表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝45000PV】転生悪役令嬢イザベラ、婚約破棄も魔法も筋肉で粉砕します!  作者: 月待ルフラン【第1回Nola原作大賞早期受賞】
第二章:悪役令嬢イザベラ、メインクエストも筋力で踏み潰しますわ!
76/118

第二十六話:魂の叫び

 玉座の間は、絶対零度の魔力によって、壁も床も、薄氷に覆われていた。わたくしの吐く息が、一瞬で白い霧と化す。

 その、世界の終わりのような光景の中心で、暴走するセレスティーナ様と、彼女を庇うように立ちはだかる、あのメイドの姿を、わたくしは、冷静に、ゲーマーとして分析しておりました。


(なるほど。ラスボスが、暴走状態バーサークモードに陥っている。そして、それを守護する、重要イベントNPCが一人。これは、特定の条件を満たすことで、ボスを正気に戻すか、あるいは、弱体化させるタイプの、ギミック付きのクエストですわね)


 わたくしの、豊富なゲーム経験が、瞬時に、最適解を導き出します。

 こういう場合、無理にボスを攻撃するのは、悪手。まずは、NPCから、情報を引き出すのが、定石ですわ。


 わたくしは、大戦斧を、その切っ先が床の薄氷を削る、不快な音を立てながら、引きずって、ゆっくりと、メイドの少女へと、歩み寄りました。


「決まっておりますでしょう。この世界の、バグを、削除しに来たのですわ」


 わたくしの言葉に、メイドの顔が、恐怖と、警戒に歪む。ええ、ええ、そのリアクション、NPCとして、実に正しいですわよ。


「どきなさい、メイド。あなたに、用はございません」

「お断りします」


(ほう。選択肢を与えずに、即答ですの。これは、強制イベントルートですわね)


「この御方を、傷つけるというのなら、このリリアが、お相手です」

「あなたごときが?わたくしの、相手に?…笑わせますわね」


 わたくしは、心底、そう思いました。レベル1のNPCが、レベル99のプレイヤーキャラクターに、戦いを挑むなど、滑稽の極み。ですが、これも、シナリオの一部なのでしょう。

 わたくしが、この茶番を終わらせるべく、大戦斧を構え直した、その時でした。


「あなたも、同じなのでしょう!?」


 彼女が、叫んだのです。恐怖ではなく、何かを、確信したような、強い瞳で。


「…何が、ですの?」

「あなたも、何かを、守るために、ここにいる!その瞳は、ただの、野蛮な破壊者のものではない!何かを、必死に、守ろうとしている者の、瞳です!」


(な…!?)


 わたくしの、完璧なポーカーフェイスの下で、心が、激しく、揺さぶられました。

 なぜ? なぜ、この、ただのNPCが、わたくしの、このメインクエストの、根幹にある動機を、見抜いているのですか?

 兄様を、家族を、そして、この、わたくしの愛する世界ゲームを守る。その、わたくしだけの、神聖な目的を。

(……まさか、このNPC、わたくしのステータス画面でも、読み取っているというのですか…!?)


 ありえない。ですが、動揺を、悟られるわけにはいきません。わたくしは、それを、冷たい笑みの下に隠し、言い放ちました。


「ええ、そうですわよ」

 その声は、自分でも、驚くほど、冷たく響いた。

「わたくしは、守るために、ここにいる。あなたも、この国も、愛する家族も、全てを。…そのために、わたくしは、彼女を、討たねばならないのです!」


 そうだ。これは、感傷に浸る場面ではない。バッドエンドを回避するための、ただの、作業。

 わたくしは、再び、大戦斧の切っ先を、メイドへと向けました。


「…そこを、どきなさい」

「わたくしとて、無益な殺生は好みません。ですが、あなたが、それ以上、わたくしの邪魔をするというのなら――」

「邪魔、ですって…?」


 彼女の唇から、か細く、しかし、燃えるような声が、漏れる。

「あなたには、分からないのですか! あの人が、どれほどの絶望の中で、今、たった一人で戦っているのかが!」


 その言葉は、わたくしの心を、抉りました。

 分かりますとも。あの「神託」のビジョンで、わたくしも、見たのですから。彼女が、ただ、災厄として、暴走しているのではないことを。その、魂の奥底で、必死に、何かに、抗っていることを。


「あなたも、見たのでしょう? あの人が、この世界を破壊し尽くす、未来を。…怖かったのでしょう? 愛する人が、家族が、全てが、失われる、あの光景が」


 図星でした。

 あの、兄様が、血に染まるビジョン。わたくしの心を、初めて、本気で、凍てつかせた、あの恐怖。

 なぜ、このメイドは、そこまで…。


「ええ、そうですわよ」

 わたくしは、動揺を、押し殺す。

「だからこそ、わたくしは、ここにいる。悲劇の芽は、それが、育ち切る前に、摘み取らねばならない。それが、貴族の、責務ですわ」


「責務、ですって…?」

 彼女の瞳から、ぽろり、と、一筋の涙が、零れ落ちた。

「あの人を、殺すことが、あなたの、正義だと、本気で、そう、おっしゃるのですか…!」


 その、涙。それは、ただの、演出エフェクトには、見えませんでした。

 わたくしの、ゲーム理論が、目の前の、この、あまりに、生々しい「現実」によって、軋みを上げていく。


 彼女は、その場に、膝から崩れ落ちました。

 そして、わたくしに、懇願するように、その、小さな手を、差し出したのです。


「お願い、します…! 一日だけ…! たった一日だけ、時間をください…!」


 魂からの、叫び。

 その、あまりに無防備な言葉に、わたくしの動揺は隠しきれないものとなりました。


「わたくしには、計画が、ございます。あの人を、救うための、最後の、たった一つの、方法が…!」

「…救う、ですって? あの災厄を? 馬鹿なことを。あれは、もはや…」

「いいえ!」


 彼女は、叫びました。

「あの人は、最後まで、生きることを、諦めなかった! あなたを置いて死ぬくらいなら、運命と共に生き延びてみせると、そう、誓ったのです! その、気高い魂を、このまま、終わらせていいはずが、ない!」

「もし…もし、私が、彼女を救えなかった時は、あなたの、邪魔は、いたしません。その時は、あなたの、その手で、全てを、終わらせてください。…ですから、お願いです…!」


 長い、長い、沈黙。

 わたくしの頭の中で、高速で、思考が、回転していました。

 クエストログには、ただ、『世界のバグを削除せよ』としか、書かれていない。

 だが、このNPCの、この、あまりに、切実な、魂の叫び。これは、一体、何?

 もしかしたら、これは、隠された、ルートへの、分岐点なのでは?

 ただ、ボスを倒すだけが、エンディングではないのかもしれない。この、NPCの訴えを、信じることで、誰も、死なない、「真のエンディング」へと、たどり着ける、可能性が…?

 …いえ、このNPC…メイドの訴えはわたくしの心をこの場に打ち込めてしまっていて、最早、身動きはできませんでした。


 やがて、わたくしは、天を仰ぐと、深い、深いため息をつきました。

 そして、ゴトリ、と重い音を立てて、あれほど固く構えていた大戦斧を、床に、下ろしたのです。


 よろしいでしょう。

 この、メイドの、イベントルートに、乗ってみますか。

 この、わたくしの、完璧なゲーム攻略に、一片の、悔いを残さないために。


ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話を更新しています。(Xアカウント:@tukimatirefrain)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