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悪評高き騎士、異国の王女と共に未来を切り開く  作者: 小笠原ゆか


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愚者の愛憎劇 (サディアス王子視点)

公務に忙殺される日々の中で、サディアス王子はふと考えた。


アイヴァンの代わりは見つからないが、フリーダの代わりならどうか。フリーダがこなしていた仕事を別の人間に任せれば、少しは状況が改善するかもしれない、そう思ったのだった。


「エセル嬢、久しぶりだね。元気にしていたかい?」


サディアス王子はエセルが暮らすケープダズル公爵邸を訪れ、優雅に微笑みかけた。だが、エセルは驚くほど憔悴しているようだった。目の下には深い隈があり、顔色は悪い。

彼女はしばらく社交を休んでいるようで、華やかな場から遠ざかっているらしい。


「ようこそいらっしゃいました、サディアス殿下……」

「一体どうしたんだ?こんなにやつれてしまって……」


王子は心配そうに彼女に近づいたが、エセルは微かに首を振った。


「少し疲れているだけです、殿下。それで、今日はどのような御用事で?」


彼女の言葉に半信半疑になりながらも、王子は本題に入ることにした。


「どうか私の公務を手伝ってくれないだろうか。貴女にしか頼めないのだ」


エセルは驚いたように目を見開き、しかしすぐにその表情は陰りを見せた。


「殿下、私は……」


言葉を詰まらせる彼女を見て、サディアス王子は焦りを感じた。


「ずっと貴女を好きだった。貴女がアイヴァンと婚約していたから、貴女への想いを抑えていたんだ」


アイヴァンとエセルの婚約に対して、サディアス王子はずっと不満を抱いていた。

美しいエセルに、アイヴァンのような平凡な男は相応しくないと感じていたのであった。対して、自分の婚約者が伯爵家のフリーダというのも不満の原因の一端にもなったのだろう。


「ずっと諦めていた。貴女の幸せを願っていたんだ。けれど、今こうして貴女の辛そうな姿を見ていると、どうしても放っておけない」


サディアス王子にとってエセルは自分の理想の女性であり、彼女こそが自分に相応しい相手だと彼は心底信じていたのだった。


「殿下……」


だが、エセルの瞳には涙が浮かび、彼女は静かに首を振った。サディアス王子は彼女の手を取り、優しく握り締めた。


「エセル嬢、もう一度、貴女に笑顔を取り戻して欲しい。そのために私ができることがあるなら、何でもしよう」


その言葉を聞いた瞬間、エセルの表情が一変した。


「何でもするというのなら、アイヴァンを返してください!!」


彼女の瞳には怒りが宿り、激昂した様子でサディアス王子に詰め寄った。思いもよらぬ言葉に、サディアス王子は驚きのあまり一歩後ずさった。


「アイヴァンを奪った貴方が憎い!私は彼を愛していたのに、どうして……」

「あ、貴女はアイヴァンを疎ましく思っていたんじゃないのか?だから、アイツを貶め続けたんじゃ……」


サディアス王子の言葉に、エセルは更に怒りを募らせた。


「違います!私はアイヴァンを愛していました。彼を無能だと貶めたのは、貴方から彼を解放させるためだったんです!!」

「解放する、ため……?」

「貴方が彼を酷使し、苦しめていたから……。悪評が広まれば、彼はその任から解放されると思ったのです。私は彼を守りたかったッ!」


エセルの涙交じりの声に、サディアス王子は衝撃を受けた。第三者に、アイヴァンを酷使していたことが知られているとは思わず、動揺を隠せなかったのである。


「私には、彼が理由も無く訓練を放棄するなんて信じられませんでした。あの真面目な男が、そんなことをするはずがないと思っていました!」

「エセル嬢、私は……」

「全ては貴方のせいです!アイヴァンを追い出し、私たちの幸せを壊したのは貴方です!全部、全部貴方のせいよ!!」


エセルは泣き叫び、サディアス王子に掴みかかろうとした。その狂乱した様子に、近くにいた侍女たちが慌てて駆け寄り、彼女を必死に止めた。


「エセル様!おやめください!」

「殿下、御下がりください!」


侍女たちに押し留められるエセルを見て、サディアス王子は恐れおののき、逃げるように公爵邸を後にした。


馬車に乗り込んだサディアス王子は窓の外を見つめていた。その顔には憤りと苛立ちの色が濃かった。

エセルの狂乱ぶりを思い返し、王子は冷ややかに鼻を鳴らした。彼女があんなにも取り乱すとは思ってもみなかった。


エセルを見初めたのは、彼女のデビュタントの時だった。華やかな大広間の中で、彼女はまるで大輪の薔薇のように美しく輝いていた。彼女の存在感は圧倒的で、瞬く間に多くの目を惹きつけた。サディアス王子もその一人だった。


「あの時のエセルは、本当に美しかった……」


彼女こそが自分に相応しい女性だと確信した。

丁度その頃、サディアス王子は婚約者の選定に入っていた。けれど、両親が選んだ候補者の中に彼女はいなかった。エセルの隣には既にアイヴァンがいたからだ。


それでも、王子はエセルを諦めることはなかった。彼は密かに二人の仲を裂こうと画策し、エセルとアイヴァンの連絡を邪魔していた。手紙は途中で消え、互いの言葉は伝わらなかった。二人の接触をさせないように、巧妙に仕組んだのだった。


「まさか恋に狂って、あれほど醜くなるとは……」


エセルの怒りと憔悴を目の当たりにし、王子は彼女に対する期待を完全に失った。彼女があれほどまでに取り乱すとは思わず、失望と嫌悪が入り混じる感情が胸に広がっていた。


「つまらない女に無駄な時間を使ったな」


王子は冷たく呟き、彼女の代わりに他の誰かにフリーダの仕事を任せることを決意した。エセルに対する期待を完全に失った彼は、次の手を考え始めたのだった。


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[一言] 結局こいつのせいだったか…
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