第九話:筋肉による治癒促進
「この程度の傷、わたくしにかかれば、むしろ、好機ですわよ」
わたくしの、その、絶対的な自信に満ちた言葉に、セレスティーナ様は、ただ、呆然とわたくしを見つめておりました。
わたくしは、彼女がリリアの腕に当てていた、間に合わせの布を、丁寧ながらも有無を言わさぬ力で取り払います。
「セレスティーナ様、お下がりなさいな。ここからは、専門家の出番ですわ」
「専門家…ですって…? 侍医を呼ばなければ…!」
「甘いですわ!」
わたくしは、セレスティーナ様の言葉を、きっぱりと遮りました。
「薬などで外部から癒すのは三流のやること! 一流は、内側から、自らの力で、治癒を促すのです!」
わたくしは、リリアの傷口を、トレーナーとしての厳しい目で検分いたします。
(ふむ…上腕三頭筋に、深さ3セン チスほどの裂傷。ですが、幸い、筋肉の主要な繊維は断裂しておりませんわ。問題は、この出血による継続ダメージ(デバフ)…!)
ならば、答えは一つですわ。
「これより、わたくしが考案した、『筋肉式治癒促進法』を、執り行いますわ!」
わたくしは、高らかに宣言いたしました。
「すなわち! 傷口周辺の筋肉を意図的に極限まで収縮させ、その圧力で物理的に止血! 同時に、心拍数を上げて血流を最大化させ、細胞組織の再生を促すのです!」
「あなた、何を…正気ですの!?」
セレスティーナ様の悲痛な叫びなど、今のわたくしの耳には届きません。
わたくしは、近くにあった、装飾用の重厚な銀の燭台(推定重量10キログア)を、リリアの無事な方の手に握らせました。
「さあ、リリア! まずは、止血からですわ! その燭台を持ち、腕を前に突き出したまま、静止なさい! 腕の全ての筋肉を、傷口を圧迫するためだけに、集中させるのです!」
リリアは、こくり、と一つ頷くと、その、およそ常人には不可能な指示を、完璧に、実行してみせました。
片腕で、重い燭台を、水平に保ち続ける。その、細い腕の筋肉が、ぷるぷると、しかし、力強く、盛り上がっていく。
「イザベラ様、おやめなさい! そのようなことをすれば、リリアの傷が…!」
「ご覧なさい、セレスティーナ様!」
わたくしは、セレスティーナ様の抗議を、指一本で制しました。
「リリアの腕から、血が、滴り落ちる速度が、遅くなっておりますわ! これこそが、筋肉による、完璧な止血術!」
事実、リリアの腕からの出血は、常識では考えられない速度で、勢いを失っておりました。
その、あまりに非現実的な光景を前に、セレスティーナ様は、言葉を失い、近くの椅子に、ふらふらと、崩れ落ちるように座り込む。その美しい手で、ご自身の額を押さえ、深いため息をついておりました。
(まあ!)
わたくしは、その光景に、胸が熱くなるのを感じました。
(わたくしの、この、画期的な治療法と、リリアの、驚異的な回復力に、ついにセレスティーナ様も、感極まってしまわれたようですわね! ええ、ええ、無理もありませんとも!)
やがて、リリアの腕からの出血が、完全に止まったのを確認すると、わたくしは、満足げに頷きました。
「よろしい。応急処置は、完了ですわ」
わたくしは、感動に打ち震える(と、わたくしには見えた)セレスティーナ様に向き直り、優しく、告げて差し上げたのです。
「明日からは、その傷を乗り越え、以前よりも、さらに強靭な腕へと再生させるための、本格的なリハビリメニューを、開始いたしますわ!」
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