新しい時代の始まり (フリーダ視点)
それから、ヴェリアスタ王国の立て直しに奔走する日々が始まった。
フリーダは鳴り物入りで帰国したものの、最初は会議の議事録を取る程度の仕事しかさせてもらえなかった。当初、国王を含めた貴族たちは、彼女を軽視していたのだ。
『たかが伯爵家の小娘に何ができるというのだ?』
彼らのそんな態度にもめげず、フリーダは一歩一歩自分の価値を証明していった。彼女の卓越した分析力と洞察力はすぐに注目を集め、提案する改革案は実用的で効果的なものであった。
次第に、彼女の意見は無視できないものとなり、重要な会議や決定事項にも参加するようになった。
フリーダの実力が認められ、重要な役割を担うようになったが、正式な役職を与えるには実績が不足していると見なされた。そのため、暫定的に、サディアス王子との婚約状態が継続された。これは彼女の活動に正当性を与えるための措置だった。
彼女はその後も精力的に改革を推進し、多くの困難を乗り越えながら、多くの実績を上げた。
失脚した貴族家の代わりに、下級貴族や裕福な市民を引き上げ、国家の屋台骨を支える新たな人材を育成した。これによりヴェリアスタ王国は多様な視点と新しい活力を取り入れることに成功した。
また、法の改正を行い、腐敗や不正の減少と国民の信頼回復を図った。
一定の実績を積んだ後、フリーダは正式にサディアス王子との婚約を解消され、独立した存在として認められることとなった。そして、その実力と功績を評価され、彼女は新たに王室顧問の職に就任することとなった。彼女は国王や高官たちに助言を行い、ヴェリアスタの未来を形作る重要な役割を担った。
サディアス王子は表舞台に上がることは二度となかった。彼は明確な罪に問われることはなかったものの、フリーダが王国の中心的存在になったことで、その存在意義を完全に失っていた。彼女ら兄妹を貶めた過去は、決して許されるのことはなかった。ついにその地位を追われ、辺境の小さな城に幽閉されることとなった。
彼の存在は次第に忘れ去られ、話題に上ることもなくなった。使用人たちの世話も疎かにされ、彼は自分の行いが招いた孤独と絶望の中で、静かに命を終えた。誰一人として彼の最期を看取る者はいなかった。
一方で、王位継承の問題も大きな関心事となっていた。度重なる心労により、国王の健康状態は思わしくなく、次の王が誰かになるかが注目されていた。
その結果、王位継承者として有力視されるのは、王弟の嫡男であった。彼はフリーダの助言を受けながら、新しい時代のヴェリアスタを率いるリーダーとしての準備を進めていた。フリーダは彼に対しても的確な助言を送り、彼の成長を見守ることとなった。
フリーダとジンフイ王子は昼夜を問わず働いた。
二人のリーダーシップと洞察力、そして知識と戦略が結びつき、鬼燈国からの後押しもあり、改革は着実に進んでいった。二人は多様な視点を取り入れ、国民の声を反映した政策を推進し、ヴェリアスタ王国は新しい時代を迎えることができた。
五年の月日はあっという間に過ぎ去った。
鬼燈国ではアイヴァンとリンレイ王女が平穏な生活を送っていた。アイヴァンは宮廷内での地位を確立し、リンレイ王女との間に新しい命も生まれ、家族としての幸せを築いている。
フリーダはその報告に涙を浮かべ、兄の幸せを心から喜んだ。しかし、ヴェリアスタの立て直しに追われている為、まだ実際に会うことができない状況だった。
五年前、視察から戻ったアイヴァン、はフリーダが帰国したことに驚き、すぐに追いかけようとした。
しかし、ジンフイ王子も同行したことを聞き、渋々だったが踏み止まったらしい。ジンフイ王子を信頼していたからだろう。
それでもアイヴァンがフリーダを心配していることを、リンレイ王女が知らせてくれた。最初は心配し続ける兄だったが、フリーダの活躍やヴェリアスタの躍進の報せを聞く度に誇らしく思っていることも、リンレイ王女が教えてくれた。その知らせにフリーダの心は温かく満たされていた。
フリーダにとってそれは忙しく辛い日々でありながらも、充実した時間でもあった。多くの困難を乗り越えたが、その努力は確実に成果を上げていた。
