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悪評高き騎士、異国の王女と共に未来を切り開く  作者: 小笠原ゆか


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運命の急変

スズと別れた後、アイヴァンは広間に戻って来た。

アイヴァンが広間に足を踏み入れると、周囲の貴族たちの視線が一斉に彼に向けられる。異様な雰囲気を感じ取ったものの、誰も近寄って来るようなことはない。遠巻きにしながら何かを囁き合っている。


「ソーンヒル伯爵令息が……」

「……王女殿下と婚約……」


囁き声の一部を耳にしたアイヴァンの心が一瞬で凍り付いた。その場を慌てて駆け抜け、急いで貴賓席へと向かう。リンレイ王女は既に退席したらしく、貴賓席には国王夫妻とサディアス王子だけが残っていた。そして父であるソーンヒル伯爵の姿もあった。


「おぉ、アイヴァン。ちょうど今、そなたを呼びに行かせようと思っていたところだ」


国王がアイヴァンに気づき、微笑みかける。周囲の視線がますます集中しているのを感じながらも、アイヴァンは国王の言葉を待った。


「先程、そなたの縁談が決まった」


アイヴァンは驚きのあまり言葉を失い、ただ国王を見つめた。


「お相手は鬼燈国のリンレイ王女殿下だ。これはヴェリアスタと鬼燈国の友好を更に深めるものとなる。そなたにとっても大きな栄誉となるだろう」


サディアス王子も満足げに微笑みを浮かべて続ける。


「アイヴァン、君の努力がこうして身を結んだのだ。王女殿下も君の働きを高く評価しておられる。これからもその忠誠心を持って、新たな使命に臨んでくれ」


王子の言葉の意味が理解できず、戸惑いながらも深く頭を下げた。そしてアイヴァンが返事をする前に、ソーンヒル伯爵が一歩前に出て、代わりに答えた。


「ありがとうございます。この上ない栄誉を賜り、感謝申し上げます。アイヴァンもご期待に応えることでしょう」


伯爵の言葉に王族たちはにこやかな笑みを浮かべて頷いた。


それから、いつの間にか貴賓席どころか広間からも出されていた。気づけば廊下に立っていた。あまりにも突然のことに理解が追いつかないまま、醜態を晒す前に父に追い出されたのだろう。


アイヴァンは茫然と立ち尽くし、動けずにいた。自分の運命が大きく変わってしまったことを理解しながらも、心は追いつかない。スズが鬼燈国に帰国すれば彼女を忘れ、ヴェリアスタの貴族として生きる覚悟を決めた矢先のことで混乱していた。


その時、廊下の向こうからエセルの姿が見えた。エセルが怒りと困惑を抱えてこちらに向かって歩いてくる。どうして彼女が目の前にいるか分からないが、その顔には怒りと困惑が入り混じっていた。


「さっきのアレは一体どういうことよ!!何で貴方が他国の王女の婿なんかになるのよ!!」


エセルはアイヴァンに詰め寄り、怒りをぶつけた。けれど、今のアイヴァンに同じ熱量で返せるほどの気力はなかった。


「私たちの婚約はどうなるの!?」

「恐らくは婚約解消、いや白紙になるのではないでしょうか……」

「白紙!?私たち、五年も婚約しているのよ!!」


エセルの叫びに、アイヴァンは淡々と答える。


「貴女の望み通りではありませんか」


その婚約期間中、エセルはアイヴァンを嫌い抜いてきた。婚約などしたくなかったと罵ったことなど数え切れない。悪評をばらまき、アイヴァンを貶めてきたのである。婚約が白紙になることを喜ばれることはあっても、アイヴァンには不満を言われる筋合いなどなかった。


エセルはアイヴァンの冷静な返答に一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに反撃するように言い返した。


「そんなこと、私は一度も本気で言ったことはないわ!どうして分からないの!?」


アイヴァンは驚きのあまり目を見開いた。エセルの激しい感情が伝わってきたが、その意味を理解することはできなかった。


「貴方との婚約が白紙だなんて、貴方が他国に行くなんて……そんなの、私はッ!!」


言葉を続けようとするエセルの声は震えていた。


「ここで何をしている?」


そこへ突然、サディアス王子が二人の間に割り込んできた。

その冷たい声にエセルは驚き、アイヴァンは瞬時に背筋が凍り付いた。王子の目には冷酷な光が宿っている。


「エセル嬢、大丈夫ですか?」

「殿下……」


サディアス王子はエセルに微笑みながら問いかける。けれど、彼女は王子の態度の急変に戸惑っているようだった。王子はエセルの肩に軽く手を置き、安心させるように語りかける。


「エセル嬢、このアイヴァンとの件は私に任せてください。貴女にはもっと相応しい未来を御用意します」


予想もしない言葉にエセルは再び驚き、アイヴァンを見つめた。


「アイヴァン、来い」


王子は有無を言わさぬ様子で歩き始めた。アイヴァンは一瞬躊躇ったが、王子の命令には逆らえず、エセルを残してその場を離れた。サディアス王子の後ろを歩きながら、アイヴァンの心中は複雑な思いで渦巻いていた。


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