第二十二話:ボーナスステージ①
わたくしたちの神速の行軍を阻むべく、敵が最初の罠を仕掛けてきたのは、ちょうど、険しい山岳地帯に差し掛かった頃でした。
「イザベラ様! 前方の街道が、何者かによって、巨大な岩で塞がれております!」
斥候からの報告に、兵士たちの間に、わずかな緊張が走ります。
わたくしは、馬を止めさせると、崖の上から、その現場を見下ろしました。
なるほど、見事なものですわ。街道の、最も狭くなっている隘路を狙い、山の上から、巨大な岩をいくつも転がり落としたのでしょう。これでは、馬車はもちろん、兵士が一人ずつ、慎重に進むことすら、困難です。
「ふふん。小賢しい手を。迂回ルートを探させなさい。多少、時間はかかりますが…」
わたくしが、そう、副官に命じようとした、その時でした。
わたくしの、その言葉を遮るように、後方から、兵士たちの、野太い声が上がったのです。
「イザベラ様! お待ちください!」
「我々に、あの岩を、撤去する許可を!」
振り返ると、そこには、目をキラキラと輝かせ、まるで、最高の玩具を見つけた子供のような顔をした、「筋肉信者」たちが、ずらりと並んでおりました。
「なんですの、あなた方」
「イザベラ様! ご覧ください、あの、絶妙な角度の、岩の配置を!」
「ええ! まさに、我らの、大胸筋と、広背筋を、いじめるために、神が与えてくださった、最高の、トレーニング環境ではございませんか!」
「迂回など、とんでもない! 我々は、この『壁』を、乗り越えたいのです!」
彼らの、その、あまりに熱く、そして、あまりに筋肉的な、願い。
わたくしは、その光景に、満足げに、頷きました。
ええ、ええ、そうですわ。わたくしの教えは、彼らの、魂の、隅々にまで、浸透している。
「許可しますわ」
わたくしの、その一言に、兵士たちは、うおおおっ、と、歓喜の雄叫びを上げました。
そこから、始まったのは、もはや、障害物撤去作業と呼べるものではありませんでした。
それは、筋肉の、祭典。
兵士たちは、鎧を脱ぎ捨てると、その、隆起した肉体を、惜しげもなく晒し、巨大な岩石へと、我先にと、殺到していく。
「そぉりゃっ! この、角度! 広背筋に、効くぅっ!」
「同志よ! そちらの岩は、どうだ! 上腕二頭筋は、喜んでいるか!」
「ああ! 最高だ! イザベラ様、万歳! ハイル・マッスル!」
彼らは、まるで、遊ぶかのように、何トンもの重さがある岩石を、持ち上げ、投げ飛ばし、そして、時には、拳で、粉砕していく。
その、あまりに、人間離れした光景を、崖の上から、呆然と、見下ろしている者たちがいました。
罠を仕掛けた、律章復興派の、残党たちです。
彼らは、自分たちの、完璧な作戦が、なぜか、敵の、謎のトレーニングによって、ものの数十分で、完全に、無力化されていく様を、ただ、震えながら、見つめることしかできませんでした。
やがて、街道は、完全に、開かれました。
兵士たちは、心地よい汗と、満足げな疲労感に包まれ、その顔は、達成感に満ち溢れています。
地形を利用した罠だったが、イザベラは「良い地形ですわね!格好のトレーニング場所です!」と、罠をものともせず、兵士たちと共に難なく突破する。
わたくしは、そんな彼らに、高らかに、告げました。
「皆々様、ご苦労様でした。これより、ボーナスステージ、クリアですわ!」
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