を放置しろってだけの話だろ!? 何人死ぬと思ってる! いや、ザナドゥだってどうなるかわからない! 向こうの世界に侵略したところで、この世界がどうなるかなんて!」

「そう、わからないんだよ! わからない事を確かめたいという気持ちを阻害するのはよくない。例え危険だとしても、可能性があるのなら信じたい! 世界の願いは純粋なんだよ……レイジ君!」


 レイジの鎌を受け止めたのはオリヴィアだった。まだ虚幻魔法は使えないが、何とかケイオスを守る事が出来た。


「……退けオリヴィア。邪魔をするな!」


 その瞳は以前のレイジよりずっと凶暴で、粗暴なように思えた。彼の握りしめた鎌と因果関係がないといえば嘘になる。だが、レイジは元よりそういう面も併せ持っていた。


「レイジ君の願いも本気で、そして純粋だ。君は本当に誰もかもを救いたいだけなんだよね。君は世界を愛している……僕と同じだ」

「テメエと一緒にすんじゃねェッ!!」


 オリヴィアのガードを弾き、蹴りを放つレイジ。靴底が腹にめり込んだオリヴィアは思わず涎を垂らし悶えながら転がる。


「僕は世界を愛している。だけどね……世界は僕を愛していないんだ。僕は長年この矛盾に苦しんできた。僕らの世界に神はいなかったし、もう世界は眠りについていた」


 それが本来あるべき世界の流れだ。神は創世にのみ必要であって、役割を終えれば帰還する。世界も最初は誕生欲求から自らを捏ねるが、それが終われば後は眠りにつき、全てをありのままに受け入れる。


「そういう意味で世界は自らの上にある全てを認め、愛していたのかもしれないね。だけどザナドゥは……この世界は違う。眠りにつかず、未だに答えを求めてもがき続けている。これが不具合だという事は承知しているよ。だけどザナドゥは世界とその上に生きる命の新しい関係性を示してくれるんだ」


 レイジはケイオスに鎌を振り下ろすが、ケイオスはそれに手をかざし指輪を輝かせる。

 強烈な反発する力、斥力がレイジの身体を襲う。二人は互いの力をぶつけながら目を見開く。


「……言いたいことはそれだけか?」


 その斥力を押し切って前に進むレイジ。オリヴィアは口元の涎を拭いもせずに立ち上がり、虚幻魔法を纏った剣でレイジを襲う。

 レイジはそこへ目を向けると同時、鎌から手を離した。斥力に拮抗している今のレイジは当然動く事は出来なかったし、出来たとしてもそうはしなかっただろう。

 オリヴィアの振り下ろした刃がレイジの額から首筋、胸を切り裂いた。オリヴィアの攻撃に対しレイジは全くの無抵抗だったのだ。これに思わず動きが鈍り次に胸を狙って繰り出した突きは素手のレイジの手で受け止められてしまう。

 どちらせによ、精霊器や魔力の防御は通用しない。ならば生身の肉体で防ぐしかないのが虚幻魔法だ。レイジは手首に深く食い込む刃にわずかに眉を潜め、そのままオリヴィアの腕を掴むと押さえ込んだ。


