祈り重ねて(3)
ダモクレスの剣は確かに強度的には優秀なアーティファクトだが、その能力は“ザナドゥの人間を制御する”という物である。
意思の統一能力は場合によっては強力だが、こと直接敵な物理戦闘に置いて活躍するとは言えない。
オリヴィア・ハイデルトークは最早亡国の王。彼女が率いるべき騎士達も、支配すべき民衆も全てが世界に飲み込まれた今、その剣はただの頑丈な鉄の棒でしかない。
棺から出現した勇者達はその顔に仮面を被せられ、どんな表情を浮かべているのかはわからない。だが彼らは魂は失われたとしてもまぎれもなく生きた肉体だ。ミユキは光の剣と鞘と化した弓を片手に駆け出し、敵の様子を観察する。
全てが生きた器ならば、それを破壊するのは殺生そのものだ。完全に破壊してしまう事は可能ならば避けたい。そしてミユキには他人を殺さずに行動不能に追いやる手段がいくつも存在している。
「……やるしかないか……!」
右手に持った光の剣、それを駆け寄る一人の勇者に振り下ろす。直撃はさせない、かするだけで十分。すれ違い様、勇者の肉体は凍結され、振り返ることすらままならなくなる。
杖を持った勇者が光の弾を自らの周囲に浮かべ、隣に立つ銃を持った勇者の弾丸と共に放出する。飛来する光の弾丸を剣で弾き飛ばし、左右から挟撃する斧と大剣の勇者を目視もせず、ミユキは姿勢を低く、回転斬りを放ち凍結させる。
大きく跳躍しつつ、空中で鞘を弓に変形させ剣を矢に変えつがえる。瞳を見開き、見上げる勇者達へ束ねた光を放出した。
爆縮する光が消えた後、そこには凍てついた勇者の姿が残る。これは物理的な運動不能状態でも低温状態でもなく、概念的な時間、空間停止の力だ。たとえ炎で炙った所で溶ける事はないし、概念の停止であるがゆえに長時間凍結させても命を奪う事はないだろう。
「イオ、勇者の相手は私が! あなたは座に向かい、精霊器を取り戻す事を優先してください!」
「あ、あたしにも引っ張り出せるか? あそこから……」
「私がこうして世界とリンクし、興味を惹きつければ他の勇者にも意識が向くはずです。要はいかに世界の加護を得るかの勝負。イオ……あなたにも闘う理由はあるはず。その感情を隠さず、世界にぶつけて!!」
ミユキの叫びにぐっと拳を握りしめるイオ。もう迷っている場合じゃない。ミユキの言う通り、闘う理由があるのなら、想いを代償に世界から力を引きずり出すのみ。
「連中の中を突っ切る! ミユキ、援護してくれ!!」
弾かれるように駆け出したイオが氷柱の中を進む。ミユキは弓を更に十字の形に変化させる。そこに番える弓はこれまでの何倍も魔力を込め、視界に収まる全ての敵を標的とする。
青い閃光と共に放たれた太い光の矢は一度停止し、反転すると同時に花開く。そうして四方八方から降り注ぎ、勇者と開きかけの棺を封じ込めていく。
その衝撃と光の中をイオは迷わずまっすぐに突き進む。だがその正面にはオリヴィアが立ちはだかった。女は大地を蹴ると、滑空するようにして高速でイオに剣を繰り出した。
咄嗟に横に跳んでかわすもオリヴィアはくるりと空を舞い、右手を突き出す。そこには光が収束し槍を形作った。放り投げられた光をミユキは弓で穿ち、凍結することで相殺する。
「精霊器の能力ではない……ただの……魔法!?」
オリヴィアはふっと笑みを浮かべ、頭上に手をかざす。そこには先ほどと同じ槍がずらりと並び、一斉にミユキへ降り注ぐ。ミユキはそれに矢を連射し相殺するが、それで空中に出現した氷の足場にオリヴィアは着地、空を蹴り、一気に距離を詰める。
弓を剣に変形させる間もなく、そのまま受け止めるミユキ。オリヴィはその切っ先に“魔力”を込め、光を帯びたダモクレスでミユキを弾き飛ばした。
「この力……勇者と同等の……!」
