第十七話:王子様からの筋肉(愛)の差し入れ
わたくしが、ツェルバルク軍の絶対的支配者として君臨し始めてから、一週間が過ぎました。
兵士たちの目から、かつてのような反抗の色は、完全に消え失せていました。代わりに宿っているのは、畏敬と、そして、どこか諦観に満ちた光です。彼らは、ようやく、自分たちの指揮官が、人間という種族の限界を超えた存在であることを、理解したのでしょう。
その日も、練兵場には、地獄のような光景が-広がっておりました。
「さあ!ラスト十回!声が小さいですわ!あなた方の腹筋は、そんなものではありませんでしょう!」
わたくしの檄に、兵士たちは、涙と汗を流しながら、必死に体を起こします。
そんな、地獄の調練の、まっただ中。
鉄砦城の城門が、ゆっくりと開かれ、そこに、王家の紋章を掲げた、壮麗な馬車の一団が現れたのです。
「な、何事ですの?」
わたくしが、いぶかしんでいると、一人の使者が、恭しく、わたくしの前に進み出ました。
「イザベラ・フォン・ツェルバルク様。エドワード王子殿下より、貴女様と、貴軍の兵士たちへ、差し入れにございます」
使者が手を振ると、馬車の荷台から、次々と、巨大な木箱が運び出されていきます。
その木箱が開けられた瞬間、わたくしは、自分の目を疑いました。
そして、兵士たちからは、どよめきが上がります。
そこに、山と積まれていたのは――
「こ、これは…プロテイン!? それも、王家御用達の、最高級品ですわ!」
そうです。木箱の中身は、兵士全員に行き渡らせても、まだ余るほどの、大量のプロテインの袋だったのです。
それだけではありません。
別の木箱からは、王都の鍛冶師が、最新の人間工学に基づいて作り上げたという、ピカピカのトレーニング器具一式まで現れました。
わたくしは、感動に、打ち震えておりました。
「あの王子…分かっていますわ! なんて、的確な差し入れなのでしょう!」
戦場に赴く兵士たちにとって、最も重要なものは何か。それは、食料であり、武器であり、そして、何よりも、強靭な肉体を作り上げるための、良質なタンパク質!
エドワード王子は、それを、完璧に理解してくださっていたのです。
わたくしは、使者に向き直ると、満面の笑みで、言いました。
「殿下に、よろしくお伝えくださいまし。わたくしの知る、全ての殿方の中で、あなたが、最も、クレバーですわ、と!」
わたくしが、上機嫌でそう宣言すると、それまで、疲労困憊で、屍のようだった兵士たちが、むくり、と起き上がりました。
彼らの目に、再び、生命の光が宿ります。
王家からの、異例の差し入れ。それは、自分たちの、この地獄の訓練が、王家からも、認められている、という、何よりの証。
そして、何より、目の前には、あの、憧れの、高級プロテインが!
「うおおおおおっ!」
一人の兵士が、雄叫びを上げました。
「やるぞ! やってやろうじゃねえか!」
「王子殿下も、俺たちの筋肉に、期待してくださっているんだ!」
兵士たちの士気は、爆発的に、高まったのです。
わたくしは、その光景に、満足げに頷きました。
「よろしい。では、訓練を再開しますわよ! 今飲んだプロテインを、無駄になさらないように!」
その日、鉄砦城の練兵場には、これまでで、最も、活気に満ちた、兵士たちの鬨の声が、響き渡るのでした。
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