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ある日の夕暮れ、フリーダとジンフイ王子は久々に時間を作り、王宮の庭園を散策していた。多忙な日々の中で、こうした穏やかな時間を過ごすのは久しぶりのことだった。
静かな時間が流れ、フリーダはふと立ち止まり、ジンフイ王子に尋ねた。
「そういえば、ジンフイはいつ鬼燈国にお帰りになるの?」
ヴェリアスタの有象無象などに屈しないと覚悟を決めて戻ってきたわけだが、不安がなかったといえば嘘になる。いつもフリーダを背の後ろに庇ってくれた兄はいないのだから。だから、ジンフイ王子が同行を申し出てくれた時は嬉しかったのだ。
けれど、いずれは鬼燈国の後継として戻らなければいけないだろうに、王国内が落ち着いても帰る様子はなかった。
ジンフイ王子は庭園の花を見つめながら、軽い調子で言った。
「この国も君のお陰で暮らしやすくなってきたし、ここに骨を埋めても良いかなぁ」
フリーダはその言葉に驚きのあまり立ち止まり、ジンフイ王子を見つめた。
「それは一体……?貴方は鬼燈国の跡継ぎではないの?」
「跡継ぎは姉上だよ。鬼燈国では、王族に一本角の鬼人族が生まれたら、その子が王位を継ぐことになっている。まだ対外的には周知されていないけど、国内では姉上が正式に王位を継ぐことが決まっているんだ」
あまりに衝撃的な発言に、フリーダはしばし言葉を失った。
リンレイ王女が跡継ぎということは、つまりアイヴァンは王配になるということだった。そんな話はフリーダは知らなかった。五年前の時点では兄すらも知らなかったかもしれない。
「姉上がアイヴァンに出会う前、婚約を解消していることは知っているだろう?あれは別に不仲になったからとかじゃない。婚約者に王配としての資質に欠けていたんだ。本人も重圧に耐えられなくてね、これ以上は無理だとなって双方合意の上で解消された」
王女の夫と女王の夫では背負う重圧が違い過ぎる。
「でも、結果として姉上はアイヴァンという素晴らしい王配を得ることができた。姉上は父上に似て、立派な王になると思うけど、それを支える存在が必要だった。アイヴァンはその役目を完璧に果たしているよ」
フリーダはジンフイ王子の言葉を聞きながら、兄のことを思い浮かべる。アイヴァンはその誠実な人柄と正確な実務能力で、リンレイ王女を支え続けているだろう。
目頭が熱くなり、自然と涙が浮かんできた。
「そうよ。自慢のお兄様なの……」
泣き笑いのような表情で、フリーダは言葉を続けた。
親の庇護を受けられず、不遇の中で唯一の支えだった兄。彼が幸せに暮らしていることが本当に嬉しいのに、ヴェリアスタと鬼燈国という遠く離れた場所にいることが寂しくてたまらなかった。胸に込み上げる感情が溢れ、フリーダは涙をこらえきれなかった。
ジンフイ王子は優しい目でフリーダを見つめ、その肩に手を置いた。
「君の兄は素晴らしい人だ。そして君もまた、素晴らしい妹だよ。離れていても、心は繋がっているさ」
フリーダはその言葉に微笑み、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、ジンフイ。あなたがいてくれて、本当に心強かったわ」
ジンフイ王子は軽く肩をすくめて、いたずらっぽく微笑んだ。
「まあ、君の人使いの荒さにはちょっと参ったけどね。でも、その分やりがいがあったよ」
二人はその場で笑い合い、短い沈黙の後、再び歩き出した。
「そうね、一緒ならどんな困難も乗り越えられるわ」
二人は見つめ合い、友人として、そして相棒として、互いの信頼を確認し合った。これからも共に歩む道を、確信を持って進んでいくのだった。
夕暮れの庭園には、二人の決意と友情の光が静かに輝いていた。
ヴェリアスタ王国は新しいリーダーシップのもとで成長を続け、未来に向かって進んでいった。フリーダとジンフイ王子は共に力を尽くし、国を立て直し、国民に希望をもたらした。
一方、鬼燈国ではアイヴァンとリンレイ王女が平穏で幸福な日々を送り、家族の絆をさらに深めていった。
それぞれの国で、彼らの物語は新しい希望とともに続いていく。
END
これにて、一旦完結となります。
ここまで御覧いただき、誠にありがとうございました。