「この世界の法則……それは想いを力に変えるという事。理想を現実に、幻想を現実に、想像を創造で上塗りする力。あなた達勇者が持つ魔力は、完全な自我を獲得したのならば、このザナドゥの人間でも再現可能」
弾かれた空中で体制を整え、大地を滑りながら眉をひそめるミユキ。そう、オリヴィアは完璧な人格を、精神を発現したこの世界唯一にして始祖たる存在。
これまでのNPCと呼ばれる者達では出来なかったことが出来る程度で驚くのは早計だ。彼女は前人未到の存在であり、この“世界”と対話する事に数年を費やしてきた。
ロギアが想像だけで事象を操ったように、オリヴィアもその権能……いや、この世界の“魔法”という法則を操る事が出来る。意思というMPを消費し、超常を成す。
精霊器はそこに指向性を持たせる事で能力を制御し、効率的に運用する事で底上げする為のものだ。何かを縛り、余分なことを不可とする事で一つの能力を極める為の仕組みだと言える。
しかしそれは“魔力を持たない異世界人が、ザナドゥの世界で魔法を扱う為に必要”なのであって、元々魔力に満ち満ちたこの世界に生きるオリヴィアにとって、それはさほど難しいことではなかった。
魔力による身体強化も、魔力を“想像”で具現化し、現象として操る事もさして困難ではない。精霊器という専用のブースター装置がなくとも、オリヴィアは純正の魔術師なのだから。
「本来魔力という概念を持たない異世界人であるあなた達と私を一緒にしないで。精霊器なんてなくても、私の願いは想像を凌駕する――!」
真正面に突き出したダモクレス、その先端から光の弾丸が射出される。まるで機関銃のような勢いで瞬く魔力のマズルフラッシュ。ミユキはそれらを凍結の力で防ごうとするが、周囲を停止させればそれだけ逃げ場を失ってしまう。
「あなたと何年一緒に居たと思っているの? その能力の封じ方くらい、とうに承知しているよ」
剣を下ろし、左手の中に集めた光はこれまでの物とは性質が違う。光の輪郭が黒くまばゆく吸い込まれるように光るその幻想は、全てをなかったことにしてしまう究極魔法。
「“虚幻魔法”なら……その仮初めの肉体はひとたまりもないでしょう?」
放たれた残響が大地を吹き飛ばしながらミユキへ迫る。周囲は弾丸凍結の壁で防がれ、高速で接近する虚幻魔法をかわせない。
光が爆ぜ、元々光でできている神域の大地がきれいに抉られる。その円形の消滅から逃れた位置に転がったミユキだが、その全身には回避の為に凍結を解除した弾丸を浴びていた。
「ぐ……っ」
「私は私の世界の歴史を、人類の命運を担ってここに居る。その決意と覚悟、あなた程度にどうにか出来ると思う?」
目を細めるオリヴィア。頭上に浮かんだ棺はまだまだいくつもある。それらはまたミユキめがけて降り注ぎ、開かれた棺からは仮面の勇者達が這いずり出る。
「――あなたに私は止められない。背負っている世界の重さ、その違いを知りなさい」
ザナドゥの空に浮かぶ岩盤、その上に砂埃が立ち上っていた。
異世界の境界を超えたレイジは、ハイネの胸に突き刺した刃をそのままに顔を近づける。ハイネはコアを砕かれ、その全身から闇を溶かしながら血の伝う頬を歪ませる。
「……は。なんてツラしてんだよ……テメェは……」
「ハイネ……」
「自分でわかってて、選んだ事だ……。何度も言わせんじゃねぇクソが。俺を……憐れむんじゃねぇ、ってな……」
ハイネの肉体は闇と共に崩れ始めていた。それも当然の事、この肉体はもうザナドゥのもの。完全な魔物と化した今のハイネは、コアを破壊されたとしてももう肉体を維持できない。
魔王と違ってこの体は所詮凡庸。無理に高めた所で、どこかでツケを支払わなければならない。肌に亀裂を走らせ、まるで砂のように崩れていく体にハイネは目を閉じ笑う。
「テメェみたいなヤツを、俺は死んでも認めねぇ……。テメェみてえな偽善者……。テメェみてぇな……歪んだクソ野郎は……」
