盟友 (フリーダ視点)
フリーダとジンフイ王子は謁見の間を後にし、王宮内を歩きつつ会話を交わしていた。
「内情を知られないように必死だったな」
「えぇ、表向きは取り繕っているつもりでしょうが、内部は相当混乱しているのでしょうね」
「宰相がいればもう少し違っただろうね」
王妃が起こしたスキャンダルによって、多くの貴族家が何の準備もなく代替わりさせられた。
その中には、現国王の治世を支えていた宰相の家も含まれている。国王を献身的に支える一方で王妃と密通をしているなど、許し難い裏切り行為である。
宰相の不在がヴェリアスタの凋落に拍車をかけた。後を継ぐべき嫡子もアイヴァンを利用していたうちの一人だが、もう日の目を見ることはないだろう。
「君たち二人の父親が、この件に絡んでいないことが不思議だよ」
ジンフイ王子の言葉に、フリーダは冷たく嗤いながら答えた。
「あの男にそんな度胸はありませんよ。思わせぶりな態度だけで、良いように使われるような愚かな男です」
アイヴァンとフリーダの父親は、敬愛すべき王妃が多数の男と不義密通をしていた事実にショックを受け、仕事も辞め、酒浸りの生活を送っているらしい。
彼が王妃を崇拝していたことは周知の事実であり、彼も事情聴取を受けたのだが、全くの潔白だった。そのこともまた、周囲から嘲られる原因の一つだろう。
これまで感情をぶつけていた息子や娘もおらず、子どもたちへの所業を知る使用人たちは逃げ出しているらしい。
宰相は職を追われ、騎士団長は依願退職とは、控えめに言って最低最悪の状態と言えるだろう。
「いい気味だわ」
兄・アイヴァンの前では健気で心優しい少女のように振る舞うフリーダだが、実際は結構ひねくれている。ジンフイ王子の前だけでその姿を見せるのは、共犯者のような感覚だからだろう。
「散々私たちを利用したことを忘れないわ。今度は私が利用して、報いを受けさせるつもりよ」
フリーダの声には冷たい決意が込められていた。
彼女は、ヴェリアスタでの自分の立場を確立することで、鬼燈国にいる兄を支えることができると考えている。アイヴァン自身はヴェリアスタが結婚式に参加しなくても問題は無かったが、フリーダはそのことを恨んでいた。
ヴェリアスタでは色々と問題が噴出した時期だったため、手が回らなかったのだが、フリーダにとってはそんなことは言い訳に過ぎないのだった。
「君の計画には一枚噛んでいるからな。上手くいくように全力を尽くすよ」
ジンフイ王子は微笑みながら言った。その瞳にはフリーダへの信頼と期待が宿っていた。
彼もまた、ヴェリアスタの立て直しを手伝うことで鬼燈国の利益に繋がると考えていた。ヴェリアスタが安定すれば、鬼燈国との友好関係もより強固になる。それはジンフイ王子にとっても重要なことだった。
フリーダはふっと笑いながら言った。
「私は人使いが荒いかもしれないわよ」
その言葉に、ジンフイ王子は肩を竦めて軽やかに答えた。
「覚悟はできてるさ。君が相手なら楽しそうだ」
フリーダは挑戦的な笑みを浮かべた。ジンフイ王子はその笑みに応え、穏やかな声で続けた。
「いいだろう、フリーダ。お互いの目的のために、全力でやろう」
二人はその場で見つめ合い、静かに頷き合った。




