第二話:女王様の空回り推し活
完璧なモーニングランを終えたわたくしは、心地よい疲労感と共に、城の厨房へと向かっておりました。トレーニング後の栄養補給は、聖戦を戦い抜くための、基本中の基本ですわ。
ですが、厨房へ向かう途中、セレスティーナ様の私室の前から、何やら、重苦しい空気が漂ってくるのを感じました。
(ふむ。メインクエストはクリアしたはずですが、まだ、何か、後日談のイベントが残っているようですわね)
わたくしは、扉の隙間から、そっと、中の様子を窺いました。
部屋の中では、セレスティーナ様が、椅子に座り、そして、その前に、あのメイド――リリアが、完璧な所作で、お茶を淹れておりました。
リリアは、あの日以来、わたくしが見る限り、完璧な侍女でした。その動きに、一切の無駄がない。ですが、その瞳には、光がありません。まるで、魂を抜かれた、美しい人形のよう。
セレスティーナ様は、そんな彼女の姿を、どこか、期待するような、そして、祈るような瞳で、見つめておりました。
「お嬢様。本日のお茶でございます」
リリアが、カップを差し出す。セレスティーナ様は、それを受け取ると、ほんの少しだけ、震える手で、その香りを、確かめました。
そして、その、美しい月白色の瞳に、深い、悲しみの色が、浮かぶ。
淹れ方は完璧。なのに、その茶には、香りがしない。
ですが、彼女は、何も言いませんでした。
ただ、その、味も香りもしないであろう液体を、一滴も、残さず、飲み干したのです。まるで、それが、今の彼女に課せられた、試練であるとでも、言うように。
その、あまりに、痛々しく、そして、あまりに、非効率的な光景。
わたくしは、もう、見てはいられませんでした。
(ダメですわ! そのやり方では、埒があきません!)
わたくしの、ゲーマーとしての、そして、トレーナーとしての魂が、我慢の限界を、迎えたのです。
わたくしは、勢いよく、部屋の扉を開け放ちました。
「セレスティーナ様!」
わたくしの、その、あまりに、唐突な登場に、セレスティーナ様が、びくりと、肩を震わせる。リリアは、人形のように、無表情なまま、こちらを見ているだけ。
「そのやり方では、いつまで経っても、そのメイドは、元には戻りませんわ!」
わたくしは、二人の前に、仁王立ちになると、きっぱりと、断言しました。
「特殊なデバフ効果を受けたNPCに、ただ、好感度の上がるアイテムを与え続けるなど、三流プレイヤーのやることですわ! それでは、イベントフラグは、永遠に、立ちません!」
「…イザベラ様…? あなた、何を…」
呆然とする、セレスティーナ様。
わたくしは、そんな彼女に、真実を、告げて差し上げたのです。
この、絶望的な状況を、打破するための、唯一にして、絶対的な、真理を。
ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。
次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。
活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)