「……わかってる。認めてくれなんて言わない。それでも俺は、前に進むよ」
ふっと笑みを浮かべるレイジの瞳があんまりにも綺麗だったから。思わずあっけに取られる。それからハイネは無言で自らの精霊器を差し出した。
鎌を握りしめる手に自らの手を重ねるようにしてレイジはその鎌を受け取った。ハイネの体はすぐに解け、崩れ、鎌だけを残し、風に消え去った。
目を瞑り、レイジはゆっくりと立ち上がる。振り返った視線の先には異世界へと両腕を伸ばしている“世界”の姿があった。
世界は境界を貫いて現れたレイジの存在を感知したのか、ゆっくりと巨体で振り返る。レイジは握りしめた鎌を分解し、それを肩部分のミミスケの顔に吸収させる。
『世界の野郎、俺達に気づいたようだな』
「ああ」
『わかってると思うが、アレをなんとかするのはお前の仕事だぜ。なんせアレはお前にしかどうにもできない』
何も言葉にせずレイジはただ目を細めた。
怪物は自らの胸をかきむしる。まるでそこからこぼれ落ちてしまった自らの一部を取り戻そうとするように、レイジへと腕を伸ばした。
『ハイネが蓄えていた魔力は循環させたぜ。餞別だ、派手に使うとしよう』
「――ああ!」
伸びる巨大な腕。その指先だけでも高さは5メートルを超える。ぐっと振り下ろされる腕、それをレイジは手の中に大鎌を構築し、思い切り体ごと回転し薙ぎ払った。
斬撃は一発で怪物の指を四本両断する。切断された指先は空中を舞い、しかしその形を変え、夥しい数の魔物となってレイジへ降り注ぐ。
次から次へと飛びかかる魔物をレイジは踊るようにして鎌で引き裂いていく。生半可な攻撃ではかすり傷一つ負う事はない。この異世界に到達し、そしてミユキが世界とのリンクを開始した時点で、その力は更に加速している。
『三割、四割調子ってトコか……。やり過ごすのはワケないが、このデカブツをまるごとどうにかするにはちと足りないな』
「現状でも削ることくらいは出来る。それかいっそ、先に神の座の方を……ん?」
振り返った気配を察知して視線を向けた先、その岩場ではバウンサー化した遠藤とシロウが戦いを繰り広げていた。シロウは落下してきたレイジに気づくと一目散に逃げ出し、岩場を飛び移りながら迫ってくる。
「レイジすまん! なんとかしてくれ!!」
「シ……シロウ!? おわっ!?」
シロウを追って跳躍してきた遠藤の前足を鎌で弾くレイジ。シロウは額の汗を拭いながらレイジの隣で息をつく。
「ふいー、しんどかったぜ……。しかしレイジ、まさか直接境界をぶち破ってこっちに来たのか?」
「流石にそれやると世界に悪影響らしいから……多分ロギアがギリで飛ばしてくれたんだと思うけど」
「なるほどな。まあよくわからんが、この状況はわりとピンチか?」
追撃してきた遠藤……否、クリア・フォーカスが咆哮する。巨大すぎてスケール感のいまいち掴めない漆黒の巨人も再度こちらへ腕を伸ばそうとしている。
「シロウ、精霊器は出せないの?」
「ああ。さっきからちょいちょい力が増してる感じはあるが……ミユキかイオのどっちかが世界と接触したんだろう。権能のパーセンテージを少し勇者側に取り戻してくれたらしい」
「それでも精霊器を出すには至らないか……。シロウ、俺に手を」
言われた通りにレイジへ右手を差し伸べる。レイジはその右手を握り締め、次の瞬間シロウの体に光が流れ込んだ。
「魔力を譲渡してるのか!? 一体どうやって……!?」
「クラガノとギドの能力の応用みたいなものかな。今の俺の魔力自体、現実側で皆がかき集めてくれたものだし……ロギアのやってた権能のコントロールは、なんとなく感じで見て覚えた」
「あきれた奴だなお前……ドンドンなんでもありになってきてやがる。だが、まあ……これで……!」