「ミユキ!」


 次の瞬間ミユキの放った矢がケイオスへ着弾しようとし、斥力に負けて空中で爆ぜた。しかしその氷の影の向こうを注視するケイオスの背後から、ミユキは光の刃で切りつけた。


「……時間停止による高速移動……」


 ミユキの斬撃はケイオスの右腕を肘から切断した。空中に舞い上がってその腕は凍結され、リング・オブ・イノセンスもその輝きを失っていく。


「……流石、彼女の妹と……救世主だけの事はある。この世界を大きく変えた勇者だ」

「ミユキ、殺すな。血を止めてやれ。そいつにはまだ訊きたい事がある」


 ミユキは頷くと同時、ケイオスの傷口を空間停止させる。身体の半分事停止させたのでケイオスはこれでもう動けない。

 レイジは手首に突き刺さった剣を引き抜くとオリヴィアと向き合う。額から流れる血に片目をつむったまま少年はその剣を遠くへ放り投げた。


「オリヴィア、君の負けだ。最初から勝てる戦いじゃなかった」


 無言で俯き唇を噛みしめるオリヴィア。レイジはその肩を叩き、小さく頭を下げる。


「……ごめん」

「何故……謝るのですか? 謝った所で、どうなる事でもないのに……」

「そうだね。これは全部俺のせいだ。この世界の暴走も、今の君の苦しみも……全ては俺の責任だ。だから君は悪くないし、どうにもならなかったとしても、俺には謝る義務がある」

「義務……ですか。そんな冷たい言葉で謝られた所で……」


 嘲るように笑うオリヴィアへ歩み寄り、レイジは片腕でその身体を抱き寄せた。

 思わず言葉を止めるオリヴィア。レイジはきつく目を瞑り、静かに息を吐く。


「……大きくなったね」

「………………レイジ」

「長い間、ずっと一人にして、ごめん。辛い決断を一人でさせて、ごめん。君を守れなくて…………ごめん」


 あの日一度死に絶えて、アンヘルの力で蘇った事を彼女は知っているだろうか。

 いや、そんな事はどちらでも良いのだ。一度は守れず彼女を失った、それが事実だ。レイジはそっと身体を離し、ゆっくりと歩き出す。


「許してもらいたいわけじゃないんだ。俺は沢山の物を踏みつけにしてここに立っている。許される筈ないよな。そんなのは当たり前の事だ。だけどそれでいい。俺は許されなくていいんだ」


 行く先には神の座と、世界の中枢である光の球体が浮かんでいる。レイジはそれに近づきながら、指先から血を零し、笑みを浮かべる。


「ケイオスの言うように、俺こそ世界の摂理に逆らった存在なのかもしれない。本当に正しいのは俺じゃない誰かで……俺は間違いなのかもしれない。それでもこの願いだけは、譲れないんだ」


 座に向かうレイジ、その背中にオリヴィアは駆け寄るとそのまま飛びついた。それ以上彼を行かせてはいけない。その願いはきっと、全てを駄目にしてしまう。


「ダメです、レイジ様……!」

「……オリヴィア」

「私はそうしなくていいように……だから……レイジ様だけが苦しまなくてもいいように……!」

「ありがとう。だけど、俺はこれでいいんだ」

「よくなんかありませんっ!! 良くなんか……これで、いいわけが……!」


 背中に顔をうずめたままオリヴィアは涙混じりの声で叫んだ。ミユキもケイオスもその成り行きを見守っている。


「君と出会って、この世界で戦い初めて……色々あったけど俺、楽しかったよ。君に会えてよかった。君だけじゃない。この世界で起きた事全部、良かったって思ってるんだ」

「そんな……そんな事言わないで!」

「もう、今はミサキのためだけじゃない。俺は……やっと自分のやりたいことがわかった気がするんだ。俺にしか出来ないこと。俺のやるべき事……」

「言わないで!! もう……それ以上……!」

「こんな事はもう、これっきりだ。だから……もう少しだけ、待っていて欲しい」


 背後から回されたオリヴィアの手を握り締めレイジは優しく声をかける。

 何故だろう。オリヴィアは幼い子供に戻ったかのように泣きじゃくっていた。ミユキもケイオスもその意図はわからなかった。

 ただ一つ確かな事は、オリヴィアは決してレイジの事を嫌ったわけでも、拒絶したわけでもなかったという事。

 この世界を守りたかった。この星に生きる命を再び息吹かせたかった。けれどもそれだけではない。彼女は彼女なりに、結末を変えようと努力していたのだ。

 所詮レイジに敵わない力でも。所詮、世界に心を響かせる事の出来ない存在だとしても。ひとりきりで精一杯ど足掻いていたのだ。

 それはすべて怒りでも憎しみでもない。ただ世界を、そしてこの少年を愛するが故に。きっと彼が迷わずに選んでしまうであろう結末を、少しでも変える為に……。


「ありがとう、オリヴィア」


 その手をそっと振り解きレイジは座へ向かう。オリヴィアはその場に泣き崩れ、白い地べたに爪を食い込ませた。


「――世界よ。ザナドゥよ。俺が勝者だ。俺が最もこの世界を救うに相応しい勇者……英雄、救世主だ。お前の欲した結論はここにある! 我が名を刻め! そして我に応えよ! 万物の理を、我が手に!」


