月夜の求婚
夕食が終わり、それぞれ自室へと戻る準備をしていた。アイヴァンはリンレイ王女と少し話がしたいと思い、声をかけた。
「王女殿下、少しお話する時間をいただけますか?」
リンレイ王女は微笑みながら頷いた。
「えぇ、もちろん。庭の方へ行きましょうか」
二人は静かな夜の庭へと足を運んだ。月明かりが美しく照らし出す庭園は、昼間とは違った趣がある。アイヴァンは少し緊張しながらも、リンレイ王女の隣に立った。
「今夜のこと、驚きました。でも、貴女が本物のリンレイ王女で、私が貴女を支える立場に選ばれたことが、信じられないほど嬉しいのです」
「私も嬉しいです。あの夜から、ずっと貴方のことばかり考えていました」
リンレイ王女から向けれた真っ直ぐな言葉と視線に、アイヴァンは少し顔を赤らめた。
「私は貴方を望みましたが、叶うとは思ってはいなかった。貴方はとても働き者で優秀だから、手放すことの愚かさを分かっているはずだと思っていました。でも、彼らは何も分かっていなかった。貴方の真心と誠実さ、その能力も……」
リンレイ王女はしっかりとアイヴァンを見つめ、その言葉に重みを感じさせた。
「アイヴァンさん。貴方が自分の評価に悩むのなら、私がきちんと評価します。良いのなら良いと言うし、ダメな時はきちんと指摘します。これからずっと一緒にいるのだから」
リンレイ王女は優しく微笑みながら、アイヴァンに近づいた。そして、深い息を吸い込み、決意を込めて言った。
「アイヴァン・ソーンヒル。私と共に、新たな未来を築いてください。貴方が私の隣にいてくれることが、私にとって一番の幸せです」
アイヴァンは驚きと感動で言葉を失ったが、やがてその瞳には決意の光が宿った。
「ありがとうございます、王女殿下。私も貴方に伝えたいことがありました。貴女に初めて会った時から、その美しさと知性に心を奪われました。そして、短い時間ではありましたが、共に過ごす内に貴女の優しさと強さにますます惹かれるようになったのです」
彼は少し緊張しながらも、自分の気持ちを素直に伝えた。
「殿下、私は貴女を心から愛しています。貴女の隣で生きることが、私にとって何よりも幸せです。これからもずっと、貴女のために全力を尽くします」
この時、アイヴァンは本音を口にしていた。だが、王女は少し機嫌を悪くして顔を顰めたのだ。
「リンレイと呼んでください」
「わ、分かりました……り、リンレイ」
王女は再び微笑みを浮かべ、そして少し顔を近づけてアイヴァンを見つめた。
「そして、もう一つお願いがあります」
「何でしょう?」
リンレイ王女は目を閉じ、唇を少し突き出してみせた。
「キスをして」
アイヴァンはその言葉に更に顔を赤らめ、しばしの間動けなかった。しかし、彼女の瞳に宿る真剣さを見て、意を決して彼女に近づいた。
「リンレイ……心から愛しています。これからもずっとお傍に……」
そっとリンレイ王女の唇に自分の唇を重ねた。
その瞬間、彼の心にあった全ての不安が消え去り、ただ彼女への愛情が満ちていくのを感じた。
キスを終えた二人は静かに微笑み合い、そのまましばらくの間、夜の庭で寄り添っていたのだった。