両腕に魔力を集中させ、精霊器を出現させるシロウ。腕を纏う鋼鉄の鎧は甲に埋め込まれた宝石を輝かせ、炎を巻き起こす。
「久しぶりだな、“フルブレイズ”。コレでようやく反撃開始だぜ!」
背中合わせに構えるシロウとレイジ。怪物から放出された魔物達は二人を完全に包囲するが、お互いに振り返ることも無く二人は襲撃に備える。
「で? あのバケモノをどうにかしなきゃならないんだろ?」
「うん。だけど、多分今は凌ぐだけで精一杯だと思う。ヤツにもコアとなる部分があるんだけど……」
「そこまでまだ辿り着けそうにねぇと。ま、遠藤のおっさんの相手もしなきゃならねーからな。とりあえず――目につく敵全部ぶっ飛ばしゃいいんだろ?」
両の拳を胸の前で打ち鳴らすシロウ。その瞳に怯えはない。レイジは安心したように笑みを浮かべ、右手に白い剣を取り出した。
「座の方も気になるけど、今はコイツを食い止めないと異世界への道が開かれてしまう。そうなったらゲームオーバーだ。座の方にはミユキとイオが行ってるんだよね?」
「ああ。心配は心配だが、仲間を信じるしかねぇ。そうだろ、相棒?」
降り注ぐ魔物の群れに右の拳を放つシロウ。次の瞬間炎が爆ぜ、空中に何度も爆発が巻き起こる。
左の拳を構え直し、別方向から迫る敵を薙ぎ払う。生半可な勇者の一撃ではない。彼はまだ全力ではないにもかかわらず、純粋な物理攻撃力においてレイジに引けをとらない。
「お前の背中は守ってやる! 前だけ見て蹴散らせ!」
「わかってる。行くよ、シロウ!」
二人は入れ替わり立ち代わり、次々に襲いかかる魔物を撃破する。息のあった連携で攻撃を受けながし、かわし、ポジションを変えつつ反撃。
レイジは防ぎきれない攻撃をマフラーで弾き飛ばし、シロウは拳の連射で吹き飛ばす。避けられない攻撃を繰り出されぬよう、互いの死角を補い、拳と剣を振るう。
そんな二人を遠巻きに捉えたクリア・フォーカスは八本ある脚のうちの二本を変形させ、砲台を形成。結晶の砲弾を射出するも、シロウはその一撃に拳を合わせ迎撃する。
轟音と衝撃が爆ぜる。シロウの腕は打ち返されたが、砲弾も破壊に成功。くるくると地べたを滑り体制を整えたシロウは安全圏からの狙撃に入ったクリア・フォーカスを睨む。
「野郎、俺達が動けないのを良い事に遠距離攻撃か」
同時に異界を目指す巨人にも変化があった。無数の魔物の群体であるがゆえに不定形ではあったものの、これまで辛うじて人型を保っていた怪物がその姿を大きく変え始めたのだ。
頭部であった部分が二股に別れ、その先端が龍を象る。長い首の先端から睨みを聞かせた龍頭は口を開き、そこに赤い光を収束させる。
「なんだこの魔力……!?」
「シロウ、下がって!」
咄嗟にレイジがマフラーを広げマントを作った直後、光が大きく瞬いた。一瞬で自らの一部でもある魔物も蒸発させた赤い閃光は耳をつんざくような轟音と共に二人を襲う。
「ぐ……ぅううううううっ!?」
足場が赤熱し蒸発する。レイジは熱線を何とか四方に逸らすが、それだけで膨大な体力を持って行かれてしまう。
「馬鹿野郎、下がるのはお前の方だ!」
そんなレイジの首根っこをつかみ前に出たシロウは右手を突き出し光を遮る。
熱線は熱の力で対象を蒸発させる能力だ。シロウは咄嗟にそれを炎の精霊器で防ぐ事を思いつく。結果的にその判断は正解で、シロウに触れる事もなく熱線は打ち消されている。
「なんだか思い出すな。一番最初の龍との戦いをよ」
「シロウ……!?」
「俺はお前とは違う。ずっと戦い抜いてきたお前と違って、俺は結局何も変えられなかったダセェ男だ。けどよ……何かを変えようと必死で足掻くお前の道を切り開いてやることくらいは出来る。そしてそれこそ、今の俺が成すべき事なんだ」
眩しさに手をかざし目を細めるレイジ。シロウは僅かに振り返り、レイジの顔を見つめる。