 レイジの呼びかけに世界は簡単に応じた。中枢から光があふれだすその様にケイオスは目を細める。


「僕は世界の気を引くのに年単位かかったというのに……やっぱり彼は主人公だなあ……」

「すごい力……これまでの勇者への供給とはレベルが違う……」

「そりゃそうさ。これで彼は実質神になったんだ。世界からの供給の割合は、彼に思い切り傾いたんだよ。だけど、世界もそう単純ではなくてね」


 今レイジを信じることを決めたのは世界の意思の一部に過ぎない。相変わらず異世界を求める意思もあれば、レイジを世界に取り込もうという意思もある。

 それらがせめぎ合う今、完全に世界を掌握するために、レイジはそれらの意思を全て説得する必要があった。


「君が何をしようとしているのか僕にはわからないけど、やるなら力の統一が必要だね。まずは外で暴れている“異世界を求める意思”と同化する必要があるよ」

「……急に掌返して助言か? ケイオス」

「僕の方向性は常に一致しているよ。今は君が勝者で、君が僕の理想だからね」

「……はあ。ミユキ、ケイオスの凍結を解除してやってくれ」


 告げながらレイジが取り出したのは白い本だ。それを開きながら魔力を解き放つ。


「契約対象者、“ケイオス”。我が魂と深遠の一部を貸し与え、汝に永久の安息を約束する物也。“眠り給え”、“謳い給え”――“祈り給え”……!」


 それはギドの茨の誓約であった。本から放たれた無数の蔓がケイオスにまとわりつき、切断された腕を縫合する。


「これでお前は俺に逆らえなくなったわけだ。大人しく協力してもらうぞ」

「そんなえげつないことしなくてももう邪魔しないけどね~」

「ケイオス、黒須の居場所に案内してくれ。ミユキは黒須を確保。俺は地上に戻ってシロウ達と合流してザナドゥをぶっ倒す」

「……そうですね。まだケイオスが裏切らないとも限りませんし。私も黒須を確保したらすぐに援護に向かいます」


 ミユキの返答に頷くレイジ。そのまま大きく跳躍し、螺旋階段の内側に片手で捕まる。


「ミユキ、二人をよろしくね」


 そう言って笑う横顔は無邪気な少年のようだ。救世主は螺旋階段の内側を何度も蹴り、跳躍していく。その姿が地上の光に見えなくなるとミユキは小さく息を吐いた。


「それで、黒須惣助はどこですか?」

「どこというか、棺桶に閉じ込めて浮かべてあるよ。そのへんで眠ってると思う」

「ならばさっさと回収しますよ。どれですか?」


 ケイオスとミユキがそんな話をするのを背に、オリヴィアはじっと空を見上げていた。


「結局私は……レイジ様を……」


 この戦いは誰にも正義があり、どの結末にも犠牲が伴う。それを理解しているからこそ、オリヴィアはまだ納得出来ずにいた。

 レイジが選ぼうとしている未来はきっと“最も多くを救う”道だ。だがそれが100%ではない事は明白である。


「レイジ様……」


 階段を駆け上がったレイジは空へ舞い上がる。巨大な怪物と化したザナドゥの意思はレイジの帰還を察知し、ゆっくりと遠巻きに目を向けた。


「全部終わるまであと少しだ。行くぞ、ミミスケ」

『本当にいいんだな?』


 レイジはその問に答えずに駆け出した。いいか悪いかなんて事は最早問うだけ意味のないことだ。

 そう、レイジは最初から最後まで、ずっと同じ理想を描き続けてきたのだから……。

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