最初はナヨナヨしたヤツだと思った。卑屈で、他人を拒んだような目をしていた。勿論いけ好かないと思った。
けれどレイジは目の前で大切な仲間を失い、それでもすぐに立ち上がった。それは彼がミサキの精霊器を取り込む事で得た決意だったのかもしれない。その段階では確かに、他人の力を借りただけだったのかもしれない。
だがそれからもレイジは何度も何度も倒れ、力尽きそうになりながらも前に進んできた。いつしかその姿を過去に囚われたままの自分を重ね、応援したい、支えたいと願うようになっていた。
「レイジ。俺はお前がこの戦いの結果、どんな結末を望んだとしても受け入れる。お前の選択が誰かを傷つけたとしても……お前自身を傷つけたとしても」
無言で光に手をかざすレイジ。シロウは白い歯を噛み締め笑う。
「だからお前は、お前の覚悟と意志に従って突き進め。そしてよぉく見とけ! これが俺の――覚悟と意志の……力だぁあああああっ!!」
絶叫と共に全身に魔力をたぎらせる。次の瞬間、両腕を開いたシロウのシルエットは光に消え、そして衝撃波が周囲の魔物を蒸発させた。
熱線を放っていた龍頭にまでその衝撃は響く。あまりの眩しさによろめくレイジの視線の先、男は鋼鉄の背中を真っ直ぐに伸ばし、振り返ることも無く佇んでいた。
両腕を保護するナックルであったフルブレイズは、純粋に腕の力を強化していた。精霊器で覆われた部位が強化されるのだとしたら、強くなるための方法論は実に単純だ。
そう、全身を精霊器で覆ってしまえばいい。脚も、腰も、腹も胸も肩も。そして頭部を覆う機械的なヘルメットのバイザーを下ろし、その内側に視線を光り輝かせる。
強化された右腕には元々の精霊器の拳を覆うように一回り大きな拳が重なっている。それは下腕部の内部機構をピストンさせ、拳の内側で衝突を繰り返す。
まるで火打ち石のように火花を散らし、拳の正面の紋章を浮かび上がらせる。それは繰り返し衝突することで熱量をあげる能力を純粋強化した力。
「オォオオオオオ……ラァアアアアアアアッ!!」
繰り出された拳はもう拳という概念を超えている。先端が光を放った直後、衝撃は大気にほとばしる。正面を薙ぎ払うように断続的に生じた爆発は魔物を吹き飛ばし、シロウはその炎に照らされながら顔だけで振り返る。
「お前が全てを守るというのなら、俺はそんなお前を守るだけだ。見ての通り俺は頼れる男だからな。遠慮なく頼りな」
「……ったく。人の事言えないけど、シロウも大概無茶苦茶だよね……」
シロウは気づいているのだろうか? レイジが望むこの物語の結末、そして目の前の敵の正体を。
立ち上がり、肩を並べるレイジ。どちらでも構わない。シロウはきっと、本当にどんな結末でも受け入れる。それでも構わないからこそ、迷いのないこのまっすぐな力を手に入れたのだから。
「行くぜ相棒。あのバケモノを俺達の世界に行かせるわけにはいかないぜ!」
「ああ、わかってるよ相棒。俺達なら……!」
「ああ。俺達なら……!」
「「 あんな奴、敵じゃねえッ!! 」」
咆哮する怪物を前に二人は少しだけ楽しげに笑みを浮かべた。
おそらくこの瞬間はもう二度と来ない。そしてこの一瞬はきっと長くは続かないだろう。
それでも自分たちがこうしてここにいた。これまでの出来事は嘘ではなかったと魂に刻みつける為に、きっとこの戦いは必要だったと思うのだ。
熱線を蹴りでふっ飛ばし、空に舞い上がるシロウ。レイジはそのシロウに投げ飛ばされる形で空に舞い上がり、マフラーで加速し怪物へ向かう。
「……そうだ、俺はこっちだ。ちゃんと俺だけを見てろ……世界!」
人型部分が変形しのびた無数の腕が光弾を放出する。レイジはそれらを剣で弾きながら、世界の亀裂から巨人を遠ざけるように移動を開始した。




